あぁ…来てしまった、彼の部屋。
頭が重いからって授業を休んで保健室に行ったのに、今、私は先輩とヤマシイ事をする為にさらに次の授業をサボってまでここにいる。
何をやってるんでしょうか、私は。
その事に少し後ろめたい気持ちになって沈んでいると、先輩が後ろから私を抱きしめて頬に軽くキスをしてくる。
「どうした、瑤子?急に暗い顔になって…」
「ん…だって、授業サボっちゃったんだもん。なんか、後ろめたい」
「まぁ、瑤子は俺と違って真面目ちゃんだからなぁ。あんま授業をサボった事ねえもんな?」
あんまりって言うか、サボった事ないんですけど?
その事が功を奏したのか、クラスメイトは頭が痛いから早退するという私の真っ赤な嘘を信じて、本気で心配なんてしてくれて。
更に後ろめたさ倍増。
まぁ、ただ一人親友の繭子だけはお見通しの様子でニヤリを笑っていたけれど。
先輩の言葉に対して、うぅ。と唸りながらまわされた腕に顔を埋めると、クスクス。と先輩が小さく笑う。
「瑤子は成績優秀だから、一限ぐらいサボってもどってことねぇって。つーか、アレかな。俺がこうしてお前を悪の道に誘ってる?」
「あ、ううん!最終的に判断したのは私だから…先輩のせいじゃないよ?私だって先輩とできるだけ長く一緒にいたいもん」
「あー、もう。お前はどうしてそう可愛い顔して可愛い事言うかなぁ。お前がそんなんだから、俺がどんどん我侭になってくんだぞ?」
そう言って、高杉先輩はまわした腕にギュッと力を入れて抱きしめてくる。
「先輩…く、苦し…」
私のその様子にクスクスと笑いながら、あ、強すぎた?なんておどけて見せてから、少し間を置いて呟くように先輩が口を開く。
「まぁ、でもよ…俺も今年で卒業だしな。お前とこうしてゆっくり過ごせるのもあと僅かだから…」
「先輩…」
先輩のその言葉に、急激に自分の中にどんよりとした黒い陰りが姿を現す。
そう。先輩は今年で高校を卒業する。
高校を卒業してからは、大学へは進まずに就職するつもりでいるらしい。
社会人と高校生じゃ、そうそう同じ時間を共有するのは難しい事だって分かっている。
だから、先輩が卒業してしまったら、私達はもしかしたら……
なんて。不安に駆られる事が最近多くなってきた。
「先輩…ずっと一緒にいてください」
思わず漏れた私の言葉。
それに対して先輩は人差し指の背で頬を撫でながら、優しく声をかけてくる。
「ん?ったり前だろ。俺が瑤子を手放すとでも思ってんの?」
「だって…先輩卒業したら就職しちゃうんでしょう?そうしたら会える時間も少なくなっちゃうし、社会人になったら綺麗な人がいっぱいいるもん。先輩はカッコイイから色んな人から好かれちゃいますよ?そうしたら、こんな幼い私には敵わなくなっちゃう」
今でさえ色んな人から告白を受けている事に不安を覚える私。
社会人になった時の先輩を思い浮かべながら言葉を発するたびに、どんどん気分が落ち込んでくる。
先輩はそれを聞いて、一つ軽いため息をついてから、グイッと私の体を反転させて床に組み敷く。
静かに絡まるお互いの視線。
私を見下ろす彼から降り注がれる視線は、怒っているようなそれでいて辛そうな、色々なモノが入り混じった視線で。
「お前さ…俺の事信用してねえの?」
「……信用してます…けど…」
「けど、何?他の女に言い寄られたら、ホイホイついてく男だと思ってんのか?大事な女を泣かせるような、軽い男だとでも思ってんのかよ」
「ちっちがっ…」
「確かにお前と出会う前の俺だったらそうだったかもしれねえ。けど、今は違う。俺には瑤子しかいねーんだ。だから、不安になってんのはお前だけだと思うな。卒業したら傍にいてお前を見守ってやれなくて、言い寄ってくる男を蹴散らせねぇもどかしさがお前に分かるか?俺がどれだけお前を大切に思ってるか、どれだけお前を必要としてるか…本気で留年を考えたくらいだぞ?」
「りゅ…」
留年を考えたって…しかも本気で?
「前に言った事あるよな?付き合った女は…まぁ、それなりにあったけど、この部屋に入れたのは瑤子が初めてだって」
「……ん」
「誰にも踏み込ませなかった俺の領域に、瑤子になら踏み込ませてもいいって思えたくらい俺はお前に惚れてる。いや、むしろ俺をもっと知って欲しいとさえ思えるほどに…」
「…先輩」
確かに、先輩から聞いた事がある。
初めてこの部屋に呼ばれた時に、そう言っていたよね。
『女遊びが激しかった事は認める。けど、この部屋に連れて来た女はお前が初めてだから。俺は俺の領域に踏み込まれる事が嫌いだから、この部屋に誰一人として連れて来た事はない。でも、お前には俺の全てを知って欲しいって思えたから、こうして連れて来たんだ』
――――と。
高杉先輩はかなりモテる。故に私と付き合う前は相当女遊びが激しかったらしく、噂に聞いていた経験数は卒倒しそうな程だった。
だから最初、高1の中頃に先輩から告白された時は正直嫌だった。
いくらカッコイイからと言っても、こんな先輩と付き合ったら私も弄ばれてしまう、と。
学校じゃ有名な彼だから、存在は知っていてもそれまでに面識もなく、とある日の学校帰りに彼が落とした定期入れを拾ってあげたのが唯一の接点で。
それがどうして告白に繋がるのか不思議に思ったのを覚えている。
先輩曰く、一目惚れ。だったそうで…
その頃の先輩は髪の毛は少し長めの金髪で耳にピアスを何個もあけていたし、シルバーのネックレスやブレスもつけていて、制服なんて学欄を羽織ってるだけの中はド派手なTシャツの校則違反のオンパレード。
授業なんてロクすっぽ出てなくて、稀に職員室で見かける事があった時には、先生と殴りかからんばかりの怒鳴りあいの喧嘩をしていた。
そんな、誰がどう見ても『不良』と呼ぶであろう、格好と行動をしていた彼とどうして付き合おうと思える?
『不良』&『プレイボーイ』で名を馳せる彼と。
絶対嫌だって思ってた。
眼光が鋭く、前に立つだけで竦みあがってしまいそうになる威圧感。
綺麗な顔立ちゆえに、冷たそうな雰囲気も倍増で。
告白を断ったら、それこそ校舎裏に呼び出されてしまいそうで怖くて。
私が返事を躊躇していたら、先輩が意外にも優しい声で尋ねてきた。
『どうしたら俺が本気だって分かってもらえるんだ?』
って。
どうにもこうにも分かりたくなかったし、諦めても欲しかったから、私は先輩にとっては無理だろうと思う事を口にした。
『先輩がその髪を短く切って、色も黒く染めて、ピアスも止めて、制服もきちんと学校指定の物を着て、喧嘩も止めて授業もきちんと出て、プレイボーイみたいな行動はやめてすっきり綺麗になって…って。この全てをしてくれて、私しか見ていないって思えたら…その時は考えます』
少々強気な発言だとは思ったけれど、こう言ったら諦めてくれるだろうって思ってた。
流石に面と向かって断る勇気がなくて、そう出した提案だったんだけど…
次の日、私の教室に現れた先輩の姿に驚きで暫く声が出なかった。
短く切られて真っ黒に染まった髪の毛。
耳にピアスホールは開いているものの、今までついていたモノが全て外されていて。
ネックレスなどのアクセサリー類もなく。
若干着崩されてはいるものの、学欄の下には学校指定のブラウスが。
正直この姿を見て、一瞬ドキンと胸が高鳴り見惚れている自分がいる事に気付く。
ものすごくカッコイイかも。
って。
それまでの軟派な雰囲気ではなく、バリバリの硬派!ってイメージで。
この驚愕な姿に目を白黒させていると、先輩が紙袋を手に目の前までやってきて綺麗な笑みを浮かべてみせた。
「お前の言った条件はこれでほぼクリアだよな?で、最後の条件だけど…」
そう言って先輩は徐にポケットから携帯を出すと、それを私の前に差し出してくる。
「一応、昨日ここに登録されてる女全員に電話して関係を切ったから」
「え…」
私は無意識に差し出された携帯を受け取り、彼を見上げる。
「登録されてるメモリ、お前の手で全部消せよ」
「え…でも…」
「まぁ、こんな事で信じてもらえるなんて思っちゃいねーけどさ。とりあえずは見える形で証明してーし、少しでも俺が本気なんだって事を分かってもらいたいから。お前がメモリを消去して、お前の見てる前でそれを処分すっからさ」
「あの…処分って?」
「それ、昨日解約したからぶっ壊す」
「え、あの…ちょっと…」
「その携帯の代わりに新しいのを契約してきたから…」
そう言って、戸惑う私を余所に先輩は手に持っていた紙袋を私の机の上にポンと置き、中から真新しい携帯の箱を取り出す。
「俺と付き合ってくれんなら、この番号はお前以外の女には絶対教えねぇから。不安に思うなら、毎日チェックすればいい。毎日お前を迎えにも行くし、送っても行く。ぜってー悲しませる事はしないし、お前を大切にするから…俺と付き合って欲しい」
クラス全員の視線が集まる中、先輩は堂々と私の目を見て大きめの声を投げかけてきた。
当然の事ながら、私の頬はこの上なく真っ赤に染まっていて。
心臓なんてバクバクと破裂していまうんじゃないかと心配になるほど高鳴っている。
頭が真っ白になった私は、その時は返事をする事が出来なかった。
一応の条件を満たした事に対して、私は先輩の提案で絶対に手を出さない事を条件に、暫くの間共有できる時間を一緒に過ごすことになった。
登下校、昼休み、何の予定もない休日。
夜には必ず電話があるし、共働きの両親の帰りが遅い時などは、わざわざ来てくれて家の外でずっと話しをしてくれた。
そんな関係もいつしか半年が経ち、私達は一学年上になっていて。
その間先輩は、「手を繋ぐ事だけは許して」と言って、手を繋ぐ事はあってもそれ以上の事は公約どおりしようとはしてこなかった。
最初に感じた尖った雰囲気はいつしかなくなり、代わりに優しく笑う綺麗な笑顔が印象に残るようになってた。
学校内では、『最近高杉のヤツ、マジで女遊びやめたらしいぞ?しかもセンコーとの衝突も少なくなったし、他校との喧嘩も激減したらしいぞ?』と言う噂が広まり、私が言った条件を守ろうとしてくれてるんだ、と嬉しく思えたり。
私に対する言葉一つ一つが柔らかくて、優しくて。
先輩の一つ一つを知って行く度に、私の中に芽生えてくる感情を感じずにはいられなかった。
私は高杉先輩の事を――――
「――――じゃあ、また明日。いつもの時間に迎えにくっから、寝坊すんなよ?」
そう言って家まで送ってくれた先輩に、寝坊なんてしませんよ!と軽く返事を返してから、一呼吸置く。
「あの…高杉先輩?」
「ん、何?」
「あの…本当に私なんかでいいんですか?」
俯き加減で小さく呟く私の声に対して、先輩の声がやや上ずって返ってくる。
「ど…いう意味だ?」
「その。なんて言うか…私と付き合う事になっても、後悔とかしないかなぁ…と」
「待て、その振り…すげー期待するから、あとで萎えるような返事をするなら止めてくれ」
「いえあの…期待…してもらっても…その、よかったり?」
「え…。マジで…マジで?マジで?!期待すんぞ?…つまりはその、俺の事を…」
「好き…です。高杉先輩の事。最初は怖いし弄ばれそうだから嫌だなぁって思ってたんですけど、この半年の間に先輩の事色々知って、もっと傍に居たいって思えてきて、その…もっと先輩と一緒に居たいって…え、先輩?」
先輩は私の言葉を聞き終わらないうちに、はぁ〜。と大きなため息と共に、ストンとその場にしゃがみ込む。
「なげかったぁ。やっとだぞ、やっと…本気で惚れた女を落とすのに半年。傍にいるのに手を出さずにストイック生活続けられた俺ってすげー健気じゃねぇ?」
「う…あの、ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ。俺の素行が悪かったんだ、仕方ねーよ。でも、しっかりこの耳に受け止めたからな?お前の口から俺が好きだって…もう訂正はきかねーから。女に二言はねーよな?」
あの…それって…男に二言はじゃなくて?でも、一応答えとこ…
「ありません」
あの時初めて先輩とキスしたんだっけ。
優しくて甘い、重ねるだけのキス。
だけど、それだけで私にとっては充分すぎるぐらいの刺激で、呼吸の仕方さえも分からなくなったくらいだった。
それから先輩と正式に付き合う事になって。
彼と一日一日を過ごすたびに『好き』と言う気持ちがどんどん大きくなってきて。
今では先輩が私の事を好きって言ってくれる以上に、私は先輩の事が好きになっていると思っている。
そんな彼と交わすキスは、重ねるだけの短いものから一秒一秒長くなっていって。
今では離して欲しくないほど、彼とのキスに酔いしれている私。
告白された頃の私が今の私を見たらきっと驚くに違いない。
だって、あれだけ嫌だって思ってたクセに今では先輩に夢中なんだもん
…そりゃ驚きだよね?
先輩は付き合い始めてから、キスはよくするようになったけれど、それでも暫くはそれ以上に進もうとはしなかった。
『お前がいいって思えるようになってからでいい』
そう言って。
だけど、先輩がもの凄く我慢してくれている事が私にも伝わってきたの。
キスをした後、少し切なげに辛そうな表情で私の体を強く抱きしめる事。
首筋を伝って下に伸びて行きそうになる手をグッと握り締めて抑止している事。
もう充分だって思った。
充分私は先輩に大切にしてもらってると思えたから、私は勇気を振り絞って彼に伝えたの。
――――先輩と一つになりたいです。
それを聞いた先輩はもの凄く驚いた表情を見せてから、それを上回るほどに嬉しそうな表情を浮かべて微笑んでくれた。
ありがとう、瑤子。って言って。
そうして初めてこの彼の部屋に連れて来てもらって、初めてあのベッドの上で先輩と一つになれた。
私の事をもの凄く気遣ってくれて、優しくしてくれた高杉先輩。
初めて感じた彼の体の重みも温もりも、一つになれた時の喜びも目を閉じれば昨日の事のように思い出せる。
「――――…こ?……瑤子?」
「…え?」
「なにボーっとしてんだよ」
私は先輩に床に組み敷かれた格好のまま、暫しの間トリップしてたようで彼の声によって現実に引き戻される。
「え、あ…ごめんなさい。ちょっと昔の事を思い出してて」
「なに昔って…どのヤローの事思い出してたんだよ…」
「どのヤローって…」
先輩は私を見下ろしたままの格好で、少しムスッとした表情を見せるから、もぅ。と私は呟きながらため息を漏らす。
「先輩の事に決まってるでしょう?」
「あ、俺?」
途端にニッコリと嬉しそうな笑みを浮かべる先輩。
こういう表情って何気に可愛いから好き…って、先輩に対して可愛いって言うのもどうかと思うけど。
「そうです。先輩と付き合いだした頃の事とか、初めてこの部屋に連れて来てもらった時の事とかをちょっと思い出しちゃって」
「あぁ。俺、あの頃瑤子を落とすのにカナリ必死だったもんなぁ。結構気に入ってた髪型もバッサリいっちまったし、色も真っ黒に染めてよ。あの日を境にガラッと変わったからなぁ。普通女が男色に染まるっつうのに、俺が瑤子色に染まったもんな?」
「クスクス。なんですか、それ。でも随分髪の毛伸びましたよね?」
本気を知らしめる為にバッサリと切った彼の髪。
今は結構伸びていて、以前の髪型に近いくらいに伸びつつある。
それを指先で梳きながらそう尋ねると、先輩は気持ち良さそうに目を細めながら私の額に軽くキスをする。
「そろそろまた切ろうかなって思ってるよ。瑤子は短髪のほうがいいんだろ?」
「そういうわけでも…どんな髪型でも高杉先輩はカッコイイから好きですよ?」
「ほぉ。嬉しい事言ってくれんじゃん。で…初めてこの部屋に来た時の事も思い出してたっつう事は、俺との初エッチの事も思い出してたワケだ?瑤子のえっちぃ」
「なっ!?なんでそうなるんですかっ!綺麗な思い出なのに、そんな言われかたしたらヤらしく聞こえる!!」
「まあ実際ヤらしい事なんだけどな?」
「……………」
まあ、そりゃそうですけど。
先輩は言葉の詰まる私を見て、クスクス。と、笑いながら、あの頃を思い出すように私に視線を向けてくる。
「俺、瑤子と付き合えるようになってから、お前を抱く時は絶対俺の部屋でって決めてたんだよな」
「え…そうなんですか?」
「おぉ。それまでならどこでヤろうが構わなかったんだけどさ、お前とだけはラブホとかそういう場所でシタクなかったんだよ」
少し先輩の言葉に引っかかりつつも、どうして?と尋ねると、彼は一つ口付けをしてから綺麗に微笑む。
「お前は俺にとって大切な存在だから、ぞんざいに扱いたくなかった。今までみてーに、ヤれりゃいいってんじゃなくて、なんつーのかな。俺の安らげる空間で、気持ちを通わせながら瑤子を抱きたい…って、あんま意味分かんねーよな」
「ううん、分かるよ?嬉しい…すごく嬉しいです。先輩がそう思ってくれてる事」
「そうか?まぁそのなんだ…荒れていた俺を一瞬にしてここまで変えちまったぐらい、お前は俺にとってすげー存在なワケだ。だから、俺が他の女に靡くとかそういう心配はしなくていい。散々遊んだからもういいよ…この先は瑤子しか俺はいらねーから」
「先輩」
「信用しろよ、俺のこと」
「ん…信用します。男に二言はないですもんね?」
「お?おぉ!ったりめーだろ」
私が少し意地悪めいた笑みを浮かべると、当然だろう。と言う表情で頷き、しっかりと視線を絡ませてくる。
「好きだよ、瑤子」
「うん。私も先輩が好きです」
ゆっくりと近づくお互いの顔。
重なった瞬間に、求め合うように激しいキスに切り替わる。
深く絡み合うお互いの舌。
互いの唇を吸いあい、更に深く熱いキスを交わす。
この部屋で何度こうして唇を重ねただろう。
この部屋でどれだけ先輩から愛を注がれただろう。
激しくても、決して乱暴にではなく、いつだって彼は優しく接してくれている。
肌を伝う彼の指先からも、絡まる視線からも、彼の全てから私を大切に思ってくれている事が伝わってくる。
――――瑤子、お前を愛してる…って。
「んっ…せんぱっ…ぁっ…」
「瑤子?ここは保健室じゃねんだから、声を我慢しなくていいんだぞ?いつもみたいにもっとその可愛い声を聞かせろよ」
「でもでもっ…あぁっン!」
「ま、いいけどね?お前が乱れるポイントは、ちゃんと押さえてあっからさ」
そう言って少し意地悪い笑みを浮かべると、すっかりと着ているモノを取り払われてしまって素肌を露にしている私の肩を抱いて引き寄せ、胸の蕾を口に含み舌先で弄りつつ、あいた片方の指先を既に潤いはじめている秘部にあてがい器用に数本を動かしながら、私の脳を犯しはじめる。
悔しいけれど、先輩の言ってる事は本当で、確実に私の弱い部分を攻めてくる。
「あンっ…ダメ…先輩っ…そこっ…やぁぁんっ!!」
「『ダメ』じゃなくて、『いい』だろ?瑤子。それに愛し合ってる時ぐらい名前で呼べって言ってるだろ」
「んっ…でもっ…」
「先輩とか高杉先輩とか他人行儀な呼び方やめろよ。俺は瑤子を抱いてんだぞ?瑤子は誰に抱かれてんだ?」
「み…すず…先輩」
「先輩はいらねぇ。俺はお前のモノなんだから、呼び捨てで構わねぇって」
先輩はそう言って色っぽい笑みを浮かべると、熱く唇を塞いでくる。
いつもそう。
先輩はこういう時は必ず彼自身の名前を呼べと言う。
『実涼』って綺麗な名前を口にするのが未だに気恥ずかしいんだけど…
だけどね、先輩の事を実涼って呼び捨てで呼んでもいいのは私だけなんだって。
現に先輩の友達でさえも、「高杉」とか「高ちゃん」とかと言う呼び方でしか呼ばせていないみたいだし。
それを思うと、私だけが特別って感じがして気分がいいって言えばいいんだけれど。
いつか普通の時でも彼の事を「実涼」って呼べるようになる時が来るかなぁ?
「瑤子…そろそろいいか?」
先輩は充分に私の身体を熱く解してから、切なそうに色っぽい表情で私を見下ろす。
私はその表情に見惚れながら、うん。と一つ頷いた。
準備を済ませ、私の入り口に自身をあてがい、ゆっくりと中に押し進んでくる先輩。
初めての時は凄く怖くて目をギュッと強く閉じたまま、いっぱいいっぱいだった私なのに。
今ではこうして彼から送られる悦に酔いしれながらも、先輩の表情や温もり、息遣いなどを見て感じとれている。
普段の先輩の表情も好きだけど、こうして男の顔をして色っぽく私を見つめてくる表情も凄く好き。
なんて思う私はフシダラな子なんだろうか。
「瑤子…気持ち…いい?」
「んっ…すごくっ…気持ち…いいっ…あぁんっ…」
「俺もっ…すげ…気持ちいっ…お前とだと…なんでこんなにも俺、余裕がねんだろうなっ…もっと気持ちよくしてやりてーのにっ…もっとその可愛い声が聞きてーのに…もっ…げんかっ…いっ!」
抱きしめられる力が強まる毎に、腰を打つリズムも早くなり激しくなる。
余裕がないって言ってるクセに、確実に私の弱い部分を突いてくる先輩は、本当は余裕なんじゃないだろうか。と思いながら、次第に霞みはじめる意識に自分を見失わないようにと彼の首にしがみ付く。
「いやっ…み、すずっ…実涼っ…もう、ダメぇ…いや、いやっ…あぁ…あぁっン!」
「だからっ…いやっ、じゃなくてっ…いい、だって…言って…ぅぁっ!…い、イクっ…瑤子…も…イっていいっ?」
「んっ…んっ…いいっ…いいっ!…わたしもっ…もうっ…あぁぁぁんっ!!」
「よう…こっ…っ!!」
最後、お互いに強く抱きしめあい頭が真っ白になる瞬間は、いつもこの上なく幸せな気分に包まれる。
繋がったまま優しく何度も唇を啄ばまれ、頬や瞼にキスの嵐が降り注がれるこの時間が好き。
先輩といる時間はどんな時でも幸せで、温かい気持ちになれるから凄く好き。
そんな時間を与えてくれる実涼先輩が何よりも大好き。
「瑤子…大好きだよ」
「私も、み…すずが…好き」
「クスクス。お前はいつになったら、俺の名前をすんなり言えるようになるんだろうな?」
「……ぅ」
…もう暫くは言えないと思います。
「まぁ、瑤子が『実涼』ってすんなり言えるようになるまで、この部屋でいっぱい愛してやるから安心しろって」
そう言って、いたずらっ子のような笑みを浮かべる実涼先輩に対して、もうえっち!と答えながら、言えるようになったら終わっちゃうの?
なんて、小さな事に引っかかったりして。
その頭の中の疑問が先輩にも伝わったのか、彼は私の体をギュッと抱きしめて耳元に唇を寄せると、そっと囁いてきた。
「もちろん、言えるようになってからは更に愛してやるけどね」
- end -
H18.1.11
キャラ名:『実涼』 H17.12.27 17:42受信分採用