「はぁあ。疲れた…」
俺は少しアルコールがまわる体を預けるように、目の前に広がるキングサイズのベッドに身を投げる。
「もう、大樹(だいき)ったら…2次会で、はしゃぎ過ぎ」
そう可愛らしく、クスクスと笑い声を立てながら、あとからついてきた李衣(りい)が俺の隣りに腰を下ろす。
「だって楽しかったしさぁ、何よりもすっげー幸せだからテンションも上がるでしょう」
「そう?大樹は幸せ?」
「あ、何だよその言い方。李衣は幸せじゃねぇっつうの?」
「もう。幸せに決まってるでしょう?ずっと待ち望んでた事なんだもん」
李衣はそう言って、目を細めながら俺の頬を軽く抓ってくる。
その頬を抓られたままの格好で、俺は少し頭を擡げて彼女の太ももまで移動させると、腕を華奢な腰にまわす。
「ごめんな、李衣。随分待たせちまって。やっと『横川李衣』から『吉原李衣』にしてやれた」
「ううん、謝らないでよ。大樹はちゃんと学生の頃からの約束を守って私を迎えに来てくれたんだもん…待った分だけ幸せも倍増」
「な〜んか、それ。嫌味入ってねぇ?」
「やだなぁ。そんな変に取らないでよ。そういうの、被害妄想って言うのよ?」
「そうかぁ?」
頬を抓っていた手で髪を優しく撫でてくる李衣の手の感触に心地よく目を瞑りながら、軽く息を一つ吐く。
そう。李衣が言うように、俺は彼女を迎え入れるまでに随分と時間を費やしてしまった。
高校から付き合っていた彼女と将来を誓いあい、それを叶えるまでにざっと十数年。
弁護士を目指していた俺は、大学を卒業してから司法試験に受かるまでに3年。
司法研修生として1年半を過ごし、晴れて弁護士として働き出す頃には俺は30歳手前。
仕事に手応えを感じ、これならと李衣にプロポーズできたのはそれから1年と少し過ぎた頃だった。
同じ歳の李衣は、両親などから「そんないつ弁護士になるか分からないようなヤツを待ってないで、早く他の人と結婚しなさい」と、20代後半頃から他のヤツとの縁談を薦められていたらしい。
それを頑なに拒み続け、勉強に明け暮れる俺の世話を甲斐甲斐しく続けてくれた李衣。
どこにも連れて行ってやれず、満足に相手もしてやれなかったのに、李衣はいつも笑顔を絶やさず俺を支えていてくれてたっけ。
――――大樹なら大丈夫。必ず弁護士になれるから、頑張って。
どれだけその笑顔に励まされたか。
今ここに、弁護士としての「吉原大樹」がいるのは、李衣のお蔭だと言っても過言ではないと思う。
今までの俺を支えてくれた李衣。
これから先は俺が支えて行く番だよな?
「…李衣?」
「ん、なあに?」
「俺、すげー幸せ者だわ」
「クスクス。なに、突然?」
「弁護士と言う肩書きも、学校一美女だと謳われたお前も手に入れられた俺って、すげー幸せモンだと思わねぇ?」
優しく髪を撫でていた手が頬へと移動して、細い指先が頬の上を滑る。
「それを言うなら私でしょう?いつも成績はトップで、スポーツ万能、甘いマスクを持った学校一いい男の吉原大樹は弁護士になって、私の旦那様になったのよ?今日、みんなに羨ましがられちゃった…李衣は幸せすぎるって」
「羨ましがられたっつったら、俺だってそうだぞ?今日のウエディングドレス姿のお前、すんげー綺麗だったからさ。みんなお前ばっかに見惚れてたもんな」
「あら、私の友達はみんなあなたに見惚れてたわよ?いつもにも増してすっごくカッコよかったもの、今日の大樹」
「益々惚れたね、李衣に」
「私は大樹にメロメロ」
そこまで言って俺たちは顔を見合わせると、同時にぷっと吹き出す。
あー、俺らって年甲斐もなく…
「「バカップル?」」
重なって漏れた声に更に笑い声が溢れ出す。
「いいじゃん、今日ぐらい。バカップル上等だよ」
「あははっ!大樹ってば、開き直ってる」
おかしそうに笑う李衣の体を、グッと抱き寄せてそのまま身体をベッドに組み敷き、頬に軽く口付ける。
「俺らほど幸せなカップルはいねーよな。つーか、もう夫婦だけどさ」
「クスクス。そうね?」
「幸せついでにさぁ、子供も作っちまおうか」
「………へ?」
「いやぁ、式の間考えてたんだけど…もう、いつ子供が出来てもいいわけだろ?だったらゴムを着ける必要もねーかな、と」
「やだ、ちょっと…挙式の間、そんな事考えてたの?大樹のえっち!」
「男の性(さが)だ」
言い切る俺に、李衣は少し睨みを効かせて頬を軽く抓ってくる。
そんな李衣の様子に怯む事なく、俺はさらに言葉を繋ぐ。
「今日は晴れて夫婦になった記念すべき新婚初夜だぞ?ゴムなんて着けずにナマでイキたい」
「もう。大樹の変態!お堅い弁護士のクセにそんな生々しい言い方しないでよ」
「弁護士である前に俺は男なんでね。頭ん中はそこらの男となんら変わりねぇから」
俺はニヤリと口角をあげると、李衣の何か言いたげな唇を自分の唇で塞ぎ遮断する。
付き合ってから今日までに、幾度となく重ねた唇。
柔らかくて官能的で、一度重ねたら離したくなくなる彼女の唇。
その唇を何度も啄ばみ舌先で割って中に滑り込ませ、舌を絡めとる。
「んっ…だい…きっ…」
彼女の口から漏れ始めた鼻から抜けるような甘美な声。
それを聞くだけで、俺はいつも余裕が無くなる。
もっと聞きたい…もっと感じさせたいと、どんどん自分の身体が熱く疼いてくる。
しかも今日は李衣が正式に俺の妻になったと、みんなに披露した記念すべき日。
アルコールも程よくまわり、気分も高まっている中
本気で今日は李衣を壊しかねない
なんて思いが俺の脳裏を過る。
舌を絡めあわせながら李衣の着ているモノを一つずつ脱がしていく過程は、何度体感してもいいもので。
少しずつ頬を高揚させていく色っぽい李衣の表情を見つめながら、今日はどんな風に彼女を悦ばせようかと考えている俺は、李衣の言うように変態かもしれないとたまに思う。
だけどこれは俺に限った事ではなく、世の男どもだって同じだろう?
惚れた女をどう悦ばせようかと考える事は決しておかしな事ではないハズだから。
この十数年の間に知り尽くした彼女の身体。
だけどいつだって李衣は新しい表情を見せて、俺を魅了する。
だから止められないんだ、李衣を抱く事を。
だから求め続けてしまうんだ、李衣の事を。
その決定的要因は、俺が心の底から李衣の事を愛しているからこそなんだけどな?
相変わらずの白い艶やかな肌に唇を這わせ、その要所要所に紅い印を残していく。
俺の唇が移動するたび、指先がポイントを掠めるたびに李衣は可愛らしい反応を見せてくれる。
甘い吐息と共に俺の名前を呼びながら。
「なぁ、李衣。今日のお前、いつもにも増して感度良くねぇ?もしかして李衣も早く俺に抱かれたかったとか」
「ぁっン…バカ…」
「ホラ、お前の中が俺の指をすげー締め付けてくんだけど。どんどん蜜も溢れてくるし…こんなんじゃ俺の指がふやけるぞ?」
「やっ…ダメっ…そんな動かしちゃッ…」
「ん?もうイク?李衣は右の胸が弱いもんなぁ…一緒に攻めちゃおうか」
そう言って意地悪く笑ってみせると、彼女の弱い部分の一つでもある右の胸の蕾を口に含み舌先でコロコロと弄びながら、時折吸い上げ軽く歯を立てて甘噛みする。
それと同時に中も反応して、心地よく俺の指を締め付けてきた。
「あっ…アンッ…アンッ…いやっ…大樹っ…も…もう…イッちゃう!あぁんっ…あぁぁっ!!」
グッと頭を抱えこまれ、俺の指の動きにあわせるように、李衣の熱い蜜がしぶきとなって飛び散り、一度目の果てを彼女は迎えた。
「気持ちよかったか?李衣。俺の手もベッドもお前のでグッショリなんだけど?」
わざと見せ付けるように、李衣の蜜で濡れた腕を舐めてから彼女を見下ろすと、肩で息をしながら、バカ。と一つ言葉を漏らす。
「今度は俺も一緒にイカせてよ」
「ん…待って。まだ…身体が」
「ダメ、待てねぇ。こんな色っぽい表情見せられて、早くお前の中に這入りたくてウズウズしてんのに待てるワケねーだろ?」
「やんっ…待ってってばぁ」
「だから待てねぇってば。暴発する前にお前の中で受け止めてよ」
俺はそう言って、半ば強引に自身を李衣の入り口にあてがうと最初はゆっくりと、そして途中からグッと一気に中に押し入る。
「はあぁんっ!」
「んっ…クッ!すげ…締まる」
果てたばかりの李衣の中は、まだ程よい伸縮が残っていて暴発寸前の俺自身を心地よく刺激してくる。
間違いが起きてはダメだからと今まで直に触れた事は一度もなく、いつも薄い壁伝いに感じていた李衣の中。
これほどまでに心地良いものなのかと、30歳を過ぎて痛感する事実。
「やべ…すげー気持ちいい。ナマだとこんなにいいもんなのかよ。すげーな、クセになりそうだ」
「あぁんっ…大樹っ…あぁっ…あぁあんっ」
「李衣も…気持ちいいか?」
俺の律動に合わせて甘い吐息を漏らしながら、李衣は何度も頷き腕を伸ばしてキスをせがむ。
それに応えるように体を折って唇を重ねると、口内深くで舌を絡めあわせて律動のリズムを早めた。
いつもより早い限界を感じ、唇を離して顔を李衣の首元に埋めると彼女の体をギュッと力強く抱きしめる。
「李衣っ…も…俺、限界っ…もうイクっ…マジでこのままイってもいいか?」
「だい…っきっ…」
「ック…お前が嫌ならっ…外で出すっ…からっ…」
理性に反発して、加速し始めるリズム。
徐々に下半身に熱が集中し始め、頭が白く霞みだす。
「いいっ…いいよっ大樹…このままっ…イって?全部受け止めるからっ…一緒に…大樹っ!」
「愛してる、李衣…愛してるよ、李衣…一緒に…っくぁっ…」
「私もッ…愛して…るっ…あぁっ…いあぁぁぁんっ!!」
最大限に早まる律動。
ベッドが激しく軋み、体を打ち合う音が部屋に響く。
俺は李衣からの強い締め付けを感じながら、頭が真っ白になると同時に欲望を彼女の中に解き放った。
何とも言えない幸福感と満足感が俺を覆い、体全体から力が抜けて李衣の体に全てを預けるように倒れこむ。
静かな部屋には俺たちが吐き出す荒い息遣いだけが辺りを漂う。
俺は少しだけ体を起こして李衣を愛しく見下ろすと、軽く口付けを交わしてから微笑みかけた。
「李衣…愛してるよ。この先もずっとお前の傍にいるから…お前もずっと隣りで笑っててくれよな?」
「ん。私も愛してる。離れたりなんかしない、ずっとずっと隣りで笑ってるから」
「あぁ、ずっと笑っててくれよな。俺の可愛い奥さん」
「クスクス。なんだか照れちゃう…奥さんだなんて言われると」
「あはは!そうだな…俺もなんだか照れくさいよ。でも、今日ので奥さんからお母さんになったりして?」
「や、もう?せめて1年ぐらいは新婚さんをやってたいのに…」
そう言って可愛らしく頬を膨らませる李衣に、クスクス。と笑いながら軽くその頬にキスをする。
「まぁ、俺の計算では今日は安全日だから大丈夫だとは思うけど、こればっかりは分からねぇしな?神のみぞ知るって事で…第2ラウンドそろそろ行きますか?」
「えっ!?ちょ…今終わったばかり…へ、嘘でしょ?」
「いや、マジ。よっぽどナマでヤッたのがお気に召したらしい。ホラ、もう既に元気になって来てるし」
「…嘘」
夢だった弁護士という肩書きと、最高の妻を手に入れた俺。
コウノトリが運んでくるもう一つの幸せが手に入るのも時間の問題だな。
なんて。
自分の体力がまだまだ衰えてない事を実感した新婚初夜だった。
- end -
H18.1.6
キャラ名:『吉原 大樹』・『横川 李衣』 H17.12.28 15:47受信分採用