**腕の中**

〜和也&美由紀〜


大学の時に美由紀に惚れて、思いが届くまでに10年。

思いがやっと通じたと思ったら、今度はストイック的な生活をさせられて4ヶ月。

こうやって見ると、結構俺って耐えるタイプの男だよな。

だけど、美由紀の全てを手に入れた今、『耐える』という言葉を忘れたかのように、毎回美由紀を壊しにかかっている俺。

でもそれは仕方ないと思わないか?

10年と4ヶ月も全てを手に入れるのに時間がかかったんだ。その時間を埋めようと思えばさ、自然に・・・なぁ?

この腕の中に美由紀を感じる時が、俺の一番幸せな時なんだから、ついついそのまま彼女を求めてしまう訳で。

そう思うのは俺だけなんだろうか、とたまに不安に思うこともある。

俺ばっかが美由紀を求めてる気がするから・・・。

「美由紀・・・お前、何してる時が一番幸せ?」

ふと、ベッドの上で2人寄り添うように寝転びながら、美由紀の頬を撫でていた俺の口からそんな言葉が洩れる。

「え・・・何、急に。」

「・・・・・何となく聞いてみたくなった。」

我ながら、何とも曖昧な理由。何となくって・・・まぁ、何となくなんだけど。

学生の頃のように自由に時間を使えなくて、仕事に追われてる毎日の中で、俺は美由紀といる時間が一番幸せだと思ってる。

週に何日かしか会えなくて、その間にあった出来事とか、思った事とか。会社の事や友人の事。そんな話をコロコロと表情を変えながら、時には怒った口調になったり、時にはおかしそうに笑ってみたり。そうやって色んな表情を見せてくれる美由紀といる時間が俺にとってはすごく大切で、すごく幸せな時間。

だけど、それは俺がそう思ってる事で、美由紀はそうじゃないかもしれない。

だからちょっと聞いてみたくなったんだけど。

美由紀も、何となくって。と、苦笑を漏らしつつも、んー。と暫く天井を見つめてから徐に口を開く。

「前まではさー、疑問に思いながらも彼氏といる時間が一番幸せって思ってた・・・。」

「ほぉ・・・。」

俺は頬を撫でていた手を移動させて、美由紀の綺麗な髪を撫でながら適当な相槌を打つ。

前のヤツの話なんて、別に聞きたくねぇし。

「思ってたって言うか、思い込んでたのね。だけどね、カズと付き合うようになってから、あぁ、あれは幸せじゃなかったんだなぁって気付いたのよ。」

「・・・・・なんで?」

「だってあの時の私って息が詰まりそうだったなぁって思うから。彼氏といる時はその時間だけでいっぱいいっぱいだったのよね。嫌われないように愛想をつかされないようにってご機嫌ばっかり伺ってて。けど、カズといると違うのよ。会社の事とか日常の事とか、色々話してお互いに笑いあったり共感しあったり、すごく自然体な自分でいられるの。等身大の風間美由紀でいられる。」

美由紀の言葉を聞きながら、自分の心が温かいモノで包み込まれていく気がする。

美由紀も俺と同じ事を感じてくれてるんだって、そう思うと。

「だからね、最近思うのよ。こういうのが幸せって言うんだって、自分が自然体でいられる場所、安心出来る場所があるって言う事が。だからね、私にとっては・・・。」



――――カズといる時間が一番幸せだな。



そう、俺の腕の中から見せた美由紀の笑顔。

それだけで、美由紀への愛しい気持ちが満開に咲き誇る。

10年前と何も変わらないありのままの美由紀。

何も着飾らず、全てを俺にさらけ出してくれる彼女。

俺にとってもそれは言える事で、恥も外聞も無く全てをさらけだせる美由紀は俺にとっての大切な場所。

「俺も。美由紀といる時間が一番幸せだよ。」

「クスクス。そっか、よかった同じで。」

お互いに微笑み合い、どちらからとも無く唇を重ねる。

その大切な場所を確保するのに、随分と時間がかかってしまったけど・・・

それもまぁ・・・許せるよな?

こうやって幸せな時間を与えてくれる大切な場所が、この腕の中に確保できたんだから。



**ベッドの上のお題(10)より** 『腕の中』
お題提供先 COUNT TEN.

何をしてる時が一番幸せかと聞かれると・・・
猫と遊んでる時。と答えてしまいそうになる私(おぃ)
みなさんは、何をしてる時が一番幸せですか?

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