〜直人&恵子〜 「け〜い〜こっ♪」 「・・・・・。」 「け〜いっこちゃん?」 「・・・・・・・・・・。」 「お〜い、恵子ぉ・・いつまでそうやって膨れてるつもりだよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 ベッドの上に2人して寝転び、俺の腕の中にすっぽりと納まる華奢な恵子の身体を後ろからぎゅっと愛しげに抱きしめる。 その表情は先程から・・・いや、学校から帰る時からずっと眉間に深いシワを寄せていて、険しくそして恐ろしい。 一体何をそんなに怒ってるのか。 全くもって身に覚えが無く、ほとほと困り果ててる俺。 あ〜、ったく。恵子のヤツ、何に対して怒ってやがんだよ。 俺は恵子の身体を抱きしめたまま、とりあえず思い当たる節をあげてみる事にする。 「あ〜・・・もしかして、俺が教室で南田さんとかと楽しそうに喋ってたから怒ってんのか?」 恵子の横顔を覗きながらそう問いかけると、彼女はぷいっと頬を膨らませて顔を背ける。 ・・・・・違う。 「んー、じゃぁ2年の後輩の子に告られそうになったヤツ?」 今度は頬を膨らませたまま、そんな事があったのか。とでも言いたそうに、ギロッ。と睨みつける恵子。 ・・・・・ヤバっ。余計な事を言っちまったか? 「じゃ、無くて無くて・・・えと・・・あー、あれか。今日発売予定だった恵子の好きなバンドのCDが発売延期になった事か?」 う〜っわ。また睨まれた・・・っつぅか、それは俺のせいじゃねぇよな。 俺は苦笑を漏らしながら再び恵子の身体をぎゅっと抱きしめると耳元に唇を寄せる。 「なぁ、恵子。そんな膨れっ面のまま何も言わなかったら、何に対して怒ってんのか検討もつかねぇじゃん。何怒ってんだよ、恵子。」 ペロッと耳朶を舐めて甘噛すると、彼女の口から甘い声が漏れるどころか、もぅ!と、剣幕にも似た声で身体を反転させて俺の両頬を摘み上げる。 「いっいててっ!けっ、恵子・・・おまっ、何すんだよっ!!」 「何よっ!直人のバカっ!!私が何で怒ってるのかって全然検討もつかないわけ?」 「えぇ・・・・・。」 ・・・・・全く。 俺が申し訳なさげに呟くと、恵子の口から大袈裟な程のため息が漏れる。 「はぁぁ。もぅ、今日は・・・何日?」 「今日?・・・今日は、24日?・・・24日・・・・・って、・・・・・ぁ。」 ・・・思い出した。今日は24日だ・・・そうだ、恵子と付き合い始めて1年と11ヶ月目の24日。 しまった、すっかり忘れてた。 付き合いだした頃、すんげぇ嬉しかった俺は、『毎月24日はプチ記念日な♪』なんて事を言って、その日は恵子と街をぶらぶらして、外でメシを食って最後ホテルでお楽しみってコースに決めてたんだった。 俺から言い出した事なのに、すっかりと日々の馴れ合いにまみれて忘れてた。 「悪い、恵子・・・忘れてた。」 「忘れてた、じゃないわよ。直人が言い出した事でしょう?」 「お前が覚えてんなら、そう言ってくれりゃぁいいじゃんかぁ。」 「そっ、そんなの私が言う事じゃないもの。直人が覚えてて当たり前なんだから!!」 「だぁー、もぅ。だからごめんって。俺が忘れてたのが悪いんだよな?ごめんな、恵子。」 「知らないわよ、もぅ。直人のバカっ!!」 再び、ふぃっとそっぽを向く恵子を宥めるように抱きしめて頬を摺り寄せる。 「ごめんごめん、恵子。俺が悪かったって・・・もう怒るなよ。な?これからどっか出かけよっか?」 「・・・・・もう遅いから嫌。」 「じゃぁ、プチ記念にエッチしよっか?」 「忘れる直人とはしたくない。」 ・・・・・ヤバイ。完全にへそを曲げられてしまった。 こうなると機嫌を直すのに結構苦労する。 はぁぁ、もう恵子。頼むから機嫌直してくれって・・・。 心の中で懇願し、俺は誠意を込めてご機嫌取り。 「恵子、だ〜い好き!」 「私は嫌い。」 「愛してる♪」 「何言っても無駄。」 クソっ・・・やっぱりか。 と、くれば・・・。 「じゃぁ、今週末に恵子の欲しいって言ってたカバン、買っちゃる。」 ピクン。とその言葉に僅かながら恵子の体が反応を示す。 「・・・・・もっ、モノでつらないでよ!」 「ちょっと反応したくせに。」 「ぅっ・・・してないわよ。」 「じゃぁいらないんだ、カバン。」 「・・・・・いる・・・かも。」 「機嫌直してくれる?」 「・・・・・・・・・。」 恵子は黙ったままもう一度ゆっくりと身体を反転させて、俺の方に向き直ると視線を合わせてくる。 「恵子?機嫌直してよ・・・な?俺が悪かったから。忘れててごめん!!ホント、マジで許して?もう絶対忘れねぇから。」 「んー・・・許してあげてもいいけど、今度忘れたら本当に絶交だからね?」 「ん、分かってる。忘れない・・・機嫌直った?」 「・・・・・かも。」 「クスクス。じゃあ仲直りのチュ〜は?」 「・・・別に喧嘩してないもん。」 「あんだよ、キスしてくんないの?」 腕の中の恵子の唇に指を這わせてそう呟くと、途端に彼女の頬が紅く染まる。 ホント、こういうとこ可愛くてたまんない。 「わっ、私からはしないわよ?!」 こういう意地っ張りなとこもね。 「じゃぁ俺からする・・・。」 そう呟き、ニッコリと笑ってから恵子の唇を自分の唇で塞ぐ。 キスが深くなるにつれ、恵子の口から甘い吐息が漏れ始める。 何とか恵子のご機嫌も直った様子で、内心ほっ。としていた俺。 唇を離し、次の行動に出ようとする俺に、恵子が一言。 「――――・・カバン・・・忘れないでね。」 ・・・・・結構イタイご機嫌取り。 |