〜幸久&葵〜 「わあ。ユキちゃんのこのピアス、可愛いね。」 学校帰り、いつものように俺の家に遊びに来ていた葵は俺のピアスを、ちょんちょん。と触りながら、可愛らしく微笑む。 「お前ね。可愛いじゃなくて、カッコイイって言えっての。」 「コレは、カッコイイじゃなくて、可愛いだと思うけど。」 「俺に反発する気?いい度胸してんじゃん。」 「ぅっ・・・・・カッコイイと思います。」 「だよな?俺も結構気に入ってんだよな、これ。ちょっと高かったんだけど即行で買っちまったよ。」 ふと立ち寄った店で偶然見つけたこのピアス。 シルバーで、ピアスの割りに結構凝ったデザインだったから、少々値は張ったものの気に入ってその場で買ってしまったんだよな。 「私も、ピアスあけようかな。ねぇ、私もあけていい?」 「バーカ。お前はあけなくてもいいの。」 「えー。なんで?」 「親からもらった体に傷つけんじゃねぇよ。」 「なにそれ?でも、ゆきちゃんはあけてるじゃない。」 「俺はいいんだよ。親不孝モノだから。」 「そんな事ないよ。ユキちゃんは人一倍おばさんの事、大事にしてると思うけど。」 「余計な事言ってんじゃねぇよ、襲うぞコラ。・・・・・って、・・・。」 「うあっ!えと・・・・・その・・・。」 俺がある一つの事に気付き、それをネタに葵を弄ってやろうと口元をニヤリと上げると、葵の方も何かしら心当たりにぶち当たったようで、慌てた様子で俺の傍から離れてベッドの上に避難し始める。 避難してるつもりだろうけど、これじゃぁ、俺の次の行動に拍車をかけてるだけだって気付いてねぇのかね、葵のヤツは。 自然と込み上げてくる笑いを押し殺しながら、俺は葵に続いてベッドに上がり顎を軽く掴む。 「これで逃げてるつもり?っつぅか、これってどう見ても誘ってるよなあ、葵。」 「んあ゛・・・しまった・・・って、ごめんなさいって!」 「何がごめんなさいだ。何度言ったら直るんだ?あー、それとも何か。そんなに俺に襲って欲しいわけ?」 「いやっ・・ちがっ!・・・幸久って呼ぶ!今度は絶対ちゃんと呼ぶから!!許して?」 「許さない。」 俺が顔を葵にゆっくりと近づけると、葵は叱られた子供のように体を竦めて、きゅっと目を閉じる。 俺の目の前で、閉じられた葵の長い睫毛が小刻みに震える。 ・・・・・ってか、ちょと待て。 この反応はどうよ?まるで俺が葵の事を苛めてるみたいじゃねぇか。っつか、若干苛めてもいるけれど・・・それは葵が可愛いから故の事であって、本気で苛めてるわけじゃない。 こんな反応をされると、何気に罪悪感のようなものが込み上げてくる。 「お前さぁ・・・本気でビビッてんじゃねぇよ。俺が悪者みてぇじゃねぇか。」 「だって、ユキちゃんが苛めるんだもん。」 「また、ユキちゃんて言いやがって。何も本気で苛めてねぇだろ?」 「苛めてる。だって、無理だもん。無意識だとユキちゃんって出ちゃうもん。そんな急になんて無理ぃー。」 急にって・・・あれから随分と経ってる気がするぞ? 「だぁぁ。もぅ分かったよ・・・無理矢理呼ばせねぇから。んな泣きそうな声出してんじゃねぇって。」 若干涙声になり始めた葵の声に、慌てて体を抱きしめると、宥めるように頭を優しく撫でる。 はぁ、もう。俺、こういう葵に弱いんだって・・・泣かれるとすんげぇ焦る。 焦るクセに、葵を弄りたがるからタチが悪いよな。 苦笑を漏らしつつ、俺の胸から顔を上げた葵の額に、ちゅっと軽くキスをする。 「もう、怒らない?」 「あぁ。怒らねぇよ・・・ただ、基本は『幸久』だからな。」 「うん。でも、間違ってユキちゃんって呼んでも、本当に怒らない?」 「あぁ。」 「本当に本当?」 「・・・・・しつけぇーぞ、葵。そんなに言われっと、前言撤回すんぞ。」 「わぁぁ!もぅ言わない、絶対言わない。」 「ったく。葵の泣き虫。そういう所は昔っから全然変わらねぇな。」 「なっ、泣いてない!」 「泣いた。」 「泣いてないーっ。」 「じゃぁ今から嫌っつぅ程、なかせてやるよ。」 「そっ、そんなぁ。」 途端に不安そうな表情を浮かべた葵だったけど、俺のニヤリとしたその表情に、どういう意味かを悟ったようで俄かに葵の頬が赤く染まる。 「葵、好きだよ。」 そう瞳を捉えながら呟き、その頬に手をあてて再び顔を寄せると、私も好き。と小さく呟き瞳を閉じる。 泣いてる女に男は弱いっつうけど、俺もその中の一人だよな。 尤も俺の場合、葵の涙にだけ滅法弱いって事だけど。 |