*あなたの温もり 〜卒業〜 平成18年3月1日。 昨日までどんよりとした黒い雲が覆っていた空も、今日のこの日を祝うように澄んだ青空が広がっている。 そう…今日は3年生がこの学校を旅立つ卒業式。 私の幼馴染で最愛の彼、相田幸久がこの学校からいなくなってしまう日でもある。 式が終わってからユキちゃんと会う約束をしていたし、本来なら1年生である私は今日の卒業式は休みで学校に来なくてもよかったんだけど、どうしても最後のユキちゃんの姿を見ておきたくて、こうして体育館の一番後ろのドアからコッソリと中を窺っていた。 卒業式は滞りなく進められ、厳粛なムードの中、時折女子生徒のすすり泣く声が聞こえてくる。 ユキちゃん…本当に卒業しちゃうんだ。 この中にユキちゃんもいるんだ、と思うと、すすり泣く声につられて自然と自分の目の奥から、ジーンと熱いものがこみ上げてくる。 葵の為に留年してやる!なんて、冗談めいた事を言っていたユキちゃんも、無事に卒業単位をもらえてその後の就職先も決まっていた。 でも、授業を殆ど出席していなかった彼は、カナリ卒業するための単位が足りなかったらしくて、最後の方は補習の嵐で凹んでたみたいだけど。 「だぁぁっ!もーやってらんねぇ!!頭がおかしくなるっつうの…マジで留年考えようかな」 なんて言いながら。 それでも単位をもらえて無事卒業できる事になって…卒業式間近になると、人気のあったユキちゃんは、気の早い女の子達に学ランのボタンを全部取られてしまって、無残な制服姿で帰ることが多くなっていた。 「ったくよー。女って生きモンはこえーよ…嫌だっつってんのに無理矢理引きちぎっていきやがる。この1週間でどんだけ取られたか…まぁたクソばばあに文句言われるよ。付け替えるボタンがねぇ!ってよ。俺、卒業式にこの制服着て出れんのかな」 「クスクス。ユキちゃんはカッコイイから…仕方ないよ。みんな思い出にユキちゃんのボタンを欲しいって思ってるんだよ?」 「ふぅん…そんなもんかね。取られた方はたまったもんじゃねーけどな。こんなボタンになんの意味があんのか分かんねーけど」 そこら辺に売ってるボタンじゃん。と、無残に引きちぎられたあとを指先で擦りながらポツリと漏らす。 「ユキちゃんが使ってた制服のボタンだから意味があるんだよ?私だって…」 ――――本当は欲しかったもん。 「葵も欲しかったか?…ボタン」 私が言葉を発する前に被さったユキちゃんの声。 私はコクン。と、一つ頷いてから、さらに小さく首を横に振る。 「欲しかったけど…ユキちゃん本人が傍にいてくれるから、それで充分」 「…葵」 そう、自分に言い聞かせてた。 卒業式の数週間前に、ユキちゃんの制服から全てのボタンが取られていたことにカナリのショックを受けた私。 ユキちゃんが3年間使っていた制服の、彼の心臓に一番近いボタン…そう、第二ボタンはどうしても欲しかったのに。 お願いする前に取られてしまって、どうすることも出来なくて…。 こんなことなら、前もってもらっておくべきだったと後悔すらした。 式が無事終わったようで、体育館の中では拍手の音が響く中、卒業生が次々と列を成して退場していく。 それを視線で追いながら、ある人物を捕らえると、自然と涙が溢れ出してきた。 ……………ユキちゃん。 生徒達の列の中で一際目立つその存在。 堂々と胸を張って歩く姿が涙で滲んで歪んでいく。 家が隣り同士なんだからいつだって会えるのに…どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろう。 ずっとずっと傍にいるって言ってくれてるのに、どうしてこんなにも心細いんだろう。 私には気付かず体育館を出て行く彼の背を見つめながら、ユキちゃんがどこか遠い存在になってしまうようで、自分の中からあらゆる不安がこみ上げてくる。 そんな不安を感じると、卒業生がみんな退場してしまってからも、校庭に出てくるまでの間もずっと涙が止まらなかった。 校庭では、私と同じように式をコッソリと覗きにきていた1年生が、花束を持ったりして卒業生たちが出てくるのを待っている。 クラブの先輩、委員会の先輩、憧れの先輩…それぞれに卒業を祝うために。 最後のクラスでの挨拶を終えた卒業生たちが校庭に集まり出すと、辺りがザワザワと騒がしくなる。 泣き叫ぶ声や楽しそうに笑い合う声…いろんな声が行き交う中、私は校庭の隅っこから彼の姿を探していた。 暫くそうして視線を泳がせていると、女の子の黄色い声とともに一際騒がしい集団が校庭にやってきた。 そう、学校内で知らない人はいないぐらい有名なユキちゃん率いる数人のグループ。 途端に彼らの周りには女の子が集まり、一つの塊が出来る。 中でもやっぱりユキちゃんがダントツで、彼は女の子達に群がられ、心底嫌そうな顔で逃げ回っているのが視界に映る。 そんな姿を見ながら、ユキちゃんがもし私に気付いてくれたら、笑顔で「ユキちゃん、卒業おめでとう」って言ってあげようって心に決めたのに、それとは裏腹に止まりかけていた涙が溢れ出してくる。 もうこの学校で、こうしてユキちゃんを見られなくなっちゃうんだ…。そう思うと。 「……………葵?」 逃げ回っていたユキちゃんの視界に私が映ったらしく、彼はすぐさま私の元へと駆け寄ってきてくれた。 遠くの方から、あ〜ん、もう。と、諦めの混じった女の子の声が聞こえてくる。 「……ユキちゃっ…」 「おまえ…来てたのか?な、んでそんな泣いてんだよ…葵?」 顔をあげた私の表情を見て、ユキちゃんは驚いたように戸惑い混じりにそう問いかけてくる。 「だって…だってぇ…ユキちゃっ…卒業…しちゃうんだもん」 「…バーカ…学校は卒業すっけど、ずっと葵とは一緒にいるだろ?んな…泣くなって」 ユキちゃんは優しく微笑みながら、私の瞳から溢れ出す涙を両手の親指の腹で拭い取ってくれる。 頬に触れる彼の掌から温もりが伝わってきて、余計に涙が止まらなくなる。 「でも…でもぉ…」 「あおい〜…泣くなよ。俺、葵の泣き顔に弱いんだからよ…だから卒業式も見に来なくていいぞって言ったのに…」 「だって…ユキちゃんを学校で見られる最後の日なんだもん…でもっ…やっぱり卒業なんてやだぁ…ユキちゃんと離れ離れになるの…いやなの…」 私は溢れる涙をそのままに、腕を伸ばして彼の首にしがみつき、ぎゅっと腕に力を込める。 「おわっ…葵…んな辛くなるようなこと言うなって。俺だってお前の傍にずっといてやりてーんだからさ…な、葵?頼むから泣き止んでくれって」 ユキちゃんはギュッと私の体を抱きしめて、宥めるように背中を優しく撫でる。 それでも私の涙は止まってくれなくて、後から後から溢れ出てくる涙をどうする事もできなかった。 「――――葵?泣き止んだか?」 ユキちゃんに肩を抱かれて彼の部屋に帰って来てからも私の涙は全然止まってくれなくて、暫くの間私は彼の腕の中で泣き続けていた。 どうしてこんなにも悲しいのか自分でも不思議なんだけど、すごくすごく悲しくて不安でたまらなくて。 ユキちゃんの存在がこんなにも自分の中で大きくなっていたんだと改めて実感させられる。 「ごめっ…んね。私がいつまでも泣き続けてるから…ユキちゃん、みんなとあまり話せなかったよね?最後なのに…ごめん…ね」 「バーカ、余計な心配すんじゃねーよ。俺の為に泣いてるお前を放っておけるかっつうの。ヤツらとはいつだって連絡が取れるんだ、特別そんな感情はねーよ。現にあいつ等もさっさと家に帰りやがったしな…男なんてそんなもんだぞ?どうせ、休み中に集まって騒ぐんだから。葵は心配すんな」 「でもぉ…」 「それとも何か?葵は泣いてるお前をほっぽらかして連れんところに行って欲しかったのか?」 「それは…」 ………嫌かもしれない。でも、それは私の我侭で…うぅ、難しいところ。 押し黙る私に、クスクス。とおかしそうに笑いながら、ユキちゃんが私の頭を撫でる。 「だろ?俺だってそんなの嫌だからな。連れとしんみりお涙頂戴してるより、お前と一緒にいるほうが俺はいい」 「それでいい…の?」 泣き顔のままユキちゃんを見上げると、彼はそっと親指で雫を拭い取ってから、綺麗な笑みを浮かべてくれる。 「いいからこうして一緒にいるんだろ?で。泣き止んだかよ」 「ん…たぶん。でも、ユキちゃん…見事に最後もボタン取られちゃったんだね」 校庭で女の子達に囲まれている様子を思い出しつつ、ボタンが引きちぎられたあとを一つ一つ指で辿りながら、ボソッと呟く。 やっぱり、袖の部分でもいいから欲しかったかも……。 「あ?あぁ…見事にやられた。袖のボタンまでも取られちまったよ…まぁ、もう着ることもねーからいいけどさ」 ユキちゃんはため息交じりにそう呟き、うーわ、ここ穴開いてんじゃねーか。と、また一つため息を漏らす。 「そっか…一つは欲しかったなぁ…ユキちゃんのボタン」 「そんなに欲しいか?ボタンなんてよ…」 そりゃ…欲しいでしょう? 大好きな彼が使っていた制服のボタンだもん。 男のユキちゃんには理解できない事かもしれないけれど、恋をしている女の子はみんな同じ気持ちだと思う。 ――――彼が使っていたものだからこそ… 「ん…だって、ユキちゃんが着てた学ランのボタンだもん。一緒の学校で過ごした証っていうか…記念にっていうか…」 「ふぅん…女の考えることはよくわからねーけど…葵、ちょっとそこの箱取ってよ」 ユキちゃんは少し私の体を離すと、彼の勉強机の上にある小さな箱を指差す。 「え?…コレ?…ん、はい」 私はそれに首を傾げながら腕を伸ばして取ると、小さな箱を彼に差し出した。 「開けてみろよ」 「え…私が開けてもいいの?」 掌サイズの小さな箱。 クッキーか何かお菓子でも入っているのかな?なんて思いながら蓋を取り、中身を確認して思わず息を呑む。 少し黒ずんでところどころ金色が剥がれ落ちている丸いボタンが2つ、コロコロっと箱の中でぶつかり、転がった。 「………え…コレって?」 ――――もしかして… 「なんつーの?俗に言う第二ボタンっつうやつ…」 ――――でもでも、どうしてここに… 「え、でも。第二ボタンって一番最初に取られてて…ずっとそれからついてなかったよね?しかも…2つある」 私はユキちゃんの言っている意味も、ボタンの数の意味も理解できなくて、きょとんと首を傾げたまま彼を見上げた。 すると彼はちょっと照れくさそうに視線を上にあげて私から逸らすとボソボソっと彼らしくなく小さく呟く。 「あぁ、それは俺が引きちぎって取っといたんだよ。なんかみんな揃いも揃って第二ボタン、第二ボタンってうるせーからよ…あれだろ?心臓に近いからとか何とかで、価値があるのかないのか知らねーけどさ。そんなみんなが欲しがるモンなら、どうせなら葵にって思ってよ…中学の分と高校の分…2つ取っておいたんだ」 「中学の分も?」 嘘…残しておいてくれたんだ。 しかも中学の時の分まで… 「まあ…な。心に近いって意味があんなら、俺の心を奪ってもいいのは葵だけだったから。お前が欲しがるかどうかは別として、それだけは残しておいたんだよ」 「ユキちゃん…」 「ちょっと……クサかったか?」 ユキちゃんは少し頬を紅く染めて、ポリポリっと鼻の頭を指でかく。 「ううん!全然…全然そんな事ない!!すごく…すごく嬉しいよ。ありがとう、ユキちゃん。大切にするよ…ずっとお守りにして持っとく」 「んな、大袈裟だろうが…たかがボタン如きによ」 そういってユキちゃんはおかしそうに笑うけど… 私にとってはこのボタンは大きな意味があるんだよ? 大切に…大切にずっと持ってるからね。 学生時代のユキちゃんの心が詰まった大切なボタンだから… 「……ユキちゃん?」 私は改めてユキちゃんの前にきちんと座りなおして、そっと腕を彼の首にまわす。 「ん?」 ユキちゃんもそう返事を返しながら、両腕を私の腰にまわして首を傾げる。 「卒業…おめでとう」 私…ちゃんと笑えて言えてるかな… 「葵……」 「ユキちゃんと学校では会えなくなっちゃうけど…こうして家で会えるから大丈夫だよね?私、あと2年間頑張って通って卒業するから…ユキちゃんも仕事…頑張って…ね?」 笑みの浮かんでいたユキちゃんの顔が次第に真顔に変わっていく。 自分でも、発する声が涙声になっているのが分かる。 もう泣いちゃいけないって分かってるけど、やっぱりどうしても溢れてくる涙。 どうしたら止まってくれるんだろう。 どうしたら笑顔でユキちゃんの卒業をお祝いしてあげられるんだろう。 本当は寂しくて不安で仕方ないの。 これから新しい道を歩き出すユキちゃんが遠くに行ってしまいそうで怖いの。 本当はユキちゃんに卒業なんてして欲しくない。 そういって泣き叫べたらどんなに…… 「……葵?お前が誰かに苛められたら、真っ先に俺に連絡して来い。どこにいようが何してようが、すっ飛んできてそいつをぶん殴ってやるから。ガキん頃からお前を護るのは俺だけだって決まってんだ。この先も死ぬまでずっとお前を護り続けてやるよ」 「ユキちゃ…」 「卒業っつっても永遠に葵と離れ離れになるワケじゃねーだろ?俺はお前とあのクソばばあらと、みんなで幸せに暮らせるようにこれから頑張るからよ…お前はあと2年、高校生活をめいっぱい楽しめ。あー…ただし、ヤローと話すこともコンパも厳禁だけどな?」 うにうにっと私の頬を抓りながら、ユキちゃんは少し笑う。 「好きだよ…葵。この気持ちはこの先も絶対変わらねーから…不安になるな」 「ユキちゃん…私もユキちゃんが好き…大好き。何があっても離れていかないでね?ずっと傍にいてね?」 「当たり前だろうが。お前こそ心変わりしやがったらただじゃおかねーからな。覚悟しとけよ?」 「そんなっ…絶対、絶対ないもん!この先もユキちゃんだけだもんっ…」 私達は暫くの間見つめ合い、どちらからともなく自然に唇を重ねた。 啄ばむようなキスから次第に貪るようなキスに変わり、お互いの息があがりはじめる。 なんだか今日は特別で、いつも以上に熱く感じられるキス。 それに酔いしれ、体が急速に火照り出す。 キスをしながら、一つ一つ脱がされていく服。 私ももどかしげにユキちゃんのシャツのボタンを外し、彼の着慣れた制服を取り払う。 「ぁっ…ん…ユキちゃっ…ぁんっ…」 「葵…お前、今日すげー感度よくねぇ?」 「んっ…分からないっ…けど…ユキちゃんにもっといっぱい触れて欲しいって…思っ…あぁんっ!」 自分でもよく分からないけど、今日のこの日を忘れないようにって思ってたのかもしれない。 ユキちゃんの温もりが肌に伝わるたびに、敏感に肌が反応を示す。 彼の舌が胸の蕾を弄ぶと脳天が揺さぶられ、彼の指が私の中を刺激すると中心が熱く疼き出す。 くちゅっ、くちゅっと卑猥な水音もいつも以上に耳に響き、彼を誘うように腰が動く。 「も…たまんねぇ。すげー色っぽい、今日の葵。ぜってー他のヤツには見せたくねぇその表情(かお)」 「はぁっん!っぁん…ユキちゃん…もう…お願い……来て?」 「あお…い…お前…」 自分でもびっくりだった。 来て…だなんて、今まで一度も言葉にした事がないのに。 もしかしたら、雰囲気に飲み込まれてたのかも… 『卒業』という言葉とこれから先の不安とに。 「すげー大胆だな…今日の葵は。いいよ、お前がそういうなら…一回イかせてからって思ってたけど…すげえ中に這入りたくなった」 ユキちゃんはそういって、少し色っぽい表情を見せると、ベッドボードの小さな引き出しに手を伸ばす。 それを阻止するように、私はユキちゃんにキスをしながらゆっくりと腰を落としはじめた。 今日の私は大胆宣言らしい… ユキちゃんとどうしても直に繋がりたくて、自ら腰を動かして秘部に彼自身をあてがい埋めていく。 最初戸惑いをみせていたユキちゃんも、私の思いを察したのか舌を奥深くで絡めあわせながら、ゆっくりと律動を送り始める。 「あぁっ…んあぁっ…ユキちゃんっ…ユキちゃっ…ぁぁんっ!!」 「くぁっ…すげっ…いい…やべ…即行で果てそ…気持ちよすぎだよ、葵…このまま中でイきたいっ…気分っ…」 「んっ…いいっ…いいよ?…ユキちゃんの全部…受け止めたい…から…ぁっ…ぁぁっ…んんぁっ…今日…安全日…でしょ?」 「可愛いこと言って…くれんじゃんっ…けどなぁ、葵…いくら安全日でもそれだけはやっぱできねえって…お前を不安にさせたくねえし…」 「…ユキちゃん…」 「安心しろ…ちゃんとお前をイかせてやっから…クッ…つっても…俺もそんなに持ちそうにねーから…全身で感じ取れよ?」 色っぽい笑みを浮かべて、ユキちゃんは私の身体を繋がったままベッドに持ち上げて倒すと、脚を大きく押し開いて中を激しく攻め立ててきた。 途端に快感の波が大きく押し寄せてきて、私の肌が急激に粟立つ。 「あぁっ…あぁぁんっ!…ユキちゃっ…あぁぁんっ…ダメっ…イヤっ…イクっ…いぃっちゃうぅぅっ!!」 「んぁっ…っくぁっ…葵っ…いっ…すげっ…いいっ…」 激しく身体を揺さぶられ、ベッドの上で私の身体が飛び跳ねる。 頭の中が白く霞んできて、果てが近くなってきたのがユキちゃんにも伝わったのか、彼は身体を折って私の身体に覆い被さってくると、ギュッと強く抱きしめ、更に激しく中を攻め立てる。 「ユキちゃんっ…ユキちゃんっ…やっ…あっ…ぁっ…あぁぁぁっ!…んんんっ!!」 「あおいっ…っっ!!」 ビクンっと、私の身体が大きく一つはねて、そのあとの小さな震えを感じながら、ユキちゃんは素早く私の身体から自身を引き抜くと、色っぽい声とともに暫くしてからお腹に熱いものを吐き出した。 意識が朦朧とする中、彼から送られる沢山のキスの嵐を穏やかな気持ちで受けていた私。 ……不思議だなぁ。 ユキちゃんがこうして傍にいるって感じられるだけで、先ほどまでの不安がかき消されてる。 こうしてユキちゃんに触れてもらえるだけで、この先も大丈夫だって思えてくる。 ねぇ、ユキちゃん? 私はこんなにもユキちゃんの事が好きなんだよ? きっとユキちゃんが私を想ってくれている以上に私はユキちゃんが大好きなんだよ? ね、知ってる?……ユキちゃん… 「葵…愛してる」 「………ぇ…」 ユキちゃんの腕の中で、優しく髪を撫でられながら夢見心地だった私は、突然のそのユキちゃんからの言葉に一瞬戸惑ってしまう。 彼はそんな私を優しい眼差しで見つめながら、少し照れくさそうにクスクスと小さく笑った。 「……なんか、口にするとクセーな」 「ユキちゃん…」 「でもよ…俺の中ではもう『好き』とか『大好き』とかでは納まりきれねんだよ…お前に対する気持ち。だから、いつか言おうって思ってたんだ、『葵を愛してる』って。ガキん頃からお前の傍にいて、お前に惚れて…俺のつまらねえ蟠りのせいでお前を傷つけて。やっと葵をこの手で抱けてよ…なんつーの?もう葵は俺の体の一部分なんだよな」 ユキちゃんはそこまで話して一旦区切ると、優しく頬を撫でて一つキスをする。 そして徐に私の手を取ると、そっと自分の左胸にそれを押し当てた。 「……ここ」 「……ここ?」 「そう。俺の心…葵は俺の心の中の一部分。生きる為のエネルギーだな。お前といると穏やかな気持ちになれて安心できて、落ち着ける。お前の為にって思うと、なんでも出来そうな気がするんだ。葵になにかあったらここが痛むし、葵が幸せな気持ちになれたら俺も幸せになれる。きっともうお前なしでは生きていけねーよ、俺」 「ユキ…ちゃん…」 「なにがあっても葵は俺が護ってみせる。ガキん頃、いつも葵の手を引いて歩いたようにこの先もずっとお前の手を引いて歩いてってやるよ。もう、2度とこの手は離さねえ…何があろうとも」 ユキちゃんはそう言って、左胸に添えている私の手をギュッと力強く握り締める。 この時の温もりは一生忘れないと思った。 大きくて温かくて…私の全てを包み込んでくれるような優しい手の温もりを。 うん…もう、大丈夫。 もう、不安になんてならない。 こうしていつだってユキちゃんの温もりを感じられるんだから。 だからね、もう笑って言えるよ… ――――ユキちゃん、卒業おめでとう。
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