*恋は突然に…




Sweet Home




もぅ、秀ったら。折角会社から帰って、秀が仕事終わるまでにゆっくり時間をかけてチョコレート作ろうって思ってたのに・・・。

秀からの電話を終えて、携帯をパタンと閉じて、はぁ。と、一つため息を付く。

・・・・・何故、ため息か。

それはさっきの秀からの電話によるもので。

『――――智香さん?今日、俺早番でもうすぐ終わるからさ、車で迎えに行くから外で食事しよう?』

って、言われたわけよ。

ちょっと待ってよ。こっちにも都合があるってもんで・・・と、思いつつ早く秀と会えると思うと、思わず私の口から、

「うん、分かった。じゃぁ用意して待ってるね。」

なんて出てしまったのよ。

う〜ん、今年も手作りのチョコを作ってあげたかったんだけど・・・去年したからいっか。

でも、去年の秀の喜ぶ顔を思い出したら作ってあげたかったな。なんて事も思うんだけど、時間的に無理だし。

私は近くの百貨店に寄って、可愛くて美味しそうなチョコの詰め合わせを一つ買って家路を急ぐ。



家に着いて、化粧直しなんかをしてたら秀からの着信音が鳴り響く。

「・・・・・はやっ!!」

思わず苦笑を漏らしながら、通話ボタンをピッ。と押す。

「もしもし、秀?・・・早い〜。」

『クスクス。あれ、早かった?だって、すっげぇ智香さんに会いたかったからさ、車飛ばして来たんだって。ね、もう出られる?』

「ん、もう出るわ。ちょっと待ってて。」

『リョーカイ。』

終了ボタンを押して、途端に顔から笑みが洩れてしまう。

――――すっげぇ智香さんに会いたかったから。

ずっと変わらず私に嬉しい言葉をかけてくれる秀。

・・・・・ほんと、私って幸せ者よね。

なんて心躍らせながら、先ほど買った秀へのバレンタイン・チョコを持って彼の待つ車へと急ぐ。



「――――お待たせ・・・ぁんっ!!」

そう言っていつものように車の助手席に乗り込むと、すぐに抱きしめられて唇を塞がれる。

相変わらず触れ心地の良い彼の唇。

暫くの間、彼の唇に酔いしれていると、最後、ちゅっ。と音を立ててからゆっくりと離れていく。

「3日ぶりのキスはやっぱり最高♪」

「もぅ、秀ったら。誰かに見られてたらどうするの?」

「別にいいじゃん?見たいヤツには見せてやったら。」

そう、人懐っこい笑みを浮かべて秀がクスクス。と笑う。

「でも・・・毎回思うんだけど、こんなイベントの日にオーナー自ら早番なんて、みんなから顰蹙買わないの?」

「大丈夫。そういうとこ俺、ちゃっかりしてっから。今日は俺の代わりに麗香を店に呼んでバイトさせてっからさ、和希も文句言わねぇし、バイトの奴らも麗香見て目の保養になってっしいいんだよ。」

「麗香ちゃんを?バイトの子の目の保養って・・・和希君気が気でないんじゃない?」

「クスクス。それはそれで後から燃えるからいいんでない?」

人懐っこい笑みから一転して、いたずらっ子のような笑みに代わる秀。

その顔を見て、こちらも思わず笑みが洩れる。

「クスクス。後から燃えるって・・・和希君はそんなタイプに見えないけど?」

「あぁ、あいつムッツリだからなぁ。あれで結構独占欲強いんだぜ?何だかんだ言ってあっこもラブラブだしね、兄貴の俺としても安心なわけよ。」

「でも、麗香ちゃんが入ってるんなら男性客が多くなりそうね。」

「そうなんだよ。アイツが入り出してからやたら男の客層が増えてさ。それに、麗香のヤツ、客商売向いてるっぽいんだよね。男にニッコリ笑って一番高い飲み物とか食いモンとかさり気な〜く進めやがって、売上も上々。ありゃ大物になるわ。」

「クスクス。秀ったら。」

「あ、そうそう。今日の夕飯だけどさ、勝手に予約入れちゃったけどよかった?」

「ん〜いいけど・・・また高い所じゃないでしょうね?」

「あははっ。あれはも〜無理。今日は普通のイタメシ屋にした。智香さんが好きそうな店だったからさ。OK?」

「うん、それならOK!あ、そうだ。今回、秀が帰ってくるまでに作ろうって思ってたんだけど、時間的に無理になっちゃったから、買ったもので悪いんだけど・・・これ、バレンタインのチョコ。」

そう言って先ほど買ったチョコの入った紙袋を秀に差し出す。

「おぉ!サンキュー♪智香さんの作ったチョコの方が数倍嬉しいけど、今日は特別だからこれで我慢しとく。」

・・・・・特別?

その言葉が妙に引っかかって、首を傾げながら秀を見る。

「・・・・・特別って?」

「ん?いや、別に。特に意味はないけど?」

秀はそう言って笑うけど、特に意味があるから特別って言うんじゃないの?

秀・・・またあなた何か考えてる?

そんな疑問を浮かべる私を他所に、秀は鼻歌まじりに車のアクセルを踏んだ。



「――――あぁ〜。おいしかったぁ。」

秀が言うように、私好みの可愛らしいお店で、出てくる料理もとても美味しかった。

大満足の私は満面の笑みを浮かべながら、秀を振り返る。

「満足してもらえてよかった。」

「もう大満足よ。あ、秀。この後は?明日仕事だったら帰らなきゃだよね?」

「うん、今日早番にしてもらったから明日はフルで働かないといけないんだけどね、もうちょっと時間あるからさ、ドライブしようよ。」

「あ、いい!夜景見ながらドライブしたい!!」

「クスクス。オ〜ライ♪じゃ、行きますか。」

秀に助手席のドアを開けてもらい、腰を下ろしてから、ふう。と一息つく。

・・・・・ちょっと食べすぎちゃったかしら。

秀も運転席に乗り込むと、じゃぁ、しゅっぱ〜つ!と言って車を走らせる。

夜のドライブってすごく好き。

静かだし、夜景が綺麗だし。

私は助手席の窓から夜景を楽しみながら、秀との会話も楽しむ。

暫く夜景の綺麗な道を進んでから、車はどんどん住宅街へと進んで行く。

「あれ、秀どこ行くの?私の家に帰るんだったら逆じゃない?」

「ん?いいの、いいの。ちょっと寄りたい所があるからさ。」

「寄りたい所?」

その言葉に秀はニッコリと微笑むだけで、返事は返してこなかった。

・・・・・どこ行くの?



「到着〜。」

そう言って秀が車を止めた場所。

え。何、ココ?マンション・・・?

秀が車を降りるのを見て、慌てて自分も車から降りる。

「・・・・・マンションって・・・誰かに会いに行くの?」

「ううん、違うよ。ほら、行こう?」

秀は私の手を取り、そのマンションの中に入って行く。

私は訳が分からずに、ただ秀に着いていくだけで・・・。

マンションの中の一室の前で立ち止まり、ポケットから鍵を取り出すと、開けて中に入っていく。

「秀・・・ここって誰の家?」

「俺と智香さんの家。」

「・・・・・はい?」

ちょっと待って。意味が・・・意味がよくわかりませんが?

秀と・・・私?え、何、どういうこと?

訳が分からないという表情で見上げる私を、秀は後ろから抱きしめてくると、そっと耳元で囁いてくる。

「俺からのバレンタインの贈り物。智香さん、ここで一緒に住もう?」

「えっ?えっ??バレンタインって・・・一緒に住むって・・・ちょっと待って。頭の整理が出来ない。」

「俺さ、もう離れて過ごすの嫌なんだ。ずっと智香さんと一緒にいたい。智香さんを一人でいさせるのも嫌だから、ここ借りたんだ。智香さんは嫌?」

「嫌も何も・・・突然すぎる。どうして秀はいっつもそんな突然なのよ?」

「智香さんの驚く顔が見たいから。驚いたでしょ?」

えぇ、そりゃ驚きますでしょ?突然連れてこられて、一緒に住む家だぁ。なんて言われたらさ。

ほんとに、この子ってばどうしてこう、やることが極端なのかしら。

その行動力にいつも驚かされる。

「仕事から帰って来たら智香さんに、おかえり。って言って欲しい。朝起きたら智香さんに、オハヨウ。って言って欲しい。ずっと、智香さんと一緒にいたいから・・・ずっと傍で智香さんを見守りたいから。だから、一緒にここで住もう?・・・・・ダメ、かな?」

「ダメ・・・な、訳ないじゃない。嬉しい、すごく嬉しいよ?でもね、そう行動を起こす前に一度私にも話して欲しい。いつもいつも事後報告じゃ私の頭がついていかないもん。」

「ごめん。俺、智香さんが絡んでたらじっとしてらんないんだ。すぐに行動したくなちゃって・・・ダメだよな。これじゃぁ、まだまだガキだよね。」

「まぁ、秀らしいって言えば秀らしいけど?」

その言葉にクスクス。と小さく照れたような笑い声が耳に届く。

「結婚まではまだもうちょっと時間かかりそうだけど、その予行練習って事で。ここからだと、俺と智香さんの仕事場まで近いから問題ないと思うし。夜は絶対帰ってくるから、心配ないし。」

「心配だったの?」

「そりゃすっげぇ心配だったよ。誰かに襲われてねぇかとか、ストーカーに狙われてねぇかとか。色々考えて、たまに眠れねぇもん。」

「もぅ、心配しすぎだよ。今までだって大丈夫だったんだから。」

「ん〜、まぁ心配もあるけど、一番は俺がずっと傍にいたいっていうのがね。」

「・・・・・秀。」

「だって、やっと手に入れた俺の大事な宝物だよ?ずっとずっと傍で護りたいじゃん。」

秀は私の身体を自分の方に向かせると、まっすぐに視線を捕らえてくる。

その言葉に年甲斐もなく、頬が赤く染まっていくのが分かる。

「もう、真顔でそういう事言わないでよ・・・照れるでしょ?」

「本当の事だもん。そうやって照れてる智香さんも可愛くて好き。」

「あのねぇ・・・でも、バレンタインの贈り物って、豪華すぎるでしょ?私なんて百貨店で買ったチョコだよ?つりあわない。それに、男の人から貰うなんて・・・。」

「別にいいじゃん、そんなの。俺には智香さんから貰えるってだけで、すっごい価値があるんだし。バレンタインっつったって、女の方から男へ贈るのなんて日本ぐらいだろ?俺がそうしたかったんだし、イベントに乗っかってると印象に残るジャン?」

「それはそうだけど・・・。」

「いいのいいの。それに、これから智香さんからたっぷりいただくし?」

途端にニヤリと秀の口角があがる。

・・・・・なに、その意味ありげな笑みは?

「何を私からいただくの?」

「そりゃもぅ、夜は寝かせてあげないって事。」

「やっぱり一緒に住むのやめようかな。」

「だ〜め。もう決まったから。ねぇ、いつ引っ越す?」

「来年。」

「智香?」

「もう、秀のバカ!エッチ!!」

「クスクス。智香さんがそうさせるのが悪いんだって。ん〜と、今日は月曜だから・・・週末辺りにでも引っ越してくる?」

「ほんと、突然なんだからぁ。」

「それが俺らしいんでしょ?ま、こういう男だって諦めて。俺も水曜辺りに休み取れそうだからその日に引っ越すからさ。早く引っ越しておいで?」

「うん・・段取り取ってみる。」

「ん、楽しみに待ってる。」

秀はニッコリと笑うと、私の唇に自分の唇を重ねてきた。

秀からの送られる甘いキスに次第に頭がぼぅっとなってくる。

秀といると、ホント飽きない。驚かされてばっかりだもん・・・・・。

付き合ったきっかけも突然だったし、今年の私の誕生日もすっごいサプライズだったし・・・。

今回は百貨店のチョコと引き換えにとてつもなく凄いバレンタインの贈り物がやってきた。


+ + FIN + +


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