史上最高のバツゲーム−番外編−
□ Love affair on Wednesday
優哉のバイトが休みの水曜日。
私は大抵この日は彼の家に泊まって、次の日一緒に彼の家から学校に通うようになっていた。
うちの親は外泊に関してはあまり口うるさくなく、逆に遅く帰って来る方が危ないと小言を言う。
カナリの変わり者だと思う。
まあ…今の私にしたらそれはすごく有難い事なんだけど。
そんなワケで、毎週のように泊まって帰るようになったから、今日は私専用の小物類を買って帰ろうって事になって、私たちは学校帰りにデパートに寄って帰ることにした。
私専用のお箸やお椀にお茶碗、コップ、そして歯ブラシ、私が行くようになってからかなり快適になったとはいえ、次の週には床に物が散らばってるからスリッパは必需品。
なんだかこういうものを揃えていると、同棲してるような気分になって少しくすぐったかったりする。
優哉もそれは同じようで、始終ニコニコと微笑んで私の買い物に付き合ってくれている。
大方雑貨類を買い揃えてから、私はふっとある事を思い立つ。
イチイチ家から下着類を持って行くのもあれだから、どうせなら買っちゃおうかな。
ついでだし。と、優哉と連れ立ってエスカレーターに乗り、下着売り場に辿りつく。
優哉はその辿りついた場所に広がる光景に、一旦足を止めて私を見た。
「下着も買うの?」
「うん。ついでだから買って帰ろうかなぁって思って。ホラ、あの奥にあるショップって可愛くて安いのがいっぱいあるから」
「あー…じゃあ、僕はここで待ってるよ」
「え、どうして?」
「どうしてって…普通行くもの?」
そう改めて聞かれて思わず首を傾げてしまう。
今まで一緒に彼氏とこういう場所に買い物になんて来たことなかったから分からないんだけど…普通どうなんだろう?
下着売り場にカップルで来ているのを見かける気もするし?
「優哉は恥ずかしい?一緒に見るの」
「いや、恥ずかしくはないけど…こういう所って来たことないからさ」
「じゃあいいじゃない?一緒に行けば」
そうニッコリと笑って優哉の腕に自分の腕を絡ませて奥にあるショップに向かって歩き出す。
このショップは結構可愛らしいデザインの下着が豊富に揃っていて、値段もリーズナブル。
学生の私たちには強い味方でもある。
下着売り場に優哉と腕を組んで足を踏み入れると、周りにいた女の子達が一斉にギョッとした様子であたしの隣に立つ存在を怪訝そうに見た。
まあ、その反応も仕方ないかな、とは思う。
私が一緒とはいえ、どこからどう見ても「不審者」極まりないのだから。
だけど、その様子にムッとしたのも事実。
人を見かけで判断しないでよね!と、心の中で思いながら、この不審者と私はラブラブなのよ。と、見せ付けてやろうと、腕を優哉の腕からウエスト辺りに移動させてキュッとそこに抱きつく。
この光景に、怪訝そうに優哉を見ていた彼女たちの視線が釘付けになる。
そうアレね…嘘でしょう?って感じで。
ふんだ。私はどう思われても構わないけど、何も知らない癖に優哉の事をそんな目でみないでよね!
私はそれを尻目に甘えるような声を出しながら、上目遣いで彼を見上げた。
「ねぇ、優哉は私にどんな下着を着けて欲しい?」
「捺……」
ラブラブっぷりを見せ付けようと、腰に抱きついてくる私の意図を察したのか、優哉はクスッと小さく笑って優しく髪をクシャクシャッと撫でてくる。
――――僕のことなら気にしてくれなくていいのに。
そう耳元で囁いてから、優哉は突然前髪をスッとかき上げ、私のコメカミに軽くチュッとキスをしてきた。
露になる優哉の整い過ぎた綺麗な顔立ち。
一瞬にして、周りの子の目の色が変わる。
ムカツク。
今しがたまで優哉の事を気持ち悪そうな目で見ていたクセに、露になった彼の顔を見ただけで掌を返したように、ほぅっと見惚れる。
その豹変にムカツキを覚えつつ、私は腕を伸ばして優哉の上げられた前髪をクシャクシャっと弄ってまた元通りの姿に戻した。
すると、あん、もぅ。と、残念そうに小さく呟かれた女の子の声が微かに耳に届き、俄かに自分の眉間にシワが寄る。
あん、もぅ。じゃねーよ。
「もう。どうしてその姿を見せるの?」
「嫌だった?この方が捺の隣りにいても不審がられないかなって思ったんだけど」
「イヤ。さっきまで怪訝そうに優哉の事を見てた子たちにどうしてカッコいい姿を見せなきゃいけないの?今のこの姿でも私には充分素敵なの。その姿は2人の時だけ…目を直(じか)に見たい2人の時だけにして?それに、この中にYUのファンの子たちがいたらどうするの?折角隠せてるのにバレちゃうでしょう?」
「捺……ん、そうだね。髪を上げるのは2人だけの時にするね」
ありがとう、捺。そう言って優哉は嬉しそうに笑うと、私の頭を抱えてギュッと自分の胸に引き寄せて、ツムジにまたチュッと軽くキスをした。
彼の胸に埋もれたまま見上げて微笑むと、彼もまた同じように微笑み返してくれて、額、頬にと軽く続けて唇を当ててくる。
「あ、ん…もう、優哉くすぐったい。みんな見てるでしょ?」
「言ったでしょ?僕は捺が望むならどこでだって僕の女だって主張するって」
「言ったけど…」
実際こんな場所でされると、ちと恥ずかしいぞ?
「本当はこの唇も奪いたいところだけど…キスするときの色っぽい捺の顔は誰にも見られたくないから、あとからの僕のお楽しみね?」
そう、クスッと笑って優哉は私の唇を指先でなぞる。
途端に私は恥ずかしくなって、バカ。と小さく呟いてから、優哉の胸に顔を埋めた。
周りも気にならない、バカップルの出来上がりである。
「ねえ、捺はいつもどんな下着買ってるの?」
「ん?そうだなぁ。学校に行く時は、普通の可愛らしい下着かな。フリルのついてるのとか。で、休日用には、今流行りのエロ可愛いファッションが気に入ってるから、見せブラとショーツのセットを買ってる」
「ふぅん…見せブラとショーツね…」
あれ…なんか変なこと言ったかしら、私。
急に声のトーンを落として、面白く無さそうに呟く優哉に対して首を傾げながら彼を見上げる。
すると優哉は突然私のウエストをギュッと抱き寄せ、もう片方の手で私の顎を捉えてグィッと上を向かせた。
「ひゃっ!?なっ、何?」
「捺は僕の知らないところで、男を誘うような恰好をしてるんだ?」
「えっ、やっ…ちがっ…」
「ただでさえ男の目を惹く捺なのに、そんな恰好をしたら余計に悪い虫が寄ってくるだろ?」
「だって、そんな…」
ただのファッションなんですけどっ!?
「捺が気に入ってるファッションにとやかく言うつもりはないけれど…それだけはダメ。って、言うか、僕の知らないところでそういう恰好されるのは嫌だ」
「優哉…」
「僕と一緒の時だけはその恰好でもいいよ?でも、それ以外はダメ。分かった?捺」
「ん…分かった」
私のその返事に満足そうに微笑んで、優哉は額に軽くキスをしてから腕の力を抜いた。
それから私たちは一緒に下着を選んで、優哉の気に入ったそれを買ったのだけど…
コレって、立派な見せブラとショーツのセットじゃないか…
夕食を終えて、後片付けも終り、2人でテレビを見ながら歓談していると、優哉が突然思い出したように、あ。と、呟く。
「なに…どうしたの?」
私のその問いかけに、優哉は、ニヤリとした笑みを浮かべて私の顔を覗きこんできた。
いつも鬱陶しいぐらいに目元を覆っている前髪は、今は私が用意した細いカチューシャで上げられているから直(じか)に優哉の青みがかった綺麗な瞳が見える。
「ねぇ…今日買った下着のセット、着て見せてよ」
「はっ?え…今、ここでってこと?」
「うん、そう」
うん、そう。って簡単に返事してくれるわね。
「え…ヤダ」
「どうして?」
「どうして?って、恥ずかしいからに決まってるでしょう?」
「見たい」
「やだってばぁ!」
「捺…着て見せて」
出たっ!言い切りっ。
もー、やだぁ。こういう言い方したら、私が断れない事知っててワザと言ってくるんだもん。
今回も例外なく、優哉の言葉に従っている私は本当に弱いと思う。
洗面所で、今日買った黒生地の下着のセットを身につけて、頬を真っ赤に染めながら部屋に通じるドアからコッソリ顔だけを出すと、おいで、捺。と、優哉が綺麗な笑みを浮かべて手招きをする。
見せブラとショーツのセットだけど、元来こういう目的で使うもんじゃないと思うんだけど…。
そんな事を頭の片隅で思いながら、優哉に促されるままローベッドに腰掛ける彼の前に俯きながら立つ。
「捺ってホントにスタイルいいね…綺麗だよ」
「やっ…も…そんなマジマジ見ないでよ…恥ずかしい!」
「どうして?見せブラとショーツなんだから、見ても平気でしょ?」
いや、だから。
こういう使い方じゃないっての。
優哉は意味深な笑みを浮かべたまま、私の体を舐めるように上から下まで視線を流す。
こうしてマジマジと下着姿の自分を見られていると思ったら、ほんっとに恥ずかしくて両手で体を隠したくなる。
ブラの方はまだいい。
パットの助けもあって谷間はバッチリできてるけれど、カップ部分にフリルがあしらわれていて、可愛いと言っちゃぁ可愛いから。
だけど問題は下の方。
肌を隠す部分はほんの僅かな布(きれ)しかなくて、唯一細い紐状態になった部分で留まっている。
そう…所謂Tバック状態。
裸を見られるよりも、数倍も恥ずかしいと思うのは気のせいだろうか。
羞恥心に苛まれ、体を隠そうと腕を動かしかけたら、それを寸前で察知したのか、優哉の腕がそれを阻止する。
「どうして隠そうとするの」
「やっ…だって…恥ずかしいもん!」
「週末は僕の知らないところでこうして下着を見せてるクセに?」
「そんなっ…下着を見せてるワケじゃないって。この、ブラのフリルの部分とかを少し出してるだけよ。やだぁ、もういいでしょ?恥ずかしいから服着る」
「ダメ」
ダメって…そんな。
優哉は私を見上げて、ニヤっとした笑みを見せると、私の腕を掴んだ状態のまま、下着のラインにそって舌を這わせはじめる。
ゾクゾクっと震える肌。
優哉の舌が移動する度に、ピクンっと掴まれた腕が跳ねる。
「このままエッチしようか、捺」
「んっ…やぁっ…ぁ…」
「嫌?そうかな…捺の体はそうじゃないみたいだけど?」
そうこの上なく意地悪な事を囁きつつ、優哉は片手を私の手から離して、スッと秘部を指先で撫でた。
ビクン。と跳ねる私の体。
その様子を楽しむように、優哉は数回そこを撫でて、ワザとその指を私に向けてくる。
「ホラ。捺のここ…もうこんなに濡れはじめてる。体の方が正直だよね」
何も言い返せなかった。
だって、自分の体だもん…一番よく分かってる。
観念したように頬を染めて俯く私に、優哉は色っぽく囁いてくる。
「キスして…捺」
こんな整った精悍な顔を向けられて、色っぽい声を聞かされて…断れる者がいるなら教えて欲しい。
私は言われるがままに体を屈めると、そっと頬を寄せて唇を重ねる。
啄ばむようなキス…うっとりする程のキスに次第に私の息が上がり始める。
舌が絡み合い、唇を吸われ、優哉の長くて綺麗な指が私の体を滑り始めたら、もうダメだ。
足に力が入らずに、立っていることもままならず、そのまま体を預けるように、優哉の膝の上に腰が落ちる。
「捺…なんか、今日は余裕がない…」
「んっ…ゆぅ…やっ…」
「この下着姿に触発されたみたい…ね、今すぐ捺の中に這入りたい…いい?」
キスの合間にそう言葉を囁き、優哉は軽く指を使って私の中をかき回してくる。
私も、今日はなんだか変だった。
優哉が思うように、私もすぐにでも繋がりたいと思っている。
下着姿をマジマジと見られて、変に触発されたのだろうか。
変態か?…私たちは。
私がコクンと頷き返事を返すと、優哉は枕元に置いてあった箱から小さな袋を取り出すと、キスをしながら手早く準備を済ませる。
そして熱い蜜で潤った私の秘部に自身をあてがうと、一気に中を突き上げてきた。
「はぁっん!!」
「んっ…く…」
のっけから激しく揺さぶられる私の身体。
下着を着けたままだったから、妙な快感に包み込まれる。
「クスクスっ…この下着っ…便利だね?ワザワザ脱がさなくてもっ…こうして捺の中に這入れる」
「バカっ…んっ…あっ…やっ…ああぁぁんっ!」
「くぁっ…そんな急に締めたら…っぅあ」
いつもと違った刺激に、敏感に身体が反応して、いつもより早く高波に飲み込まれそうになる。
優哉の口から吐き出される色っぽく荒い息遣い。
私の口から漏れる鼻から抜けるような甘い声と、繋がる部分から漏れる卑猥な水音。
それにも刺激されて、急激に押し寄せる高波に攫われて自分を見失わないように、私はギュッと優哉の頭を抱え込んだ。
更に加速するリズム。
私の体にまわる優哉の腕に力が篭った頃、私の頭も真っ白になる。
「イクっ…も…ダメ…捺…イっていい?もっ…限界…っぁくっ」
「あぁぁっ…いっ…んっ…あぁんっ…あぁぁぁあんっ!!」
激しく体を縦に揺さぶられ、最奥で優哉の動きが止まると同時に、私もぐったりと彼の体に身を預けた。
「はぁっ…はぁっ…すごい…気持ちよかったよ、捺」
「ん…私も…よかった…」
「これから水曜日はこの下着に決定だね」
「へ…?」
「クスクス。何度でも出来そう」
「え゛…」
今、もの凄く恐ろしい事を聞いた気がするのは気のせいだろうか?
「捺…大好きだよ」
そう甘く囁きながら、再び唇を重ねてくる優哉。
それを受け止めながら、何故か不安が脳裏を過った私。
この下着を着けている限り、私の安息の眠りは訪れないのではないだろうか。
やっぱり…
来週来るときに、自分の家にある普通の可愛らしい下着セットを持ってこよう。
そう、私は心に決めた。
++ FIN ++
『櫻塚森』 櫻塚森さまへ沢山のイラストをいただいたお礼に♪
H18.6.4 神楽茉莉
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