Love Fight −番外編−




□■ 癒しの時間 ■□


「ご馳走さまでした。すごく美味しかったよ」

そう言って目の前に座る彼女に微笑みながら、持っていた箸を皿の上に置く。

「ホントに?えへへ。すっごく嬉しいです」

俺の言葉を受けて、屈託のない笑みを浮かべながら彼女がそう返してくれる。


どんなに仕事が忙しくて疲れ果てたとしても、この彼女の笑顔を見るだけで癒されて、疲れが吹き飛んでしまう。

それは、彼女から醸し出される温かい雰囲気が、俺を包み込み穏やかな気持ちにさせてくれるから。

こうして、最愛の彼女と過ごす時間は俺にとって何よりも幸せで、大切で、かけがえの無いもの。


それはずっと昔から変わらない。


彼女…「戸田美菜」が「長瀬美菜」となったのは半年ほど前のこと。

これまでにも喧嘩が少なく、仲がいいと言われていたけれど、結婚してからは更に、たまには喧嘩ぐらいしろよ!と、突っ込まれるほどで。


そんなこと言われても…ねぇ?

喧嘩する要因が俺らの間には無いんだから、それは無理な話と言うもの。


ずっとこうしてこの先も、穏やかな気持ちで美菜と過ごして行くんだろうな。


そんな事を思いつつ、食べ終わった皿を重ねていく美菜の様子をじっと見つめていると、彼女はきょとんと首を傾げる。

「どうしたの?何か考え事?」

「ん?いつ見ても、俺の奥さんは可愛いなあって見惚れてた」

「なっ?!」

瞬く間に頬が真っ赤に染まるその様子に、思わず笑みが洩れてしまう。


こういう所、変わらないよな。って。

美菜がこういう反応を見せるって知っててワザと言う俺も…相変わらずだけど。


クスクス。と、小さく笑いながら立ち上がり、美菜が纏めた皿を持ってキッチンまで足を運ぶと、慌てたように美菜が後ろからついてくる。

「ね、ねぇ。後片付けは私がするよ?修吾君はお仕事で疲れてるんだから、ゆっくり休んでて?」

「いいよ、これぐらいの量。2人で片付けた方が早いでしょ?」

「でも…それは私の仕事だもん」

「美菜には他にもする事があるからね?こういう事はちゃっちゃと済ませるの」

「えっ?他にもって??あ、洗濯物をたたむとか?」

それはもう終わったよ?と、付け加えてくる美菜の耳元に頬を寄せてそっと囁く。


――――俺の相手して疲れを癒してくれなくちゃダメでしょ?


「早くしないと、その時間が短くなるからね」

少し悪戯っぽく笑みを浮かべて美菜の顔を覗きこむと、むぅ。と、困ったように、それでも嬉しそうに
はにかんでくれる。

2人並んでシンクの前に立ち、色んな話をしながら食器を洗う。

美菜が洗剤で洗った皿を、俺が受け取って泡を洗い流す。

単純作業だけど、これはこれで結構楽しい。


それは美菜と一緒だから…なんて、言わなくても分かるよね?


2人分の食器を2人で片付けると本当にあっという間に終わってしまう。

最後濡れた手をタオルで拭いてリビングに戻ると、あとからコーヒーの入ったマグカップを2つ、美菜が
トレイに乗せて持ってきてくれた。

一つは甘いモノが苦手な俺用のブラックコーヒー。

もう一つは甘いモノが大好きな美菜用の牛乳がたっぷり入ったカフェオレ。

でも、先日見つけて買って来た、コーヒークリームメーカーと言う簡易の泡だて器を使って作るカプチーノが、ここ最近の美菜のブームらしく、持ってきたカップからモコモコと白い泡が立っているのが見える。

美菜はそれを持って俺の隣りに座り、嬉しそうな笑みを浮かべて俺を見上げてくる。


「えへへ。今日もカプチーノ作ってみました」

「クスクス。嬉しそうだね、美菜。カプチーノ、美味しい?」

「ん…美味しいよ?これは砂糖も入ってるから修吾君は飲めないだろうけど、また砂糖ナシのカプチーノ作ってあげるね?」


手に持っていた大きめのマグカップに一度口をつけてから、そう言ってまた俺を見る美菜。

その表情を見て、あまりにも可愛らしくて思わず、ぷっと噴出してしまった。

「………………?」

きょとんと可愛らしく首を傾げる美菜の唇には、まだ白く泡立ったものが少しついていて。

どうにもこうにも堪らなくて、ついつい口元が緩んでしまう。

「クスクス。気にしないで?あまりにも美菜が可愛らしかったから…そうだね、また作ってよ。でも、今、飲んでる美菜のヤツもおいしそうだから、味見しようかな」


俺は少し意地悪っぽく笑みを浮かべて、美菜の肩を抱き寄せると、ペロッと彼女の唇を舐める。

舌先で彼女の唇についていた泡が弾け、その後甘い味が口の中に広がる。


「うん。甘くて美味しいね?」

「ひゃっ…ん…つっついてた?それで笑ったんだぁ」

「クスクス。うん、ついてた。か〜わいい〜、美菜。子供みたい」

「なあぁぁぁっ!もっもうっ!!こういうの飲んだら誰だってつくんです。修吾君だってついちゃうもん。
たっ試しに、飲んでみて?」

「ううん。今の美菜ので充分美味しかったから、もういらない」

クスクス。と笑ったままそう言うと、美菜はプクッと頬を膨らませて、むぅ。と呟く。


あー、ダメ。この表情もたまんなく可愛い。


学生の頃から変わらない美菜の仕草に、思わずギュッと体を抱きしめてしまう。

「ひゃぁっ!しゅっ修吾君…あっ危ない…こぼれちゃうって!」

「美菜がそんな表情するから悪いんでしょ?」

そう言いながら美菜の手からマグカップを取ってテーブルに置くと、どんな表情だぁ。という、美菜の声が耳に届く。

「ほら、喚かない。こっちおいで、美菜」

俺は美菜の体を引き上げて自分の膝の間に座らせると、後ろからそっと彼女の体に腕をまわす。


学生の頃、美菜が実家に遊びに来ていた時は、いつもこの体勢だった。

こういうと美菜はまたダイエットする、だなんて言うから言わないけれど、この抱きしめた時の心地良さが堪らなく好きだったりする。

彼女の雰囲気のように、ふんわりとしていて、温かくて。

こうして後ろから抱きしめると美菜が自分の傍にいるって実感できて安心もする。

だから、結婚した今も、恋人だった時と変わらずに、家にいる時はいつもこうして美菜を抱きしめている。


うん…やっぱり、この体勢が一番落ち着くな。


そう、一人納得しつつ、美菜の顎に手を添えてこちらを向かせる。

「怒ってるの?美菜」

「怒ってないけどぉ…」

「クスクス。じゃあ、拗ねてんだ?子供だって言われたから」

「んーっ!拗ねてもいません!!当たってるから何も言えないもん」


そう言ってまた頬を膨らませるから、堪らず、ぶっ。と噴出してしまう。

それによってまた美菜の頬が膨張して。

思わず声を立てて笑ってしまった。


ホント…美菜といるとどうしてこんなにも笑いが耐えないんだろう。


何気ない彼女の仕草が堪らなく愛しくて。

気付けばいつも俺は、美菜の前では顔が緩みっぱなし。

相変わらず外ではクールで通ってる俺が、実はこんな人間だなんて知ったら驚かれるだろうな。

まあ、こんな表情になってしまうのは、美菜の前限定だからあまり知られる事もないだろうけど。


未だに頬が膨らんだまま、恨めしそうに俺を見る美菜に、クスクス。と小さく笑いながら、両手の人差し指で頬を押して、口の中に溜め込んだ空気を押し出す。

ぷす〜。と、小さな音を立てて空気が抜け、美菜の頬が元通りに戻る。

でも、これにさえも口元が緩みそうになって…ピクピクっと頬が僅かに痙攣してしまう。


ヤバ…ツボに入ったか?


「ごめんごめん、笑ったりして。可愛かったんだから仕方ないでしょ?」

「だからって何も笑う事ないでしょぉ?」

「これも俺の愛情表現。だから許して?美菜」

こんなに笑う姿なんて、美菜しか見れないんだから。

「そういうの、愛情表現って言わないもん」

「そう?じゃあ、こっちの愛情表現で許してよ」

「ぇ……んっ」

美菜の反応が返ってくる前に、俺は頬を寄せて唇を重ねる。

最初は啄ばむようなキスから。

そして次第に深くキスを求め、美菜の口内を舌でかき回す。

先ほど美菜が飲んだ、コーヒーのほろ苦さと砂糖の甘さが混じって口の中に広がり、香りが鼻から抜けていく。


「んっ…ぁっ…」


キスの合間に美菜の口から漏れだした甘い声。

それに脳を刺激されながら、俺は右手を美菜の後頭部に、もう片方の左手を彼女の左手の指と絡め合わせ、ギュッと握る。

お互いの薬指にはまった指輪が重なって、指にグッと圧力がかかる。


半年前、永遠の愛を誓って交換した指輪。


健やかなる時も病める時も妻である美菜を愛し続ける…と。


その誓いどおり、俺はこの先もずっと美菜を愛し続けていく。

俺にとって、美菜はなくてはならない存在だから。


過去も現在もこれからの未来も――――永遠に美菜を愛し続けると誓う。


「美菜…愛してるよ」

「ん…私も…愛してる」


どんなに疲れていても、美菜の笑顔を見れば元気になれる。

美菜に触れたら、愛してると囁かれたら疲れが一気に吹き飛んでしまう。


こうして美菜と過ごす甘いひと時が、俺にとって最高の癒しの空間だから…




++ FIN ++




『楽園の小鳥』小鳥さまへ相互リンク記念イラストのお礼と小鳥さんサイトのお祝いを兼ねて♪

H18.6.2 神楽茉莉


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