「おぉ〜。すごいね、美菜。どうしたらそんなに上手くダシ巻きが作れるの?」 とある日の昼下がり。 修吾君の家に遊びに来ていた私は、彼の為にお昼ご飯を作っていたの。 昨日の夕飯の残りがあるからと修吾君が冷蔵庫から出してきた煮物を見ながら、 それだけじゃやっぱり彼には少し物足りないんじゃないかな。って思って簡単に作れるダシ巻きを作ろうと思った私。 簡易のモノを使ってだけどダシを作り、それを注いで卵を溶く。 最初はゆる過ぎて上手くできなかったダシ巻きだったけど、最近は上手に作れるんだよ? すごいでしょ(笑) 私は修吾君の言葉に、えへへ。と照れ笑いを浮かべながら、クルックルッと卵を巻いていく。 「コツを掴めば修吾君だったら簡単にできちゃうよ?」 そうそう。彼は何でも卒なくこなしちゃうすごい人なんだから。 「そうかなぁ。俺、料理はあんまり得意じゃないんだよね…いつも親が遅いときは兄貴が殆ど作ってたから。一度ハンバーグを焼くのを任されてね、具合が分からなくてすごい焦がしちゃって。それから殆ど触らせてもらってないよ」 「あははっ!そうなんだ?でも、ハンバーグって火の加減とかちょっと難しいから…それで焦げちゃったんだよ。練習すれば大丈夫、修吾君ならすぐにできちゃうよ」 「ん〜。でも、俺には美菜が愛情たっぷりの料理を作ってくれるでしょう?だから、出来なくても大丈夫」 そう言って、サラッと照れちゃう事を言うから頬が紅くなっちゃう。 愛情たっぷり…もちろん入れてるけれど。 「で、でもね。料理もやってみると楽しいよ?修吾君も一回やってみる?」 「俺が?」 「うんうん。はい、じゃあコレ」 私はにっこりと笑って持っていた菜箸を渡し、彼と立ち位置を変わる。 菜箸を持ち、コンロの前で暫し固まる修吾君。 その姿にちょっとだけ笑いがこみ上げてくる。 ………似合わない。 何でも卒なくこなす彼だけど、イメージ的にちょっと違う。 小さくクスクスと笑っていると、どうして笑うの。と、ちょっと睨まれてしまった。 私は慌てて笑いを引っ込め、じゃあ最初に。と、卵の液が入ったボールを手に取り、彼に渡す。 「えと。もう大方形は出来てるから、あとは巻いていくだけなんだけど…流し込みすぎると巻きにくいと思うから少しだけ流し込んで…」 「少しだけ……これくらい?」 「うんうん。でね、ほら…ちょっと卵が固まってきたでしょう?」 「うんうん」 「そうなったらこの固まっている卵を軽く菜箸で挟んで、ひょいっと手前に転がす」 「ひょいっと…転がす……ぅわっ!!」 「あわわわ。そ、そうじゃなくて…こう手首をスナップさせるようにクルッと…」 「手首をスナップ?…こう…かな…っげっ!!」 「げっ!!えとえと。優しく浮かせるように…」 「優しくね……こう…か?…よっ!…あ゛…」 「…う゛っ………いや、あの…」 「ちょっと待って…もしかしてこうか?…ぬぁっ…」 「あの…修吾君…」 「違うか…だとしたら、こう?」 「………ぉ〜ぃ」 ――――数分後。 「………………ごめん、美菜」 「ううん、大丈夫……」 向かい合って座ったテーブルの中央には、大きな器に入った美味しそうな煮物、私が作ったお味噌汁と炊きたての白いご飯。 そして……… 得体の知れぬ黄色い物体が一つ。 「ちょっと焦げちゃったね…」 「いや焦げたって言うか…」 ………原型が。 「やっぱり俺、料理向いてないと思う」 「そ、そんなことないって。きっと練習すれば…」 そう、口では言ってみるものの。 彼のぎこちなく菜箸とフライパンを持つ姿を思い出しつつ、所々茶色く焦げていて、原型を留めぬその姿を見ながら、修吾君にも苦手なものがあったんだ。と、新発見した日だった。 −FIN− |