Love Fight < **Kagura's House**

Love Fight


一ヶ月記念日...01



『夢で片付けられたくないから、もう一度言うよ? これが、俺からの返事……好きだよ、美菜』


合宿最後の日、そう言って彼は私に優しくキスをしてくれた。

今でもまだ信じられない。

私が、あの長瀬くんと両思いになれただなんて。

あの日から毎日が夢のようで、隣にいる彼の存在が幻なんじゃないかとよく思う。

だから、毎朝起きるのが怖かった。 やっぱり夢だった……そうなるんじゃないかと思って。

その話をするたびに、彼はおかしそうに笑って抱きしめてくれた。

「ほら、夢じゃないでしょ? 俺はちゃんとここにいるよ」

そう言って。

だけど、手を繋いで一緒に歩く下校道も、別れ際そっとキスをしてくれることも、やっぱりまだ夢みたい。

一ヶ月経った今でもそう思うくらい、長瀬くんと付き合う事は私にとって奇跡的な出来事なのだ。

私には勿体無いほど素敵な彼氏。

信じられないくらい幸せな毎日。

そんな日がこれからもずっとずっと続きますように

少しでも彼に相応しい女の子になれますように

そしてドジがなんとか治りますように!!

そう切実に願いながら毎日おしとやかに過ごしているつもり……なんだけど。



*** *** ***




「うわぁっ! どっ、どうしよう……服が、服が決まらないよぉっ!!」

ベッド一面に広げた服の中から一枚ずつを手に取って、慌しく姿見の前に立つとそれぞれを体に当ててみる。

あうぅ。これって子供っぽく見えるかなぁ。もっとお洒落な感じじゃないとダメかなぁ。

じゃあ、こっちは? あぁ! これもダメだ……何かが違う。

だったらこれは? わぁっ! これって中学の時に着てたやつじゃん!!

「うにゃぁあっ!! もう、何を着ていけばいいのかわからないよぉっ!!!」

私は朝起きてから、小一時間ほどこうして半泣きになりながら今日着ていく服を悩んでいる。

普通に遊びに行くならこんなに悩んだりはしない。

今日は、私にとって記念すべき大切な日……そう、長瀬くんと付き合い始めて一ヶ月記念日なのだ。

恵子からその事を指摘されるまで気づきもしなかった。

夏休みに入ったら長瀬くんとはあまり会えなくなるだろうと勝手に決めつけ油断していた。

確かに夏休み中にどこかに遊びに行こうねと言う話は長瀬くんとしていたけれど、具体的には何も決めていなかった。

だから遊びに行くなんてまだまだ先だと思っていたのに。

まさか、まさか……夏休み初日から長瀬くんと会うことになるなんて?!

大体、恵子も人が悪い。

何故にそんな大切なことを前日の、しかも夜に電話してくるんだろう。

のんきに暇を持て余すであろうこれからの長期休みについて考えていた私は、いつもの如く突発的な恵子の提案に振り回されるハメになった。



『やほ〜! 美菜ってさ、明日の予定って何かある?』

「え……明日? 特に予定はないけど、どうして?」

『やっぱり! もう、長瀬もそういうとこ疎いわよね。あんた達、明日で付き合って一ヶ月でしょう? 何かしようって話にならなかったの?』

「え、別にならなかったけど……普通何かするものなの?」

『するものなの! だって、一ヶ月記念日だよ? 大切な日じゃないっ。あ〜、もうっ。電話してよかった。いい、美菜? 明日出かけるわよ!』

「え……出かけるって?」

『のんきなあなた達の為に、私たちが一ヶ月記念日のお祝いをしてあげるから。明日、朝十時にケーズランド前に集合ね!』

「えっ、ちょっ……待っ……」

『デートなんだから、お洒落してきなさいよ〜♪ じゃね!!』

「でっ、デートっ?! ちょっ、ちょっと恵子っ。そんな急にっ……けぃっ……?」

……切れてる。

一方的に言うだけ言って切ったよ、あの人。

確か、私たちがお祝いをしてあげるからって言ったよね。ってことは、恵子と柊君も一緒って事?

んでもってデートってことは、もちろん長瀬くんもって事だよね?

今まで一緒に下校をしたことはあっても、まだ学校の外で会ったことないのに。

そんな急にデートだなんて言われても頭がついていかないんですけど。

おまけに一ヶ月記念日? そんな事、恵子に言われるまで思いつきもしなかった。

言われてみれば、あの合宿の日からちょうど明日で一ヶ月が経つ。

そっか、もう一ヶ月経つんだぁ……早いなぁ。

この私があの長瀬くんと一ヶ月も付き合っているなんて。 うん、まさしく記念日だよね。

恵子に言われた時はあまりその言葉に実感が持てなかったけれど、こうして考えてみると無性に意味のある事に思えてくる。

一ヶ月記念日に初デート。

どうしよう、何だか急に胸がドキドキしてきた……

明日、初めて長瀬くんと学校の外で会えるんだよね? わぁっ、何を着ていけばいいのかなぁ。

ん? でも、ちょっと待って……明日?……って、明日?!

ふと壁に掛けてある時計に目をやると、時刻は22時を指している。

うそ……あともう12時間後に待ち合わせってこと!?

心の準備とか、デートの為の用意をする時間が全然ないんですけどっ!!

もうっ、なんで恵子はいつもこんなに急なのよ〜〜〜っ!!!



結局、寝るまでの数時間では着ていくものも決められず、心の準備も出来ないまま朝を迎え、余裕を持って起きたつもりが時間に追われる始末。

せっかくの初デートなんだから、自分なりにお洒落をしたかったのに。

こんな慌しい記念日のはじまりになるなんて……

「わぁっ! もう、時間がないっ!! どうしよう、どうしようっ!!! あ〜っ、もうっ。これでいいかっ!」

私は最終的に手に持ったワンセットに急いで着替え、細めのカチューシャをつけてササッと姿見の前で髪をならす。

あぅぅ……これでいいのか、私。

全く自信が持てなかったけれど、これ以上悩んでいる時間はない。

そこらに散らばっている小物をかき集めてポーチに詰め込み、転げ落ちそうな勢いで階段を駆け下りる。

ここで本当に転げ落ちなかったのは、神様からのお祝いだろうか。

下駄箱から靴を取り出して半ば投げるように置くと、それをもどかしげに履きながら奥にいる母親に声をかけた。

「おっ、お母さん、出かけてくるね!」

「え〜、出かけるの? そんなに急いでどこへ行くのよ」

「えっと、その……けっ、恵子たちとケーズランドに……」

「あぁ、あの最近できた遊園地?」

「そっ、そう。あっと、えっと……ととっ、とにかく待ち合わせに間に合わないからっ」

「はいはい。気をつけて行ってらっしゃい」

「う、うん。いっ、いってきます!!」

まだ母親に、というより家族の誰にも長瀬くんと付き合いはじめた事を告げていない。

別に秘密にしているわけじゃないけれど、何となく気恥ずかしさからか言う事が出来なかった。

でも、バレるのも時間の問題だと思う。

だって長瀬くんは何故か連絡をくれる時は、余程のことがない限り私の携帯にではなく家の電話にかけてくるから。

それに、私自身が嘘をつくのが下手ですぐにバレる……そう、つまりは基本的に嘘がつけない人間なのだ。

きっと長瀬くんの事も深く追求されたらすぐにボロが出ると思う。

いや、もう薄々はバレているのかもしれない。 誰も口にしないだけで。

私は何となく逃げるように玄関から飛び出ると、駅に向かって走り出そうとした。

しかし、視線の先に佇む一人の人物の姿に思わず目が見開き足が止まった。

「え……長瀬、くん?」

私服のせいかいつもより大人びていて、いつもより数倍素敵に映るその姿。

壁に背中を預けて俯き加減でいた彼は、私の声にふと顔を上げてこちらに視線を向けてくる。

そして私の顔を確認すると、にっこりと素敵な笑顔を浮かべてくれた。

恵子曰く、これは私しか見ることが出来ない、美菜の為のナチュラルスマイル……らしい。 なんじゃ、そりゃ。

「おはよう、美菜」

「おっ、おはよう……っていうか。え、どうして? どうして、ここに?」

「少しでも早く美菜に会いたかったから、迎えに来たんだ。一応、朝一にメールは入れたんだけどね……その様子だと見てない?」

「うっ、嘘! ホントにっ?! どうしようっ。気がつかなかったかも。朝、バタバタしてて……ホントだ、メール来てる! あわわっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい!! だいぶ待った?」

「ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ? それに、たとえすごく待ったとしてもお釣りがきてた」

「……え?」

「今日の美菜、すっごく可愛いよ」

「なっ!? へっ?!?」

「やっぱり、迎えに来てよかった」

そう言って長瀬くんは愛しそうな眼差しを向けて、私の頬にそっと手を添えてくる。

瞬く間にその頬が赤くなっていくのがわかったけれど、すぐには反応することが出来なかった。

そう、長瀬くんはいつもこんな風に、サラッと恥ずかしくなるような事を言って私を固まらせる。

本気なのか冗談なのか……固まった私の姿を見てクスッと小さく笑みを漏らす長瀬くんの姿に、判断に困るときがたまにある。

だって、慣れていないんだもん。

こんな風に言われたり、見つめられたりするの。

おまけに彼は、うちの学園のみんなから注目されるほど格好いいのだ。

そんな人に可愛いとか言われたら……ダメだ、隠れたくなってきた。

顔を真っ赤に染めて俯く私に、長瀬くんは何故か、ごめんね。と、小さく囁く。

え? と、反射的に顔を上げると、長瀬くんとバッチリ視線が合った。

「ほら、今日は一ヶ月記念日でしょ? 俺、そういうの疎くてさ、直人に言われるまで全然思いつきもしなくて……」

「あ、ううん! 私も、恵子から教えてもらうまで知らなかったもん。言われて、あ! そうかって」

「どうせなら初デートは二人きりが良かったなって、ちょっと悔やんだよ。行動力がなくて本当にごめん」

「長瀬くん……」

「近いうちに二人でどこかに遊びに行こう? せっかくの夏休みだもんね。いっぱい思い出を作って、色んな記念日を作ろうね」

「…………うん!」

長瀬くんと作る色んな記念日か。

想像するだけで幸せな気持ちでいっぱいになる。

まだまだ夏休みははじまったばかり。

この先どんな出来事が待ち受けているのかわからないけれど、私にとっては彼と過ごす日はいつだって特別な日なんだよね。

だから、長瀬くんと会う日は全てが記念日。

そう思うだけで今日一日が、キラキラと輝いてみえてくる。



2010-03-05 仕上げ

やっぱり初デートのお話を、美菜視点で書きたいなぁということで新たに書き下ろすことにしました。
旧作品では、『揺れる気持ち』の恵子視点のお話部分になります。
ちょっと時間はかかってしまうでしょうが、時間軸に沿ってお話を増やしていきたいな、と。
旧LoveFightより、もう少しだけ中身を分厚くしたいと思ったもので。
このカップルは好きだから書いて書いて〜って言っていただけると、管理人の士気も上がります(笑)
ただ、色々弄くるとお話の内容にずれが生じてくるんですよね(汗)
ま、その辺は大目に見ていただけると助かります。
発見次第、地味に修正しますので(笑)
ちなみに、ケーズランドとは……Kagura's House → K's → ケーズランド…で、いっか!
と、決まった、とてつもなくセンスのないネーミングです(苦笑)申し訳ない。

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