異空間




ゆっくりと銃をかまえた。周りの警官の顔をうかがいながら指示を待つ。
築20年くらいであろうか。昭和とも間違えるような空間の階段の下に
ひっそりともぐりこんでいる。
近隣の野次馬たちも遠くからこちらを不安そうに眺めている。
冬のこの時期、乾燥した空気がこのあたり一帯を取り込む。寒さによる
震え。いや緊張と恐怖によるものだろう。死ぬかもしれない・・・。
命の取り合いになるかもしれない。手の振るえが止まらない。
唇が乾き、のども干からび、息をのむ。




・・・1日前・・・


署内の一角、大勢の刑事が集まっていた。
「この星に逮捕状がでている。気を抜くなよ。」
この捜査の責任者、うちの署の課長が指揮をしている。
この言葉一つで緊張の渦にのまれるほど威圧のある言葉だ。
こういう人だからこそ、いままで検挙率をあげて指揮していくことができたのだろう。
元々、担当の事件ではないのだが、協力を仰がれた。他の警官たちもそうだ。
緊張が渦巻く中、私は星のファイルに目を通してみた。
歳は31歳の男性。私と同じくらいであろうか。ネクタイをしめてスーツを着て写っている写真が一枚。
穏やかそうな青年で、どこにでもいそうなタイプである。
犯人の容疑は詐欺罪であった。
詐欺罪で逮捕に向かった警官が殺されている・・・。
しかし、なぜそこまで罪を重ねる必要がある?
詐欺罪ならたいした刑期じゃなく出てこれるはずだ
それよりも驚くのはいかにもどこにでもいそうな市民が殺人犯に発展することだ。
この仕事をしていて、普通そうな市民が誰でもなりうるということを嫌というほど思い知らされた。
同じ市民を取り締まる。最悪の場合、殺すこともある。などと考えてため息をついた。
そのとき、課長から肩をたたかれ
「岡本、相手は数人警官を殺してる。気を抜くなよ」
一瞬、その言葉に背筋がのびきったが、一息置いて
「はい、課長。」
はっきりした返事をした。
こういう場合、逮捕に向かう警官に、ましてや現場経験の薄いような刑事に
死ぬ可能性を連想するようなことを言うのは的確じゃない。
しかし、さすがとでも言おうか。どんな事件でも緊張感をもたせ油断も手抜かりも
一切ないようにする課長の計らいらしい。
どんな人間でも犯人は犯人である。
「場所は割れている。逃走されたら大変だ。さぁ、行くぞ。」
先輩警官が大きな声を張り上げていった。
私もその一声を聞いてファイルを机の上に置き、スーツを椅子の背もたれからとって
羽織ながら向かった。
足はもちろん車を使う
私は後部座席にのった。一緒に後部座席に乗り合わせた刑事が
「これを食って、緊張をほぐせ」
車に乗っている全員にチョコレートを配った。彼なりのジンクスなのだろう。
「ありがとうございます。」
糖分をとると緊張がほぐれるっという話は確かに聞いたことある。
食べ終わったあとにペットボトルのお茶に手を伸ばし飲んだ。
緊張がほぐれるっという感じはするような気がしたが、やはりほぐれるわけがない。
私は経験が浅いのだが、現場の刑事は定年までこういう緊張を味わうのだろうか
車内全員、無言で警察無線を聞きながら現場へ向かっている。
さすがに緊張しているのだろう。この張り詰めた空気が一層緊張させていく。
現場につき、車をおりて、犯人の逃走ルートをなくすべく、そちらに移動した。
発砲許可は得ている。警官が2人も殺されているのだから、当然のことだろう。
他の刑事は近隣の住民を安全な場所へ避難させたりとそれぞれの職務を果たしている。
さきほどのファイルを見て私には気がかりなことがあった。
詐欺内容・・・。超能力グッツ詐欺1億の詐欺。しかも数十人も被害者がいないところだ。

超能力。今現在、超能力ブームがおこっている。といっても軽い暗示は心理学的な
ことらしい。マスメディアが中心的にとりあげるほどの人気で
政府がそれを薦めるほどの人気だ。一部の専門家は政府は暗示をかけて国民を操作する気だ
っという批判もあびている。政府かどうかはわからないが、うなずけるような気がかりな事件が多すぎである。
宗教団体がサブリミナルで団員を増やしてテロ活動なんていう事例もある。
最近では超能力集団がでてきたほどだ。テレビなどでよく出演しているが、何をされたものかわかったものじゃない。
暗示は自分の望まぬことはかからないっと言われているが心の中で望むように少しずつ考え方をしむけるように浸透
させてみてはどうだろう?国民を洗脳させることも可能じゃないだろうか?
っと私は専門家と同意してしまう。億単位を払わせるために洗脳でもしたのか?

その時だった。銃声がなりひびく。
犯人は抵抗でもしたのだろうか?警官を殺しているのだから銃を所持していてもおかしくはない。
「どうした?大丈夫か?」無線で一緒にいた刑事がよびかけてみる。
応答がない。それどころか静かすぎる。他の刑事達もいるはずだが・・・
指示がなければ動かないのが鉄則。しかし・・・
複数の銃声が流れて数分。あたり一面の空気は静かにたたずむ
これはおかしい・・・
「先輩、これはおかしいです。本部に連絡を」
私たちは現在おこっている状況がつかめない。ひとつだけ確かなことは、これは緊急事態であるっと把握できる。
「そ、そうだな。」
動揺した声で返答が返ってくる。
銃をかまえ握り締め、現場へ走り出す。
「おい、岡本。気持ちは分かるが・・・」
先輩刑事の制止を振り切ってゆっくりと駆け出した。
たしかに今動くのは危険すぎる。刑事としても指示なく動くのは失格だろう。
始末書じゃすまないかもしれない。しかし、刑事の肩書きよりも他の刑事を助けなくては・・・。
慌てて銃声の聞こえた方向へ向かう。
現場付近にたどりつく。妙な静けさだ、他の刑事達はどうしたのだろう。
私は銃を構えゆっくりと車の後ろまで走っていく。
様子を見るために車から少し顔を出してみる。
!?
そこには刑事が数人倒れている。
犯人がいるかもしれない状況の中、異常な状況にのまれたのかもしれない
周りを気にせず慌ててかけより声をかけてみる。返答はない。
脈を図ってみても動いてすらいない。

いったい、ものの数分で何が起こった!?
犯人は一人しかいないはず、複数の仲間がいた!?
などと考えていると後ろに人影

私はすかさず銃を向けたその瞬間。
私の意識は朦朧とし、そのまま意識がとだえる・・・










複数の刑事、警官を殺した犯人・・・。さすがに周りの緊張はものすごいものだろう。
生中継のマスメディアも複数きているくらいだ。普通なら射殺してしまえばいいっと
思うのだが、この国の甘い、いや国民的には誇るっとでもいうべきか
中に人質がいないか状況をたしかめ、なるべく犯人、人質の人命を最優先する。
「突入!!」
無線から上官の指示がなりひびく
緊張して震えていた体だが無線の指示後、振るえはとまった。他の隊の後についていく。
頭は真っ白、周りの音、声一切響かない。自分の息使いだけが妙に聞こえる。

!?

眼の前で攻め込んだ機動隊が続々と倒れていく。銃弾か!?人命などといっている場合ではない。
殺さなければ殺される・・・
私は犯人の存在を確認すると狙いを定めず、すかさず引き金を引いた。息使いはあらく、呼吸すらままならない。
視界が真っ白。犯人の顔すらぼやけて見える。引き金を引いた反動をうけ少し後ろへ押しも出された
犯人めがけて銃弾が飛んでいったはずだ。
当たっていない!?
手が振るえだし、混乱と恐怖が私を襲う。
私は平常を失い。再び狂ったように引き金を引く。今度は間違いなく犯人に当たるはずだ。
銃弾は犯人の左腕のあたりをかすめた。
当たった・・・。
犯人はあわてて左腕を右腕で抑える。
犯人に自身の攻撃があたったことによる安心感でいつもの冷静な自分にもどってきた
ようやく視界が見えてきた。私は犯人に銃口を向けて
「動くな。動けば射殺する。」
一瞬の油断もできない。これだけの人数を殺している犯人なのだから

犯人の口がうっすらと笑いを浮かべ
「あんたは運がいいな。さすがに俺は疲れてきた」

どういうことだろうか?運がいい?銃を向けているのは私のほうなのに生かされているとでも言うのか?
武器を持っている様子すらない。だが、目を見てみればわかる。今の言葉はおそらく本音だろう。
「俺は退散させてもらうよ。」
挑発的な発言に私は煽られたように
「この状況でできるのか?私のほかにもたくさんの機動隊がいるのだぞ?」

私の発言を聞いて犯人は笑いながら私の視界から消えた。

消えただと!?物理的にありえない。どういうことだ?
犯人の笑い声の余韻だけが私の耳にのこるなか。

多数の犠牲者をだす中
大勢の機動隊、警官隊、マスメディアの目の前で一人の人間が消えたっという奇怪な現象がおきた。








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