花阿の日の始業式
始業式が終わった。
教室で教師の短い話を聞いて、始業式に出すよう言われていた課題を提出して。
やっと部活の時間だ。
級友と喋りながらのろのろ準備する水谷を置いてさっさとグラウンドへと向かう。
「あー、しかしなんだ。久し振りだな学校」
歩いている途中、隣に居た花井が嬉しそうに奇怪なことを言いだした。
「は?夏休み中も部活で学校来てたろが」
まさか忘れたわけでもねェだろうに。
眉間にグッと力が入る。訝しげな顔をして、約十センチ上の顔を見上げた。
「そーだけど。違げーんだって」
何て言うかさあ分かれよ、とブチブチ言われたって分かる訳がない。
黙ったまま訳分かンねェって顔してみせる。あーだのだからーだの言いながら花井は言葉を続けた。
「夏休み中の部活は夏休みだろ、教室にだって行かねェし。結局いつもの学校じゃねェじゃん」
「あー…なるほど。そうだな」
「だろ?今日は七組に阿部がいたから。あー今日からいつもの学校かって感じがしたんだよ」
「ふんふん…ん?」
「ん?」
何となく言いたいことがわかってきたな。
そう思いながら聞いていたのに、いきなりどっか引っ掛かる言葉が聞こえた。
「オレだけ?」
「は?」
「水谷もしのーかも七組に居ただろ」
「あ?」
「夏休み中会えなかったヤツも居たろ、今日の七組」
「ああ。それが?」
「オレ以外のヤツ見ていつもの学校って気はしなかったのか?」
「うん?」
「他の水谷とかしのーかとかクラスメートとか担任とか」
「んん?」
「そいつら見ても実感しなかったのかって訊いてんの」
「何を?」
「お前の言ういつもの学校ってヤツを」
話のなかなか通じない坊主に苛つきながら辛抱強く会話を続ける。
やっとオレの聞きたいことが分かったのか、花井はハッとした顔をした後またしばらく唸りだした。
「そうだな…そういやお前だけだったわ。何でだー?」
オレに訊くな。理由なんぞ知るかバカ。
「なあ阿部、何でだと思う」
だから訊くなつってんだろ、聞けよ。まあ声に出しちゃいねェけど。
とりあえずため息ひとつ。そして、決して相手の顔を見ずに一言。
「しらね。さっさと行くぞ」
そこから大股の一歩二歩三歩。
慌てた呼び声とともに少し後ろからドタドタと騒がしい足音が聞こえてくる。
その音に無性に緩みそうになる頬を無理やり引き締め、ついでに眉間にも意識して力を入れ直す。
全く。
何でだなんてオレが訊きたい。
なんで「オレだけ」を嬉しいだなんて思ってんだオレは。
無自覚両片想いの友情以上恋愛未満
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