聖域へ程近いところで、道端に咲くひまわりを見た。 おどろくほど茎が太い。夏の花だ。力強く、天を仰いで大輪の花を咲かせている。 ギリシャの紺碧の空と、明るい黄色のコントラストはまるで絵のように美しい。 風に揺れるひまわり。シベリアのいきものとは違う生命力を、カミュは感動を持ってしばらく見つめた。 ■ひまわり■ 女神、教皇への拝謁が終わるのを、今や遅しと待ち構えていたのはカノンだった。 柱にもたれ、いらいらと待っていたカノンは、神殿を出て来たカミュを見ると、瞳を輝かせて駆け寄ってきた。 サガと同じ顔だが、サガは決してこんな表情はしない。 サガがこういう表情をすると、こんな顔になるのか、とカミュはカノンの顔をまじまじと見ながら思った。 「それはあなたはそうかもしれないが」 「おいおい、失敬だな!」 ミロが故郷であり、修行地であるミロス島へ帰って、ここしばらく帰ってこない。 その理由こそがアレなのだ。 故郷でミロが恋に落ちた。 毎日毎日そのご婦人のところへ朝となく夜となく通いつめ、ご執心なことこの上ないのだそうだ。 だが何故これほどまでに騒ぐのか、カミュには分からなかった。 夫ある女性とそういう関係になるなどとは聖域最高位である黄金聖闘士としてあるまじき行為だということか?と問うてみたが、カノンは言下に否定したのだった。 「ではなんだ、もうオバサ―――いや、かなり年上ということが意外だという話か?」 カミュは露骨に怪訝な顔をしてカノンに言った。 「そんなの意外でも何でもないさ。まあ、なに、ほら、あれだ。ハマるとしたら、ほら、あれだ。想像つくだろ?」 そう言うと、カノンは好色そうな表情でニヤリと笑った。 「ハメるのにハマったなんつって!」 「…………」 絶対零度の冷たい視線で、カミュはカノンを見た。 この人、黙っていれば絶世の美形なのに。ときどきサガと双子であることを忘れさせる。 一卵性でありながら、すばらしい独創性というか、なんというか……。 カミュはある雑兵の顔を思い浮かべた。彼は聖闘士になった兄に憧れ、聖域で研鑽を積んだがついに聖衣を得ることが出来なかった。彼は親や親戚一同と顔を合わせるたび、「出がらし」と言われるのだと派手に嘆いてみせた。 カミュは彼には非常に失礼ながらも、その表現方法の素晴らしさに感嘆したことをはっきり覚えている。 最初に入れたお茶にすべて美味しいところを持っていかれ、旨味もコクもない二番煎じ………。 ひょっとしてこの人も……とカミュはちらりとカノンを見た。サガが声高に愚弟と言って憚らないのは…………。 「では問題はやはり既婚者だということしかないではないか」 「ちがう。まあそれは面倒なことにならなきゃいいがとは思うが、それじゃない。そのおばちゃんがな」 こくり、と深刻な面持ちでカミュは頷く。 まさか、ハーデスに匹敵するオリンポス十二神の依り代で、ミロを篭絡しようとしている、とか、或いはソロ家になにかしらのつながりがあって、海界とのトラブルが懸念される、とか………? そうだ、カノンがこんなにも首を突っ込んで来るからには、やはりそのセンなのか。 「とんでもないおかちめんこなんだよ」 「……………」 カミュは絶句した。 なんというオチ。 「さっきあなたが言ったように、顔が駄目でも身体が絶品ということではないのか」 「カミュ、お前もたいがいアレだな。クールにぶっ飛んだ発言するから天然て言われるんだぞ」 お前は全然わかっていないようだが、とカノンは付け加えた。 わたしのことはいい、どうしてこうこの人は余計なことを言うのだろう。 「とにかく、そのおばちゃんを見れば分かる。なんならミロス島へ行ってみろ」 ああ、言っとくが今のはシャレじゃないぞ、とカノンはカミュに言うと、わからん、ミロがわからん。そりゃあ好みの問題ってことなんだろうが、あのミロがああいう趣味だったとは………。いくらなんでも、ありゃあねえだろ………。 などぶつぶつと何か言いながら、どこかへ行ってしまった。 翌朝は輝くような空が広がっていた。 「遅い!」 「…………」 ミロス島へ出発しようと宝瓶宮を出たカミュを待ち草臥れた顔で出迎えたのはカノンだった。 一緒に行こうと約束したわけでもないのに、なぜこの人は勝手に不機嫌になっているのだろう? もちろん時間の約束もないのに、なんと理不尽な………。 「ミロス島へ行ったことは?」 カノンがぶっきらぼうにカミュに尋ねる。 「ない、が……」 「やはりな。ミロス島は世界的な観光地だ。そのことは?」 「そのくらいは知っている」 カミュはむっとした顔で答えた。 「では予約は取ったのか?」 「…………」 「だろうと思った。9時45分の船を予約しておいた。ホテルも取ってある。そのご婦人のご邸宅の真向いだ。最高の立地だろう?チェックインは2時からだから、それまでに飯を食って、張り込みに必要な物資を買い込んで………、言っておくが、この時期に予約もなしにミロス島へ行こうなんて無謀なことなんだぞ?」 聞けば、昨日あれから必死で船やら宿やらの手配をしたのだそうだ。勝手ではあるがなんとなく憎めない。 この人のこの強引なところにうちの一番弟子も乗せられたのだろうか? だが。危ない危ない、危うく聞き流してしまうところだった。 「張り込み?ミロに会って直接話を聞けば良いのではないか?」 別に犯罪捜査というわけでもあるまい。 「お前ねー、そういう色恋沙汰を素直に話す馬鹿はいないだろうが」 「?別に悪いことをしているわけではないのだから、素直に話してくれるのではないか?」 やれやれ、とカノンは呆れた顔をすると、カミュに反論することはなくこう答えた。 「まぁしばらく様子を見て、直接話を聞くのはそれからでも遅くないだろ」 まぁそれはそうだ。神出鬼没、と言われるカノンだが、この人、常にそうやって張り込んでタイミングを計っているのではあるまいか。 カノンが手配した通りに事は運んだ。予定通りの船に乗り、予定通り島に着いた。 これまたカノンが調べておいたタベルナで昼食を摂り、ホテルに程近い市場で食糧やら酒やらを買い込んだ。これでしばらくは自炊も困らない。 かくして、いよいよ張り込みは開始されたのだった。 二人はまず、そのご邸宅を覗き込むことから始めた。 多いにプライバシーを侵害するが、この際止むを得ない(ことにしておこう)。 双眼鏡を目から外したカミュが、困惑を隠せない表情でカノンに言った。 「家じゅうひまわりだらけだ」 「それも造花ばかりだろう?」 ますますもってその女性がわからない。 なぜ造花を?少しだけ生花を飾る方が良いではないか。 タンスの上から本棚の隙間、暖炉の上にある鏡も縁取るようにびっちりとひまわりが埋め込んである。鳥の羽を花びらに見立てたもの、安っぽいプラスチックで作られたもの、シルクだろうか?上質な布で造られたひまわりもその中に混じっている。世の中にある造花のひまわりすべてを集めたのではないかと思えるほど、さまざまなひまわりがそこにはあった。 ちょうどそのとき、ソファに座っていた女性が立ち上がった。 一瞬、確かにその顔を双眼鏡越しにカミュの双眸は彼女の姿を捕らえた。中年の白人女性によくいる、でっぷり………いや、ふくよかな体型に、聖域でカノンが語ったとおりの「おかちめんこ」な顔。 いや、顔が悪いのではない。悪いのは化粧だ。カミュは女性の化粧にはとんと疎いが、ぐりぐりと青く塗られた瞼と、いくらなんでもやりすぎだろうという真赤な頬、取って食うつもりではないかと思われるほど口紅を大きく引いているその化粧は、とんでもなく時代錯誤なものだということくらいは理解出来た。「おかちめんこ」とは非常に上手く一言にまとめたと言わざるを得ない。 カミュは双眼鏡を下ろすと、ぽつりと言った。 「すごいな………」 「だろう?!」 我が意を得たりとカノンが身を乗り出す。 「ああ。あなたがいくらなんでも、と言った意味が理解出来た」 ミロはあんな女性が好みだったろうか?きちんと話したわけではないが、どちらかといえばすらりとスタイルの良い、モデルのような女性が好みだと思っていた。いや、それは連れ歩く場合の話で、本当は愛くるしい可憐な女性が好きだったか。 だが、目の前の現実はそれをきっぱりと否定している。 カミュはふと空を見上げた。青い空を大きな白い雲が流れていく。それは形をゆっくり変えながら、風に乗って遠くへ流れていく。人の心も、こんな風に形を変えてしまうもなのかもしれない。時間や環境、そのときに関わりのある人たちや運命という風に流されながら。それは誰にも止められないし、自分の心も同じだろう。 ならば、ミロが誰を愛し、どんな恋をしていようが、自分にはどうすることもできない。 第一、それを突き止めて、自分は一体どうしようというのだろう………。 それからどのくらい時間が経っただろう。すっかり陽は傾き、西の空が茜色に染まり始めていた。 そのとき、ミロが姿を現した。手慣れた素振りで玄関のベルを鳴らす。手には大きなひまわりの花束を抱えていた。 これまた造花である。彼女と二人だけの秘密なのだろうか? 少しして、扉が開く。 ミロの背中越しに彼女の顔が見える。何度見てもすさまじいメイクである。 だがミロはたじろぐ素振りは全く見せず、顔にはあの人好きのする笑顔を浮かべているであろうことが想像出来た。 彼女がミロの抱えた花束に気づき、ぱっと瞳を輝かせた。 女性といういきものは、いくつになっても女性なのだ。ミロが恭しく花束を彼女に捧げる。彼女は華やいだ表情で、うれしそうにその花束を受け取る。 ミロが何かを話しながら、彼女の背に手をまわし、中へ入るよう促した。そのしぐさは親愛さを現わして余りあるものだった。カミュは胸がちりりと焼けるのを感じた。 自分と弟子の様子を見るミロも、こんな気持ちだったのだろうか。 たまに聖域へ帰ると、シベリアへはいつ戻るのかをミロは真っ先に聞いたものだった。戻る日を告げると、その短い日程に決まって不機嫌になった。あんなに小さい子どもを、あの極寒の地に置いて来ているのだ、長居出来るはずがないではないか、とカミュは言うのだが、ミロの不機嫌はしばらく治ることはなかった。 そして弟子たちに何かあれば―――どちらかが熱を出したとか、食事を作るのを失敗して、食材がなくなってしまったとかの、実に些細な事ばかりなのだが―――当然カミュは予定を繰り上げてシベリアへ戻ることになる。 そうなったときのミロのむくれようと言ったらなかった。うちの弟子と対面しようものなら問答無用で一発目からアンタレスを撃つのではなかろうかと思うほどだった。 心底弟子に妬く奴があるかとカミュは思ったが、あのときのミロは、今の自分のような気持ちを抱いていたのかもしれない。 自分はまだまだだ。弟子を育て上げ、ミロより一歩先を歩いているつもりだったが、こんな気持ちをちっとも理解出来ていなかった。理屈ばかりで、気持ちのない人間になってしまっていたのか。 いや、感情はある。 ただ、感情を向ける相手が、弟子だったというだけのことだ。 それが、何よりミロを寂しがらせていたのではないか――――。 そう思うとカミュはたまらず、双眼鏡を置くと立ち上がった。 「おい、カミュ、どこ行くんだ?」 部屋を出ようとするカミュをカノンが呼び止める。 「あとは頼む」 「おい?!」 部屋の中からは、カミュを呼ぶカノンの声が何度も聞こえたが、それはカミュの足を止めることは出来なかった。 ホテルをあとにしたカミュは、観光地区から離れた高級とは言い難い賑やかな酒場へと足を向けた。 思えば、ミロス島へ来るのは初めてだった。何度も何度もミロに誘われていたのに、自分は一度もこの島を訪れたことはなかった。 酒場は大変なにぎわいだった。 仕事の愚痴だろうか?何かを大声でまくし立てる男、のけぞって大声で笑う男、机を叩いて熱く何かを語る男、料理を運ぶ給仕をつかまえて酒を頼む男………。 この島へ来たなら、本当ならミロと一緒に酒を飲んでいるはずだった。なのに、なのにミロと来たら。 彼らに負けず、カミュも大きなジョッキを煽った。 それからどれほど時間がたったのだろう。 次の記憶は、カノンに抱えられて歩いている夜道だった。 頭がぐるんぐるん回る。意識がもうろうとして、もう何もかもがどうでもよく感じる。 「カミュ!もう少しだから!」 なぜこの人はいちいち私の気に障ることをするのだ。今はもう眠ってしまいたい。 「カミュ!カミュ!!寝るな!」 ほら。なぜ今一番言われたくないことを選んだように言うのだ。抑え切れない怒りがふつふつと沸く。 カミュはそれが八つ当たりだとは気付いていない。 「おいこら!凍らせるんじゃない!」 「うるさい!」 ついにカミュがキレた。 「だいたいあなたは図々しいのだ!なぜそんなにしゃしゃり出て来る?!」 カミュは、シベリアへミロが送って寄こした手紙を思い出していた。 そこにはカノンの名が頻繁に登場していた。いろいろと噂された人物だが、本当は良い奴であること、自分ととても気が合うこと、それまでほとんど交流の無かったデスマスクも交え、三人でよく街へ飲みに出ること、羽目を外しすぎて、サガを激怒させたこと――――。 カノンは良き友であり、時に人生の尊敬すべき先輩として、慕っている様子がありありと文面から伝わって来た。 大半をシベリアで過ごす無二の親友である自分の帰還をあんなに望んでいたミロが、新たな親友を得たことで、ちっとも寂しがらなくなった。 「ミロはわたしの親友だ!少しは遠慮してもらいたい!」 カミュ自身はまったく知らないことだが、カノンが発見したとき、カミュはあの酒場にあった酒をほぼ飲み尽くしてしまっていた。酒にはめっぽう強いカミュだが、さすがにこれだけ飲めば立派な酔っ払いである。 「どっかから湧いてきて美味しいとこを全部掻っ攫ったかと思えば、今度はみんなで仲良しごっことは!まったくもって頭に来る!」 目はどっかりと座り、理性などどこかへ吹っ飛んでしまっている。 「言っておくが、ミロは付き合いがいいのだ。誰とだって仲良くする」 「ああ、そうだよな」 正体を失った酔っ払いなど、まともに相手にするだけ損だ。さすがにカノンはその辺はよく分かっているようだった。 「あのおばちゃんとだって、仲良くしてあげてるだけだ。あなたもあのおばちゃんと大差ないんれすよーだ」 「わかったわかった、ほら、部屋についたから、」 「酔っ払い扱いするな!わらしは酒になど酔わん!!」 だが酔っ払っている当の本人は、知ってか知らずか言いたい放題だから性質が悪い。 「はいはい、ほら靴を脱……うわち!だから凍らせるなって!!」 「…………」 もはやカノンに打つ手なし。 やれやれこれは洗面器を持って来ておかねばなるまい。いや、容量と形状を考えると、ごみ箱の方がいいだろうか。 ごみ箱を探して、カノンは視線を泳がせた。そして再びカミュに視線を戻すと、カノンはぎょっとした。 カミュが泣いている。 「わたしは……わたしはずっとミロは一番の親友だと思っていた……。ミロもそう思ってくれていると……そう思っていた………。なのに……、なのに…………」 気がつけばカノンに取られ、おかちめんこにたらしこまれ、いったい自分は何だったのだ。カミュは自分が情けなくてたまらなかった。 「ミロの一番の親友はお前だろ。おれらとつるんでても、しょっちゅうお前の話が出てきたぞ」 考えてみれば、20歳なんて、まだまだ子供だ。早くから黄金聖闘士としての重責を押し付けられ、きっとカミュもミロも子供でいられた時代は本当に短かったはずだ。こうして酔っ払って無防備になった顔は、ほんの少しのあどけなさを残していた。まくらにつっぷしてしまったカミュの頭を、カノンはそっと撫でた。 夢の中で、カミュはミロの声を聞いた。 ミロに会いたかった。会いたくてたまらなかった。 その思いが、こんな夢を見せたのだろうか。 静かにミロはカノンと話をしていた。カミュは、背中を向けたままその話を聞いていた。 「眼がもうほとんど見えないんだってさ」 だから、出来るだけ明るい雰囲気にしたかったんだろう。 まだ少しだけ見える、ご主人の目に、少しでも自分の顔が分かるようにあんな化粧をしていたのだ。 「はじめはびっくりしたよ。なんつー化粧だと思った。で、なんだかやたらに話しかけてくるしさ、作りすぎちゃったからっていろいろ食い物くれるしさ」 「お前、まさか食べ物に釣られたわけじゃないだろうな」 カノンの声が、ちょっと呆れた色合いを帯びている。 「それもちょっとある。お前も釣られるぞ、絶対。すげえ美味いんだから」 ミロは食べ物にはめっぽう弱い。カミュは、ずいぶん前に、お前、黄金聖闘士だろう?とがっかりさせたちょっとした事件があったことを思い出した。 「今ご主人が入院中でさ、すごい落ち込んでたから、ちょっとでも元気になってもらおうと思って俺が行ってたわけ。もうだんなさんもトシだし、病気だし、あんまり食わないんだってさ。で、俺みたいにガンガン食うのを見ると、元気が出るって言うからさ」 「で、毎日毎日通い詰めてたわけか」 「そう。毎日行ってメシ食わせてもらってた」 ああ、ミロはこういう優しさを持った人なのだった。 自分はミロの何を見ていたのだろう。あの残虐な技からは想像も出来ないような優しい一面を持っている。この振り幅の大きさが、この人の魅力なのかもしれない。 「俺はてっきりあのご婦人とラブラブなんだと思ったよ」 その言葉に、ミロは思いっきり吹き出すと、こう言った。 「んなわけねーだろ!勘弁してくれ」 「だってちっとも聖域に帰って来なくなったじゃないか。あんなにカミュがシベリアから戻ってくるのを待ってたのに」 ああ、そうだったのか。そして、これは夢ではないことを、カミュはようやくはっきりして来た頭で把握したのだった。 そして、カノンがこう続けた。 「そしたら理由はひとつしかないだろう?」 「ああ、俺も帰りたかったさ。だけどちょっと帰れる状況じゃなくてね」 彼女のご主人の容態が急変したのだそうだ。 慌てふためき、あの象徴とも言えるメイクをせずに彼女はミロのもとへ駈け込んで来た。そのときミロははじめて彼女の素顔を見たのだが、失礼なことにミロはそれが誰なのか分かるまで、相当な時間を要したそうだ。 「でももう大丈夫だ。明日息子さんが帰って来る」 それにしても、とミロは前置きすると、 「カミュが来てくれるとは思わなかった。いやー、うれしいなぁ。やっと島を案内してやれる」 とうれしそうに言った。 「おいこら、お前も失敬な奴だな。この俺様はシカトか」 被せるように、カノンのむくれた声が続く。ひとしきりミロが笑う。ミロときたら、それはもう本当に面白そうに笑うのだ。 「ああ、美味い酒飲める店にも案内するよ。ここで仕込んだ地酒が美味いのなんのって!」 「いやー、カミュにはそれは酷なんじゃないか?」 カミュは何故か涙をこらえることが出来なかった。 ぐっとこらえたが、つい嗚咽が漏れてしまう。いけない、二人に気づかれる――――――。 それは嗚咽というほどのものではなかったが、ミロとカノンが気がつかないはずはなかった。 泣いているとき特有の呼吸に気づいて、二人はちらとカミュを見た。二人はカミュの肩が僅かに震えていることを確認したが、二人はそっと目を合わせると、そのまま会話を続けたのだった。 風に揺れるひまわり。 明るさと力強さを備え、いつも太陽を仰いでいる。 カミュはあの聖域近くで見た、大輪のひまわりを思い出していた。 |