いい大人・かわいい人3


あの激しい戦いから、半月近くが過ぎようとしている。
戦いの後始末に駆けずり回っていた貴沙烙は、城の廊下で、しかめ面をした元堅を見かけて、いつもの人を小ばかにした笑みを浮べた。
「よぉ、元堅。こんなところで会うなんて、何て奇遇だ!!」
「……貴沙烙」
奇遇なわけが無い。
なぜなら、元堅はこのところ城の中の警備ではなく、町の巡回の手引きで忙しく昇城など出来る状態なのではないのだ。
まして、貴沙烙がこのところ仕事場にしているのは、文官だけが出入りしている所。武官である元堅が偶然こんな場所に現れるとは、考えにくい。
頭の回転の速い貴沙烙が、そんなこと判らないわけが無い。
判っていて、元堅をからかう為に言っているのだ。
「お前ってやつは……」
かわらねぇなぁ、と苦笑いを浮べる元堅。それに答えるように口元を持ち上げて、皮肉な笑みを浮べる。
「そうそう、変わる日にちじゃないだろうが。で、元堅がここにくるなんてどんな用なんだ?」
お互い忙しい身なればいつまでも馬鹿話をしているわけには行かない。早速で悪いのだがと、肩をすくめて貴沙烙は元堅を促した。
それに異存があるわけが無い。
「それがなぁ、貴沙烙」
と、そこまで口を開いておいて、元堅は途端に顔をゆがめて肩を落とし大きなため息を付く。もともとから、手振りの大きい元堅の事気にしなければいいことなのだが、貴沙烙は何か引っかかるものを感じる。
俗に言う、嫌な予感だ。
「聞きたくないぞ、元堅」
「そう言うなよ、まったくお前に関係ないことではないのだから、して。聞いてくれないととても困ると言うか、何というか」
煮え切らないことを悪戯に言の葉にして、言い渋る。そのようすに、ますます嫌な印象を受けた貴沙烙は、その元堅の態度にある人物が思い出される。
(もしかして……)
何か根拠があった訳ではない。ただ、いつもならば重要視しないカンが、仕切りに警告を発するのだ。
「言いたくないが、いちを確認するぞ」
本当に嫌そうに口を開いた貴沙烙は、先ほどの元堅のため息が移ったか、大きなため息を一つ付いた。
「それは青樺に付いての事なのか」
疑問系ではなくて、断定で。
あって欲しくは無いが、元堅の煮え切らない態度がそれを正解だと後押しする。冷静になればなるだけ、間違いではないと確証する。
そんな貴沙烙の言葉に大きなため息を一つ付いて、元堅は困ったような笑みを浮べて頷いた。
「あたりだ、貴沙烙」
さすがだな、と呟いた言葉はどこか上ずっていた。



賢君であろうと心を砕いていた皇帝が、軽い眩暈を起こして倒れたのは今日の昼過ぎのことだった。
もともと体の弱かった皇帝に回りは慌てることなく主治医を呼び、誰に知られること無く行動を終えた。かに見えたのだが、たまたま街中を兵と一緒に見回りしていた元堅に慌てて昇城する主治医を見られたしまった。
それに何かを感じた元堅は、追いかけるように昇城し、皇帝の疲労を知る事になったのだが、それがどうしてこうなるのか。
「皇帝の周りを固める文官や女官に言い切られてしまって断りきれなかった。本当はもう少し青樺が落ち着くまではこのままにしていてやりたかったのだが、そうもなぁ」
力なく呟かれる言葉に貴沙烙はため息を付くことしかできない。
(皇帝が倒れたことは、知っていた)
疲れが溜まって体の体調を崩したことも精神的な重荷が体に変調をきたしていたことも聞き及んでいる。
だが、なぜここで、青樺の名前が皇帝の口から出てくるのか。
反乱軍の、青軍の総大将をしていたことは隠してもいない。隠しようも無い事だしこれからの事を考えるとその事実を逆手に取ろう、ぐらいには考えてもいた。
が、それはあくまでも近くて遠い将来のこと。
今すぐのことではなかったのだ。それが、今、皇帝に名指しされてそば近くに仕えることを望まれている。
話し相手が欲しい、わからない話ではない。
でも、なぜそれが青樺で無いといけないのか。
何を考えているのか伺わせない表情で、遠くをにらみつけていた貴沙烙は、何の予告も無く踵を返すと、いきなり歩き始めた。
「お、おい!どこに行く!!」
話はまだ終わっていない、と慌てて後に続く元堅をちらりと見た貴沙烙はいつにない真面目な表情で口を開いた。
「これから、皇帝に会いに行く」



続く


2005/02/17脱稿





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