湯けむり旅情
≪到着≫
事務所の慰安旅行で、山奥の有名旅館にやってきた。
平日だし、ほぼ貸し切り状態。
女将さんを筆頭に仲居さんがズラリと並び、深々としたお辞儀で出迎えられた。
なんだかエラい人になったみたいで気持ちがいいが、大層過ぎて何だかくすぐったい。
5人の仲居さんが俺たちの荷物を持って部屋まで案内してくれる。
自分より華奢な仲居さんに大きなバッグを持たせるのは男のプライドが許さなかったが、仲居さんが「仕事ですから」と言って聞かないので、仕方なく持ってもらった。
「こちらのお部屋に5名様と伺っております〜。どうぞ〜。」
先頭を歩く仲居さんがドアを開けてくれる。
「うわぁ!すっげぇおっきい部屋〜!」
一番最初に部屋に足を踏み入れた安岡が興奮気味に叫ぶ。
「おい、入口で立ち止まんなよ。後ろつかえてんだからよぉ〜。」
村上の声に急かされて、安岡を先頭に続々部屋に入る。
ひとり残った仲居さんがお茶を淹れてくれたので、メンバー5人、座椅子に座ってお茶を飲む。
仲居さんはこの辺りの気候や温泉の効能、食事の時間など説明した後、部屋を出て行った。
村上は茶菓子をパクつきながらテレビの電源を入れ、有料テレビの確認。
酒井は大きな窓を開け放し、身を乗り出すように絶景を堪能。
北山は部屋に飾られた壺や掛け軸などの調度品をじっくり鑑賞。
安岡はトイレを見たり冷蔵庫を開けたり、部屋中くまなく探険中。
俺は早速クローゼットの中からタオルと浴衣を取り出した。
「早っ!黒ポンもう風呂行くの?」
安岡にすかさず突っ込まれる。
「悪いかよ〜。晩メシまで時間あるし、誰かさんみたいに旅先にまでゲーム持ってきたりしてないから暇だしね。」
「わ、悪かったですね!あれは移動中にやるため・・・」
「あ、お前その浴衣Lじゃん。」
酒井の言い訳を無視し、村上が俺が持った浴衣の襟のサイズ表記を指差す。
「あ、ホントだ。」
一番上にあった浴衣を掴んだだけから、サイズがあるなんて全く気づかなかった。
「お前と安岡のミクロコンビはキッズサイズでいいんじゃね?」
「ミクロぉ〜!」
村上の言葉に酒井が爆笑している。
「ひどっ!」
安岡が村上に詰め寄り、首を絞める真似をする。
「子供用だとさすがの俺でも膝下マル出しだよ!」
俺も負けじと村上に文句を言うが、これが逆効果だった。
「バカボンだ!バカボン!」
酒井が俺を指差して笑う。
その横で腹を抱えて北山が笑い転げている。
「黒沢がバカボンて!まんまじゃん!」
村上も大笑い。
仲間だと思ってた安岡まで一緒に笑ってやがる。
「お前、バカ田大学、首席で卒業してそうだよな〜。」
村上がワケのわからないことを言い出す。
「俺は○○○大学を中○してんだよ!」
ついムキになって噛み付く俺。
「わざわざ言わなくてもわかってるって!しかも公式発表してることを伏せ字にせんでよし!」
酒井が裏拳で突っ込んでくる。
ここでクローゼットをもう一度開け、浴衣のサイズ確認。
Lが2枚に、Mが3枚。
おそらく、仲居さんが気を利かせて村上と酒井のためにLを用意していたのだろう。
俺は持っていたLの浴衣を元の位置に戻し、Mを手に取った。
横から安岡が「俺も〜。」と浴衣とタオルに手を伸ばす。
他のメンバーも俺も俺もとクローゼットに続々集まってくる。
結局全員風呂へ行く気マンマンになってるし。
5人、Gメンのオープニングみたいに横並びで広い廊下を歩き、大浴場へ向かう。
その様子を見て、クスクス笑う仲居さんたち。
もう〜っ!せっかく広くて豪華な風呂をひとりで独占してやろうと思ってたのに・・・何が嬉しくて野郎5人で風呂なのか・・・。
「火野正平とおっぱいマル出しのお姉ちゃん集団、いないかなぁ〜・・・」
【つづく(かも?)】