雪国にて
間もなく降車駅に到着するという車内アナウンスが流れ、シートから立ち上がった。
頭上の棚から荷物を下ろしながら、
「『トンネルを抜けるとそこは雪国だった。』」
と、ふと頭に浮かんだフレーズを呟いたら、村上に「お前毎年それ言ってんね。」なんて笑われた。
そうだったかなぁ?
毎年言ってるっけ?
覚えてないなぁ。
・・・・・・
「おっ、思い出したっ!お前去年も『毎年言ってる』って言っただろ!お前も人のこと言えないじゃん!」
俺が声を荒げて反論したら、「思い出すの遅っ。」って言われて、また笑われた。
「結局ふたりとも目クソ鼻クソじゃないか。」
「雄二、そういう汚い言葉じゃなくて、『五十歩百歩』とかって言いなよ。」
「あと、『どんぐりの背比べ』とかさぁ〜。」
「『どんぐりの背比べ』はお前と黒ぽんのことだろう?」
「酒井さんひどいっ!」
3人の会話は、いつの間にか俺と村上のことを放ったらかしで進んでいく。
先に準備が整った俺は4人をそこに放っておいて、一足お先にデッキの降車ドアに向かった。
ドアに埋められた小さな窓は、結露して白く曇っていた。
指で拭って顔を近づけると真っ白な雪景色が広がっていて、俺はしばしその流れる風景に見入った。
にぎやかな話し声がだんだん大きくなってきて、振り返らずともメンバー全員デッキに勢揃いしたことを知る。
そうこうしている間に列車は徐々に速度を落とし、ゆっくりとホームへと滑り込んでゆく。
「着いた〜♪」
またこの雪の町にやって来た。
うず高く積もった雪を溶かすような、ホットなステージをファンのみんなに届けるために、今年も。
リハもゲネプロもバッチリ。
とにかく本番が楽しみで、ワクワク、ソワソワしている。
アピールするつもりはこれっぽっちもないけど、グッズとカレーがたくさん売れたら、さらにうれしかったりして。
≪なんとも尻切れトンボ状態のまま、完(笑)≫