:B氏の献身:
〜それに伴うK氏の恐怖〜

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 ――――恐怖はドアの向こうに存在する。
 厚さわずか数十センチしかない板きれが、今の虎徹にとってはすべてだった。
 まさにここが分水嶺。
 ドアが開ききる前に相手が諦めればこちらの勝ち。
 ――――だが勝算は限りなくゼロに近かった。
 必死に握りしめたドアノブが、汗でぬめる手の中で暴れまくる。
 開いた隙間数ミリから覗く緑の瞳が異常な光を宿してこちらを見つめている。



「おじさん」



 穏やかな、甘い声。
 少し前なら想像すらできなかった。ここ最近よく聴くものだ。



「おじさん、ここを開けてください」




 わずかに震えた声の根底には、心配の二文字が沈んでいる。
 虎徹の心がぐらりと揺らいだ。
 父性本能に直接揺さぶりをかけてくるような、頼りなげな声。
 目を閉じれば、見た事もないはずの幼い姿をしたバーナビーが泣いている。
 虎徹は妄想を振り払い、目をしっかと開け、現実を見る。
 悪いモノは、いつだって初めは優しい。
 唐突に虎徹はお伽噺を思い出した。
 ――――七人の仔ヤギに出てくる狼も、きっとこんな甘い声で仔ヤギに取り入ったに違いない。




「おじさん」
「離れろ、バニー」




 なるべく内側の恐怖が溢れぬよう、短く言葉を発する。
 声が小さく震えたのを、気取られはしなかったろうか。
 一瞬不安が頭を掠める。




「そんな気ィ使わなくていいから」
「僕は要りませんか?」





 必要ないのか。不要なのかとバーナビーは泣きそうな声で問う。
 虎徹は首を振った。
 違う。そうじゃない。いや、「そうだけど」そうじゃない。
 二人の間に横たわる溝を説明できるほど、虎徹には語彙も時間もない。


 不意に衝動が走り、虎徹は息を詰めた。
 じわりと額に脂汗が滲む。
 腹に力を込め、唇を噛みしめた。
 ドアの向こうでバーナビーが不安げに瞳を揺らす。
 反して、押し入ろうとする力は強くなる。
 体全体でドアを押し、空いた隙間からむりやりねじ入ろうとする。
 こちらも肩でドアを押し返すも、少し前。ジェイクの件で負った傷が今更疼き出す。
 足がタイルの床を滑る。
 押し合いはバーナビーが有利だった。
 虎徹は今、微妙に力めない状態だし、向こうの方が鍛えている。
 ああ、こんな事なら普段からトレーニングサボらなきゃよかった、などと悔やんでも遅い。





「おじさん、おじさん……」
「大丈夫だ。俺は大丈夫だ、バニー」
「けど――――だけどッ!」
「バニー!」
 泣きそうな声に、けれどきつく虎徹は叫び返した。






「トイレくらい一人で入らせてくれぇ!!」




 魂削るような悲鳴がトレーニングセンター内男子トイレに響き渡る。
 バーナビーが個室のノブを外側から力一杯押しつつ反論した。

「なに言ってるんですか! たすきも取れないような不器用なおじさんですよ? 僕に任せてくださいパンツの上げ下ろしから滴きりまで余すところなくお手伝いしますから!」
「いらねーってばッ本当にいらないから! 気持ちすらもいらないからあああぁッ!」
「遠慮せずに! 僕達不本意ながらパートナーじゃないですか!」
「不本意ならなおさら構わないでくれェッ! ――――いやもうほんと、ッそろそろヤバ……」
「漏らしても大丈夫です。替えのズボンはもちろん、ブリーフからふんどしまでちゃんと用意してます!」
「その好意、全力でいらねええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」 






「――――何してんだ、お前ら……」



 血眼なバーナビーの後ろ、入り口で呆れた顔をしているアントニオがこちらを見つめていた。









 
 
「……」
「……」




 トイレでのちょっぴりショッキングな遭遇から十分後。
 アントニオと虎徹は揃ってトレーニングセンターの休憩所にいた。
 硬いソファに腰掛けた虎徹の前には紙コップに入った湯気立つコーヒー。
 すぐ側の自販機でアントニオが買い求めたものだ。
 だが虎徹はコーヒーに口をつけず、ただうなだれている。
 基本は陽性な男だ。こんなに憔悴した姿は珍しい。
 原因は先ほど珍妙な問答を繰り広げていたバーナビーにあると分かるが、なぜそこにいたったのか理由が分からない。

 アントニオは辛抱強く待った。

 やがてぽつん、とうなだれたまま虎徹は呟いた。
「……悪ぃな、アントニオ。変なとこ見せちまって」
「お前の変な所ならガキの頃から見慣れてんだ。今さら気にすんな」
 混ぜっ返せば虎徹はやっと面を上げ、わずかに微笑んだ。
 ただ、やはり拭いきれぬ憂鬱が全体に暗い影を落とす。
「アイツと――――バーナビーと何かあったんだな」
 問うというより確認だった。
 案の定、虎徹は素直に頷く。
「バニーちゃん、確か今取材だよな」
「あぁ、一時間は帰ってこれないらしい」
 当然のように虎徹を連れてゆこうとするバーナビーに、どうしても二人きりで話があると言い含めて引き離した。
 時間だと呼ぶ担当者に返事をしながらも未練たらたら、何度も虎徹が閉じこもったトイレの個室を振り返っていたバーナビーを思い出す。
 思えばずいぶん懐いたモノだとアントニオは思った。
 コンビを組んだ当初はよく虎徹から肴代わりに愚痴を聞かされたが、テロ前後からはそれがなくなった。
 うまくやっているのだろうと安心した影で、飲みに誘う口実がまた一つ減ったと残念に思ったのをよく覚えている。




「俺さぁ……」




 虎徹の呟きが滑り込む。
 小さな、小さな呟きだった。
 両手で持ちあげたコーヒーを見つめる目はどこか遠い。



「バニーちゃんの事よく分からなくなってきたわ」



 アントニオは眉をしかめた。
 ジェイクの件以来、見た限りバーナビーが虎徹をぞんざいに扱う事は減ったように思っていたのだが、実際は違ったのだろうか。
 訝しげに見つめていた視線が交差する。
 上目遣いで聞いて欲しいと訴える虎徹に無言でアントニオは先を促す。
 大きくため息をついたあと、虎徹はぽつりぽつりと耳を疑うような事を語り始めた。










 ――――態度の軟化が顕著になってきたのは入院中からだった。
 ジェイクを倒したあと、虎徹は無理がたたり入院する事となった。
 ハンドレットパワーで治した傷は表面上のみで、肝心の内部はまだぼろぼろのままだったためだ。
 会社の好意で豪華な特別室に入れてもらい、非常に居心地の悪い入院生活だったと虎徹は語る。
 見舞いにはバーナビーが来た。





 初めは一週間に一度。
 顔を見せると、あなたが休んだせいでこちらにまで仕事が回ってきて大変だと愚痴りながら林檎を剥いてくれたりした。
 次は三日に一回。
 こっちは大丈夫だから医者の言う事をよく聞いて早く治すようにと小言混じりに着替えを持ってきてくれた。
 最終的には毎日。
 仕事の方は何も心配しなくていい。いい機会だからなるだけゆっくり体を休めるようロイズも言っていたと花を取り替えながら言っていた。



 結局虎徹は三ヶ月もの間病院に居座る事になった。



 本当は一刻も早く退院し、ヒーロー業に戻りたかったのだがリハビリを完璧にしないと返って足手まといだとバーナビーに諭されたからだ。
 リハビリに励んで三ヶ月後。
 やっと医者のお墨付きが出て退院の運びとなったとき、手続き、支度の一切をしてくれたのはバーナビーだった。
 どうせおじさんはこういう細々とした事苦手でしょう。あとで不備が出るとコンビである僕にも迷惑がかかるので、などと心底迷惑そうな顔で言われて思わず啖呵を切った。
 その日はバーナビーのすすめで家に直帰し、食事をご馳走になった。
 もっとも、バーナビーが作ったモノではなくケータリングのものだったが、普段選択肢にも入れないような豪勢な食事に、どうせこちらの懐は痛まないと遠慮なくおかわりしまくってバーナビーを呆れさせた。








「……ちょっとまて」




 アントニオは話に割り込んだ。
 こめかみに指を当て、記憶をほじくり出そうと唸る。





「お前――――三ヶ月面会謝絶じゃなかったのか?」





 少なくともアントニオは虎徹が入院中一度も見舞いに行っていない。
 いや、正確には何度か病院には行った。
 だが部屋を聞くといつも病院側から、絶対安静のため誰にも会わせるわけにはいかないと説明を受けたのだ。
 あとから聞くと他のヒーロー達も同じことを言われたらしい。
 せめてあの時自分がジェイクを倒していれば……と表情を曇らせたキースの姿が、昨日の事のように思い出せる。
 虎徹が入院中、トレーニングセンターからいつもの活気は消え失せた。 ヒーローが集まりはするものの、みなどこかしら上の空で沈んだ面持ちでいた。
 あのネイサンやパオリンでさえも、だ。
 意外な所で親友の影響力を見た気がした。
 一人平時と変わらずにいたのはバーナビーくらいのもの。
 ずいぶん冷たいのねと八つ当たり気味にカリーナに詰られた時も、涼しい顔でやり過ごしていたが、まさか抜け駆けしていたとは……。










 「あとでロイズさんに聞いた。俺が特別室に入れたのはバニーの口添えがあったからだって」
 あの人なら怪我が治っていなくても勝手に退院するだろう。
 もし治りきらぬ状態で仕事に復帰しても迷惑がかかるし、こちらが無理に退院させたと思われ世間からの批判を受けるかも知れない。
 テロの一件から市民のヒーローの必要性における懐疑の目は和らぎはしたものの消えたわけではない。
 慎重に慎重を重ねるのが得策だろうと進言されたそうだ。




 つまり一部屋でトイレから風呂から全て揃う特別室は虎徹を閉じ込めておくための檻。
 面会謝絶の件も他のヒーローに会えばポイント無しの現状に焦り、病院を抜け出すだろうことを懸念してのものだったという。
 聞いたとき、虎徹はあの事件を経てもバーナビーからまったく信頼を得ていない事を知った。
 そうでなければ、こんな分別の解らぬ幼児扱いを受けるものか。




「ま。逆に"こうなりゃ長丁場だ。意地でも俺の事認めさせてやらぁ"って腹括ってさ」




 ウロボロスの件は一区切りついた。
 復讐でいっぱいだった頭にも、これで空きができたはず。
 見てろよ、若造。アラフォーの執念深さに驚き戦くがいい、と決意を新たにした翌日、実に拍子抜けするような事が虎徹の身に起こった。










 ――――翌朝、虎徹を起こしたのは目覚ましのベルではなく、バーナビーからのモーニングコールだった。
 遅刻されたら困るから、という理由だったが今までそんな事をされた事のない虎徹は大いに戸惑った。
 あげく、


「いまアパートの前です。朝食買ってきたから開けてください」


 と言われたときはまだ夢の中にいるのかと自分に拳骨を振らせたものだ。
 さらに話は朝だけで終わらなかった。
 一緒の朝食を終え、出社した虎徹を待っていたのは隣と一つに繋がったデスクだった。
 入り口で固まる虎徹を素通りして席に着くバーナビー。
 同室のおばさんも平然としていたので、もしかして元からこうで以前のオフィスの様子は自分の記憶違いかと思ったほど。
 肘と肘がぶつかりそうなくらい近い椅子の感覚にやはり違和感を覚えながら、昼。
 ファーストフード店で何か買ってこようかと席を立つ虎徹の袖を、バーナビーが引く。




「どうせジャンクフードで済ませようとしているんでしょう。偏った食生活で健康を害されてもこっちが迷惑です。昼食恵んであげますから、下のコーヒーショップでコーヒー買ってきてください」




 などと見目鮮やかにしてマヨネーズたっぷりなサンドイッチを差し出された虎徹はパシリにされた怒りもそこそこに財布を握りしめてオフィスを飛び出た。




「ここまで言えばもう予想つくと思うけど……」




 夜も一緒だった。
 終業後、久しぶりにアントニオでも誘ってバーで懇親会でもと取り出したケータイを横から奪われた。
「何すんの、バニーちゃん!?」
 吠えかかるも、アントニオの番号が表示されたケータイを切るとバーナビーは適当に虎徹の不満を流しながら、
「まだ本調子じゃないんですから、飲み会なんて止めてください。それより退院祝いにレストランに予約を入れてます。特別に奢りますよ」
 ――――良いも悪いもない。
 こっちの返事を聞く間もなく、ケータイを人質に取られ虎徹は従う他なかった。
 高級の上に超がつきそうなゴールドステージの夜景が綺麗なレストランで、他一切カップル客しかいない状況におかれながら、野郎二人で何をやっているんだろうと虎徹はしたたか、バーナビーおすすめのロゼワインを呷った。



 その日を境に、虎徹の日常はバーナビーの管轄下に置かれる事となる。



 日中、バーナビーが側にいない時間が一瞬たりともない。
 食事の時はもちろんの事、仕事中、アフターファイブも隣にはバーナビーがいる。
 個別の仕事の時ですら、バーナビーは虎徹を傍らに置きたがり、かならず同伴した。
 虎徹が退院してから一度もアントニオ達と飲みに行かなかったのはこういう理由からだ。

 "行きたくない"
 ではなく。
 "行けない"

 虎徹がバーナビーから解放される時間があるとすれば、夜寝るときくらいのもの。


 ――――だが、それすらも侵略された。



「……今日さ、俺、どっから出勤したと思う?」




 疲れたように笑う虎徹に、アントニオの顔色がさっと青くなる。
 まさか、と信じたくない思いを視線に乗せ見つめれば、虎徹は遠い目をして視線をそらせた。
 先を越された……という思いを打ち消して続きを促す。










 ――――始まりはいつもの朝だった。
 いつものようにバーナビーからのコールで目が覚める。
 ただ、そのコールはケータイからではなく――――、



「おはようございます、おじさん」

 耳元に、直接流し込まれた。




 ――――何が起こったのかとっさに判らなかった。




 なぜ鍵をかけたはずの我が家にバーナビーがいるのか。
 しかも寝室にいるのか。
 というかなぜ添い寝しているのか。
 むしろなぜ……もはやなぜ……。



「ぜん……ら……」



 均整のとれた若い肉体が生まれたままの状態で朝日を浴び、瑞々しく輝いている。
 腰から下がシーツに隠れているのが不幸中の幸いだった。
 が、不幸には変わりない。
 これが美術館にでもあったのなら虎徹も感嘆の声を上げたろう。
 ――――だが、実際上がったのは悲鳴だった。



「なーッ! あー! なあぁーッ!」
「朝から発声練習ですか。お疲れ様です」
「違うわぁ!」
 衝撃のあまり月まで吹っ飛んだ言語は皮肉にも張本人のボケによって無事帰還。
 虎徹はとっさにベッドから――――バーナビーから距離をとり、壁にへばりつく。


「何してんだ、なんで素っ裸で俺に添い寝してんだバニー!」
「言ってませんでした? 僕寝るときは服を着ない主義なんです」
「どこのハリウッドスターだお前は!? じゃねぇ! お前人ン家で脱ぐな! 俺が言えた義理じゃないけど!」
「本当に言えた義理じゃないですね。……それよりおじさん、シャワー先に貰いますが、僕がいないからって二度寝しないでくださいね」
 こっちの疑問には一切答えず、言いたいことだけ言ってバーナビーは部屋を出ていった。
 ドアが閉まるのと同時に足の力が抜け、虎徹はその場で尻餅をついた。


 ――――何が何だか分からなかった。


 虎徹の中で、ここ数日とテロ以前のバーナビー像に齟齬が生じる。
 もしかして自分が入院していた三ヶ月の間になんらかのNEXTの影響を受けでもしたのではないかなどと不安になる。
 いや、きっとそうに違いない。
 虎徹は"とりあえず不思議なことが起こったらNEXTのせい"という裏技を使うことにした。
 普段は使わないし使いたくないが、今は非常事態だ。


 感情の落し所を見つけると少し落ち着く。
 落ち着いて立ち上がり――――虎徹は部屋の違和感に気づいた。
 今までバーナビーの異様な様子にばかり気を取られていたが、ふと部屋を見回すと、どことなく"オカシイ"。
 どこが、とはっきり口に出して説明することができないのがもどかしいが、とにかく何かが、どこかがずれている。
 虎徹の記憶に刷込まれた寝室と今虎徹のいる寝室が合致しない。
 家具の場所も一緒なら窓の位置も一緒。
 ベッドの硬さシーツの肌触りも色も、何もかもが慣れた自分のもののはずなのに、なぜかホテルを利用した時のあのちょっとした"コレじゃない"感を味わう。
 もしかして寝起きだからだろうか。
 喉に小骨が引っかかるような細かな不快を覚えながら、虎徹は寝室を出て――――そして違和感の正体を理解し、絶叫をあげた。





「俺ん家の寝室丸々一部屋、俺ごとバニーちゃんの家に引っ越してたんだよ」





 と、言っても部屋を切り取って持っていった……などと言うわけでは無論ない。
 虎徹が寝ている間に業者に頼んで寝室の中身を全てバーナビーの家、一部屋に持ってゆき、完全に再現させたのだと、虎徹は風呂上がりのバーナビーから説明を受けた。
 あげく途中で目覚めぬよう昨日の夕食に薬を混ぜ込んでいたらしい。
 なぜそこまでするのかと血相を変え詰め寄ったが、とうのバーナビーは涼しい顔。


「いちいちおじさんを起こす為に早めに家を出たりするのが面倒になったんです。僕の時間をこれ以上無駄に消費させないでください。ほら、早くシャワー浴びてきてくださいよ。今日の朝ご飯はあなたのリクエストで和食ですから」
 ショッキングな告白の後さっさとキッチンに消える背中を見送り、虎徹はただ声もなく立ち尽くすしかできなかった。








「……」
「……」



 竜巻のような衝撃が、虎徹とアントニオ。二人から言葉を奪い去った。 
 衝撃がまだ、体の中で渦を巻いている。
 項垂れていた頭を上げれば、同じように俯き沈痛な空気を背負う虎徹がいる。
 掛ける声がなかった。慰める言葉が浮かばなかった。
「俺、やっぱりバニーちゃんに嫌われてんのかね……?」と言う虎徹の呟きにもとっさに答えることができなかった。
 ただ、言えることがあるとするならバーナビーは虎徹を嫌ってはいないだろう。
 嫌いな相手にこれほど(方法はアレだが)献身的になれるほど彼はマゾヒストではあるまい。
 コレまでの行動を振り返ると、"好きな子には素直になれない"と言う小学生のような心理がすけて見える。
 いわば今はさなぎの状態。
 完全に自覚し、孵化する前に何とかした方がいい気がする。
 アントニオは一つ、深い溜息をつくと、決心もあらわに面を上げた。

 親友を――――密かに想う相手をこのままにはしておけない。
 虎徹さえよければ、バーナビーが諦めるかこっちが別の手を考えつく間、自室を借り宿として提供しよう。
(――――よしッ!)




「なぁ、こて「おじさん!」



 アントニオの決意に声が重なる。
 舌打ちしたくなる思いでアントニオは声がした方――――休憩所の入り口に目を向ける。


 ――――同時に目を向けた虎徹は、短い悲鳴を上げ椅子から飛び上がった。


 驚愕のあまり限界いっぱいまで眼が見開かれる。あんまり見開きすぎて目尻が避けてしまいそうなほどだ。
 "正義の壊し屋"との異名を持つ男とは思えぬほど、完全に見事に逃げ腰だった。
 アントニオはそんな親友を歩み寄る異形から背に庇う形で守る。
 異形は――――バーナビーはアントニオなど一切視界に入れず、子供のように無邪気な笑顔で虎徹のみに語りかけた。


「顔が青いですね、おじさん。体もそんなに震えて――――やっぱり僕がいないとダメじゃないですか」
「お前……しゅざい……」
「無理を言って切り上げてきました。ああ、そうそう。あなたがこれ以上無茶をしない、いい方法を思いついたんです」
 バーナビーが歩くたび、手にしたものがしゃらしゃらと音を立てる。
 音の正体に、虎徹は喉を引きつらせ哀れな悲鳴を上げた。
 視線をがっちりロックオンしているくせに、バーナビーはまったく虎徹の恐怖に疑問を挟まない。
 もしかしたら、バーナビーには虎徹が見えてないのかも知れない。
 そんなことを考えてしまうほど、今のバーナビーは異常だった。
 バーナビーは見せびらかすように右手のもの――――メカニカルな外見の鎖がついたデカい首輪を差し出した。




「斎藤さんに頼んで作ってもらいました。僕から五メートル以上離れると電流が流れるそうです。強度に関しては安心してください、簡単には外れませんよ――――首が取れでもしない限り、生涯」




 ――――言って、バーナビーは見たこともないほど華やかに幸福そうに微笑んだ。

あとがき

十三話から十四話に至るまでの経緯を管理人なりに推理した――――ら、こうなった。
微妙にツンの入ったヤンデレ。

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