衝撃の対面

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星海学園。
歴史はそれほどでもないが、その分最新鋭の設備が設置されており、生徒一人一人の適正にあわせ専門カリキュラムを組むなど独自の教育スタイルで毎年優秀な人材を輩出している名門校。
その為、と言ってはなんだが、その・・・・・・あれだ。
実に個性的な生徒の集まる学校としても有名なのである。




高等部に隣接する大学の工学部。
資料室の中で、キャンパスに不釣合いな制服姿が見受けられた。
薄暗い部屋の中、窓からわずかに覗く光に照らされた金の髪。
誇りの積もったスチール棚の間を、青い目が通り過ぎる。
目当てのバインダーを見つけて、少年はほっと溜息をついた。
その拍子の又埃が舞い上がる。
うっかり吸い込みむせ返る。
「もぉっ・・・・・・いつ掃除したんだっ!!?」
少年の名はクロード。
この星海学園高等部に通う高校一年生・・・・・・ってそういう説明は人物紹介を見てもらうことにして、どうしてクロードがこんな資料室にいるのかを説明しよう。



日直のクロードは担任から、授業に使う資料を大学の資料室から持ってくるよう頼まれたから。



以上コンパクトに説明終わり。
話を続行する。
あまりの埃の量に、クロードが窓を開け放ち空気を入れ替えていると、スチール製のドアが開いて、誰かが入ってきた。
振り向くと、そこには銀髪の美丈夫がいた。
見たところだいぶ若い。
ここの院生だろうか。
血玉の様に赤い目がクロードを捉える。
「なんだ、先客か・・・・・・」
低い、どこか威圧感を含んだ声。
クロードは慌てて埃で涙の滲む目を擦った。
と、その手を青年に捉まれる。
「あ、あの・・・・・・」
「止めておけ。赤くなる」
そう言って清潔そうなハンカチで目元を拭われる。
「どうも・・・すみません」
「高等部か。一体何の用事だ」
「えと、先生から資料もってこいって頼まれて・・・・・・」
「ふぅん・・・・・・」
突然青年が顔を近づける。
間近に迫った端正な顔に、クロードは顔面に血が上るのを感じた。
「あ、あのっ・・・・・・!」
「面白い・・・・・・」
薄い唇が笑いを滲ませ大層失礼な事を呟く。
「貴様、名をなんと言う」
尊大極まりないこの口調。
そういうアンタは何者だ。
なんてこと考える事もなく、クロードは戸惑いながらも素直に、
「高等部一年の、クロード=C=ケニー・・・です」
「クロード・・・・・・か。覚えておこう」
そう言って、青年が離れる。
相手はそのまま資料室を去った。
置き去りにされたクロードは、しばらくしてくぐもって聞こえるチャイムに我に返ると、一目散に高等部へ戻っていった。



場所は変わって大学内のとある研究室。
主の性格を表しているかのようにすっきりと纏められた内装。
ただそこかしこに大量のバラが活けられているのはどうかと思う。
責任者の名は・・・・・・っと、その前にドアが鳴り、来客。
「お邪魔します」
入ってきたのは小さな天才(一部天災の誤植の声あり)レオン=D=S=ゲーステ。
「生徒から預かってたレポート持ってきたよ」
誰に対しても崩さないその態度に、部屋の主は毎度の事と気にも止めなかった。
「ご苦労」
こちらも実に偉そうな態度で迎える。
レオンはレポートを手渡し、何かに気がついた。
「どうした」
主が問う。
「嬉しそうだね。何かいい事があったのかな?」
「そう見えるか?」
部屋の主は口元に笑みを浮かべ、
「さっきたいへん興味深い玩具を見つけた」
「へぇ・・・・・・」
レオンは驚いたように声を上げた。
「君が興味を示すものって何だろうね」
「そんなに珍しい事か?」
「珍しいさ。十七で空圧に対する新論で世界を沸かせ、二十七の若さで学長候補にまで選ばれた君が何かに興味を持つなんてね」
長々とご説明ありがとう。
皮肉交じりのレオンの発言に対して、相手は気分を害した様子もなく、
「一目見て気に入った。私のものになるに値する玩具だ」
「ふぅん・・・・・・」
うっとりと、どこか夢見がちに言う相手に、レオンは少々白けた顔をした。
部屋の主の名は「ルシフェル」
先ほどの青年であった。
「・・・ところで次の授業で使う資料がどこにも見当たらないんだけど?」
「あっ・・・・・・」
――――クロードが去って十五分後。
ルシフェルは少し慌てた様子で資料室へ入りなおした。





その日の放課後。
高等部の校門前ではとんでもない事が起こっていた。
派手だし。
高そうだし。
更に邪魔極まりないし。
と三拍子揃った車が、ででんと停めてあったからだ。
誰も彼もか一度は立ち止まり、その車を見つめる。
クロードも同じだった。
「何・・・あれ」
隣を歩いていた車の種類に疎いレナが呟く。
「あれ、ポルシェよね」
「え、ベンツだろ?」
「フェラーリだって・・・・・・」
その又隣を歩いていたアシュトンが二人の間違いを訂正する。
「どっちみちなんでこんなものが学校の前に?」
「誰か待ってるのかな?」
そう言いながら近づくと、突然車のドアが開いた。
中から現れたのは、銀の髪も鮮やかな――――
「あっ・・・・・・」
クロードはその姿を見て思わずぽかんと口を開けた。
青年―ルシフェル―はクロードの所まで近づくと、
「うわっ!」
いきなりくクロードの体を横に抱えた。
俗に言うお姫様抱っこ。
この細い体のどこにそんな力があるのか・・・・・・
確かに言える事は恥もへったくれもないということである。
呆然とする面々を置いて、クロードは悠々と浚われた。
白昼堂々、実に手際のよい誘拐であった。
って、犯罪じゃん。







「あ、あのー・・・・・・」
走るポルシェ、じゃなくてベンツ、でも無くてトヨタ、ではなくて・・・とにかく外車の中でクロードは自分の身に何が起こったのか判断しかねていた。
「これからどこ行くんですか?」
それより何で浚ったのかとそっちを訊いたほうがいいと思う。
まぁ、誘拐犯が素直に動機を話すとは思えないが。
「とりあえず予約しているレストランに向かっている」
たった数時間でレストランの手配までしてたのか。
この様子じゃ結婚会場の予約まで終わってそうだな。
「あの、何で僕をそんなとこに連れて行こうと?」
「いちいち疑問が多いな」
って、ここで疑問わかなきゃ普通じゃない。
いや、こうやって騒がず落ち着いて理由を問うているあたりもう普通じゃないかもしれない、この少年。
「その前に自己紹介をしたい」
「はぁ・・・じゃあ、前向いてください。危ないから」
確かに。
このまんまじゃ自己紹介より先に事故を起こしそうだ・・・って親父ギャグか、おい。
「私の名前はルシフェル。年は二十七歳。趣味は読書。特技は議論。得意料理はパスタ。食べ物の好き嫌いはとくに無い。好みのタイプは一緒にいて飽きない奴。家族構成は一人。一人暮らし歴が今年十年目。年収は通常のサラリーマンよりやや上。車は二台所有。車種はBMWと今乗ってるフェラーリ。大学のほうで航空力学を専門に教えている」
「え!学生じゃないんですか!?」
長々とお見合い時のように説明されて驚くところはそこか。
「教授だ」
しらっと言われて声が詰まる。
「二十七で、教授ですか・・・・・・」
「そこまで驚くことではないだろう」
無茶言うな。
と、言うか確かにあの大学には若干十二歳の先生もいるしなぁ・・・・・・
きっと入学の条件に「非常識」の項目があるに違いない。
「それで、えーと」
「何故私がお前を誘ったか、だったな」
誘ったというより浚った。日本語は正しく使いましょう。
ルシフェルは車を路肩に停めた。
周りは郊外の為か人がいない。
ルシフェルはうっすらと麗しい、けれど妖しい笑みを浮かべて、
「お前を気に入ったので私のものにしようと思ってな」
と、クロード自身の了承もなく一方的に言ってのけた。
当然クロードは慌てる。
「な、何言ってるんですか!!」
「もう決めたことだ」
きっぱり言い切る。
そしてなぜかルシフェルが体を近づけてきた。
相手のほうはいつの間にかシートベルトが外れてる。
クロードは逃げようにも狭い車内で、しかもシートベルトをつけているため動くに動けない。
「え、あの、ちょっとぉ〜っ!!」
今にも絶叫しそうになった。その時。
「何してるのよぉぉっ!!」
怒号と共にクロードの顔面すれすれを足が突き通った。
そのキックはルシフェルの顔面をミラクルヒット。
何となく顔面からいやな音がした気がしないではないが気にしないで置こう。
哀れルシフェルはその場に臥した。
クロードは目の前の状況を把握しきれず目を白黒させる。
それからすぐに横でメキャリと何かのひしゃげる音が聞こえた。
シートベルトを手際よくはずし、クロードを助け出したのはレナであった。
「クロード、よかったっ!!」
その目には安堵の為か涙が、その手には飴細工の如く芸術的にひん曲がったフェラーリのドアが。
「レナ・・・どうしてここに」
「クロードが誘拐されて、慌てて自転車で追いかけてきたの」
そういうレナの傍らには一台の可愛らしい自転車。
どうも自動車に追いつくのはだいぶ酷だったらしい。
ゴムの焼ける嫌な臭いと煙が漂う。
「たった一人でそんな危ないことっ!」
「一人じゃないわ。アシュトンが一緒に・・・・・・」
そう言ってあたりを見渡す。
その場に人間は三人。あとは無残な姿をさらす高級車とルシフェルの周りを優雅に飛ぶカラス。
「・・・・・・落っことしてきちゃったみたい」
「えぇーっ!?」
「クロードっ!!」
驚きの声と重なるような急ブレーキ音と共に現れた、見慣れた白衣。
「ボーマン先生!何でここにっ!」
「保健室からお前さんが攫われるのが見えてな。慌てて追いかけてきたんだ。無事か。怪我ないか。腰痛くないか」
最後のは下世話で要らない心配だ。
真剣なボーマンにどう受け答えしようかと迷っていたクロードの目に、とんでもないものが飛び込んできた。
「・・・ボーマン先生」
「なんだ、やっぱりヤられたのかっ!」
「いや、先生が何を心配してるか分かりませんけど。訊きたい事があるんです」
「彼女はいないけど・・・・・・」
「でもなくって。間違ってたらすみません」
「なんだ」
「・・・・・・後部座席でぐったりしているのはよもや僕の友達のアシュトン=アンカースではないですか?」
「えええっ!」
レナが声を上げて確認に行った。
なるほど、クロードのいうとおりそこにはぐったりと体を横たえているアシュトンの姿があった。
「アシュトン、どうしてこんなところにいるの!?」
「ああ、そいつか。そいつな、道端で転がってて、まだ生きてたから拾ってきたんだ」
粗大ごみの中から使えそうなものを回収するような言い方を人間にするな。
「ちょっとアシュトン!って顔白い!脈薄い!ボーマン先生、早く家に連れて帰ってください!!」
「分かった。二人とも、乗れ」
そう言って、レナとクロードはボーマンの車に乗って帰路についた。
車の中で臥すルシフェルを置き去りにしたままで・・・・・・
いいのかお前ら、レッカー車ないし霊柩車呼ばなくても。

あとがき

リク内容はルシクロ、あるいはボークロ。とにかく大人×子供のカップリング、です。
ルシクロー、に見えないですね(爆)
本当は今まで登場した全キャラ出したかったのですが、力量不足のため断念。
一応ボーマンさんは出す事ができました。
あ、アシュトンもちょろっと出たっけ、ちょろっと。

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