怒涛の学園祭
〜当日〜
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「オーダー、バニラアイスにオレンジジュース!」 「スパゲッティボンゴレ出来たよ!」 「ねぇ、ピザトーストまだ!?」 「あーもう、さっさと持ってってよね、料理冷めるじゃない!!」 「ねぇ、コーヒーの粉無くなっちゃったんだけど・・・」 「俺買ってくる!!」 「ちょっと、財布―!」 「ねぇ!ピザどうなってるのぉ!?」 ・・・このままいったら会話文だけで話が終わりそうなので一旦切ろう。 学園祭当日、クロードたちのクラスは大盛況だった。 昼時だと言うのも関係しているのだろう。 女の子でも引きそうな乙女チックな内装にもかかわらず、店の中は大入り。 クラスメイトたちは、右へ左へおおわらわ。 猫の手も借りたいとはこのことだ。 だが他のクラスも同じ様に喫茶店を開いているところもある。 なのになぜこのクラスだけこんなにも繁盛しているのか。 その理由は・・・これ。 「サンドイッチ、お待たせしました」 「あの・・・私が頼んだのはショートケーキですけど・・・」 「へっ?ああ!!す、すいません、すぐ取り替えますから!!」 慌てて取り下げるウェイターを見ながら彼女はぽっと頬を染めた。 貴族的な白い手が皿を取り下げる。 長めの栗色の髪が傾いた拍子にさらさらと音を立てる。 エメラルドのように澄んだ緑眼は困ったような色を浮かべていた。 一見して儚げなイメージを持たせる少年。 「本当にすいませんでした!」 厨房へと戻るアシュトンの背中を、彼女はうっとりと眺めていた。 「オーダーは以上で?」 「あ、は、はい!」 ウェイターの声に聞き惚れていたその少女は、はっと我に帰った。 ウェイターは踵を返し厨房へと注文を告げに向かう。 腰まで届く蒼髪。 人を射すくませるような紅い切れ長の目。 低いが、どこか人を安心させるような声。 まるで完成された彫刻のような青年。 その彼がこちらへオーダーを持ってくるのを見て、少女は居住いを正した。 「お待たせしました」 ディアスにしては精一杯優しい声音だった。 「あ、あのぉ」 「ハイ?」 呼び止められ、ウェイター姿の少年は足を止めた。 「ご注文でしょうか」 「あの、クッキーとスコーンとあとアップルティーを・・・」 「かしこまりました」 ウェイターはにっこりと笑ってお辞儀すると又歩き出した。 短めの髪は太陽の光を集めたような金色。 零れ落ちそうな大きな目は空よりも青い。 乳白色の肌にシンプルなウェイター服の黒が映える。 日向のように暖かい笑顔が印象的な少年。 「オーダー!クッキー1、スコーン1あとアップルティー1です!!」 他の注文に負けない大きな声でクロードは言った。 さて、ここまで来て何か疑問はないだろうか? ・・・そう、あれだ。 『どうして3年であるはずのディアスが1年のクラスでウェイターなんてやってるのか?』 これにはそうたいして深くない理由があった。 話は約30分前。 ディアスがクロード達のクラス付近をうろついていた事に始まる。 ディアスがなぜそんなところをうろついていたのか。 それはもちろん、クロードに会いにきたから。 だがクラスの近くまで来てディアスは立ち止まった。 店外まで溢れ返る女性。 入り口付近にはレースがかけられ、ぬいぐるみが見える。 ・・・ディアスにはその中へ突っ込んでいく度胸がなかった。 それはそうだろう。 ただでさえ客の99%が女性(残り一パーセントは彼女に無理やりつれてこられた哀れな彼氏)なのだ。 まるで結界でも張られているかのように足が動かない。 だが、クロードにはあいたい。 ディアスが一人静かに苦悶していた。 まあ、傍目から見れば窓の外を見て黄昏ているように見えるんだから、顔のいい奴は得だ。 「あー!ディアス!!」 呼びかけられディアスは振り向いた。 と、同時にいっせいに女性客も振り向く。 ディアスはげんなりと(そんなことおくびにも出さなかったけど) 「レナ・・・」 カーテンの向こうから顔を出している幼馴染に声をかけた。 「暇そうだったら手伝って!!」 と言うか言わないかの間にディアスは手早くウェイター服とケーキを渡され、 「それ、窓際のテーブルへもってってね」 ―――げに恐ろしきは女の行動力。 気がつけばディアスは一年のクラスで注文取りなどやらされていた・・・ 「あらぁ、忙しそうね」 混みあうクラスに入った途端、授業中おしゃべりする生徒がいるもんならチョークではなく迷わず銃をぶっ放す教師、オペラは言った。 というかこの状況を見て「あらぁ、暇そうねぇ」なんてのたまう気なら一度眼科へ行くことをお勧めする。 「ああ、先生」 オペラに気がついたクロードが声をかける。 「先生もお食事ですか?」 「え、うん。そのつもりで来たんだけど・・・」 クラスをぐるりと見回し 「今はちょっと無理そうね」 と苦笑した。 「ええ、もうちょっとあとなら席が空くと思うんですけど・・・」 「そうね、じゃあ後で来てみるわ」 クラスを出ようとしたオペラは何を思ったか一旦立ち止まり、 「クロード君」 「はい?」 「セリーヌが何かやってたみたいだから気をつけてね」 「はぁ?」 意味不明な言葉を残し去っていった。 (気をつけろって・・・何に?) 考えようとしたクロードは、厨房からの激に慌てて戻っていった。 「やっほー、クロードv」 「あ、プリシス」 ひょこんとクラスに入ってきたのはプリシスだった。 「その格好、イケテルよ!」 「ははは、ありがとう」 クロードはちょうど空いた席にプリシスを案内した。 「さて、ご注文は?」 「んーとね、なんかお勧めってない?」 「うちはどれもお勧めだけど・・・あ、チョコクレープなんてどう?」 「じゃあそれ!あとコーラもつけてね♪」 「かしこまりました」 クロードは馬鹿丁寧にお辞儀をすると 「そういやクラス抜け出してきて大丈夫なの?」 「うん、へーきへーき。うちはそんなに人手掛かんないから」 「へぇ、何やってるの」 「お化け屋敷」 今秋なんですけど。 まあ、定番と言えば定番か。 「それって結構人いるんじゃないの?」 「へーきだってば!だって殆どあたし作のメカがお相手してるもん」 「プ、プリシス作・・・?」 「うん!」 元気よく頷くプリシスに対し、クロードは思わずこめかみを引き攣らせた。 プリシス作メカで埋め尽くされたお化け屋敷・・・ ある意味本物を置くより怖いことになるかも知れない。 ついでにその事実に作った本人が気づいていないのも怖い。 「どしたの?」 「あー、いやぁ・・・」 クロードが曖昧に笑いながら厨房へ向かおうとした時 「プリシス!!」 プリシスのクラスメイトが飛び込んできた。 「メカが暴走してる!!」 「うっそー!!」 (やっぱり・・・) おもわず我が意得たりと頷くクロード。 予測してたんなら注意くらいしろ。 「なんで!どーしてぇ?」 「それが、火の玉を作ってた丸っこいのが突然」 「突然?」 「プラズマ吐き出しちゃったぁ!!」 「えええ〜〜〜!!??」 プラズマと言えば自由に運動する正・負の荷電粒子が共存して電気的に中性になっている状態のモノ。 どうったらそんなもんできるんだい。 「クラス中、もう大変なのー!早く来て!」 「分かった!今行く!!」 ばたばたと台風のようにあわただしく去っていくプリシスと女生徒A。 (この学校、危険区域にでも指定されそう・・・) プリシスがいる限りその心配は付きそうにない。 「お兄ちゃん」 プリシスと入れ替わるように入ってきたのは、 「あれ、レオン」 「へへ、来ちゃった♪」 「そう、今ちょうど席が空いたんだ」 にっこり笑いながらさっきまでプリシスの座っていた席にレオンを座らせる。 「ご注文は?」 「キャロットジュースある?」 「あるよ」 「じゃあ、それとバニラアイス」 「はい、かしこまりました」 クロードはお辞儀をすると厨房へと向かった。 その後姿をうっとりと眺めるレオン。 一瞬、誰かと目があった。 それは同じ様にクロードを見つめていたディアス。 ディアスも同じ視線のレオンに気づいたらしい。 しばらく金縛りにでもあったように固まる両者。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 そして二人は同時に顔を背けると (嫌な奴・・・) どうやら第一印象は最悪らしい。 「ねぇ、あれって・・・」 いつの間にか近付いてきたアシュトンが目でレオンのほうを指す。 「ああ、前に会ったことあるでしょ?」 「何のようだろう・・・」 「ご飯食べに来たに決まってるでしょ?」 まさか喫茶店で講義しだすわけでなし。 「本当にそれだけかな?」 「それ以外に何があるの?」 変なアシュトン・・・とクロードはオーダーを持ってレオンの元へ戻っていった。 いい加減あのあからさまな視線に気づけ。 「お待たせしまし・・・」 「繁盛してるようですわね」 がらりと扉を開けたのは今まで何処ほっつき歩いていたのか、担任のセリーヌだった。 「先生、今まで何処に・・・」 アシュトンが呆れたような声を出す。 「ええ、ちょぉっと準備に忙しかったもので・・・」 クラスをほったらかすほど重要な準備って何? 「やっぱり男性客が少ないようですわね」 ぐるりとクラスを見回しセリーヌは言う。 そりゃ、こんな乙女ちっく全開な喫茶店に入る奇特な男性客などいるのか? 並みの女性でも引くほどなのに・・・ 「やっぱり、これを作ってきてよかったですわ」 一人納得するセリーヌ。 そしてぽかんと呆けているクロードの手を取ると 「あの・・・先生?」 「クロード君、ちょっと来て下さらない」 ずりずりと女性とは思えない腕力でクロードを引きずり調理場の奥、更衣室へ消えてしまった。 突然の乱入者に呆けるその場の人々。 しばしの沈黙。 「いったい・・・」 なんなんだ? そう、アシュトンが言いかけたとき・・・ 「うわぁぁぁぁ!!」 聞こえたのはクロードの悲鳴。 「クロード!!」 「何!?」 「お兄ちゃん!!」 奥から聞こえる叫び声に、三者三様の反応を見せるアシュトン、ディアス、レオン。 「何があったの!?」 レナも慌てて奥へ入ろうとする。 が。 「ちょっと!!入ってこないで!!!」 切羽詰ったようなクロードの声にぴたりと動きは止る。 「なにいってますの!」 それに続いてセリーヌの怒ったような声。 「だ、だっていやです!!」 「そんな事いわずに・・・」 「うわぁぁぁぁん!!」 「ちょ・・・とぉ!!」 レナが構わず中へ入ろうとする。 だが奥へ続く入り口にはきっちりとバリケードが。 いつの間にこんなもんこさえたんだ、あの教師は。 「クロードに何やってるんですか、先生!?」 怒鳴る声に返る答えはない。 しばらくして奥からの音はぴたりと止んだ。 そして痛すぎるほどの沈黙。 「な、な、な・・・」 健全な乙女の思考にとんでもない妄想が過ぎる。 「何やってんのよぉぉぉ〜〜〜!!」 気合一閃。 すさまじい破壊力の正拳の前に、バリケードは脆くも崩れ去った。 「クロード!!」 飛び込んだレナの見たものは・・・ 「クロード、その格好・・・」 いつの間にかやってきたアシュトンが目を丸くしながら指を指す。 「だからこないでっていったのにぃ・・・」 黒いシンプルなタイプのワンピースに真っ白なフリル付きエプロン。 足にはエプロンと同色のタイツとワンピースと同色の靴。 頭の上にはしっかりとフリル付きのカチューシャが。 ―――何処からどう見ても立派なメイド姿だ。 その姿にレナは呆然と石と化し、アシュトンとレオンは赤面していた。 ついでにその後ろではディアスがしゃがみこんでいる。 ああ、足元には血溜まりが。 誰が掃除すんだよ、これ。 時の止ったように動かない面々の中、一人セリーヌは 「これで男性客もばっちりやってきますわ」 と、ご満悦だった。 ―――因みにそれからセリーヌの言葉どおり、女性客だけでなく男性客まで押しかけ店はパンク状態。 おまけにいつの間にか撮られた写真はちょうど同じ頃開かれていたミスコンで一位をとり、学園祭が終わった後も、あの美少女は誰だったのかと血眼になって探す輩が山ほどいたらしい。 ・・・真実はすべて闇の中。 クロード達にとって―――特にクロードにとって―――忘れようとも忘れられない学園祭になったと言う。 ―――今回、唯一の被害者に合掌(ちーん) |
あとがき
全然どたばたになってないじゃん、と思いつつ『学園祭編当日』いかがでしたでしょうか?
セリーヌさんがいつの間にやら担任になっとります。
しかしこんな無責任な担任でいいのか?
大体学園祭の喫茶店にしちゃ本格的だし・・・
それとプリシスのクラス、どうなったんでしょ?
それとウェイターってのは龍都の趣味です!(爽)
かっこいいと思いません?ウェイター姿って。
坊さんの正装もかっこいいと思うんですけどね〜(変)
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