入学式から数日。 最初は緊張していた新入生たちも、やっと落ち着きを取り戻してきた。 そんな放課後の事。
「う〜ん・・・」 クロードがチラシみたいな物をもって唸ってる。 「どうしたの?クロード」 そんなクロードの様子に、レナが心配げに声をかけた。
「いや、クラブ、どこに入ろうかなぁと思ってさ・・・」
それでうんうん唸ってたのか。 「レナはもう決めたの?」 「うん、料理クラブ」 「へぇ、レナにぴったりだ」 「そう?あの、それでね、クロード・・・」 もじもじと赤くなりながら、 「こ、今度クラブでクッキー作る事になったの。 それで・・・あの、うまくできたらクロードに食べてほしいな・・・なんて、あの・・・」
「本当!?うわぁ、有難う!レナ」 心の底からうれしそうなクロードの満面の笑み。
「えっ!そんなぁっ」 照れ隠しに放たれた拳を、クロードが慌ててよける。 学習能力ついたんだな、クロード・・・。
「ねえ、アシュトンはどこに入るの?」 クロードは後ろの席を向いた。 レナはまた自分の世界に入っている。
「うーん、まだ決めてないなぁ・・・」 声をかけられた黒髪の少年は、首を傾げた。 この少年、名前をアシュトン=アンカースといい、クロードとは中等部からの親友。 病気のため留年してしまい、クロード達より一つ年上である。 ちなみに彼もクロードに特別な思いを寄せる一人(とーぜん気づかれちゃいないが)
「アシュトン、裁縫得意だったよね?なら手芸部入れば?」 「うん・・・」
クロードから手渡されたクラブリストに目を走らせながら、アシュトンは思った。 (どうせならクロードと同じところに入りたいな・・・)
クロードに思いを寄せる者は多い。 本人は気づいていないのが幸いだが、 少し目を離せば、誰かに攫われてしまうかも知れない。
『自分が護りたい』 それは傲慢な願いかもしれない。
けれど・・・
(僕はずっと、クロードの隣に居たいんだ) その為になら、どんな事でもできる気がする。 (そう、どんな事でも・・・)
「ねぇ!アシュトンってば!」 「へっ?あ、うわぁ〜〜〜〜!?」 自分の考えに没頭していたアシュトンはいきなりのクロードのどアップに、叫び声をあげる。 でも、いくら驚いたからって、教室の後ろまで逃げる事ないでショ。 (び、びっくりしたぁ・・・)
「?アシュト・・・」 「クロ〜ドv」 『わぁっ!』
プリシスのいきなりの登場に二人は仲良く声をあげた。 「そぉんなに驚く事ないじゃん」 ぷうっと膨れるプリシス。
毎度の事とはいえ登場が突然すぎるぞ。
まさか、瞬間移動の装置でも発明したんじゃないだろうな。
「ねね、クロードは何処のクラブにするか決めたぁ?」 「んー、まだ。プリシスは?」 「あたしはもう決めたよ。科学部」 「科学・・・部?」 「そっ、だってあそこならいくら爆発さしたって誰も文句言わないもん」 爆発したってって・・・いつもそんな危険物作ってんのか? いやそれより、いくら科学部だからって爆発すりゃあ文句の一つも出るだろう。 「ねぇ、クロードも一緒に科学部入んない?」
「う〜ん・・・もうちょっとじっくり考えてみるよ」 無難な答えだ。 まだ死にたくないからご遠慮します、とは言えないもんな。
「それにしても、ここってクラブの数多いよね・・・」 いつのまにか復活したアシュトンが、クラブリストをめくりながらそう云った。
それを一緒に覗き込んでいたクロードは、
「・・・電脳部、にでもしようかな。パソコン得意だし・・・」
「え〜〜!そんなんだったら、一緒に科学部はいろうよぉ」
だからまだ死にたくないんだって(断定)
「ん〜、ねぇ、アシュトンは・・・」 「クロードと同じならどこでもいいよ」 にこっと笑いながら答える。 「う〜ん」 「クロード、なら私と同じ料理クラブにしない?」
いつの間にやら復活したレナが参戦する。 (プリシスと同じところなんて絶対だめ!これ以上くっつかれるなんて堪らないわ!!)
(う〜。ただでさえクラス離れて凹んでるのに〜。 クロードをレナと同じクラブに行かせるなんて絶対イヤァ!!) クロード当人の預かり知らぬところでバチバチと火花を散らすレナとプリシス。 ほかの生徒たちはとばっちりを食らわぬよう、早々に退散している。 「・・・・・・うん、決めた!」
『えっ、どこ!?』 「剣道部〜!」 『えええええ〜!!』 異口同音に叫ぶ二人。 そりゃそうだろ。 今までひとっことも、剣道部なんて言葉、出てなかったもんな。
「な、なんで!?」 どもるレナ。 「そーだよ、何で剣道部なの!」 詰め寄るプリシス。 「・・・まぁ、クロードが決めたんなら別にいいけど」 あくまで、クロードについて行こうとするアシュトン。
「だって、剣道は前から興味合ったし、それにディアス先輩がいるみたいだから・・・よし!そうと決まったら、早速入部届出してこよう!じゃ〜ね、みんな」
立ち上がったクロードはかばんを手に、意気揚揚と教室を出て行った。 あとには石化したままの三人を置き去りにして。
石化した三人はというと、 (ディアス?ディアスって誰!?僕の知らない間にそんな人間が居たなんてぇ!!) (そんなぁぁぁぁ!!せめてクラブくらい同じ所行きたかったのにぃぃぃぃ!!!)
(クロード、いつの間にディアスの事気に入っちゃったの? なんかディアスもクロードの事好きみたいだし・・・。嗚呼!どうしよう!!)
結局、クラスメートに発見されるまで、三人は石化したままだったらしい。
――――余談 その日。
部活で遅くなったディアスが何者かに夜道で襲われ、翌日近所の者によって、病院に運ばれたという。 お大事に、ディアスさん。
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