私立星海学園。
ここは小学校から大学までの一貫性教育で、
また、ほんっとうに様々な人々が通う事でも有名な学校である。
そんな学園に又一つ、新たなる波乱が生まれようとしていた・・・
「ふぇ〜〜〜・・・」
高等部の門の前で、新入生クロード=C=ケニーは呆けていた。
「なんか・・・圧倒されるって感じ・・・」
今までいた中等部もそうだがこの高等部もすごい。
何が凄いかってその豪華さ。
門構えだけでロダンの『地獄の門』とタメはれる感じ。(解かりにくい例えだ)
結構無駄な金使ってるんだなぁ
「僕、ここに入学するんだ・・・」
そうだぞ、クロード。だがこんな所で呆けている場合じゃない。
「げっ!もうこんな時間!?入学式に遅刻する!」
それ見たことか。
クロードが門の前で呆けている間に、時間はもう入学式寸前まで進んでいたのだ。
「うわー!入学式から遅刻なんてかっこ悪すぎる!」
そう叫んだクロードは今まで見惚れていた門をくぐり、一目散に走り出した。
「あー、もうっこの学校って何でこんなに広いんだ!?」
クロードが生徒手帳にある学校地図を見ながら走る。
たしかに、玄関ホール付近だけで通常のお宅一個分もありゃあ誰だって混乱するわな
でも手帳覗き込んだまま全力疾走ってどうかと思うぞ。
「もうちょっと〜!!」
目の前にある角を曲がった瞬間。
ドンッ!!
「うわっ!」
曲がり角にいた誰かの腹に頭突きをかまし、クロードは跳ね返った。
「いったぁ〜・・・」
腰をさすりながら起き上がるクロード。
「だっ大丈夫ですか!?」
慌てて、相手を床にひざをついて抱き起こす。
でも大丈夫くないだろう。相手、白目むいてるし。
「しっかりして下さい!」
がしがしと肩をゆする。
「・・・うぅ」
「良かっ・・・」
相手が気づきかけたそのとき――――
『・・・それでは只今より第百八回星海学園高等部入学式をとりおこない・・・』
「ああっ!入学式ぃ!」
ゴンッ!
先から聞こえてくるアナウンスにクロードは、自分の本来の目的を思い出し、講堂へと走り出す。
一方、意識を取り戻しかけた相手は、急に支えを失った頭を床に打ち付け、もう一度気絶する破目となった。
・・・合掌。
そんなこんなで入学式も無事終わり(講堂についたらすでに新入生入場の真っ最中だったり、校長先生のあまりの長話に居眠りする生徒続出だったり色々合ったが)新入生達は担任の指示に従い、自分達のクラスへと帰って行った。
「はぁ〜、なんか初日からどっと疲れたって感じ・・・」
「それは自業自得でしょ?」
担任の挨拶やら、明日の予定やらも終わり、
ダレきって机に突っ伏すクロードに、レナが呆れた顔をした。
「そうなんだけどね・・・でも善い事もあったよ」
「何が?」
「高校上ってもレナと一緒のクラスな事」
何気なく笑いながら吐いたクロードの言葉に、レナはたちまち顔面に朱を上らせる。
「やだぁ、クロードってばっ」
照れたレナに、かる〜く叩かれたクロードは、たちまち机に臥す。
どうでもいいけどな、レナ。君のかる〜くは普通の人の鉄拳に値するんだぞ?
まあ、照れまくっているレナはそんな事気づきもしないだろうが。
「お〜い、こんなかにクロードって居るかぁ〜?」
まだ名前も知らないクラスメートの呼ぶ声に、クロードは顔を上げた。
ちなみにまだ隣ではレナが、ちょっとイっちゃってる。
「クロードは僕だけど」
「呼んでるぞ、上級生」
指差された方を見ると、確かに扉には誰かの影が映っていた。
(誰だろう?)
「やっと来たか、クロード=C=ケニー」
呼んだのはやはり面識のない青年だった。
青いネクタイをしている所を見ると、三年生らしい。
「あのぅ、僕に何か・・・?」
全身からほとばしるような威圧感に脅えるクロード。
「忘れ物だ」
そう云ってぽんっと投げ出されたのは、
「あー!僕の生徒手帳!!って事はあなたはひょっとして今朝の!!」
遅い。
仮にも、つい今朝頭突きかました相手なんだぞ、おい。
「・・・今の今まで気づかなかったのか?」
相手もクロードの鈍さ加減に少々呆気に取られている。
「ええ、いろいろありまして・・・でも、わざわざ有難うございました!」
照れながらにっこりと、極上の笑みを返す。
・・・ぽっ。
・・・お〜い、なに赤くなってんだ、青年。
ほら、クロードも不思議そうな顔して覗き込んでるぞ。
うつむいたまま、何も言わなくなった青年に、
クロードが声をかけようとした時、
「ディアス!」
やっとこっちに戻ってきたレナが、青年に呼びかけた。
「レナ・・・なんだ、おまえこのクラスか」
「うん、ディアスこそどうしたの?一年のクラスに何か用?」
「まあ、ちょっとな」
「でも、珍しいね、ディアスがこんなところにいるのって」
「あの〜・・・」
二人の会話に入れず、置いてきぼり食らっているクロードが、申し訳なさそうに手を上げた。
「何だ?」
何だ?ぢゃない。
呼んだのはあんただ。
「お二人はどういうご関係で・・・?」
「あっ、クロード話してなかったっけ?こちら、私の幼馴染で高等部副生徒会長の・・・」
「ディアス=フラックだ」
「えええ―――!!!幼馴染ぃ!?副生徒会長ぉ!?」
クロードは思わず叫んだ。
そりゃ、驚くわな。今朝方頭突きかました相手が副生徒会長で、さらにはクラスメートと知り合いなんて・・・。
偶然って凄いナ。
「ああっ、あの、すいませんでした!本当に、あの・・・」
あまりの偶然にクロードが混乱しているとき・・・
「クッロードォ!」
甲高い声と一緒に、一人の少女が飛び込んできた。
「「プ、プリシス・・・」」
それは、中等部で三年間一緒だった同級生、プリシスだった。
「クロード、聞いて!あたしだけクラス違うの!酷いんだよぉ」
クロードの腕に纏わりつきながら、うるうる潤んだ目で見上げる。
「あ、そうなの・・・」
「そうなのぉ!」
プリシスの勢いに気おされながら、踏み潰されている先輩、ディアスを気にかけるクロード。
「ちょ、ちょっとプリシス!なにやってるの、クロード困ってるじゃない!」
いきなりの乱入者にクロードを奪われちょっとご立腹のレナ。
「ええー、そんな事ないよ。ねぇ、クロード、今日帰りに買い物付き合ってくんない?」
「プリシス!」
放課後デートのお誘いに、とうとうレナは実力で引き剥がそうとプリシスの肩に手をかけ
た、そのとき。
「・・・お前、いいかげんに退かないか・・・」
「きゃん!」
足元から響いてくるおどろおどろしい声に、プリシスは慌てて跳ね退いた。
「ディアスいたっけ?」
お、そういやいたっけな、いやぁ、スパッと忘れてたよ(爽)
「居ては悪いか?」
いつもより凶悪さ80%増し(当社比)な目つきで睨むディアス。
今の今まで忘れ去られていた事にかなりむかついているらしい。
「ねぇぇ、クロードォ、一緒に帰ろう?」
「プリシス!」
「おい!勝手に話を進めるな!」
二人を無視してクロードに尚も纏わりつこうとするプリシスに、それを阻止しようとする
レナとディアス。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる三人の間、クロードは入学初日ですでに疲れきっていた。
・・・桜花≪はな≫降りしきる四月の初め。
クロード=C=ケニ―、十五歳。
『前途多難な高校生活』はまだ、始まったばかりである・・・。
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