バニラアイス

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じりじりと体から煙を吹きそうな夏の日差し。
腕に抱いた買い物袋の中身がゆだってしまいそうだ。
人ごみの中は人の体温と熱気のせいで余計に熱が篭る気がして、クロードは路地裏に逃げた。
道のまま、思うままに足を進めていくと、やがて人気のない公園らしき場所に出た。
中央にベンチと日よけ代わりの樹があるだけだが、今のクロードには何よりも魅力的な場所に見えた。
ふらふらとすこしおぼつかない足取りでベンチまで歩み、そのまま汚れも気にせず腰掛ける。
強すぎる日差しは木陰に入って弱まったが、やはりまだ暑い。
クロードはパタパタとタンクトップの裾をあおって自身に風を送りながら、買い物袋をあさった。
中から取り出したのは汗をかいたカップのアイス。
ふたをあけ、すこし融けかけたアイスを口に運べば、木のヘラの味と共に染み入るような甘さが舌に広がる。
「ン〜……生き返る……」
クロードは始めてホッと一息ついた。
人の喧騒は遠く、聞こえるものといえば一夏に生きる健気なセミの合唱。
何となく通りを眺めながらせっせとアイスを口に運んでいると、見慣れた姿が横切った。
「おーい、ディアス!」
ひらひらと手を振りながら声をかけると、気がついたらしいディアスがこちらに向ってきた。
「買い物か?」
ちらりと傍らの荷物に目を滑らせて、ディアスが問う。
クロードは頷いて、
「レナから頼まれたんだ。今日は夏野菜のパスタだって」
「そうか」
相槌を返したディアスが隣に腰掛ける。
いつもの服に、ご丁寧にマントまで羽織った姿のディアスは、いつものように涼しい顔。
自分と違って汗一つかいていないのは、やはり鍛錬の差か。
「ディアス、暑くない?」
「なぜだ」
平然と返され、それ以上何も言えない。
ウソだ。
とは思えない。
どこか感情の欠落したような感のあるディアスなら、それもありかと納得してしまう。
やはり自分はまだディアスには少々歪んだ先入観があるなと考えながら、クロードはまたアイスを口に運んだ。
会話が途切れて数秒、あるいは数分。
クロードは自分を見つめる視線に気づいた。
あえて言うなら、自分でなく自分の持っている氷菓子に対する視線。
「――――食べたい?」
身長差からどうしても上目遣いになりながら、クロードは問う。
「美味いのか?」
「食べた事ないの?」
「ある。が……」
ディアスはすこし言いにくそうに、
「昔過ぎて味を忘れた」
「っ……」
難しい顔で告げられた言葉に、何だかディアスらしいと笑いを堪えながら、クロードは一さじ、乳白色のアイスをすくって、
「一口、どう?甘くて美味しいよ」
「それはお前のだろう。もらえない」
「いいよ。一口味見。気に入ったら買いに行けばいいし」
さぁ、とさじをいっそう口元に近づけて、
「解けないうちに、さ」
「……」
一瞬瞳を揺らがせて、ディアスはクロードの手首を掴む。
そのまま近づいたのは、アイスの乗ったさじでなく、
「あっ……」
クロードの唇だった。
ぽとり、とさじが手から滑り落ちる。
見開いた目に、目を閉じたディアスの顔が、ピントずれしたようにぼやけて映る。
数秒、固まったまま、やっと感触が暖かいと感じる頃、ディアスは離れた。
どこか名残惜しそうに、音を立てながら。
「甘いな……」
当然の感想を残して、ディアスは腕を放した。
クロードはまだ呆然と目を丸くしている。
何が起こったのか、脳がやっと分析を始めた。
何もかもがぼやけた状態で、ただ唇の感触だけやけにリアルで……。
「先に戻っている」
そう言って、ディアスが荷物を持ち公園を出る。
カップから零れたすこしとろりとした白い液体が地面に円を描く。
突然耳にセミの大合唱が響いて、クロードは我に返った。












まだ友人だと思っていた、ある夏の日。
蕩けてしまいそうな甘い甘いバニラの味。
――――それが、初めて二人で交わしたキスの味だった。

あとがき

BGMはマイリトルラバーでお願いします(笑)
あの声聞いてたら何だかこういう話が書きたくなったのです。
書いてあるとおり、二人はまだ恋人同士ではないです。
でもキスはしたと。
なんだか少女漫画風ですなぁ(笑)
ちなみに自分はバニラアイスより、レモンのカキ氷の方がいいです(関係ない)

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