華守人

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咲き誇り、匂い立つ一輪の花。
それを手折るのは罪悪。
守るのは――――また罪悪。








宿のベランダ。
明かりは月のみの中、二人で他愛無い会話を繰り返していた。
その合間に、ぽつりとこぼれた本音。
「しっかしお前もとんだ奴だな」
「何が?」
これまでの経緯を思い出し、しみじみ言うときょとんとした顔でフェイトがこちらを向く。
緑眼が大きく見開かれ、容貌を年よりも幼く見せる。
無自覚の可愛らしい仕草に、クリフは口元に笑みを滲ませた。
「何だよ、変な事言ったかと思えば急に笑って」
フェイトの眉間に皺がよる。
クリフはまだ笑ったまま、ちょんちょんと眉間を触って、
「んな顔すんなよ。カワイイ顔が台無しだぞ?」
「またからかうっ!」
フェイトはクリフの手を邪険に払った。
それから不機嫌そうな顔を崩さず、
「それで、さっきの話なんだけど……」
「あン?なんだったっけか」
「とぼけるなよ。僕のこととんだ奴だって……」
「ああ、それか」
と、手を打って、
「いや。最初の頃とずいぶん印象が変わったと思ってな」
「最初……僕、どう見えてた?」
「か弱い坊ちゃんって所だったな」
「ふぅん……で、今は?」
「――――強くなったな」
クリフはお世辞でも何でもなく、本心からそう言った。
「ほんと、強くなったよ。お前は」
初めの頃は自分の置かれた状況もわからず戸惑ってばかりに見えたが、徐々に自分の位置を自覚し始めたように見える。
いや、否応無しにそうならざるを得なかったのだろう。
兵器として生み出された存在。
しかもそれを行ったのは――――実の父親。
「最初の頃とはえらい違いだ」
「褒めてるの?」
「手放しでな」
「そう……ありがとう」
柔らかく、微笑する。
どことなく儚さを覚えるその笑みは、出生の真実を知ったときから頻繁に出てくる。
今にも朧に消えそうな、そんな笑み。
クリフは衝動のままに指先でフェイトの髪を梳いた。
「クリフ?」
フェイトが不思議そうな目をする。
クリフはその緑眼に引きずり込まれるままに、フェイトの体をかき抱いた。
「く、クリフ!?」
耳元で慌てた声。
抱き締めた体温が徐々に上がってゆくのを感じる。
折れそうなほど細い体に眩暈がする。
クリフは吐息をついた。
フェイトの体が微かに震える。
「お、おいっ。離せよ……っ」
「無理はすんなよ」
「――えっ?」
暴れていた体が動きを止めた。
クリフは柔らかな髪を梳きながら、
「無茶はすんな。何もお前一人で全部背負う必要なんてないんだ」
「――――そんな風に見える?」
「……少し、な」
「そう……」
苦笑とも自嘲とも取れない微かな響きと吐息。
クリフは抱き締めたまま言った。
「前にも言っただろう。お前は俺が守ってやるって」
「――――それはいやだな」
フェイトがゆっくり体を離し、真正面から見つめる。
「僕は、そんなに弱くない」
「ああ、分かってる」
十二分に、そんな事は分かってる。
守れるほど、弱くはない。
だが。
「強いから、護られる必要がないってわけでもないだろ」
ちゃんと分かっている。
フェイトは強い。
絶望に立ち迎えられるだけの類稀な強さ。
だからこれはエゴ。
手折ることも、盗むことも出来ない自分が選んだ、ただ自分の欲求を紛らわせたいだけのエゴイズム。
それでも。
「お前は俺が護ってやる」
「――――させられない、そんな事」
月明かりのなか、浮かび上がる幽かな微笑。
それは今にも夜気に溶け込み、消え去りそうな、儚い笑み。
「こんな重い運命……」
「運命が重いと思うのなら、俺にも背負わせろ」
か細い体を抱き締める。
そのぬくもりを閉じ込めるように。
「そのために俺はここにいるんだ」
「……」
しなやかな腕がそろそろと抱き返す。
「後悔、するかもしれないぞ」
「するかよ」
咽喉の奥で笑う。
しない。後悔など絶対しない。
むしろこの体を離せば、そちらの方が後悔するに違いない。
「……」
肩口で観念したような吐息が零れた。












≪かいな≫に閉じ込めし美艶なる華。
護りたるは、我。
摘み取るも、また我。

あとがき

結局最後は摘み取るのかよ(ツッコミ)
クリフは実にオイシイ発言ばかりしてくれるので微妙に嬉しいです。
ゲーム中の「守ってやる」発言に身悶えた女性プレイヤーも多かろうなぁ……
自分もそのうちの一人だったりして(笑)
守るって言う行為は、ある意味エゴイズムでもありますよね。
守ることで、相手を縛り付けるような……
ちなみにBGMは「もらい泣き」です(またか)

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