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交易都市ペターニ。
様々な国から様々な品物が行きかうこの町は、まさに工房には最高の立地条件。
ギルドにも程近い工房では、若きクリエイター達が今日も創作に勤しんでいた。





「あ、フェイト。そこのお塩とって」
「これ?」
「うん。ありがとう」
台所に立つ仲睦まじい一組の男女。
調理実行中のフェイトとソフィアである。
だが主に調理しているのはソフィアで、フェイトはサポート役。
「えっと、次は……」
「コショウ、だろ」
「ありがと」
相手が何を言わんとするか、言う前に気づく。
これぞ幼馴染の特権。
はたから見ればまさに理想のカップル。
そんな二人を遠めで見つめる緑の双眸。
(……何だかイライラするわ)
こちらは近くで細工実行中のマリア。
ざくっとナイフが硬い鉱物を突き刺した。
だが視線は手元の鉱物でなく、ずっと台所の方を向きっぱなしである。
さっきから耳に入る会話がなんとなく面白くない。
それは苦手でもなければさほど得意でもない細工をしているせいだけでなく、二人と自分の間に透明な、けれど強固な壁があるように感じるためだ。
一人だけのけ者のような気がしてどうにも面白くない。
おかげでさっきから失敗作ばかり。
また使えない物を作ってしまう。
(――――馬鹿馬鹿しいわね)
いつまでも台所を向いたままの視線を無理やり手元に戻した、その時である。
「いたっ!」
「マリア?」
さっくりと、ナイフで指先を切ってしまった。
ぷくりと血の玉が指先に盛り上がる。
「大丈夫!?」
フェイトが駆け寄る。
「どうってことないわ、これくらい」
マリアは強がって見せたが、
「だめだって。早く手当てしないと……」
「あっ!?」
驚いた少女の声が二人分、見事に重なる。
フェイトが怪我をした指先を口に銜えたからだ。
「ちょ、ちょっと!」
珍しく顔を赤く染め、慌てるマリア。
だがそれに構いもせず、フェイトは傷口に舌を這わせた。
「っ……!」
びくりと体が震える。
「――はい、消毒終わり」
フェイトはにっこり笑って口を離した。
「……」
顔を赤くしたままマリアは答えなかった。
手はまだフェイトの暖かな手に握られている。
「……マリア?」
不思議そうな顔で覗き込むフェイトに、マリアははっと我に返り、掴まれたままの手を引き抜いた。
「あ……ありがとう」
「ううん。一応応急処置から、やっぱりちゃんと手当てしておいた方が良いよ」
「そう、ね……」
傷を負った手を、胸の上でぎゅっと握る。
まだぬくもりが残っているようで……
「……マリア?」
うつむいて黙り込んだマリアをいぶかしむように、フェイトが顔を覗き込む。
その瞬間。





――――ヒュンッ!





「――――」
「――――」
二人の間を何かが音速で通過した。
床にマリアの前髪が数本、ハラリと落ちる。
フェイトの方にはまったく何もない。
しばし固まっていた二人は、恐る恐る通過していったモノの正体を見た。
視線の先には木で出来た壁。
その壁にしなりながら、突き刺さっていたのは――――
「ごめんなさーい!!」
慌てた声に二人は振り向いた。
台所の方から眉を下げ、申し訳なさそうな顔のソフィアがやってくる。
「手が滑ったみたいなんです。お怪我はないですか?」
言いながら突き刺さっていた包丁を引っこ抜き、にっこり笑う。
よく砥がれた薄い刃がきらりと光った。
「ソフィア、危ないだろ」
フェイトが怒った顔でこつづくまねをする。
「えへ。ごめんね」
言いながらソフィアはフェイトの腕を掴み、
「ほら、フェイト。マリアさんの邪魔しちゃ悪いよ。マリアさんは、一人の方がはかどりますよね?」
ぐいぐいと台所の方へ引っ張っていく。
二人の後姿を見送りながら、
(ふっ…ふふふ……。そういう事……)
マリアの手の中で、石がまるで発泡スチロールのように砕けた。
「ねぇ、フェイト。カレーは甘目がいい?それとも中辛――――」





――――ビュッ。





ソフィアの髪留めが床に落ちた。
数本の毛も少し遅れて落ちる。
横にいたフェイトは目を丸くした。
土壁に鉱物の欠片らしきものがのめりこんでいた。
「ごめんなさい。削っていたら破片が飛んだみたいだわ」
マリアはうっすら口元に微笑を浮かべながら言った。
ソフィアは無言で髪留めをつけ直すと、
「いいえ、大丈夫です。それよりマリアさん、わたし不器用だからよく手が滑っちゃうんです。気をつけてくださいねぇ」
「あら、奇遇ね。私もよく手が滑るのよ」
「ほんとですかぁ。奇遇ですねぇ」
にっこり笑ったソフィアの手に握られていたのは食材でなくロッド。
「本当に奇遇……。ところで武器なんて持ってどうしたのかしら?」
「だってこっちの方がよく『料理』できそうじゃないですか。それよりマリアさんもどうして銃を持ってるんです?」
「私もこっちの方がよく『仕事』が出来そうだからよ」
「そうですかぁ」
「そうよ」
双方、まるで花の如き微笑を浮かべてはいるが、背負う雰囲気は夜叉の如き。
だがその間に立っていながらフェイトは、
「二人とも、熱心だなぁ」
的外れ甚だしく感心する。
一向に動こうとしない二人の間で、フェイトがぼうっと突っ立っていると、
「うわッ!?」
突然首根っこに重みが加わり、後ろに仰け反る。
「ネルさん……」
首根っこを掴んだのはネルだった。
顔色が少々悪い。
「どうしたんです、ネルさん」
「フェイト、逃げるよ」
「えっ、どうして」
「いいから。アンタ、死にたくないんだろ。あたしだってまだ死にたくないんだ」
「はぁ……」
訳もわからずぐいぐいと引きずられ、工房の外、そして町の外に出る。







―――― 一昼夜たって戻ってみると、工房のあった近辺五メートル以内は綺麗さっぱり焼け野原になっていた。

あとがき

何気にソフィアとマリアが腹黒です(汗)
水面下で静かに、でも陰惨に繰り広げられる女同士の戦い。
すっげ、書きやすい(爆)
でも個人的にこの争いにネルさんは加えたくない。
どうか遠くの方から安全に見守っててください。
そしてピンチになったら助けてください、せめてフェイトだけでも(爆)

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