不毛な争い

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先人は言った。
“無邪気は時として罪である”、と。








「うわぁ~・・・・・・」
わぁ~、わぁ~、わぁ~と声が幾重にも響き、やがて消える。
「迷ったねぇ」
至極当然なことを口に出して見せたのはクロード。
現在パーティは地図にも載っていない洞窟内を探検中。
なぜそんな場所に入ることになったかは、“パーティ内にセリーヌがいる”と言うだけで十分説明は事足りるだろう。
ちなみにレナは風邪のため宿屋でダウン中。
まぁとにもかくにも彼らは迷っていた。

「ちゃんと戻れるよねぇ」
「いざとなったらサザンクロスで天井に穴あけて脱出いたしましょう」
過激な提案をしたのはセリーヌ。
それに冷や汗を掻きながらクロードは首を横に振った。
「あの、そんなことになったら僕らまで生き埋めになっちゃうし、だいいち物を壊すのはちょっと・・・・・・」
「じゃあ僕のブラックセイバーで横一直線に穴あけてみる?運がよければ出口まで最短でいけるよ」
「だから物壊すのは・・・・・・」
「・・・来るぞっ!」
ディアスの低い声に一同は戦闘体勢をとる。
この洞窟は複雑な上に敵までぞくぞく出てくる。
弱いのがまだしもの救いか。
「あー、もう!鬱陶しいなぁ」
木の葉を撒き散らせながらアシュトンが叫ぶ。
ちなみに洞窟内はすべて石造りなのでこの木の葉をどこから調達しているのかは不明だ。
「質より量で攻めるなんて、知性のかけらもないね」
「まったくだぜ」
レオンの言葉にボーマンが頷く。
「でも彼らの住処に侵入したのは我々のほうですし」
平和的なことを言いながら拳を休めないノエル。
「・・・・・・」
ディアスは言葉もなくただ敵を切り裂く。
敵が多い分戦闘は長引くと思われた。
だがしかし。
「うわっ!!」
クロードが悲鳴をあげる。
『どうした!?』
反応の早すぎる一同の目に、信じがたい光景が映った。
「あ、油断しちゃった・・・・・・」
顔を顰めるクロードの頬に、三本の血の筋。
垂れ流れる赤い血がクロードの白い頬を染める。

・・・・・・プツッ

それは一同のくもの糸より細い理性の糸が切れる音。
同時に敵方の悲惨な末路が決定した音であった。

「だー!!クロードの顔に何てことするんだぁ!!トライエースッ!!」
あなたこそ格下の相手に何てことするんですか、アシュトン。
そしてそんなアシュトンをドラゴンブレスで応援しないでください、背中の双頭竜。
「手前ら、楽に死ねると思うなよっ!!桜花連撃!!」
怒りでスピードも威力も三倍アップですか、ボーマン。
って言うか敵さんとっくに息の根止まってますがな。
「残念ながらあなた方を帰すわけには行きません。アースクエイク!!」
言葉こそ穏やかだがやってる事はえげつないな、ノエル。
先回りして出口をふさぐだなんて。
「お前たちのその行為は万死に値するよ・・・・・・デーモンズゲート」
静かな分不気味さが当社比五割増だな、レオン。
後ろの魔王すらも怯えている。
「・・・・・・殺す。夢幻っ!!」
その言葉にすべてを凝縮してますな、ディアス。
気迫のみで相手はもう精神崩壊してますけど。








――――勝負は一瞬だった。
しかし悪夢のような一瞬。
すべてが終わった後、あたりには敵の亡骸ひとつ残っていなかった。
「大丈夫!?クロード!!」
一目散に駆けつけたのはアシュトン。
「ん。大丈夫だよ」
そう言っているがクロードの顔色は若干悪い。
だがその顔色が自分達の行った大虐殺を見たせいだとは思わぬアシュトンは、
「顔色悪いよ、大丈夫?貧血?」
「大丈夫だよ、ありがとう。アシュトン」
にっこりと心配させないように笑うクロード。
一瞬アシュトンの頭の上に天使の鐘が鳴り響いた。
(クロード!君はなんて健気なんだ!!僕に心配させないためにそんな・・・・・・)
くうっと嬉し涙に暮れるアシュトン。
頭を背中の二匹に噛まれていて、顔には涙と血が斑に流れているだなんて気づいていない。
「クロード!大丈夫だよ!!君が傷物になったって僕はぜんぜん気にしてな・・・・・・ぐはっ!!」
最後まで言い切る前にアシュトンの体が後ろに吹っ飛ぶ。
「妙なこと言わないでくださいね、アシュトンさん」
吹っ飛ばされた原因はノエル。
その見事な豪腕を戦闘中も披露してほしいものだ。
「クロードさん、大丈夫ですか?」
打って変わって優しい口調で問う。
「よかった。血、固まりかけてますね」
「はい。ご心配かけまして・・・・・・」
「良いんですよ。あなたなら幾らでも心配をかけさせられても」
「ノエルさん・・・・・・」
優しい言葉にクロードも微笑みかける。
「ありがとうございます」
「そんな・・・・・・」
その微笑のあまりの綺麗さに、我を忘れノエルが抱きつきかけた、その時。
「ブラックセイバー!!」
突っ切る闇の刃がノエルに直撃。
行き過ぎてアシュトンにも直撃。
復活しかけていたアシュトン、再び三途の川へ逆戻り。
「の、ノエルさん!アシュトン!!」
「ごめんなさぁい!うっかり手が滑っちゃって!!」
白々しく登場したのはレオン。
そう言いながらしっかりノエルに狙いを定めていたのは見間違いではあるまい。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「いや、僕よりあの二人のほうが・・・・・・」
クロードが心配するのも無理はない。
なぜなら二人とも薄暗い洞窟内の明かりでもわかるほどに血を流しているからだ。
献血車の人が無駄遣いするなとお冠になるくらい。
「僕はお兄ちゃんさえ無事ならいいの!!」
レオンがクロードに飛びつく。
「お兄ちゃんが死んじゃったりしたら・・・・・・僕・・・・・・」
「レオン・・・・・・」
潤む両目にクロードのほうもジンときた。
背を屈ませ、目線をレオンに合わせる。
「僕は絶対大丈夫だよ。だから心配しないで、ね」
柔らかく浮かべられた笑みに、レオンの頬が赤くなる。
「お兄ちゃん・・・・・・」
「んっ?」
目線が同じなのをいい事に分かっていないクロードにキスをしようとした・・・・・・が世の中そんなに甘くない。
「うっ!」
レオンが突然うめいて倒れる。
「レオン!!」
「ああぁ、寝ちまったか。これだからお子様は」
倒れたレオンを脇に避けてボーマンが呟く。
さっきレオンの首筋に手刀を叩き込んだのは彼だ。
もっとも、そのことをボーマンに言えば、“身の程知らずのガキに破砕弾使わなかっただけマシ”という答えが返ってきそうだけど。
「あんなに暴れりゃ、眠りもするわな」
「そ、そうなんですか?」
いまいち釈然としないながらもボーマンの言葉に頷く。
「血ィ、止まったか?」
「あ、はい。おかげさまで・・・!」
傷口にボーマンの手が触れ、ぴりりと刺す痛みに思わず顔を顰める。
「わりっ。傷開いたか」
「うぅ、そうみたいです」
「んじゃ消毒しなきゃな・・・・・・」
「えっ・・・?」
ボーマンの顔に真剣味が増す。
「じっとしてろよ・・・・・・」
いつにない静かな言葉に、まるで呪縛にでも掛かったように動けなくなるクロード。
ボーマンの唇がクロードの頬に触れかけた・・・まさにその瞬間。
「疾風突っ!!」
「ぐはあっ!!」
叫び声と共にボーマンの体はふっとぶ。
飛ばされる前、硬いものの砕けるような音が首筋あたりからしたのは気にしないでおこう。
そしてちょうどクッションになったのは立ち上がりかけていたアシュトン。
アシュトン、三途の川へ三度目の旅立ち。
下手すりゃ永住権獲得。
「・・・・・・馬鹿め」
「でぃでぃ、ディアス!?」
いきなり仲間を襲撃したディアスに、クロードは非難の声を向ける。
「何てことするんだよ!!」
「・・・・・・お前はもう少し警戒心をもて」
「警戒心って・・・何で仲間にそんなものもたきゃだめなんだ?」
訳が分からなくて小首をかしげるクロード。
その愛くるしい様子に、ディアスはぐっと言葉に詰まった。
もともと言葉が少なく、説明などの苦手なディアス。
よもや自分も含め仲間がクロードに恋情を抱いているなど説明できるはずもない。
「ねぇ、何で?」
上目遣いに言葉の意味をねだるクロードに、いっそ態度で分からせてやろうかと行動を起こしかけ・・・・・・
「ソードダンスっ!!」
あえなくそれは阻止された。
「油断も・・・隙もない・・・・・・」
「ひぃぃっ!アシュトン!!」
クロードが悲鳴を上げるのも無理はない。
なぜならアシュトンはあの世から帰還したばかり。
ゾンビもかくやという状態を晒していたからだ。
一応気力でディアスをなぎ払ったが、復活したばかりだからしょせんそこまで。
アシュトンはそのままクロードの胸に倒れこんだ。
「あ、アシュトン!!しっかりして、アシュトン!!」
暖かい体温に、このまま死んでもいいとアシュトンが本気で思いかけていた、その時。
「もう、アシュトンってばっ!!」
ゴッ、といい音がして、アシュトンのさっきの望みは叶った。
音の正体は投げつけられたロッド。
その持ち主は・・・・・・
「セリーヌさん!?」
「大丈夫ですの?クロード」
その言葉はできるなら足元で死線を漂っているアシュトンに向けていただきたい。
「どこ行ってたんですか!今まで!!」
そういえばあの騒ぎの中セリーヌの姿は見えなかった。
セリーヌはその事に関してなんの悪びれもせず説明した。
「皆さんが戦っている間、この洞窟の中を隅々まで見てまいりましたの。もう出口も見つけてますわ」
「ほんとですか!?」
クロードの顔に喜色が差す。
セリーヌは探した甲斐があったとばかりに悠然と微笑む。
「ええ。ですから早くこの洞窟を出ましょう。レナもきっと待っていますわ」
「あ、でも、他のみんなが・・・・・・」
クロードの目が薄闇に倒れたままの仲間たちに向けられる。
「あらぁ、みんなでしたら大丈夫ですわよ。さっきのアシュトンを見ましたでしょう?その気になればゾンビになっても追いかけて来ますわ」
さりげなく酷い、だがこの上なく的をついた言葉を吐くセリーヌ。
「そう・・・でしょうか?」
「そうですわよ。さぁ、だから早く参りましょう」
ぐいぐいと女性とは思えない力でクロードを引っ張っていくセリーヌ。
暗い通路を行きながらクロードは呟いた。
「そういえば何でみんな戦闘でもないのに技を出したりするんだろう・・・・・・?」
不思議極まりないと言う口調のクロードに、セリーヌは初めて男連中に同情を覚えた。
同時に、連中の邪な想いにクロードが気づかない限りこの非生産的な争いは絶えることがないだろうと、こっそりこめかみを抑えたのであった。

あとがき

八日間連続更新企画より
この争いが尽きる日はあるのか?
・・・おそらく永遠に無いと思う(爆)

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