君の、夢を見た
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「――――ッ!?」 一際心臓が高く跳ね、ディアスは目を覚ました。 その目に映ったのは朧の月明かりに照らされた天井。 横たわっているのは上等な部類に入る寝台。 (ああ) うっそりと息を吐き、肘を突いて起き上がる。 すると髪を伝い、シーツに一点のシミが出来る。 額を拭うとぎょっとするほどの寝汗。 ディアスは汗でへばりつく髪をかき上げた。 何気なく隣を見ると同室者は自分と反対のほうを向いて眠っているようだ。 ディアスは静かに寝台から降りた。 足音も無く隣の寝台に近づくと、相手の口元に手をやり、息を確認する。 手のひらに確かな息遣いを感じほっとした。 眼下で懇々と眠り続けているのはクロードという少年。 ディアス自身が最も愛しく感じ、自分の身を投げてでも守り抜こうと決めた相手。 確かにその気持ちに間違いは無い。 けれども。 息を確認していた手は、やがて額をなぞり、丸みを帯びた目蓋へ移動する。 それから頬、唇、首筋を次々となぞる。 首筋まで来たとき、わずかにクロードが身を捩じらせた。 起こしたのかととっさに指を引いたが、また寝入ったようだ。 ほっとして、また視線を元に戻す。 恋しい。 愛しい。 けして言葉に出来ない心。 恋しい。 愛しい。 たった三文字の中では収まりきれない想い。 恋しい。 愛しい。 こいしい。 いとしい。 けれど。 それと同じくらい湧き上がる、認めたくも無い思い。 感じるたびに恐怖に身が縮む。 失う恐怖。 亡くす恐怖。 それに伴う安堵。 思うたび、己自身に嫌悪感が募る。 刹那を生きようとした自分が、得たいと望んだ永遠。 恋しい。 愛しい。 守りたい。 失くしたくない。 亡くしたくない。 それなのに。 細い首に指を回す。 眠り続けるクロードに気づいた気配は無い。 喉仏あたりに添えた親指に少し力を込める。 脳裏では先ほどの悪夢がよぎる。 そしてそのまま…… 力を弱めることなく口付けた。 闇の最果てに観えるもの。 鮮血と笑い声。 かつての現実のリプレイ。 血溜まりに横たわる姿は幸福の象徴だった家族ではなく。 ぬばたまの闇に浮かび上がる金の髪。 かつてこの腕に抱きしめたときとおなじやわらかさを帯びた体は、陶器のような凄絶な青白さにそまり、ぬくもりは徐々に失われつつある。 その傍で血に塗れた己の腕を眺め呆然と立ち尽くす後姿は…… ――――自分自身に違いなかった。 |
あとがき
ディアスの悪夢。
やっぱりあの事件はいつまでも心の中に残っているんだろうなぁと思って。
愛しすぎて殺したくなるときがある。
書き古されたテーマですね。
それにしても暗〜・・・・・・
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