欲しいモノ

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「チサトさん、何か欲しいものありますか?」
「時間とネタ」
「・・・・・・」
即答するあたりだいぶ煮詰まっているのだろう。
クロードはこんな時に聞いたことを早速後悔した。







ここはギヴァウェイの宿屋の一室。
外は極寒の雪地獄だが、ヒーターをガンガンかけているせいか、中は汗ばむほど暑い。
その部屋のベッドに腰掛け、所在なげにしているのはクロード。
そして書き物机の前で唸る一人の女性・・・・・・
熱血新人記者、チサトである。
「うぅ〜、うぅ〜うぅ〜・・・・・・」
かれこれ一時間。
彼女は低く獣のように唸りつづけていた。
理由は簡単明白だ。
「うぅ〜・・・・・・明後日締め切りなのに〜・・・・・・」
彼女は元々十賢者討伐に向かう勇者一向の様子を取材する為に同行しているのだ。
明後日はその第一回取材結果を社に送らねばならない。
だがさっきからの様子でわかる通り一向に話はまとまらない。
入社以来初の大ピンチである。
「うぅ〜ウゥ〜う゛〜・・・・・・」
「・・・・・・」
そんなチサトを静かに見守るクロード。
・・・下手に話し掛けたりするとバーニングカーズが飛んでくるのは三十分前経験済みである。
(これはダメかな・・・・・・)
実はある目的があってチサトの元を訪れていたクロードであったが、当のチサトがまったく相手をしてくれないのでは話にならない。
「あの、チサトさん。それじゃあ僕、部屋に戻りますから」
聞こえているのかいないのか。
相変わらず唸りっぱなしのチサトを後に、クロードは自分の部屋へ戻っていった。
部屋へ戻りすがらの廊下でふと考え込む。
(・・・・・・もう、二日しかないんだよなぁ・・・・・・)






そんなこんなで日は流れ。
「・・・・・・出来た」
あがったファイルを前に、チサトは気が抜けたように呟いた。
そのまま椅子に反り返る。
「あ゛〜〜〜〜・・・・・・」
言葉にならない。
この二日間は本当に怒涛の勢いであった。
寝る間も食事時間も削って取材内容の分別にあたり、それを編集長も認めるような文章に仕上げ、途中何度も癇癪を起こし、ようやっと今日、締切日当日に書き上げたのである。
「んん〜・・・・・・。つっかれたぁ・・・・・・」
椅子から立ち上がり体を伸ばす。
この二日間、ほとんど椅子から離れなかったせいか体が椅子と合体してしまったような感じだ。
思いっきり体をそらせると、背骨がひどい音を立てた。
体を戻してふと隣を見る。
「あはは・・・・・・ひっどい顔・・・・・・」
姿見に映る姿は確かにひどい。
目の下には隈が出来、肌のつやも悪い。
髪にいたっては無人島にいたかのようにぼさぼさだ。
「こりゃー、お風呂はいんないと編集長びっくりしちゃうわね」
鏡の中の自分が同じように苦笑を漏らす。
チサトはもう一度だけ体を伸ばすと、備え付けのシャワー室へ入っていった。










「やぁぁぁっと終わったぁ〜・・・・・・」
街の中心、大きな街灯や屋台のある広場までやってきたところで、チサトは歓声を上げる。
「ゲンコー渡すまで終わったぁって実感無かったのよね〜・・・・・・」
「お疲れ様です。チサトさん」
後ろから、ついてきていたクロードはにっこりと労いの言葉をかけた。
「ありがとう。クロード君たちにも迷惑かけたわね。あたしが遅筆なせいで旅に支障出しちゃって・・・・・・」
「そんな事無いですよ。たった二日や三日、すぐに取り戻して見せますから」
「ふふ・・・・・・ありがとう」
チサトはクロードに向かって心底嬉しそうに微笑んだ。
「さぁって。じゃあ皆待ってるから早く帰りましょう・・・・・・」
「あ、ちょっと待ってください!」
さっさと街の外に出ようとするチサトを、クロードは慌てて呼び止めた。
「なぁに?」
「あの・・・・・・少し、買い物していきませんか?」
「いいわよ。何か足りないものあった?ブラックベリー、リザレクトボトル、それともラベンダー?」
「いや、そうじゃなくて・・・・・・」
きょとんと足を止め、目を見張るチサトに、クロードは若干赤らんだ頬をかきながら、
「今日・・・って、あれだから・・・・・・」
「アレ?」
まだ解らないのか、チサトは首をかしげる。
クロードはあらぬ方を見ながら続けた。
「今日は・・・・・・チサトさんの誕生日じゃないですか」
「――あっ・・・・・・」
チサトは小さく声を漏らした。
それから照れくさそうに頬に手をやり、
「あ、ごめーん。そういえばすっかり忘れてたぁ・・・・・・」
「・・・でしょうね」
らしいなぁとクロードは微笑する。
「二日前に何か欲しいものは無いかって聞いたけど、その時は原稿に必死だったから聞けなくて」
「ご、ごめん・・・・・・」
「あ、謝らないでください!あんな時に訊いた僕も悪いんだしっ!!」
俯くチサトに、クロードは慌てて弁明した。
「だから、あの、今日は何か欲しいものがあったらプレゼントしようかなって思って・・・・・・!」
「・・・・・・プレゼント?」
「はい・・・・・・すいません、気の利かない男で」
もう一度きょとんとなったのを呆れてと解釈したクロードは、盆の窪に手をやりぺこりと頭を下げた。
「やだ・・・そんなんじゃないって」
なんだか可愛らしいその仕草に、チサトはクスリと好意的な笑みをこぼした。
つられてクロードも笑う。
「何か欲しいものあります?」
「ん・・・・・・そうね、モノじゃないけど・・・・・・」
チサトは微笑んだままクロードの腕を取り、
「今日一日、ずっと一緒にいてくれたら嬉しいな」
「――本当にそれだけでいいんですか?」
「いーの、いーの」
釈然としないクロードの腕に自分の腕を絡ませ、チサトはにっこりと笑った。
「たまには取材抜きで二人っきりになりたいしね」
クロードの頬が赤らむのを見て、チサトはなお楽しそうにクスクスと笑みをこぼした。

あとがき

去年は出来なかったチサトさん生誕祝い。
今年はやりました!!
しかも初のクロード×チサトです!!
実は自分、チサトさんかなり好きなのですがこんな風に主役で書くのは初めてなんです。
なんだかクロードがアシュトン化している気がしますが(笑)
気にしないでおきましょう、ね。

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