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草木も遠に眠りこけた午前三時四十四分。 わずかにランプの点る廊下を女性を抱えた男性が通った。 朧の光に映える濃い青の髪。 抱えているのは薄い藤色の髪をした美女。 ただしかなり酔っ払っているらしくその顔は赤い。 青年は目的の部屋に来て初めて両手が塞がって使えない事に気がついた。 しかたが無いので肩で強引に押し開ける。 光の無い真暗な部屋。 見当をつけてベッドに女性を放り、枕元のランプに灯を入れてから何かを探す。 「う・・・ん・・・」 そのうちに女性が目を覚ました。 「あら・・・ワタクシ、どうしたのかひら・・・?」 まだ若干舌が縺れている。 ゆっくりと肘で体を支えて起きる。 「ディアス・・・何してますの?」 「水」 ここまで運んできた青年は短く答えて、テーブル上の水差しを取った。 「飲んだ方がいいぞ」 差し出すが、セリーヌは受け取らない。 「気分が・・・大変優れないですの」 「あの女のピッチに付き合うほうが悪い」 ディアスは冷たく突き放し、なおも水差しを進めた。 「だってオペラってば次から次へ注ぐんですもの・・・断る暇もありゃしない」 セリーヌはしつこく進める水差しを両手で押し戻し、ベッドに崩れ落ちた。 「ううぅ・・・一生の不覚ですわ・・・」 苦しげにうめいて息を吐く。 「・・・・・・」 その様子を見ながら、ディアスは溜息をついた。 「やはり飲め。そのままでは余計に・・・」 「嫌です。飲んだって事態は変わりませんわ」 セリーヌは唇を尖らせ、なおも拒んだ。 既にダダッコの状態だ。 「・・・・・・」 ディアスが軽く息を吐く。 そして小さく「仕方ない」と呟くと、水差しの口を自分に向けた。 それから。 「ん・・・・・・」 自分の口内に含んだ水をセリーヌに注ぎ込む。 喉を冷たい水が通る。 喉を鳴らしながらセリーヌはそれを飲み干した。 しばらくのち、湿らせた音を響かせ、二人の唇が離れた。 どちらのものともつかない銀の雫が糸を引く。 「飲めるじゃないか」 そっけなく言ってディアスは水差しをテーブルに戻した。 「これは。飲んだ、じゃなくて、飲ましたって言いますのよ・・・」 セリーヌはベッドに臥したまま、呆れた声を出した。 「どちらでも一緒だ。では俺は帰るぞ」 「あ、ちょっと・・・!」 ドアに手をかけたディアスを呼び止める。 ディアスはその声に振り返った。 「いったいなんだ?」 「何か忘れておりません?」 「さて・・・何かあったか」 ディアスは白々しくそっぽを向いた。 「・・・意地悪」 セリーヌが拗ねたように枕に顔を臥させる。 その姿を見ていたディアスは唇にうっすらと笑みを浮かばせ、セリーヌのベッドに近付いた。 旅宿の上等と言えないベッドが二人分の体重を受けて軋む。 「たしかに一つ忘れていた」
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あとがき
セリーヌさんの誕生祝。
去年は出来なかったので今年こそ・・・!
と、思いついでにディアスの誕生祝も兼ねてしまおうと思って
ディセリです(爆)
ん〜、ディセリってどうして夜のイメージがあるんだろう?
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