朝など来なければいい。
夜を迎えるたびにそう思っていた。
光などなくていい。
闇に包まれるたび思いは強くなっていった。
朝は光をつれてくる。
光はすべてを照らし出す。
醜い姿も歪な心も。
何もかもがさらされる。
朝なんていらない。
光なんていらない。
君さえいれば、それだけでいいんだ・・・
開け放たれた窓から覗く銀の月。 吹く風が時折カーテンを揺らす。 耳が痛くなるほどの静寂の夜。
抱き締めた躯が微かに身じろぐ。 「レナ・・・」 ゆっくりと髪を撫でると、レナはくすぐったそうに身をよじった。 他に誰もいない狭い部屋の中。 夜ごと重ねる逢瀬。 数えるほどの時間だけれど、この時間がたまらなく愛しい。 「レナ・・・」 戯れに自分の下で寝転がる恋人へ口付けを落とす。 額に、瞼に、頬に、唇に、首に。 「くすぐったい・・・」 くすくすと笑みを零しながら落ちてくる唇を指で制す。 胸元に顔を埋めると、心音が聞こえる。 レナの音。 すがるように抱き締める。 身を守る術を持たない幼児のように。 強く、強く。 「クロード」 しなやかな白い指が、クロードの金糸を梳く。 あやすように、慰めるように。 クロードは顔を上げると、薄暗い闇の中でも光を放つ白い肌へ一つ。 キス。 体を重ねると、服越しに二人の鼓動が混ざり合う。 トクトクトクトク。 「このまま・・・」 クロードがレナの耳元へ囁いた。 「二人一緒に溶けてしまえばいいのに」 溶けて、どちらか分からなくなるほど混ざり合う。 体も心も存在も何もかも。 一つになる。 そうすればもう見失う事も離れる事も無い。 「そんな事しなくても、私は離れないわ」 諭すように、レナが囁く。 「永遠に・・・」 「永遠なんて無いよ」 人はいつか死ぬ。 死ねば終り。 生を失った肉体は、ただの抜け殻。 「それでも死んでも、魂だけになっても、貴方のそばにいるわ」 「そんなのは確かじゃない」 魂なんて見たこと無い。 だから信じられない。 「・・・ねぇ、もし」 もしも、君が先に逝くような事があれば。 「僕を殺してくれる?」 きっと一人では死ぬ事なんて出来ないだろう。 だから。 「君が先に死んでしまう前に、僕を殺して」 君のいない世界なんて意味が無い。 「クロードが先に死ぬ事になったら?」 「その時は君を殺すよ」 そうすれば誰かにとられることも無い。 本当に、永遠を共にすることができる。 「殺して。君に殺されるなら、僕は嬉しいんだ」 胸に顔を埋めて、きつく抱き締める。 行く当てのない涙が溢れて、胸元をぬらす。 顔を上げたクロードはレナの唇に自分のそれを重ね合わせた。 息すら出来ぬほどに激しく、強く。 互いの吐息も、魂すら分け合い、貪るように。
朝なんていらない。
光もいらない。
夜も、闇もいらない。
世界も、何もかも必要ない。
君さえいれば、何も、誰も。
―――僕さえもいらない。
やがて部屋に静寂が訪れる。 すべてをかき消し、赦すような。 それは闇の静寂。 存在すらかき消す、死の静寂―――
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