独裁-monopolize-
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「クロード!」 聞き覚えのある声に呼ばれクロードは振り向くと、そこには仲間であるアシュトンがいた。 「どうしたの?アシュトン・・・って、ちょっと!!」 「・・・・・・」 アシュトンは自分が呼び止めたのにもかかわらず、いきなり今までクロードが話していた相手に、彼らしからぬキツイ一瞥をくれると、さっさとクロードの手を引いて歩き出した。 歩いているというよりも走っているという早さで、とおりすがる街の人間は何事かと目を丸くしたが、あいにくアシュトンには周りに目をむける余裕など無かった。 「ちょっと、なんなんだよ、アシュトン!!」 到着したのは宿の一室。 無理やり連れて来られたクロードは痛む腕をさすりながらアシュトンに言った。 「いきなりこんな事するなんて・・・」 「あの人となに話してたの?」 今まで黙っていたアシュトンが初めて口を利いた。 その声は地を這うほど低い。 「あ、アシュトン・・・?」 「さっきの男となに話してたって聞いてるの!!」 「べ、別にたいした事じゃないよ・・・道を聞かれただけ」 「よもや喫茶店やレストラン、或いはホテルの場所じゃないだろうね・・・?」 「あれぇ、よく分かったね?この辺に喫茶店は無いかって聞かれてたんだ」 「・・・おまけにそのあと食事に誘われなかった・・・?」 「うん、お礼に一緒にお茶でもどうですかって」 「・・・」 アシュトンはあまりに自分の予測どおりの展開に溜息をついた。 「どうしたの、アシュトン?」 いきなり沈み込んだアシュトンに、クロードは気遣わしげに声をかけた。 と、突然アシュトンはきっと頭を上げると、 「あのね!それはナンパって言うんだよ!!」 「ええっまさか!ぼく男だよ!!」 クロードが目を大きく見開く。 本当に分かってなかったのか・・・ アシュトンはもう一度溜息をついた。 鈍い鈍いと思っていたがまさかここまでとは・・・ 多数の紆余曲折を経てクロードと恋人になったのはつい一ヶ月前。 恥ずかしそうに顔を赤らめながら頷かれた時は、嬉しさのあまり腰が抜けたものだ。 告白する前は既に誰かと付き合っているのではないかと邪推もしたが、そんな事は結局取り越し苦労だった。 ―――と思っていたのもつかの間。 本当の苦労は恋人になった時点で始まった。 なんせ周りは二人が付き合っていることを知らない。 アシュトンは公表(牽制の意味もかねて)してもいいと思っているのだが、クロードが「それだけは絶対ダメ!!」と言うのだから仕方ない。 しかし、そのせいでクロードはいまだにパーティの女性やら一部男性陣から言い寄られている。 おまけと言っちゃあなんだが、さっきみたいに街角でナンパに会うこともしばしばで。 唯一の救いはクロードが鈍すぎてそれらのアプローチにまったく気づいていない点か。 さらにクロードは非常に照れ屋なのか、今までクロードの口から「好き」という言葉を聞いた事が無い。 とにかく、アシュトンは毎日気が気ではなかった。 周りに自分のものだと言えない事と、クロードに強気に出れない自分へのジレンマで。 空回る恋心。好きになるほど―――むなしくなるのはどうしてだろう。 「アシュトン?」 クロードは黙り込んでいる心配そうにアシュトンに声をかけた。 「ねぇ、クロード・・・」 俯いたまま、手を伸ばしクロードの腕を捕らえる。 「何?」 アシュトンの様子に気づく事もなく、クロードは首をかしげた。 「僕の事好き?」 「えっ・・・・・・?」 言われた瞬間目を見張り、徐々にその顔は赤くなった。 「な、なにをっ突然!?」 「好き?」 「そんな・・・事・・・言わなくても・・・・・・」 「言って」 捕らえる手が強くなる。 「痛っ」 爪が白い腕に食い込み赤い跡になる。 「離して・・・っ」 「言って」 必死だった。 「好き?」 それが、世間から見ればチャチな嫉妬でも、 「それとも」 わがままでも、 「嫌い?」 ―――『云葉』を聞かなきゃ不安でどうにかなりそうだ。 或いは、もう・・・ 愛してるからわがまま言わせてよ。 こうして独占したいのも、 君の事、愛してるからだよ・・・? はらり アシュトンは目を見張った。 クロードの目から一筋。 涙がこぼれた。 「あっ・・・」 驚いて手を放す。 クロードは糸の切れた傀儡のように、床にへたり込んだ。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 互いに続く長い沈黙。 「ごめん・・・」 アシュトンがひざまずいて、クロードの目元に手を伸ばした。 「ごめん、ちょっと・・・嫉妬してただけなんだ」 「・・・・・・」 クロードはアシュトンの手を振り払おうとはしなかった。 「本当に、ごめん」 「・・・き」 「へっ?」 「好き」 クロードは顔を上げると、真っ直ぐにアシュトンを見て、 「アシュトンの事が、好き」 「クロード・・・」 「恥ずかしくて、いえなかったんだ。それに・・・君なら、言わなくても分かってくれると思ってた。―――ばかだよね、言わなきゃ・・・伝わらないのに」 本当に馬鹿・・・とクロードは弱々しく笑った。 「ごめんね、今まで言わなくて」 「そんな・・・!僕のほうこそ!!」 そんな気持ちも知らないで自分の気持ちを押し付けようとしていた。 おまけに・・・と白い腕に出来た爪あとを見る。 まったく、自分勝手もいいところだ。 「痛い?」 そっと弓月形の跡に指を滑らす。 そして、なぞるように唇を這わす。 「もう大丈夫だよ」 クロードは少しくすぐったそうに言った。 「・・・あのさ」 「うん?」 「・・・・・・みんなに、僕等が付き合ってる事言おうか」 「えっ!?」 アシュトンがびっくりして顔を上げると、 「いつかは言わなきゃいけないでしょう?だったら、早いうちに言っちゃおうよ」 「でも、クロードは・・・」 前にさりげなく切り出したらものすごい剣幕で怒り出したはずだ。 「ほら、あの時は付き合ったばかりだったし、絶対信じてもらえないと思ってたから・・・それに」 ほんのり朱に染まった頬を指で掻きながら、 「それに、今なら君を好きだって心のそこから言える気がするから」 「クロード・・・」 アシュトンはクロードの体をかき抱いた。 重ねた唇は、ほんの少し塩辛い気がした・・・ 後日談。 アシュトンは忘れていた。 「クロード!こんな所で何してるの!?」 「へっ?いや、ディアスが剣術の稽古つけてくれるから来いって・・・」 「あのねぇ~~~!!」 彼の仲間達が、他の人間と付き合っているというだけで諦めるほど殊勝な人間でないと言う事に・・・ |
あとがき
13000自爆リク。
原題「恋は焦らず」
現在、面影無し。
・・・・・・最初はね、本当にほのぼのだったんですよ。
昔天才テレビくんで聞いた曲が頭の中を反芻しながら書いてたんです。
でも途中からTMRの『独裁』に摩り替わってました。
・・・人の脳の神秘を垣間見た気がする・・・(笑)
ついでにこれの元が途中で挫折したレオクロ小説なんて内緒内緒v(爆)
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