碧海晴天
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名前を呼ばれるのが好きだった。 呼んでもらう事で、自分の存在を再確認できるようで・・・ でもそうしなければ自分という存在が消えてしまうことが、 何故か悲しかった。 クリクへ向かう途中。 朝から歩き詰めだったクロード達は、川の近くで休憩を取ることにした。 セリーヌは食料探しに出かけている。 最初、付いてゆこうかとクロードは言ったが、一人の方が気楽だから、と辞退されてしまった。 レナの方はレナの方で昼食の支度にとりかかる。 結局、クロードは何もする事がないまま、橋に腰掛け食事ができるのを待つ事にした。 清涼な流れの中、魚達が跳ねるたび自分の顔が波紋に打ち消されてゆくのをただぼんやりと見つめる。 (そういやこうやってのんびりするのって何年振りかな・・・?) 連邦に入る前、士官学校の頃からクロードは時間に忙殺されていた。 休日などはちゃんととっていたが、それでも課題や調べ物などでつぶれる事の方が多かった。 休日って休む日って書くのよ、と自分もあまり休みを取らない母に苦笑された事を覚えている。 友達と遊ぶ、ということもした覚えはない。 友達といっても『英雄の息子』に面白半分に近づく奴か、将来への投資目的の連中ばかり。 そういう意味では『友達』なんていやしなかったのかもしれない。 (なんか、すっごく暗くなってきたな・・・) のどかな風景に嫌というほど似つかわしくない考え。 クロードは自嘲しながらも思い出しつづける事を止めなかった。 レナに呼ばれるまでずっと。 「さっきから呼んでるのに、どうしたの?何か考え事?」 「うん、まあね・・・」 言葉を濁すクロードにレナは眉を寄せた。 「何かあったのなら相談に乗るけど・・・」 うつむくクロードの隣に座りながらレナは自分でもおせっかいかな、と思っていた。 「・・・名前」 「へっ?」 クロードが出し抜けに口を開いた。 「昔、名前を呼ばれるのが凄く好きだったんだ。特に父さんから呼ばれるのがね。呼ばれるたびに僕は自分の存在を確認できた」 「・・・・・・」 「それ以外のときの僕は、なんていうのかな。 『クロード』じゃなくて『英雄の息子』だったんだよ。みんな僕を通して父さんを見ている。名前を呼ばれても、かならず名前の前に『英雄の息子の』って付いているような気がして、自分という存在がないような気がして、」 いったん言葉を切って、顔を上げたクロードは、 「凄く怖かった」 ・・・寂しそうに笑っていた。 その横顔を見て、レナは思わず胸を抑えた。 つきつきと切なく痛む。 今にもこの空気の中に解けて、消えて、なくなってしまいそうで・・・ レナは泣き出しそうな切なさの中で言葉を失った。 太陽の光は変わることなくあたりに降り注ぐ。 しばらくの沈黙の後、クロードはレナの方を向いた。 その顔は、いつもの、レナのよく知っている顔。 「ごめんね、変なこと言っちゃって。何か妙にナーバスになってたみたいで・・・」 「クロード・・・」 レナがクロードの名を呼んだ。 「何?」 「クロード」 「だから・・・」 「クロード、クロード、クロード、クロードクロードクロード・・・」 「・・・・・・」 真剣な表情で言うレナの顔をぽかん、と見つめる。 「不安なら、私が確認してあげる。クロードはクロードよ。あなたはちゃんとここに居るわ。だから、」 だから消えてしまわないで。 最後の言葉は声になることなく消えた。 クロードは見上げてくる濡れた瞳に、ちょうどこの空と同じような青い瞳に自分が映っているのを見る。 その瞬間。 やっと。 なくしていた何かを見つけたような気がした。 (・・・今まで何考えてたんだろう) 今までの考えが急に莫迦らしくなってクロードは腹を抱えて笑い出した。 笑い転げるクロードにレナは唖然としていたが、やがて顔を真っ赤にして怒り始めた。 「ひっどい!せ、せっかく元気付けようと思って言ったのに!!笑うなんて・・・!」 「いや、ご、ごめん。別にレナの言葉に笑ったわけじゃなくて・・・」 「じゃあなんなの!!」 「ちょ、ちょっとね」 「やっぱり私の事で!」 「だからそうじゃないんだよ」 ようやく笑いから立ち直ったクロードは涙を拭き拭きレナに向いた。 「レナのお蔭で元気になれたよ」 さっきとは違う柔らかな微笑みに、レナは怒りとは違う意味で顔を赤くした。 「レナ」 「・・・何?」 恥ずかしさのあまり顔をそむけているレナにクロードは一言。 「ありがとう」 「・・・どういたしまして」 やっと上げたレナの顔は、クロードと同じような柔らかな微笑を称えていた・・・ |
あとがき
最初なぜかレナがクロードの名前連呼するところが浮かんできて、
「あ、何やってんだ?」
なんて思いながら理由考えていったらこんなのができました(笑)
タイトルの意味は『広がる青い海と青い空』
タイトルつけんのは苦手です(泣)
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