今年の夏は暑い。
いや、今年に限らず夏は暑い。
それはわかっている。
わかりきりすぎてあえて口に出すのもバカバカしい事。
















――そういう訳で。













「アイシクル!!」
「爪竜連牙斬!!」
ルーティの手から放たれた巨大な氷が、リオンの剣の舞により、一瞬にして微小な氷のつぶてと化す。
「何故僕がこんな事を・・・」
ぶつくさと不平をこぼしながら、リオンは二つ目の氷も同様のものに変えた。
「ぐちゃぐちゃ文句言わないのー!・・・しっかし暑いわねぇ・・・」
十分涼しそうな格好をしているがやはり暑いものは暑いらしい。
ルーティはヒラヒラと手で扇ぎながら云った。
「アンタ、暑くないわけ?」
「暑い」
そう言いながらリオンは汗一つかいていない。
さっきから技を連発しているにもかかわらず、だ。
「見てるこっちが暑いわ〜・・・」
「じゃあ見るな」
「しょーがないでしょ!どうしても術を唱える時そっち向いちゃうんだから!!」
素っ気の無い言葉にルーティが吠え、余計に気温を上げているところへ。
「うっわぁ〜!何?これ!」
駆け寄る無邪気な青年。
これで来年二十歳になるだなんて誰が信じられるだろう?
「なぁ、なにやってんだ?」
口の悪いルーティが云う所の"藁頭"をすっきり一つに結んでもらったスタンが目を輝かせながら云った。
「カキ氷」
「・・・?何でそんなもん作るんだ?」
リオンの言葉にスタンが首をかしげる。
「あのねぇ!!」
それに噛み付いたのはルーティだった。
「この暑さわかる!?三十六度よ、三十六度!!殆ど人間の体温じゃない!!中から冷やさなきゃとてもじゃないけど持たないわ!!」
「あ、そ、そう・・・?」
「確かに・・・この暑さは・・・異常だ・・・・・・」
スタンと同じ様に髪をまとめたウッドロウが顔色も悪く口を挟む。
雪国出身にとってこの暑さは正に地獄モノだろう。
「あんたも暑くない?その格好すっごく暑苦しそうだけど・・・」
ルーティの問いにフィリアはあっさり首を横に振った。
「いいえ。慣れてますもの」
「・・・異常者が二人もいる・・・」
リオンとフィリアの顔を交互に見合わせて、ルーティは溜息をついた。
























「うわっ!冷て〜・・・」
蜜かけの氷を口にしてのスタンの第一声。
「アンタカキ氷食べた事無いの?」
「ン〜・・・子供の頃氷売りが来た事あるけど、買った事はないな」
「・・・田舎者」
ルーティがさっくり器に盛った氷の山にスプーンを突き立て呆れる。
「私も食べた事は無いな」
スタンの隣に座ったウッドロウが云う。
「ファンダリアって一年中雪が降ってますもんね」
「夏がこんなに酷いものだとは旅に出て始めて知ったよ・・・」
いかにもうんざりといった感じで呟くウッドロウに、スタンは軽い笑いをこぼした。
「リオンは?美味い?」
「・・・不味くはない」
スタンの向かいに座り、黙って氷を食べていたリオンがぼそりと言う。
「でもほんと、美味いよな〜v」
上機嫌でスタンは氷を食してゆく。
山と盛られていたはずの氷はたちまち胃袋の中に消えていった。
「・・・急に食べると頭痛くならない?」
「ん?全然」
スプーンをくわえたままきょとんと首を振るスタンに、ルーティは軽い溜息をついた。
「でも本当に美味しいですわ」
フィリアがにっこりと笑いながら氷を口に運ぶ。
「あれ〜?フィリア・・・」
何かを見つけたスタンがフィリアに近付く。
「な、なんですか?」
いきなり至近距離に近付かれ、フィリアがどもる。
「舌、青くない?」
「舌、ですか?」
「ああ。舌。なんか青い」
「それって蜜のせいじゃない?」
「ん?そうなのか?」
「そーよ。ほら」
ぺろりとルーティが舌を出す。
やっぱり舌の上が青く染まっていた。
「ふ〜ん・・・これ食うと舌が青くなるんだぁ・・・。なぁ、俺のも青い?」
ちろりと出された舌。
うっすら赤い上が青く染まっている。
それを見た瞬間、その場にいた何人かが、












"キスしたい・・・・・・!"
















「あれ?どうしたんだ、みんな?」
急にそっぽを向いた仲間たちを見て、スタンは一人、不思議そうに小首をかしげる。
「・・・スタン君」
「はい?」
明後日を向いたままのウッドロウが、
「あまり・・・そういう行動を他の所でしない方がいい・・・」
「へっ。なんで?」
『何でもいいから!!』
見事にそろった声に、スタンは訳もわからず頷くしかなかったと言う。








それは溶けそうな夏の日の一編。
暑い日は、まだまだ終わりそうに無い。

あとがき

結局ギャグに走るのはご愛嬌です(爆)
そして何気に総受け気味(再爆)
ちなみにこれ、お持ち帰り自由です。
よろしければどうぞ♪

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