そこは都から少しばかり外れた場所。
若干口が悪く手も早い若者が最高僧を勤めている以外、
何の変哲もなく穏やかなはずだったこの寺院。
だがその世界は数ヶ月前に一変した。



「こんんのバカ猿っ!!」
すっぱーんっ!
響く音も軽やかに、今日も三蔵のはりせんが唸る。
「いってぇぇ!なんだよぉ!何で殴るんだよっ!」
涙目で抗議するのは金の目をもつ子供。
「てめぇは何考えてんだ!重要書類で紙飛行機なんか折りやがって!」
「だって、机の上にばら撒いてあったじゃん。だからてっきりいらないゴミかと・・・」
「書きかけだったんだよっ!あれほど仕事中にに入るなって言ってあったろ」
「う〜。なんだよ、さんぞーのタレ目ハゲっ!」
「だぁれがはげだ。このバカ猿〜〜〜!!」
すっぱーんっ!
本日何度目かの怒声とハリセンの音が寺院内にとどろいた。


「う〜・・・三蔵のばか・・・」
まだひりひりと痛む頭を撫ぜながら悟空は森の中を歩いていた。
あれから部屋を追い出され、悟空は一人ぼっちで寺院を出て行った。
「遊んでくれたっていいじゃん・・・」
最近三蔵は仕事が忙しいらしい。
前はちょくちょく(それでもしぶしぶ)
遊んでくれたり、勉強を教えてもらったりしていたのだが、
最近は寺院内で見かけることも少なくなった。
「一緒にすんでんのにさ・・・いいじゃん。たまに家にいるときくらい」
ぐちぐちと煮え切らない気持ちのまま足を進める。
さわやかな夏の風すら今の気持ちを晴らすことは出来ない。
木漏れ日の差す穏やかな陽の中、
悟空は最悪な気分のまま、散歩を続けた。

「あ、あれ?」
いつの間にか森の中は出たらしい。
悟空は見知らぬ道に立っていた。
「げー、ここどこだよー!」
慌てて引き返そうとする悟空の視線の端に何かが移った。
「・・・わぁ・・・」






「・・・あのバカ」
時刻はとうに門限を過ぎている。
だが悟空はいまだ帰って来ていない。
「どこいってんだ。あの猿は・・・」
苛立つ声と共に足元の灰殻が山を成す。
かれこれ三時間。
三蔵は門の前で同じ科白を繰り返していた。

「あっ」
三箱目をつけようとして手を止める。
長い階段を跳ねるように上がってくる大地色の頭。
「あー、三蔵!」
悟空は転げるような勢いで三蔵の元へ走りよった。
「今までどこ行ってた。門限とっくに過ぎてんじゃねぇか」
凍りつくような低い声。
「げぇっ!マジ!?もうそんな時間なのか」
「どこ行ってた」
「散歩してたら道に迷ってさ。あ、そうだこれ!」
悟空が差し出したのは両手いっぱいの。
「向日葵?どうした、これ」
「森の向こうに咲いてたのとってきた!!きれーだろー」
悟空は誇らしげ云う。
「なんかさ、この花の色三蔵の髪みたいで、
そんで見せたくていっぱい摘んできたんだ!」
溢れんばかりの眩しい笑顔。
「・・・・・・バカ猿」
呟くと三蔵は寺院の中へと入っていった。
悟空は慌ててそれを追う。
「なぁ三蔵、今日の飯なんだ?俺腹へってさ〜」
「てめーの頭ン中は飯のことしか詰まってねえのか」
影が寄り添うように長く伸びる。
この日も寺院は平和だった・・・





おまけ
「おい、この花一部分だけ花びらがないぞ」
「ああ、腹減ってたから美味いかなーッと思って食ってみた。
不味かったけど」
「こんのバカ猿!花なんか食うんじゃねぇっ!!」
ぱっしーんっ!
・・・とりあえず今日も平和です、たぶん(汗)


祝!初最遊記SS!!
イラストとリンクしてそうでしていない(笑)
最遊記は最近見ていないから設定がさっぱり頭から抜け落ちてます。
三蔵が心配性のお父さんのようだ。

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