If……幼馴染編
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「いーなぁ……」 休日の不二家。 いつもの様にお菓子作りを習いに来ていたと、いつもの様に強制召還された裕太と、いつもの様によく分からない笑みを張り付かせた不二と、これまたいつもの様に出来たお菓子を頬張っていた時の事。 フォークをもごもご咥えたまま、は呟いた。 「どうしたの、ちゃん」 「どーでもいいけどお前、よくその状態で喋れるなぁ」 小首を傾げる兄に、眉を顰める弟。 それを見てはまた、いいなぁと呟いた。 「兄弟っていいなぁ。私一人っ子だから、兄弟いるのが羨ましいんだ」 「ちゃん……」 なんだ、そんな事かと呆れてまた菓子に手を伸ばす裕太の横で、不二はの頭を優しく撫でた。 いつもなら照れてその手をはがそうとするも、今日ばかりはされるままである。 「こんなお兄さん、お姉さんがいて、裕太君が羨ましいよ」 「なんだったら、リボンかけて兄貴だけでもプレゼントしてやろうか?」 「無茶言ってるよ……」 はほうッと溜息をついてテーブルに突っ伏する。 そのままの状態で、視線を不二兄弟に滑らせた。 「――もし、もしもだよ?不二先輩が私のお兄ちゃんだったら……」 眼を閉じると、少し眉を寄せて。 「しゅーすけお兄ちゃんって、呼んでたのかなぁ……」 ――――ポツリと呟かれた一言は、波紋のように広がってその場を静まり返らせた。 「……もしもだけどね」 言ってみて恥ずかしくなったのか、は体を起こすと、盆の窪をかいた。 「――――ちゃん」 その手をがっしり、不二が掴む。 「もう一回言って」 「う?」 「兄貴?」 と裕太は、ほぼ同時に困惑した視線を不二に送った。 「もう一回。もう一回言ってみて!今の言葉もう一回!」 「ちょ、先輩。手痛い。顔怖い。開眼までしちゃったー!?」 手の痛みよりも、間近に迫る不二の真剣極まりない表情に、は絶叫した。 慌てた裕太が間に入ろうとする。 「おい、兄貴放せって!」 「このご麗人の暴走早く止めてくれー!ゆーたお兄ちゃ……あっ」 思わず口から滑り出した言葉に、真っ赤になって口を塞ごうとしても肝心の手は不二につかまれている。 (何で同い年にお兄ちゃんだ、コノヤロウ!混乱してるからって、言っていい事と悪い事があるんだぞー!) 「う、うぁ……ごご、ごめんね、ゆ、裕太く……」 怒っているかとうろたえながら裕太のほうを向けば――――。 「――――……」 当人は怒る気配も見せず、ただ背中を向け、ソファに蹲っていた。 「ゆ、裕太君?」 「お前……それ反則……」 「何がですかー!?いったい何が、ファールだったんですかー!?」 「ちゃん!」 「もぉ、誰でもいいからこの状況何とかしてー!!」 ――――とうとう泣きが入って五分後。 不二家姉によって、いったんは騒動は終結の気配を見せるものの、裕太に対するのと同じ過ちを今度は姉に対して犯したによって、ふたたび居間は混乱の坩堝と化す……。 不二家+主人公でGO(笑) ちなみに、元設定は「逆ハー書きに十のお題・06」をごらんください。 不二だけだったら出番は多いのですが、不二家となるとたった一作品しかないので、思い切って書いてみました。 とうとう(僅かですが)裕太を壊してしまった……(汗) そんな訳で、お礼SSSでした。 |
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きっとあれだ、とは思った。 自分は前世でよっぽど悪い事を積み重ねてきたに違いない。 たとえば道のお地蔵さん全てをフルスイングでぶっ壊しただとか、よそのお宅の年に一度のすき焼きにこっそり豚バラを混ぜておいただとか、青い耳無しネコ型ロボットをネズミで埋め尽くされた部屋の中に軟禁しただとか……とにかく重大な罪を犯していたに違いない。 でなきゃ……そうでなければ……。 「どうした、ずいぶんしけた面してんじゃねぇか」 (――――また氷帝につかまるなんて事無かったんだ……) 彼らと出会ったのはまったくの偶然だった。 休日の街中でばったり会った瞬間、回れ右して脱兎のごとく逃げ出そうとしただったが、それより先に樺地の手がの襟首をつかんだ。 「よぉ、。こんな所で会うなんて奇遇だな。お前、今ヒマか」 「たった今忙殺と書いて、殺されそうなくらい忙しくなった」 「つまり、ヒマなんだな」 の嘘になっていない嘘をあっさり見破った跡部は、そのままを伴い休日の街を行くことにした。 同行していた氷帝レギュラー達に異存の声は無い。 そこに、の意見が介入する隙間などまったく無かった――――。 「磁石の法則かな……?」 「え、何がですか?」 ジャージを眺め見ていたの呟きを聞きとめた鳳が、首をかしげて問い返す。 他の部員たちは、全員好き勝手に店の中へ散ってしまっていた。 は、馬鹿みたいに高すぎるジャージの名札を眉を顰めながら眺め、答える。 「私と氷帝って言うのは、お互いけして干渉し得ない対極にあるのに、どういった訳だかありえない確率で出会う。まるで、磁石のS極とN極じゃありませんか」 溜息のおまけつきで視線を鳳へ向ければ、困ったような、残念なような複雑な目とかち合った。 「……そんなに氷帝が嫌いですか?」 「……言い換えましょう」 悲しげな視線にいたたまれなくなって、は眼をそむける。 「私が嫌いで対極なのは、あの帝王サマだけです」 喩えるならば、極上のバラと雑草。互いに同じ「植物」でありながら、対極に位置している。 なにも、その麗しい容姿とカリスマ性に嫉妬しているわけではない。 ただ、内面から溢れでる「俺様」な匂いが苦手だった。 「だから、別に氷帝が嫌いなわけじゃないです」 自分でもいい訳臭いと思いながら、それでも言わずにいられない。 どうせ別々の学校。そう頻繁に会うわけではないのだから、誤解があればきっちり解いておこう。 はまた口を開いた。 「鳳さん達は、好き」 眼を見てはっきり言えば、相手は面食らったようにこちらを凝視した。 「鳳さんは、同い年だからかな。結構喋りやすいし、言葉が丁寧で優しいから好き。樺地さんは、あれですね。体からマイナスイオンが出てるとしか思えないほど癒される。他の人も、特に理由があるわけじゃないけど、好きなほう。友達になれれば、嬉しい」 心のままに微笑めば、見る間に鳳の顔には朱が昇った。 鳳が赤い顔のまま、震える声を出す。 「あ……えと、さ……」 「ちゃ〜ん!」 「がッ!?」 突然背後から首に重心を掛けられ、はうめき声とともに仰け反った。 「あく、た、がわさん!?」 「ね〜む〜い〜」 「ちょ、コラ、寝るな!人の首に巻きついたまま寝るな!早々に寝息を立てるなー!」 店の迷惑など知った事かとばかりに声を荒げながら、それでも休息所はないかとジローを引きずってゆく。 あとに残した鳳の事は、薄情にもきっぱり忘れ去っていた。 鳳は、顔の熱も冷めやらぬまま、たちを見送った。 片手で覆った口の隙間から、呻き声が零れる。 (反則だ……) あんな真っ直ぐな目で、あんな真っ直ぐな言葉で、好意を示すだなんて、反則だ。 うっかり直視してしまい、沸騰してしまった思考をどうしてくれよう。 鳳は茹った頭を抱え込むとそのまましゃがみ込み、熱が引くのを待つ。 ――――休日のスポーツショップ、大型犬が呻きながら蹲るという奇異な光景を、周りの人々は遠巻きに見ているだけだった。 氷帝+主人公、むしろ鳳+主人公でGO(笑) 御意見帖なんかで、結構氷帝好きな人多いんだなーと思って。 本編は青学ばかりですからね(苦笑) そんな訳で、お礼SSSでした。 |
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――――足の生えた紙の束が目の前からやってきた。 「馬鹿か、テメェは……」 言葉少なに詰れば、はムッとした顔で睨む。 ――――海堂が、冒頭のシュールな光景に出くわしたのは、テスト前で部活のない放課後の事であった。 直進してくる書類のお化けに、慌てて道を譲れば、正体は手塚がらみで知人のだった。 その危なっかしさに、なぜこんな事をしているのかと理由を訊いてみて、二重に呆れる。 曰く、特に顔見知りでもない同級生(おそらく)に押し付けられたのだという。 どれほどの距離を歩いてきたのだろう。 顔まで覆いつくす量の紙を抱えるの腕は、震えていた。 呆れた溜息一つついて、海堂はの腕から書類を軽々奪った。 抱えた形のまま、ぽかんとするに向って、海堂はいつもの声音で、 「どこに運ぶ」 「――――半分持つ」 「馬鹿か、テメェは……」 数歩歩いた所で、正気の戻ったが、書類に手を伸ばした。 言葉少なに詰れば、はムッとした顔で睨む。 まだ微かに震えている腕を睨みつけ、海堂は、 「腕、限界の癖に。落としたらどうするつもりだ」 「だから、半分持つ。半分だけなら、そんなに散らからない」 どういう理屈だ……。 眉を寄せたの顔を眇めた視線で一瞥して、海堂は歩き出す。 その横から、は半ば強引に書類を取り返した。 「てめっ」 「頼まれたのは、私だもの。薫ちゃんばっかシンドイ目させたくない」 強情なの横顔に、海堂は諦めとも何ともつかない吐息を吐いた。 廊下を満たす金色は、だんだんとその深さを増していっている。 人の通らない廊下は、それでも遠くから人の騒ぎ声がし、静寂とは言いがたい。 だが、常に比べれば静かであった。 「お人よしすぎンだよ、テメェは」 黙って並んで歩くなか、海堂がぽつんと口を開いた。 「見ず知らずの奴だろうが。渡される前に断れ」 「断ろうとする前に脱兎のごとく逃げられた。あれは陸上部員か、韋駄天の生まれ変わりに違いない」 「言ってろ」 真顔で自分の言葉に納得するに、短く返す海堂。 会話はそこで途切れた。 沈黙は苦手だが、しかし何をしゃべればいい。 元々、コミニケーションが得意というわけではない。 一緒にいる年月は数える程度だし、クラスも違う。 趣味だって被らない。 共通点が圧倒的に少ないため、何をどうすればいいのか分からない。 誰も通らない状況が、重い沈黙に拍車をかける。 黙々と、ただ書類を運ぶ廊下の中腹。 がぽつりと呟いた。 「ごめん」 「あっ?」 「薫ちゃんの時間、潰した。ごめん」 「……別に」 また口をつくのは短い回答。 そこからまた、沈黙が続くかと思われたが、 「ありがとう」 真っ直ぐこちらを見て、 「薫ちゃんが助けてくれて、嬉しかった。ありがとう」 微笑む頬に差す赤みは、夕日だけの所為だろうか。 今度の返答はまったくの無で、海堂はまた歩き出す。 それに続くもまた、黙ったままだ。 ――――だが、今度の沈黙に重苦しさは無かった。 海堂+主人公でGO(笑) ホノボノなんだかなんなんだか、とりあえずギャグがあんまり無い事は確かです。 実際、彼がここまで優しさを見せてくれるかどうかは、わかりませんが……。 そんな訳で、お礼SSSでした。 |
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「何をしているんだ、私は……」 雲間から顔を出す太陽の光もさわやかな、早朝。 越前家の食卓で、ご飯粒のついたしゃもじを握り締め、は我に返った。 「何故私は、毎日毎日幼馴染の家で朝食を作っている!?ほぼ生まれたときから一緒に育ったとはいえ、仮にも他人だ!その家に上がりこみ、住人でもないのになんで私は味噌汁、銀シャリ、鮭、酢の物と彩りも鮮やかな和の朝食なんて作っているんだぁ!」 「あら、今日もおいしそうね」 取り憑かれたかのように、頭を抱えて唸るに一声掛けて、何も問題ないかのように菜々子は食卓へついた。 もはや朝の恒例行事とかした一連の奇行に、すっかり慣れてしまっているようだ。 「さんが帰ってきてくれて嬉しいわ。毎朝、こんな美味しいご飯にありつけるんですもの」 「褒めないでください。図に乗って、ふりかけまでサービスしそうになる」 やっと落ち着いたは、味噌汁椀を手に、にっこり笑う奈々子を一瞥すると、全員分の湯飲みに茶を注ぎいれる。 「おじさんは?」 差し出した湯飲みを両手で取ると、ありがとうという言葉と共に菜々子は質問に答えた。 「おつとめ。雇われでも、一応お寺を預かっている身ですもの」 「リョーマは……なんて、重ねて聞くまでもないか」 顔を顰めたの視線の先には、いまだ夢の中を漂う幼馴染の姿があった。 「危ないよ」 声は掛けるが、手は出さない。 そのまま抱きつかれて、一緒に床へもつれ込むのが目に見えていたからだ。 「……メシ」 「目の前。それに、頭、寝癖ついてる。起きてからちゃんと梳かしなさい」 「起きてるって」 「テーブルに座ってる時点でなに抜かす」 とりあえず、頭を一発叩いて眼を覚まさせる。 何とか目蓋が八分目まで上がったのを確認してから、はもう一匹の家族の食事に取り掛かった。 「ほら、今日は特別に余った鮭乗っけたげる、カルピン」 こんもり盛られたキャットフードの上に、冷ました鮭を乗せてやれば、感謝のつもりか一声鳴いて、カルピンは皿に頭を突っ込んだ。 見ていて爽快な食欲に微笑みつつ、は顔を上げた。 「リョーマ!味噌汁持ったまんま寝ない!」 まだ早いせいか、ちらほらとしか生徒の姿が見えない通学路。 時折掠める、他の生徒の好奇の目などものともせずに、道を駆け抜けてゆく人影、二つ。 「なんで、起こさないんだよ!」 「甘えるな!仕事で忙しいおばさんに代わって、朝食作ってあげてるだけでもありがたいと思いなさい。むしろ、自分で作れ!」 鍛え方の差か、どうしても遅れがちになりながらも、は声を張り上げた。 声だけでも負けちゃいけない。年上としての意地がある。 「そもそも、納得行かない事がある!私が入ってる華道部は放課後のみ、活動があるんだ。どうして、リョーマに合わせて私も朝早く登校しなきゃいけないの!?」 前を走るリョーマは、一瞬振り向くと何をいまさらといったように鼻で笑った。 「先輩たちに頼まれたからじゃない?」 「あぁ、そうだったね!転校初日に、君と幼馴染だってわかって頼まれたね!あのおっかない顔の部長さんには、表情変わらず「たのむ」の一言。不二先輩からは悪魔の微笑み。猫語の先輩には「ウンって言ってくれなきゃ離れないぞ〜」って抱きつかれ、乾先輩には野菜汁をちらつかされ、申し訳なさそうにお願いされたのって、河村先輩と副部長さんだけだったね!いっけネェ、忘れてらぁ。アッハッハーだ!」 高らかに笑い声を上げると、走っていたリョーマは立ち止まり、怪訝気な様子で振り向いた。 「……もう、バテた?」 「――――ごめん。酸欠で変な方向にテンション高い」 は、電信柱に体を預けると、そのままぜぇぜぇと荒い息を繰り返した。 「ほんっと、ごめん。昨日は母親から突然電話があって、丑三つ時を越えるまで、愚痴聞いてたんだ。いつもと同じ様に五時半起床だから、今ものすごい寝不足で吐きそう。むしろ、リバースします。三分後に」 先行って、と蹲ったまま手を振れば、気配は消えるどころか近づいてきた。 「……?」 「とりあえず、学校着いたら保健室直行」 腕を掴まれたかと思ったら、意外に力強く立ち上がらされる。 「私は捨て置きなよ、自力でいけるから。遅刻したら、グラウンド走らされるのはリョーマだよ?」 「置いてったら、どの道走らされるしね」 意味の分らない言葉を吐いたかと思えば、肩に腕を担がれ、歩き出す。 (……これじゃ、どっちが年上なんだか) ――――不甲斐ない自分自身に呆れながらも、成長した幼馴染の姿が嬉しくて、今だけは頼ってみようと思った。 幼馴染は、越前リョーマ。 主人公が、年上風吹かせすぎです。そして壊れすぎです。 内容が妙な方向にテンション高いのは、いつもの事と諦めてください……。 そんな訳で、御礼SSでした。 |
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幼い頃、別れたきりになっていた幼馴染は、帰ってきた早々人の頭を見て、こういった。 「……髷でも結う気か?」 長い髪を見てああいったのだから、今の姿を見ればどう言うだろう。 おおかた、「失恋でもした?」とか言って、場違いな心配をするに違いない。 「……だっせぇ」 一言呟くと、宍戸は軽くなった後頭部を掻きながら、ロッカーに鍵をかけた。 髪を切った事は後悔していない。 あの行為は、自分の決意と意思を監督に示すために、必要なものだったからだ。 だが、短慮と言えなくもない行動だった事もまた事実。 時間がたって後々の事を考えられるほど頭が冷えてくると、少々面倒な事をしたと思うようにもなった。 (いったい、アイツにはどう説明すっか……) これではまるで、浮気がばれそうな亭主みたいだ。 そんな事を考えてしまった自分が、なんだか馬鹿馬鹿しくて、宍戸は半場照れ隠しでドアを荒々しく開いた。 「やぁ」 ドアから約五ミリ。 ぶつかるかぶつからないか、ギリギリの手前で微笑む幼馴染の姿に、宍戸は大口を開けたまま固まった。 「ずいぶん、さっぱりしたもんだ」 人通りの多いアーケード街。 ずっと互いに黙りこくっていたが、そのうち世間話でもするかのようにが口を開いた。 「素人が切ったにしちゃ、なかなか綺麗に切れてるよ。うん。亮ちゃん、美容師の素質ある」 「……聞かねェのか」 延延続きそうな、どうでもいい話を、宍戸は怪訝な声で遮った。 予想と違うの様子に、多少の不信感を抱く。 まるで早朝の雀のごとく、理由をピーチクパーチク騒ぎながら訊くかと覚悟していたのに、何故こんなにも静かなのか。 正直、少し不気味でもある。 「驚いてねぇみたいだな」 「いや、驚いたよ?けど亮ちゃんだって、気分転換したい時もあるでしょう。いちいち髪切ったくらいじゃ、詮索しないよ」 まぁ、実は。と、は鼻の頭を指で掻きながら、 「部活終わった直後かな?いきなり、ウチの部室にユニフォーム姿の長太郎君やら、向日先輩やらがきてさ。懇切丁寧に事の経緯を教えてくださったよ。正直、早口すぎて途中から何言ってんのか分らなかったけど」 愛されてるね、とは笑う。 鳳達の行動を、まったく見当違いな方向で理解している幼馴染に、呆れる事も忘れて宍戸は頬をひくつかせた。 (あいつら、練習終わったと同時にどっかにダッシュかけてたのは、これの為か?) もっと他にやるべき事があるだろうと、宍戸は片手で顔を覆う。 無駄に行動力溢れるチームメイトを持って、自分は幸せなのか否か、分らなくなってきた。 「本当は、パーティでも何でもして、お祝いしたいんだけどネ。滝先輩の事を思うと、そうはいかないよな」 「大げさなんだよ、お前は」 軽く頭を軽く叩けば、演技がかった様子で痛がる。 しかし、痛みで歪んでいた顔は、すぐに笑みへと変わった。 「気持ちワリ……。なに笑ってやがる」 「うん。いや、その、嬉しいなぁって」 笑み崩れたの顔が、薄く赤らむ。 「亮ちゃんが試合に出る所、また見れるんだなぁって。思ったら嬉しくってさ。だって、私亮ちゃんが試合してる所見るの、好きなんだ」 一番格好いい。なんて、きらきら光る目で真っ直ぐ見上げられ、宍戸は大いに困り果てた。 (こい……つは……) 人ごみの中だというのを、忘れているんだろうか。 周囲から、ちらほらと送られる好奇の視線が痛い。 あまりに無邪気というか、恥知らずというか、反応に困るの様子に、もう溜息も出ない。 「なんか、自分の事みたいに嬉しいね」 「一生言ってろ」 言い捨てて、足を速める。 ――――自分でもハッキリわかるほど熱くなった頬は、とりあえず気のせいにしておいた。 幼馴染は、宍戸亮。 なんだか、主人公が宍戸の事を好きすぎです。 宍戸の性格も模造っぽくなってしまいました。 もっと原作に近づけられるようになりたいです。 そんな訳で、御礼SSでした。 |
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最近、千石清純が真面目になったと言う噂が各所で流れた。 千石清純といえば、確かなテニスの腕よりも、その軟派な態度が様々な所で、広く伝わっている人物である。 今までの彼の言動を思えば正直、噂は眉唾物と言われていたものの、確かめにいった物好き達は、全員神妙な顔でこう言った。 「噂は、本当だった。――――ただし三割だけ」 まるで、空気の中に細かな針が仕込まれているとしか思えない、冬の朝。 山吹中学内の、テニスコート。 フェンスに寄りかかったは、手持ちの鞄から水筒を取り出した。 舌を焼くほどに熱い茶に息を吹きかけると、白い湯気がゆらゆら揺れて、視界を邪魔する。 口をつければ、飲み込んだ喉から、熱が全身に回るようだ。 「寒……」 「先輩、大丈夫ですか?」 小さな呟きを聞きとめた太一が、部員たちのタオルを用意していた手を止める。 眉を顰めた幼い後輩を見て、は安堵させるように笑った。 「大丈夫。私、結構丈夫だからさ。太一君のほうこそ大丈夫?寒くない?」 「あの、僕は全然……」 「うん。太一君は強いね」 微笑みながら、頭を撫でれば、太一は赤い顔を俯けた。 しばらく、ホノボノとした時間を楽しんでいた二人だったが、遠くから聞こえてきた多人数の足音に、本来の役割を思い出す。 足音の主は、山吹中テニス部の面々。先頭を走っているのは、派手なオレンジ頭の少年だった。 「ー!」 疲れなんていったいどこの世界の話、と言わんばかりの元気さで、千石は手を振る。 後方の疲れ顔の部員たちとは、えらい違いだ。 「キヨ、君が無駄に元気なのは分ったから、真面目にやって!」 が声をかけるも、聞いているのかいないのか、ますます笑顔に磨きをかけながら、走りよる。 「ゴール!」 「ひわっ!?」 走りよられたそのままの勢いで抱きつかれ、は珍妙な悲鳴を上げた。 「千石、一人で突っ走るな!俺たちのペースが乱れるだろう!」 部長の南が、荒い息の下吠えるものの、当人は知ったこっちゃないとばかりにへらへら笑っている。 代わりに詫びを入れたのは、だった。 勢いよく抱きつかれ、転びかけた体を何とか立て直すと、抱き締める幼馴染の腕の隙間から叫ぶ。 「スイマセン、部長さん!コレには、あとで私がよく言って聞かせますから……。キヨ!重い。おまけに汗臭いし、早くどいて!」 「ひっどー!俺、に早く会いたい一心で、頑張って走ってきたのにぃ」 オーバーに傷ついたと泣き崩れる千石に、は溜息をついて、頭をかいた。 「あのね、どうして私が、わざわざマネージャーでもないのに、朝夕テニス部に通ってると思うの。全部、キヨのせいなんだからね。キヨが、真面目に部活に出ないから、私が見張り役として引っ張り出されてるんじゃないか。見張り役としての仕事をまっとうしないうちから、帰ったりしません」 言い切ったに、それでもなお千石は疑いの視線を向けた。 「絶対、俺が練習終わるまで帰っちゃダメだよ。指きり!」 「……キヨ、今年でいくつだっけ?」 脱力しきったに気付いていないのか、強引に指切りをした千石は、満足げな様子でチームメイトのもとへと戻っていった。 その背中を見送りながら、また一つ溜息をつく。 溜息をつくたびに幸せが逃げていくのなら、今朝だけで一月分の幸せを消費した事になる。 その事実に、は肩を落としてまた止まらない溜息を吐いた。 「毎日毎日、飽きないよなぁ……」 「十次君」 いつの間にやら、呆れ顔の室町が隣にやってきていた。 視線は、なにやら南をからかっているらしい千石に向けられている。 室町の意を酌んで、は悩ましげに眉を寄せた。 「昔から、ああだからネ。私はとっくに慣れてるけど、他の人は大変だろうなぁ」 「頼むから、甘やかしすぎるなよ。あの人の手綱握れるのなんて、アンタしかいないんだから」 「――――責任重大だ」 重々しく釘を刺され、は首をすくめた。 昔から変わらないとはいえ、今だにあの性格なのは如何なものだろう。 いっそ彼女でも作ってくれれば、もうちょっと大人しくなってくれるだろうか。 (……いや、そんなんで大人しくなるほど、キヨは可愛い性格してないぞ) 我ながら馬鹿げた妄想に頭を振ると、は盆の窪をかいた。 視線の先では、いかにも楽しそうに千石が南で遊んでいる。 その姿を見て、は溜息とは違う吐息を吐いた。 まぁ、半分は好きでやっているようなものだ。 全て腐れ縁のせいと諦めて、は駆け出す。 ――――今はとりあえず、取っ組み合いになりそうな幼馴染とテニス部部長を止める事が先決だった。 幼馴染は、千石清純。 主人公の役割は、千石のストッパー役。 半分諦め、半分楽しんで千石の世話をしていたらいいなぁ。 そして、南とは千石関連の苦労を語り合う仲間でいて欲しい(笑) そんな訳で、御礼SSでした。 |
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