Week?Week!
「ちゃん、デートしよう!」 と、言い出したのは菊丸で。 「いいねぇ。明後日のGWにでも一緒に映画を見に行こうか」 と、菊丸を弾き飛ばして現れたのは不二で。 「そんなことより、先輩。明後日、うちの親出かけていなくなるから、ご飯作りにきてよ」 と、割って入ったのは越前で。 「ー!明後日、ストリートテニス見にいかねぇか?俺のダンクスマッシュ間近で見せてやるよ!」 と、越前を踏みのけ現れたのは桃城で。 「――――でも、確か明後日って……」 と、続く言葉で全員の希望をバラバラに打ち砕いたのは、案の定で――――。 「で、結局こうなるんだ」 珍しく初っ端から黒いオーラを滲ませ、不二は呟いた。 遅刻大魔王越前を抜いたテニス部一同が揃いぶんだのは、かの氷帝学園前。 GWを利用した練習試合に招かれたのである。 なお、張り切った顧問がGW中全ての日に他校との試合を入れてしまったため、実質彼らに休みの日はない。 「どうして貴重な休みに、氷帝なんかと試合やらなきゃダメかな?」 「そーだよ、そーだよ。なぁんで、よりによってせっかくのGWなんにゃ〜。コレじゃあ、ゴールデンウィークじゃなくってブラックウィークだよぉ〜」 菊丸が唇を尖らせながらブーブー拗ねる。 「おそらく休みの間も気を抜かず、常に全国に眼を向けさせるためだろう。データが取れて俺としては嬉しい限りだ」 乾がノートを手に、眼鏡を光らせにやりと笑う。 その隣では、苦労性の大石が不満がる一同を宥めるのに必死だった。 「文句を言うんなら、約束を取り付けた竜崎先生に言ってくれよ」 「分ってるよ。だから今日、スミレちゃん、休みなんじゃないか」 ――――不二の言葉は沈黙に包まれて、全員の耳から耳へと聞き流された。 「よぉ、青学」 独特の、何処か人を嘲るような色を滲ませた声が、全員を一まとめにして呼ぶ。 嫌味ったらしいくらい優美な仕草で歩み寄ってきたのは、今日の練習試合の相手、氷帝学園テニス部部長の跡部であった。 その後ろを、まるで従者のごとくぞろぞろと部員が従う。 手塚の前にぴたりと止まった跡部は、唇に酷薄な笑みを浮かべた。 「今回は前のように行かないぜ」 「それはコチラも同じだ」 両者の間に散る火花は、時と共に衰える様子無くさらに激しくなる。 「ちゃんはー?」 「菊丸!今日こそ絶対、俺の方が強いって証明してやるぜ!」 「返り討ちにゃ!!」 向日が意気込めば、菊丸が応じてさらに両者、闘志を燃え立たせる。 「ちゃん〜」 その隣では、両校の天才同士が薄ら寒い雰囲気を醸し出しながら対峙していた。 「よぉ、なんやコンディション悪そぉやのぉ、青学の天才さん。こら本気ださんでもうちの圧勝やな」 「ふふ……、悪いのはコンディションじゃなくって機嫌のほうさ。気をつけたほうがいいよ、今日の僕は手加減ができそうに無いから……」 「ちゃんはってバー」 乾の前に身を乗り出した鳳は、拳を握ると目に闘志を輝かせた。 「乾さん!今日は胸を借りるつもりで戦わせていただきます!」 「それはコチラも同じだよ。今日もいいデータを取らせてくれ」 「、ちゃあぁぁぁ〜ん!!」 「だーっ!うるっせぇ!!」 絶叫と共に跡部が指を鳴らせば、応じた樺地がジローの口を塞ぐ。 「さっきからこっちがキメてんのにテメェは間抜け面で『ちゃん』『ちゃん』って……。お前はそれ以外言葉をしらねぇのか!?」 「だぁってぇ〜」 ぷはぁっと樺地の大きな手を外して、ジローは唇を尖らせる。 「こんなとこでしかちゃんに会えないC−。なのにちゃん、ゼンゼンどっこにもいないじゃん!!」 「それもそうだな。よし、青学。を出せ」 あっさり納得して、執事を呼ぶかのごとく指を鳴らす跡部に対し、手塚が眉間に皺を刻んで、 「手品師の鳩みたいに都合よく袖口から出せるものか」 「あァン?お前らとはいつもワンセットだろうが」 「グリコのおまけみたいな言い方止めてくれる?」 不二が、薄く覗かせた氷の視線で跡部を睨みすえる。 と、そこへ。 「えー!?今日、さん来てないのー?」 能天気にも不満全開な声がして、一同の視線はそちらへ向く。 そこにいたのは、まるで脳味噌の明るさを反映したようなオレンジ頭。 「せ、千石先輩!声が大きいです!!」 その後ろから、泣きそうな声で嗜めるのは大きなバンダナが不釣合いな少年。 山吹の千石と太一である。 「せぇっかくさんが来ると思って、わざわざ休みにでてきたのにぃ」 「そ、それが目的だったですか!?てーさつに行くって言うから、僕はてっきり……っ!」 「そー言う壇君こそ、今さんがいなくって、がっかりした顔しなかった?」 「そ、そんな事!?」 ちょうどよくずれたバンダナが顔を覆う。 けれど隠しきれない耳が真っ赤に染まり、図星なことを周囲に告げる。 「千石さん……」 「やぁ、オモシロくん」 「桃城っす」 にこやかにしゅたっと片手を上げて挨拶する千石と裏腹に、名前を間違えられた桃城は憮然とした様子で、 「アンタ……何でこんなとこに……」 「うん。ちょっとした通りすがり」 「今、全開でここに来た理由を自ら暴露しといて何爽やかに笑ってンすか」 「あー。聞こえてたんだぁ」 あいも変わらず笑顔は崩さず、千石は明るく言い放つ。 「いやぁ、確かに本当の目的はさんなんだけどサ。いちおう表向きは明後日練習試合する青学の偵察ってことにしとかなきゃなんだよねー。南にそう言っちゃったから」 「南……。あぁ、部長の南君だね。その南君は今日一緒じゃないのかい?」 大石が周りを見渡せば、太一がおずおずと応じる。 「いえ、一緒に来る予定だったのですが……。その、千石先輩が行くんなら自分もって言った瞬間、上から落ちてきた野球部のファールボールに後頭部直撃されてですね……」 「今、家のベッドの中」 ある意味自分が原因と言えなくもない千石が、なぜかやっぱり明るく、太一の後を続ける。 「……地味ーに不幸だね」 河村が同情した。 「おや、今日はさんはいっしょ、」 「帰れ」 何もかも言い終わる前に、振り向きもせず不二が言葉に割りいり、一瞬ここは北極か、南極か、それともあるいは北海道立流氷科学センター内の極寒体験室かと思うような寒い空気が吹き抜ける。 何人かが日中なのにオーロラを目撃した。 このパターンで行けば、声の主が誰なのかはもう分っている。 「……相変わらず無礼千万ですね、不二周助」 「君もいい加減人の事フルネーム呼びするの辞めたらどうだい?それともフルで呼ばなきゃ思い出せないほど、ボケちゃった?」 ふふふふふふふふふ……。 ははははははははは……。 互いの笑い声が、さらに空気を冷やしてゆく。 まだまだ続くよ極寒体験。 今度は一気に夜の水星にワープだ。マイナス百六十度の世界へようこそ。 「あっ、越前もいねぇのか……」 「やァ、裕太、来てたんだね。どうしてそんな遠くにいるんだい?」 遥か後方、恐ろしげに大魔王と堕天使の攻防を見守っていた弟に、不二は優しく声をかけた。 あの空気の中で、間近にいても聞き取れないほど小さな呟きを、彼がどうやって聞きとがめたかは不明である。 ニコニコ笑顔で手招く不二。裕太に選択権は無い。 「ちゃんに会いにきたの?」 「ばっ!馬鹿言うな!!俺はただ、明日の青学との練習試合のために、様子見にきた観月さんに付き合ってだな!」 咆える裕太に、なお楽しげに笑みを深める不二。 ホノボノしてる……と、言えなくもない風景だろう。 ――――横でハンカチを噛みながら暗黒のオーラを出している観月を差し引けばではあるが。 このままではからかわれどうしで日が暮れると判断したか、裕太が話の方向転換を図る。 「そ、それより越前はどうしたんだよ!アイツ、今日の試合にでるんだろ!?」 「アイツが遅刻すんのはいつものこった」 「お前が言うな、お前が」 やれやれと、肩をすくめる桃城に、短くツッコむ海堂。 とたんにらみ合いに発展するのは常の事。 「それにしても遅いな」 いつものいざこざを止めるでも無く大石が時間を確認して、不安げに顔を曇らせる。 待つ氷帝側の顔にも、明らかな退屈の色が浮かび始める。 「――――あーあ」 つまらなそうな顔をした千石が、あくびと共に踵を返した。 その時。 「チィーッス」 『越前!』 話題の主が、実にゆったりした様子でやって来る。 その後ろから。 「ほ、本当にごめんね。重くない……?」 「全然……」 もう一人の話題の主が、なぜか荷物と不動峰を連れてやってきた。 「えー。事の起こりは昨日の深夜にございます」 まるで落語か何かを始めるかのように、は語りだした。 本当に何を勘違いしているか、ベンチの上にちょこんと正座をしたままだ。 「忘れもしません、真夜中の十時」 「先輩、それ、真夜中じゃない」 「朝五時半おきの私にとっては真夜中だ」 仕切りなおし、とばかりに軽く咳払い。 「リョーマ君から電話があったんです。曰く、明日の練習試合、全員分の昼飯持参で応援にこい、と」 全員の視線が越前に刺さる。 しかし当の越前はどこ吹く風で、時々相槌を打ちながら話を促す。 「はじめ私は断りました。レギュラー全員分のお弁当。一つ作れば後はいくつ作っても同じなんて絶対嘘です。作る数が増えれば、そのぶん時間と労力がかかるは世の道理。だから私は断った。はっきりきっぱり断ったんです。……しかし彼は……」 はそこで言葉を切り、代わりに盛大にして大仰しい芝居がかった溜息をついた。 「粘りました。ええ、粘りましたよ。こっちが電話代の心配をしてしまう日付の変わった深夜一時まで!!」 負けた……と、心底悔しげに唸りながら拳を握る。 それを見ていたレギュラー全員。 (グッジョブ!越前……!) 心中で後輩を褒め称える。 無言の賞賛を感じ取ったか、越前もレギュラー陣に向ってニヤリと笑って見せた。 「ま、そこまではいいとして、なんで不動峰が一緒なんだ?」 思いついたかのような桃城の質問。 それに答えたのはだった。 「リョーマ君を迎えに行った後で、会った」 「迎え?」 知らされていなかった新たな事実に、全員の声がいっせいにハモる。 もう諦めきっているのか、投げやりな口調では続ける。 「真夜中。呪文か洗脳のごとく『昼飯作れ』『朝起こせ』なんて言われ続けて約四時間。そりゃーもう、行くと返事するしかないでしょう」 これでも抵抗したんだと、はまたしても長い溜息をつく。 「おまけに家行ったら、まだ寝てて、部屋行っても……」 「部屋まで行ったのか!?」 またしてもハモる全員の声。 はギリリと歯を噛み鳴らすと、 「行きましたとも!揺すっても、怒っても、脅しても、泣いても、起きてくれないし、おまけに寝ぼけて布団の中引っ張り込むし……」 (おのれ、越前……ッ!!) さっきまでの賞賛が一転。呪詛に代わる。 全員の恨みの視線を一身に浴びても当の本人は、むしろ涼しくなってちょうどいいや、と言わんばかりの顔である。 「ちゃん……可哀想に……」 不二がそっとの髪を撫でる。 「さらに変な事されなかった?」 「いや、何かしたのは私のほうで、リョーマ君を起こした後、あまりの部屋の汚さに思わず掃除をしてしまいましたよ」 兼業主婦の業ですかねぇ、とは笑う。そして笑みを引っ込めると不思議そうに周囲をぐるりと一眺め。 「――――それにしてもこの人数は一体なんなんです。今日は氷帝とだけ、試合でしょう?」 それに応じるのは他校の面々。 「偵察に来たんですよ。明日はウチとですからね。最新のデータを取るいい機会でしょう?」 んふ、と特徴のある笑い方をして、観月。 「あたしたちはさっき説明したよね。本当はと遊ぼうと思ってたんだけど、肝心のが青学の応援に行くって言うんだもん。ま、ついでに三日後にせまった青学との練習試合の為に偵察も出来たらなぁって思って、付いてきちゃった」 悪戯そうに舌を出しながら笑うのは、杏。 「ぼ、僕も偵察です!明後日の青学戦に向けて、少しでもデータ収集をと思って……」 俯いているせいか、バンダナがずり落ちている事に気づかぬまま、太一。 はほーッと目を丸くすると、 「みなさん、さすがだなぁ……。こんなに熱心だなんて……。さすが全国を目指しているだけの事はある」 「――――俺の目当ては最初っからさんなんだけどねー」 にやり、と笑いながら千石は言う。 はさっきから十分丸かった眼をさらに丸くして、おのれの顔を指差す。 「私……、ですか」 「そ!せっかくの休みなんだもん。やっぱ会いたい人に会っとかないとねー」 滅多に会えないし、と気安げに肩に手を置く。 その手を見えないほど素早く払ったのは、ずっとの隣に腰掛けていた伊武だった。 「……馴れ馴れしい。ちょっとは人の目ってもんを気にしたら?」 千石は払われた手をわざと痛そうに振りながら、 「君には関係ないと思うけどねー。第一、俺は間違った事言ってないよ」 「……ムカツク」 バチバチと、あり得ない組み合わせで光る火花。 その横では、 「ちゃぁ〜ん!!」 「ぐはうっ!」 ジローに背後からネックハングをかけられ、まるで絞められた鶏のような悲鳴を上げていた。 「うわぁーい!会いたかったよー!!」 「かふ……っ。あ、芥川さん!?」 一瞬白く混濁した眼が、思い返したように光を取り戻す。 は首に絡まったジローの腕を何とか緩める。 心配そうな裕太が近づいた。 「……大丈夫か?」 「写真でしか会ったことのない母方の祖母が、笑顔で手を振っていた……」 (ヤベェッ!?) いまだあらぬ方向を見つめて微笑むに、裕太の顔面からは完全に血の気が引いていた。 「よぉ、」 「っ!」 ある種、虚脱状態にあるを正気づかせたのは、たった一人の少年の声だった。 「でたな!ホストの帝王!!」 まるでゲームのラスボスでも現れたかのように身構えるに、跡部は皮肉気な笑みを浮かべて、 「ご挨拶じゃねぇか、あァン?お前も俺に会いたくってしょうがなかったんじゃねぇのか?」 「寝言は寝ていえ!むしろたった今寝てるのか、芥川さんのように!!」 「、ジローは確かによく寝るけど、夢遊病の気はねぇ……」 宍戸が頬を引きつらせながらフォローを入れる。 「それが青学のために作ったって言う弁当か……」 ちらり、との傍らの風呂敷包みを見る、跡部。 包みを抱き締め、猫が毛を逆立てるかのように威嚇する。 跡部が、また笑みを深くし、そして青学陣に振り返り、こう言った。 「おい、青学。今日の練習試合、との弁当を賭けねぇか?」 「はあァッ!?」 方々から驚嘆とも呆れとも取れない声が上がる。 呆れの声の筆頭はだ。 「何だ。一体どうして、どうなって、そうなる!?私の料理なんて、主婦さ全開の庶民料理なんだぞ!!」 「どうだ、のらねぇか?」 「話を聞けー!それとも庶民の声は耳に入らんか。この、貴族階級!!」 「くだらんな」 吠えるを手で制して、仏頂面のまま却下を出したのは、テニス部代表の手塚だった。 「そんな賭け、のれるか」 「負けるのが怖いか?」 「安い挑発だな」 「それに乗りかかってんのはどいつだ?」 手塚の眉がピクリと跳ねる。 「先輩、乗りましょうよ」 ずい、と身を乗り出したのは越前だった。 「要するに、勝ちゃいいだけの話じゃないっすか。勝てば先輩と昼飯。負ければ、先輩をおいて帰る」 シンプルでいいっすよね……と、呟く越前の目は、すでに臨戦態勢に入っている。 他の面々も同じだった。沈黙と獲物を捕らえるような眼が、全てを物語っている。 「――――決まりだな」 跡部が大仰に踵を返す。 「試合は十分後。それまで、精々足掻いてろ」 コートへ向って去ってゆく氷帝の面々。 その背を見送る青学。静かなのは、嵐の前触れのせいか。 当事者であるはずのは、渦巻く戦いへの予感の中、ただただ呆然とするしかなかった。 「私の……発言権は?」 「……あの賭け、いいなぁ」 ぼそっと言ったのは、それまで気持ち悪いくらい黙っていた千石だった。 ギョッと眼をむく。 「俺も、明後日の試合におんなじ事言ってみよーっと」 「ちょ、ちょっと!」 「二番煎じというのは癪ですが、面白そうですね」 ぐるりと首ごと視線を向ければ、口元に楽しげな笑みを浮かばせている観月がいる。 「出来れば、洋風のお弁当を作ってきていただけますか?」 「け、決定ですか!三日連続お弁当もって試合観戦って決定ですか!?」 自分の目の前で、自分を抜きにして進められてゆく三日間のスケジュール。 止める方法など思い浮かばず、かわりに涙のうっすら浮かぶ目で、近くの友人へ助けを求める。 「あ、杏ちゃん……」 「……」 杏は慰めるように、の肩に手を置く。 そして、にっこり破顔一笑。 「明々後日のお弁当には、デザートつけてね」 「私の……人権は?」 ――――そんなもの、はじめから無い。 |
あとがき
リク内容は、 「テニプリ夢でギャグテイスト。 主人公の取り合いで、ネタ的にはゴールデンウィークの計画&当日で」 GWも過ぎ去った頃にアップです。 いやに長いのは、管理人が楽しく書きすぎたから(笑) 書くのが面白くて、筆の滑りがよすぎて、こんなに長くなってしまいました。 その時の気持ちが、話の無いように出ていたらなぁと思います。 |