「もうじき文化祭だな」

「もうじき文化祭だな」
と、言ったのは泣く子も裸足で逃げる(?)華道部の副部長。
「そうなんですか」
と、応じたのは机をはさんで真正面に向かい合った、華道部部員の透。
「知らなかったのか?」
副部長の問いに、透は首を横に振る。
「私、転校生です」
「そうか。じゃあ説明するけど、開催期間は三日間。ウチは例年通り部室で作品を出品する。一人最低一点。いいか、最低で、一点だぞ。もし作れなかったらその辺の花屋で盆栽買ってきてクリスマスの飾り付けでもしろ。評価はもらえないが失笑だけはもらえる」
「そんな馬鹿な冗談、誰がやりますか」
「俺が一昨年やった」
「副部長は存在自体が冗談ですから」
気取った風に髪をかき上げる副部長を、一刀両断する透。
副部長は器用に片眉を上げて透を見ると、
「言うようになったな、明日葉」
「日々おかげさまで鍛えられているもので」
しらっと答える透。副部長もしたり顔で頷く。
「そうか、俺のせいか」
自覚があるんなら自制してください。部長も文化祭にはきますか?」
「来る。あいつは目玉だ。今取り組んでる発表会用のが終われば、すぐこっちに来るって言ってた」
「今どこにいるんです?」
「ロス」
地図とテレビでしか見たことの無い外国の名があっさりと出て、透は瞠目した。
それから、声を潜めて、
「出席日数大丈夫ですか、あの人」
「へーきだろ」
「根拠のない」
あくまでいつもの事と涼しい顔の副部長に、透は非難の眼を向ける。
義務教育中故に退学はないだろうが、それでも出席日数の少なさを理由に、留年やら転校やらしてしまったらどうするのだろう
だが、副部長のほうは、そんな透の不安を一蹴するように平然と、
「でも真実味はあるだろ」
と笑った。
透はそれ以上かける言葉も無く、話を変える。
「――――他に文化祭関連で何か用件は?」
「ウチの場合受付と案内役が一人ずついれば事足りるからなぁ。そういやお前ンとこ、何やるんだ」
「最終日のみ参加。事前に知ったら面白くない事です」
「そうか、じゃあ聞かない」
あっさりと副部長は引き下がる。
こういう所は、異様に聞き分けがいい。
どうも彼の判断基準は、「面白いか」「面白くないか」に偏っているらしい。
ある意味幸せな生き方だと透は思った。
「最終日は抜かして、私は初日と二日目のどっちを手伝いましょう」
「いや、人手は足りてる。お前はよそ手伝え」
副部長の言葉に、透は苦笑した。
初夏の出来事が蘇る。
「また、賄賂貰いましたか」
「そういう言い方すんなよ」
副部長もまた、口の端を皮肉に歪める。
「今回はまず茶道部。まだ他の部からもヘルプコールはあるけど、今のところどこにするか決めかねてる。あ、実行委員からも頼まれた」
「実行委員は見たところ人手不足って感じじゃないと思うんですけど」
「なに、手伝いは多ければ多いほど、余るくらいでちょうどいい」
「人件の節約ってものを知らないんですか」
透は呆れて言う。すると、副部長も憮然とした顔で、
「俺じゃなくて奴らに言え。つーか、余ってるんならよこせ
私じゃなくて彼ら実行委員にどうぞ。で、応援要請している具体的な部の数は?」
「今のところ四つ。どこも部員が少ないっつーか、掛け持ち部員が多い。あー、なぜかテニス部も来たな」
「テニス部?」
懇意にしている面々がぱっと頭に浮かんで、透は首を傾げた。
副部長がにやりと笑う。
「ご丁寧にお前をご指名だ」
「あそこは手伝いいらないでしょう。部員多くてむしろ余ってるから」
「じゃテニス部無しっと。んー、あとは特に問題あるとこないなぁ」
「じゃあお任せします」
「行ってくれんの?」
副部長がきょとんと眼をむく。透は小さく溜息をついた。
「ヤダって言っても引っ張っていくくせに」
「だいぶ俺の行動パターンを読んできたな」
「毎日顔を突き合わせていればね。で、ほら。用件終わり?」
「――――お前、今日は冷たいな」
むっとしたような副部長の顔に、透の中でプツンと何かが切れた。
「当たり前でしょ。さっさと出てって下さい。今、授業中なんだから!!














――――五時間目の教室。実にほのぼのと不謹慎な、先輩と後輩の会話であった。

あとがき

文化祭編の幕開けです。
オリキャラオンリーでどこがテニプリドリー夢やねんというツッコミは覚悟の上です(笑)
とりあえず短いですが状況説明ということで。

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