休日デート
麗らかな休日の昼下がり。 待ち合わせ場所としては定番の駅前公園の噴水では、今日も老若男女が人待ち顔で佇んでいる。 そのなかでも、やたらぼんやりと時々時計を気にしている少女が一人。 そして、その少女を物陰から見つめる怪しい事この上ない九対の目。 道行く人々は物陰に気がつきながらも、皆見なかったかのように振る舞う。 それはたぶん、物陰からにじみ出る奇妙な空気のせいだろう。 「ほんとに来るンっすか?」 幼い声が、不審もあらわに周りに確認する。 「おい……」 「来なかったら来なかったで別にいいんじゃない?」 一人が、にっこり笑いながら答えた。 「お前たち……」 「ハイはーい!そん時は俺がちゃんと遊ぶー」 「待て……」 「エージ、おまえなぁ……」 元気いっぱいに進言する一人を嗜める声。 「オイ……」 「って言うか、盗み見なんて本当にいいのかなぁ?」 「そう思うんなら……」 「いったいいつまで待つ気なんだー?のヤツ」 そろそろかくれんぼにうんざりしてきたのか。 生あくびを噛み殺しながら一人が言う。 「だったら……」 「このまま時間を過ぎても待つ確立はの性格を考えれば78%といった所か」 「だいたいお前たち……」 「ケッ、馬鹿馬鹿しい」 「なら帰れ、お前たち」 先ほどから無視され続けてきた手塚は、背後にどす黒いオーラを纏って言った。 それに脅える事無く振り向いた不二は、 「何言ってるの。手塚はどこの馬の骨とも知れない奴にちゃんを盗られてもいいの?」 「誰もそんな事は――――」 「これは"可愛い後輩"を心配する"先輩の親切心"からなる行動だよ。大丈夫。僕がいるからには絶対デートなんて阻止して見せるから」 にっこり笑顔に殺気を迸らせ、不二は言い切った。 事の起こりはその日の昼ちょっとすぎである。 テニス部の練習から帰った手塚は、玄関に見知らぬ女性ものの靴が置いてある事に気がついた。 誰か客かと思っていたら、 「おかえりなさい!くーちゃん」 パタパタと玄関に現れたの姿に、手塚は珍しく驚いた。 普段からシンプルなものしか着ないはずのが、テレビでよく見かけるような今流行の服装で現れたからだ。 「まぁまぁ、国光さん。何固まっているの?」 奥からおっとり現れた母親に、手塚は普段の表情を取り戻すと、 「いったいこれはなんなんです?」 「ちゃん、デートなんですって」 「なっ!?」 「ちょ、おばさん!!」 珍しく声を上げて驚愕する手塚を尻目に、は真っ赤な顔で反論した。 「違う!友達!友達と遊びに行くんだよー!!」 「あらあら、その割にはずいぶんとおめかししてるのねぇ」 「これは、向こうが服装を指定してきたせいで……」 「やっぱり好きな人の前じゃあ可愛く見せたいのね?」 「だから違うってばっ!!」 慌てながら、頬を染めた状態で言っても説得力など無い。 「、お前……」 「あ、くーちゃん。あのね、やっぱり変かな?この格好」 はスカートの裾を引っ張って、すこし情け無さそうに眉を下げる。 「ミニスカートなんて、あんまり穿かないから……オカシイ?」 不安そうに小首を傾げるに、手塚は一瞬息を呑んで、 「……特におかしな点は無い」 その答えに、の顔は喜色に輝く。 「よかったぁ!くーちゃんにそう言ってもらえると自信もつよ。あ、もう時間だから私、いくね」 時計を見て慌しく靴を履き終えたは、玄関を出る前にくるりと振り返って、 「おばさん、髪型セットしてくれてありがとうございました!」 「いいえ。デート、頑張ってね」 「だから違うってば!!」 手を振る手塚の母に顔に朱を昇らせ否定したは、パタパタと玄関を飛び出していった。 が走り去ったのを見送ってから数秒。 手塚は玄関で靴を脱ぎかけたまま、おもむろに携帯電話を取り出した。 「まったく何事かと思ったよ。手塚から電話があったときは」 大石が呟く。 「いきなり、"そっちには行ってないか"なんて……」 「てっきり先輩がどーにかなったのかと思ったッス」 「越前、何で僕の方見ながら言うの?」 「別に……」 「っ!来た!!」 桃城の小さな叫びに、一同はのほうに目を向けた。 公園の入り口に向って呼びかけながら手を振っている。 慌てたように走ってやってきた人物は――――。 「ごっめーん、。ちょっと出かけに色々あって……」 「大丈夫だよ、杏ちゃん。時間ぴったり」 「って、男じゃないのか!?」 「え、なにが!?」 現れた意外な人物に重なる驚愕の声。 だがそれは青学の面々だけのものでなくて……。 「くーちゃん達……」 は、冷や汗をかきながら物陰から現れたレギュラー達に、ただひたすら丸い目を向けて。 「兄さん達……」 杏は、きまり悪そうに青学の面々とは別の物影から現れたレギュラー達に、こめかみをひくつかせ。 「かくれんぼは楽しい?」 ――――口調は同じだったが、そこに篭る温度差は天と地ほどもあった。 「私、ちゃんと友達とって言ったつもりだったんだけどなぁ……」 は不思議そうに頬を人差し指でかきながら呟く。 「何でおばさんの冗談、真に受けちゃうかなぁ」 責めるでもなく、ただ問うような口調に、手塚は答える事ができなかった。 「みんなも、くーちゃんからの電話ってそんなに珍しい?」 「ケータイの番号を交換して、あれが始めて手塚からかかってきた電話だった」 「じゃあ、しょうがないか」 乾の言葉に、はうんうんと頷いた。 「でもまぁ、誤解が解けたんだからもういいですよね」 一同の顔を見回し、場を収めようとするに、不二が少々申し訳無さそうな顔で近づく。 「ごめんね、ちゃん。驚かせたみたいで。ところで……」 「なんです、不二先輩」 「その服、すごくよく似合ってるよ」 頭のてっぺんからつま先までじっくり見てから、おもむろに不二は言った。 「うんうん!すっごい、可愛いよー!!」 菊丸も便乗する。 はすこし照れたように笑いながら、 「ありがとうございます。きっと杏ちゃんのお見立てがよかったんですよ」 「でも、よく似合ってるッすよ。馬子にも衣装って感じで」 「言うと思った。でもそんな事自分が一番よく分かってますよーだ」 はふふんと笑って、越前の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「!」 呼び声がしたのは越前が頭を撫でる払いのけた時で。 「こっちの話、終わったわよ」 「私の所も終わった」 笑うと、杏は頬に手を当て、首をかしげながら、 「出かけに神尾君に会ったのが悪かったのかしら。遊びに行くって言っただけで兄さん達を引っ張り出してくるなんて……」 「大事にされてるんだね、杏ちゃん」 「過保護なだけでしょ。さ、」 杏はの手を取る。も頷いて、手を握り返した。 「じゃあ、行ってくるね」 「二人だけで大丈夫か?」 「くーちゃん……」 どこまでも心配そうな発言に、ははぁっとため息をついてから手塚の方を向いて、 「私そんなに信用無い?大丈夫だよ、杏ちゃんが一緒なんだから」 「神尾君たちも、尾行なんてしてきたら絶交だからね!!」 二人ともびしりと釘を刺してから、時々本当についてきていないか振り返りながら公園を出て行った。 ――――すこし日差しの強い昼下がり。 公園の一角では、えもいわれぬ脱力感が漂っていた。 |
あとがき
デートのお相手は杏ちゃんでしたー(笑) なんだか杏ちゃんが強いですが、気にしないでおきましょう。 ちなみに管理人、流行の服装に関してはまったく無知なのでその辺の描写は控えさせていただきました。 みなさまで勝手にご想像ください(笑) |