あの頃のキス

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それはとってもよく晴れた夏の昼下がり。
アーリア村を出発し立ての頃のお話。



「ねぇ」
クロードは上を見ながらいった。
「何してるの?」
「遊んでるように見える?」

その声の先―高い高い樹の上―には、泣き笑いの顔をしたレナがいた。

「見えなくはないなぁ・・・」
クロードがぽりぽりと頭をかきながら云う。
「・・・」
「あ、ごめん。冗談だよ」
レナに睨まれ、クロードは慌てて弁解をした。
「それで。どうしてそんな所にいるの?」
「・・・・・・」
「どうして?」
「・・・・・・・・・ひな」
「へっ?」
「鳥のひなが、巣から落ちてるのを見つけたの。このままにしてたら死んじゃうし。
樹の上に巣を見つけたから戻してあげようと思って・・・」
喋るにつれ語尾がだんだん小さくなり、最後はかすれるように空へ消えていった。
「それで降りられなくなって樹上の人ってことか」
「む、昔から木登りは得意だったんだから!!」
レナが顔を真っ赤にして怒る。
「木登りは得意でも"木下り"は苦手だったみたいだね」
「うぅ・・・」
図星を指され、レナは黙り込んだ。
確かに、村の子と木登りをして降りれなくなった事は何度かあった。
でもその度に両親や村の大人、ディアスに助けてもらっていたのだ。
けれど、今ここに皆はいない・・・
「ねぇ、レナ」
故郷を思い出していたレナは、クロードの声に我に返った。
「見晴らしいい?」
「・・・代わってあげたい位いいわ」
レナはそっぽを向いた。
(・・・人が困ってるのに・・・)
レナがぶちぶちと不貞腐れていた。その時。




がさりと、
隣の枝が揺れた。




「?」
「よいしょっと」
「ク、クロード!!」
そこには樹にしがみ付いているクロードがいた。
「な、なんで・・・」
「助けに来たのに何では酷いよ・・・」
クロードは困ったように笑った。
「助けって・・・」
「そこにいるのが助けたひな?」
クロードの視線の先に、
巣の中で小さく身を潜めた黒いひならしきものがいた。
「全然動かないや」
「こうしていると、敵に見つかりにくいの。騒ぐのは親が帰ってきたときだけよ」
「ふうん」
「それにねこの鳥、今は真っ黒だけど成長すると綺麗な蒼に変わるの」
「レナはよく知ってるね」
「長老様やお父さんに教わったから・・・」
「そっか・・・いいな。そういうこと教えてくれる人がいて」
クロードの瞳が悲しそうに揺らぐ。
「クロード・・・」
「さ、降りようか」
けれどそれは錯覚かと思うほど一瞬で、
次の瞬間にはクロードが手を差し出しながらいつものように笑っていた。
「降りるってどうやって・・・」
「僕の体に捕まって。レナ一人を支えながら降りるくらいできるよ、たぶん」
ほら、とクロードは手を伸ばした。
レナがおずおずとクロードの首に手を絡ませる。
耳元でしっかり捕まっててとクロードの声がした。



(この感じ、にてる・・・)
昔、こうやって降ろしてもらったことあったっけ。
お父さんとか、ディアスに。
でも、違う。
あの時よりも私大きくなってるし。
私の事、抱きかかえられるくらい、
クロードってこんな逞しかったっけ?
そっか。
やっぱりクロードって・・・



男の子だったんだよね・・・・・・



「うわっ!」
「えっ!?」
考え事をしていた頭が一瞬ふわりと浮く。
次の瞬間、クロードはレナごと樹から滑り落ちた。



(痛・・・くない?)
落ちたはずなのに全然痛くない。
それどころか地面が鼓動をしている。
しかもやわらかい。
特に・・・・・・唇あたりが?



恐る恐る開いたレナの目に、同じ様に目を見開いたクロードの碧眼が見えた。



状況を悟るのにおよそ数秒。
(私・・・クロードと・・・キスしてる)
「きゃあ!」
レナが下敷きにしていたクロードの上から飛びのいた。
「え、あ、あの・・・」
言葉が絡まって上手くいえない。
頬が、熱い。
「っご、ごめん!!」
クロードは叫ぶようにそれだけ云うと、ものすごい速さで走りさった。
途中何度もこけるのが見えた。



「・・・・・・」
(今のって・・・)
ゆっくりと、指先で唇を抑える。
そこだけ熱がこもっているように感じた。
(私の、ファ、ファーストキス・・・)
突然の事故でしてしまったファーストキス。
なのに、怒りも悲しみもわかない。
(なんで?)
『しっかり捕まってて』
脳裏に、さっき樹の上で見た笑顔と耳元で聞こえた声が蘇える。
(私嬉しいんだろう・・・)




変わってしまったあの人への距離と想い。
きっかけは、―――あの日のキス。

あとがき

はい!キリ番6666HIT有難うございます〜〜!!

キリ番では初めてのノーマルですねv
結局エセ少女漫画状態になってしまいましたが・・・いかがでしょう?
書いてる間中コカ○ーラのCMと『波乗りジ○ニー』が頭の中をぐるぐ〜ると頭の中を渦巻いていました。
ま、何はともあれここまでごらん頂き真にありがとうございましたvv

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