Lovely☆Baby

事の起こりは暇つぶしに始めたトランプ。
この只の暇つぶしが、クロードにとって最悪の一日の幕開けとなろうとは。
このとき、誰も予想していなかった・・・




「わ〜い、勝ったぁ!」
プリシスが歓声を上げる。
「ああ、負けちゃったなぁ」
「もうちょっとでフルハウスでしたのにっ!」
「しょうがないわね・・・」
残念がる他の面子にプリシスは言った。
「ねぇ、これであたしの言う事なんでも聞いてもらえるんだよね?」
「へっ?なにそれ」
クロードが呆けた声を出す。
「え〜、忘れちゃったのぉ?一位になったら、他のメンバーに何でも命令できるってルール!!」
「ああ、そういえば・・・」
そんな妙なルールがあったっけ・・・
「じゃあ、プリシスは何がお望みなの?」
「あんまり無茶は言わないでくださいましね?クロードと結婚したいとか」
「セリーヌさんっ!」
「んん〜、其れもいいけど・・・」
「プリシスッ!」
「じょーだんだよぉ。んとねぇ・・・」
しばらく俯いたプリシスはやがてにっこりと顔を上げると、


「クロードの女装姿が見たい!」


『はっ?』


プリシスの言葉に一同は目が点になった。
「だって、前にクロスで想像した時面白かったんだも〜ん。見てみたぁ〜いv」
「ちょ、プリシス」
「あら、面白そうですわね」
「セリーヌさんまでっ・・・!レナも何とかいってよ!!」
「・・・いい」
「へっ?」
「プリシスナイス!それ凄くいいっ!!」
「でしょ、でしょv」
「へ、ちょっと、まって・・・!」
色めき立つ女性陣にクロードは狼狽した。
「そうと決まれば善は急げですわ。衣装を持ってきませんと」
「はい!私アクセサリー持ってきます!」
「ちょっとぉぉぉ〜〜〜!!」
哀れ、クロードの叫びに耳を傾けるものはあいにくその場には居なかった・・・



―――そして数十分後。
「きゃ〜、クロード可愛いv」
「本当に。・・・私には劣りますけど」
「おっけおっけ、どっからみても美少女!!」
あれから散々着せ替え人形にされたクロードは、彼女たちの無責任な発言に対抗する体力も、気力も、残されてはいなかった。

ぐったりと寝椅子に横たえられた体に纏うは、キャミソールタイプのシンプルなドレス。
髪の横には可愛らしいリボンが結わえられ、所在なげに投げ出された足元には白いミュールが。
淡いピンクのリップが塗られた唇からはひっきりなしに溜息が漏れる。
何処から、どういう角度から見たって、立派に完璧な美少女が出来上がった。
「ねぇ、クロード、ちょっとだけ笑って?」
レナの手にはちゃっかりカメラが。
「・・・可笑しくもないのに笑えない」
レナの弾んだ声に対し、クロードは沈み込んだ声で答えた。
(もー、やだ。地球に帰りたい・・・)
こっちに来てから何度目かの思いがクロードの中を駆け巡る。
その時。


こつ、こつ


「はぁ〜い」
「ねぇ〜、こっちにクロード来て・・・な・・・い?」
部屋に顔を出したのはアシュトンだった。
入った瞬間、寝椅子の上のクロードと目が合う。
「・・・・・・」
石のように動かない二人。
やがてアシュトンが引き攣りながら、寝椅子の上の少女を指差し、
「・・・・・・くろ〜・・・ド?」
「!!!っわ〜、見るなぁっ!!!」
クロードは極自然に、アシュトンを絶叫と流星掌と共に追い出した。
「なんだっ!?いまの爆発音と悲鳴は!!」
―――それが宿内の仲間全員を呼ぶ羽目になるとも思わず。




宿屋内の一室。
潰れそうなほど重い空気がその部屋に充満していた。
部屋の端にあるソファに一人の少女が窮屈そうに座っている。
顔を俯けているため表情までは読み取れない。
その少女を守るように両側に陣取っているのは、艶かしい姿をした女性と尖った耳を持つ少女。



「・・・・・・」
「・・・しかし馬鹿な賭けしたもんだな」
拷問のように重苦しい沈黙の中でボーマンが口を開いた。
「何でそんなこと言い出したんだよ。自分が負けると思わなかったのか?」
「・・・まさかこんな格好させられるとは思わなかったから・・・」
「まー、確かに誰も女装させられるなんざ思わねぇよな」
聞き取りがたい声で反論するクロードに、ボーマンは同情するように頷いた。
「でもお兄ちゃん」
いつの間にか近寄ったレオンはクロードの顔を覗き込むと、
「とってもよく似合うよv」と微笑んだ。
「ほんとほんと、全然男に見えない!」
「わかるっ!?レオン、アシュトン!もー、クロードってばお化粧必要ないくらい女装が似合うわvv」
うっとりと言い募るレナに対しクロードは、
「ははは・・・ごめん、全然まったくこれっぽっちも嬉しくないっ」
クロードは引き攣った笑顔を見せながら言った。
無論、盛り上がる女性陣+αに届くはずもないと知りながら。


(これからぼくどうなるんだろう・・・)
クロードが一人勝手に盛り上がるこの騒動の行く先を暗示していたその時、部屋のドアが開かれ、驚くべき人物が顔を出した。



「邪魔をする」
『ルシフェル!』
そこには彼らの敵であるはずの十賢者ヶ一人、ルシフェルの姿があった。
其々、仲間達は己が武器を手に身構える。
緊迫した空気。
だが、そんな空気など知らぬふりで当人は部屋の中へ。
行く先は
「・・・?」
クロードの元。


そのまま何をするでもなくじっとクロードの顔を見つめていた。
「・・・なんのようだ」
クロードは自分を見下している相手に挑戦的な視線を送る。
相手は敵のbQ。
油断は出来ない―――



突然、ルシフェルが動いた。
自分の顎に添えていた手をクロードの頬へと移動させる。
「え・・・と・・・」
「・・・美しい」
「ほへっ?」
唐突な賛辞の言葉に、クロードは目を点にした。
むろん、他の仲間たちも同様である。
「なるほど、やはり間近で見ると違うな」
何を納得していると言うのだ。
「おい!お前なんでここに俺たちがいると知ってる!!」
「ずっと監視していた」
ボーマンの問いに振り向きもせず答える。
やっていることは殆ど性質の悪いストーカーだ。
「あの〜・・・」
「へぇ、化粧はしてないんですね。でも綺麗ですよ」
「ってお前はサディケル!!」
「・・・なぜここにいる」
「ずるいですよ、ルシフェル。ぼくに内緒でここに来るなんて。そもそも彼らがここにいるのは僕が教えた事じゃないですか」
サディケルがルシフェルの方を向きにやりと笑う。
ちなみに手はちゃっかりクロードの腰に添えた状態で。
「お前という奴は・・・」

「おい、その手をどけろ」
ルシフェルの後ろから鋭い声。
「ひっ!」
クロードが恐る恐る声のほうを覗き、悲鳴をあげた。
そこには冷たい闘氣を纏ったディアスが剣の柄に手をかけていた。
「・・・貴様ごときに命令される謂れはないな」
口元に微笑を称えたままでルシフェルはゆっくりと振り向く。
「それに自分のものに触るのはいけないことか?」
「いったいいつ、クロードが貴様のものになった」
「予定だ」
「知ってる?」
ディアスの隣でアシュトンも剣を抜く。
背中の二匹も既に戦闘体勢に入っている。
「予定って壊す事もできるんだよ」
「・・・やってみるか・・・?」
ルシフェルの周りを赤い風が渦巻き始めた・・・



「じゃー、僕はこっちとやろうかな」
レオンが懐から本を取り出す。
視線の先には・・・
「子供は子供同士のほうがいいでしょ?」
「そうですね」
離れてくださいとサディケルはクロードを部屋の隅へ遠ざけた。
「最も力まで互角とは思いませんが・・・」
「じゃあ、これで対等か?」
「ボーマンさん・・・」
「なってねぇ子供を躾直すのは大人の役目だろうが」
「雑魚が一人増えたところで僕に影響はないですよ」
サディケルが音叉状の武器を構える。
「雑魚かどうかは・・・これから試してみなよ」
レオンの周りを淡い光が飛び交い、白衣や髪をはためかす。
「ま、最終決戦の手間が省けたってもんだな」
ボーマンが身構える。
あたりに、冷たい殺気が立ち込め始めた。


「ハ、はは・・・・・・」
クロードは目の前で行われ様としている理不尽な戦闘に、すっかり崩壊しかけていた。
(なん・・・なんだよ・・・)
一体自分が何をした?
(何で・・・・・・こんなこと・・・に・・・!)
「いくぞ!」


ぶちっ



「ふざけるなぁぁぁぁ―――!!」

どごォッ!!



怒号と共にぶっちきれたクロードは、
気合を込めた吼竜破により部屋の半分ごと、不埒な輩共をふっとばした。
「みんな大っ嫌いだぁ〜〜!!」
自分も悲劇のヒロインよろしく泣きながら部屋を飛び出して。


―――そんな惨状の後、瓦礫とかした部屋の隅でこの騒動の張本人達は、
「やっぱり争奪戦っていうのもいいわよね〜・・・」
うっとりと己の妄想にふけっていたという。

あとがき

3888ヒット有難うございます

ついにきました女装ネタ!
いや、書いててかなり楽しかったけど。
もうちょっと争奪戦っぽく書けばよかったかな。
あと十賢者が二人しか出せなかったのもちょっと心残り。
どうせだったらもう一本書こうかな・・・(おい)

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