together
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エル大陸。 そこは魔物達に占領された大陸。 わずかに残る民は皆肩を寄せ合い明日に脅えながら生きていた。 「んんっ・・・」 深夜、アシュトンは集落の借宿でふと目が覚めた。 あたりは暗く、周りからは仲間の寝息が聞こえる。 「クロード?」 アシュトンは隣のベッドに視線を移した。 シーツは乱れており、明らかに誰かが寝ていた痕跡が残っている。 だが中身がいない。 (まさか・・・!) アシュトンはベッドから跳ね起きると、 それでも仲間たちを起こさぬよう細心の注意を払い、表へと出た。 集落から少し離れた海岸。 一人の青年が海を眺めている。 「クロード!」 名前を呼ばれ、青年は弾かれたように振り向いた。 「ああ、アシュトン」 声の主を確認すると安堵したように、そしてのんきそうに微笑んだ。 「どうしたの?こんな夜中に」 「どーしたのじゃないよ!勝手に部屋抜け出して何考えてんのさ! こっちがどれほど心配したのか分かってんのぉぉ!?」 「わー、ご、ごめんなさぁい!!」 今にも噛み付きそうな勢いで怒るアシュトンに、 クロードはただ平謝りを繰り返した。 「まったく・・・所でどうしてこんな所にいるの?」 まだ言い足りないらしいが、とりあえず怒鳴るのはやめたらしい。 その代わり、声はまだ幾分かとんがっている。 「うん、ちょっと・・・ねぇ、明日はいよいよエルリアタワーに行くんだよね」 「うん、そうだよ」 「あそこにいったら、この世界の異変が少しは分かるかな?」 「だと、思うけど?」 「そう・・・だよね・・・そうしたら・・・」 クロードは言葉を切ると、視線を海へ移した。 夜目にもわかる鮮やかな金糸がさらさらと風にゆれ、 空色の瞳が何処までも遠く海を見つめている。 白い砂浜に反射された月明かりが、彼の白い肌をより一層白く見せた。 現実のものではないような、神秘的な光景。 まるでこのまま月の光に、溶けて、消えて、居なく、なりそうで・・・? アシュトンは魅せられるままに手を伸ばした。 「ア、シュ・・・トン?」 クロードはいきなり抱きしめられ狼狽した。 声が、裏返ってしまう。 「あ、あの・・・」 「クロードは、」 「へっ?」 「クロードは、居なくなったりしないよね?」 「アシュトン・・・?」 「何処にも、行かないよね?」 「アシュトン・・・」 「あのね、クロード。僕はすごく臆病な人間なんだ。 いつも君が居なくなったりしないか不安で、しょうがないんだよ。あの時も」 あの時。 エル大陸にたどり着いた時。 クロードが居ないと分かって血の気が引いた。 まさか、あのまま・・・ 口ではレナを励ましていたけれど、本当は取り乱してしまいそうだった。 クロードを失うかも知れないという恐怖で胸が張り裂けそうだった。 だからクロードが無事に見つかった時、安堵でその場にへたり込みそうになった。 ―――もう二度と、あんな血の凍るような思いはごめんだ。 「僕はクロードを失う事が何より怖い。僕は・・・弱い人間なんだ」 語尾が微かに震え、抱きしめる力が強まる。 しばらく黙っていたクロードは、やがてゆっくりとアシュトンの背に手を回した。 アシュトンの体が一瞬びくりと震える。 「僕は、何処にも行ったりしないよ」 ゆっくりと、視線をからませる。 「クロード・・・」 本当は。 本当はこの事件の真相がわかったら、 誰にも言わず地球へ帰る方法を探そうかと思っていた。 きっとこれ以上、みんなと居ると、辛くなるだろうから。 けれど。 「君が必要としてくれるなら、僕は君の側に居る」 「クロード」 「何処にも行かない。君の隣が僕の場所だから」 「うん・・・」 「だから、君も僕の隣にいて。ずっと」 「うん、ずっと一緒に居るよ」 この思いの続く限り永遠に。 二人は、何も言わず互いの躰を抱きしめた。 ただ強く、強く。 相手の存在を確かめ合うように。 END 「だー、もう!じれったいですわねぇ!!」 がさがさぁ 近くの茂みが揺れたかと思うと、ほぼ同時にセリーヌが顔を出した。 セリーヌだけではない、他の仲間たちも一緒だ。 「な、なに!?」 クロードとアシュトンは離れるのも忘れ、驚愕した。 「本当に見ていてじれったいですわね!」 「アシュトン!クロードから離れて!」 「アシュトンお兄ちゃん、 僕の目をごまかしてクロードお兄ちゃんに・・・いい度胸してるね」 「あ〜ん、アシュトンずるい!クロード、あたしも〜!!」 ―――好き勝手に騒いでいる面々を見てアシュトンは、決意した。 この旅が終わったら絶対にクロードと二人っきりになってやる!! 彼の決意が実現する事を祈りつつ・・・ END |
あとがき
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