Peaceful every day

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その日、シグレは痛切に思った。
「ああ・・・」
思い出しただけで目頭が熱くなる。
「平和っていいなぁ・・・」
――まあ、実際は戦争の真っ最中だったりするのだが。
だがそれでも身近にある平和というものをこれほど愛しいと思った日はなかった。
そして同時に、なぜ自分の周りではこれほど不幸が続くのかと疑問に思った日でもあった



















「な、な、な・・・」
部屋に入った途端、グレミオは言葉を詰まらせた。
「どうした、グレミオ」
後ろからくっついてきていたシグレは、立ち止まったグレミオの背中にしたたか鼻を打ち、不機嫌そうな声で訊いた。
「なんなんですか、これはぁ〜〜〜!!」
頭を抱えて大絶叫。
従者の突然の雄叫びに、シグレは思わず後ずさった。
「何がって・・・何が?」
「この部屋です!」
グレミオは大仰な仕草で部屋を指した。
「なんなんですか、この汚さは!!」
グレミオが絶叫するのも無理はない。
これほど足の踏み場もないという言葉が似合う部屋も少ないだろう。
まず、床が露出していない。
何処を見渡しても石畳の床が見えないのだ。
その代り、床を占拠しているのはゴミ。
正確にはゴミと思しき物と洗濯物、本やら武器やらが所狭しと並んでいる。
ゴキブリすら通るのを躊躇するこの汚さ。
「いったい何処で寝ていらっしゃるんです!?」
「もちろんベッドで」
シグレはこともなげに言うが、そのベッドすら"何か"に埋もれて姿が見えない。
「あああ!私がちょっと留守にしている間に何たる始末!」
グレミオが身悶えながら頭を抱える。
正確に言うと『留守にしていた』ではなく『死んでいた』なのだが。
「こうなったら!」
と、何処から取り出したのかお掃除道具一式を手に、そして目にも鮮やかな白の割烹着を着込み背後に荒波を背負いながら、
「このグレミオが徹底的にお掃除させていただきます!!だから坊ちゃんは散歩でもしてきてください!!」
シグレは一歩も自分の部屋に入る事無く追い出されてしまった。












「さて、どうするかなぁ」
散歩といったってこの戦乱のご時世。
反乱軍のリーダーがのこのこ外へ行ける筈も無い。
しょうがないから城の中をうろうろするだけと言う何とも痴呆症の老人のような散歩をする羽目になった。
「おっ」
城内をうろうろする事数十分。
シグレは見慣れた後姿を見た。
「お〜い、フリック〜」
ひらひらと手を振り走り寄る。
くるりと振り向いたのはシグレと別の意味で不幸街道まっしぐらな青い人、フリック。
「どーしたんだ、お前」
珍しい顔にフリックは若干目を剥く。
「グレミオに部屋追い出された」
シグレは仕方なさそうに肩をすくめる。
「何でまた」
「部屋が汚かったから掃除するって」
「お前どれくらい掃除してなかったんだよ」
「ん〜・・・」
明後日の方向を見ながら考え込むシグレに、フリックは軽い溜息を吐いた。
「で、何のようだよ」
「ヒマなんだよ」
シグレはさらりと言った。
断片的な言葉にフリックは眉を寄せる。
「・・・だから、何?」
「ヒマだからなんとかして」
さらに抽象的な答えにおもわず首がこける。
「なんとかって・・・」
「・・・・・・」
じぃっと見上げられ言葉がつまる。
紫水晶の瞳が懇願していた。
しばらく「う〜」と苦悶してフリックは肩を落とした。
「しょうがないなぁ・・・」
軍主の命令に勝てるはずも無いと自分に言い訳して、フリックは苦笑した。
「稽古の相手でもしようか?」
「ああ」
シグレの顔に喜色が差したのを見て、フリックの苦笑が微笑に変わる。
が、それもつかのま。





「切り裂き」





いとも静かな声と裏腹な激しいカマイタチがフリックを襲う。
避ける事も叫ぶ事も適わなかったフリックはそのまま壁に激突した。
一瞬呆気に取られたが、こんな事をする相手はすぐに思い当たった。
シグレが放たれた風の方向にゆっくりと、顔を向ける。
「・・・ルック」
そこには滅多に石版前から移動しない・・・というか移動した姿を見た事の無いルックがいた。
「何するんだよ」
「別に・・・」
眉をひそめ非難するも、ルックはいつもの仏頂面に反省の色が見えない。
その上もう用は済んだとばかりにその場に背を向ける。
追いかけていって文句の一つでもと思ったが、血みどろのフリックの方が気になったので後を追うのはやめた。
その後、フリックは偶然通りかかった熊――もといビクトールに担がれ、流水の紋章を装備したキルキスの元へ直行させられた。







さて、再度ヒマになったシグレはフリックの流した血の後をせこせこと掃除したのち、城内をうろつく事にした。
ほてほてとまた城内をうろついていると渡り廊下でシーナに出会った。
「よぉ、シグレ。何やってんだ」
いつもの軽い調子でシーナが話し掛ける。
「ヒマだからその辺うろついてる」
いとも正直に現状を告白するシグレ。
「呆けたジーさんみたいだな」
「僕もそう思う」
シーナの揶揄にシグレはあっさり頷いた。
シーナはしばらく「ふ〜ん」とシグレを眺めていたが、やがてにやりと片頬を歪めた。
「シグレ、俺とナンパに行かない?」
「ナンパ?」
シグレがあまり聞きなれない言葉に首を傾げる。
「そ、ナンパ。お前見た目いいしさ、俺と組んだら結構女の子引っかかるんじゃない?」
「ふ〜ん」
さして興味もなさそうにシグレは生返事を返した。
「なぁ、いこうって。ほら・・・」
シーナがシグレの両腕をぐっと掴む。



「「火炎陣!!」」



後方から聞こえた怒号に振り替える間もなく、シーナの体を炎と雷の洗礼が襲う。
「何をやっているんだ、貴様!」
「シグレ様、ご無事で!!」
現れたのは元テオの部下、火炎将アレンと雷撃将グレンシール。
「お怪我はございませんか!」
飛びつくようにシグレの元に走りより、どこも異常が無い事を確認したアレンがほっと力を抜き、シグレの肩に頭を乗せる。
「よかった・・・」
「貴様・・・シグレ様に何を吹き込んでいる・・・」
怒りの形相も荒々しく、グレンシールの周りに雷の帯が舞う。
だがそれをシーナは見ていなかった。
――見ようにもとっくに消し炭状態なので不可能だ。
「アレン・・・僕は大丈夫だから」
シグレがちらりとシーナ『らしきもの』に視線をやる。
「だからシーナをキルキスの元まで連れて行ってくれない?」
「ですが奴は!」
「頼むから・・・」
軍主にぺこりと頭を下げられ、アレンとグレンシールは思わず互いに顔を見合わせる。
「・・・分かりました。ご命令とあれば従いましょう」
グレンシールが丁寧に礼をし、シーナ『と思しきもの』の足(たぶん)を掴みキルキスの元へ向かう。
途中何度も心配そうに振り返るアレンを安心させるように、シグレは軽く手を振った。











再三一人になってしまったシグレは屋上へと向かった。
吹く風と注ぐ日光が心地よい。
「カスミ・・・」
見慣れた姿に話し掛けると、カスミは不自然なほど動揺した。
「し、しし、シグレ様・・・」
「見張りご苦労様」
何気なく声をかけると林檎も吃驚なほどカスミの顔は真っ赤になる。
「ああ、続けてくれていいよ」
シグレはわたわたと慌てるカスミの隣にゆったりと腰掛けた。
「あ、あの、何か御用で・・・」
「いや、ヒマだからちょっと来ただけ。気にしないで続けて」
「は、はぁ・・・」
赤い顔を徐々に戻らせ、カスミは頷いた。
頬を撫でる清涼な風。
程よい温もりを与える日光。
どこからか運ばれてくる花の香。
戦乱の世とは思えぬほど穏やかな時間だった。
「・・・あのぅ」
「なんだい」
そろそろと声をかけられ、シグレは滅多に出さない微笑で答えた。
「――っ!!」
「キャ―ッ!!」
カスミの顔がまた赤くなったのと同時に空中から響く乙女の悲鳴。
続いて鈍い落下音。
「アイタ〜・・・」
腰をさすりながらビッキ―が起き上がる。
「・・・」
――下敷きにしたシグレの上から。
「シグレ様!!」
「きゃー!ごめんなさい!!」
駆け寄ったカスミとビッキ―のテレポートのタイミングがジャストヒット。
シグレが背中をさすりながら起き上がったとき、その場には陽光のみが穏やかに降り注いでいた。












そういう訳で、結局最後に行き着いたのは己でもちょっと意外なところ。
「さぁ、シグレ様。私が手ずからお茶をお注ぎいたしましょう」
気取った手つきでミルイヒが茶をカップに注ぐ。
ぺこりと首だけおじぎして、紅茶とやらの入ったカップに口をつける、
季節に関係なく花の咲き乱れるもう一つの屋上で、シグレは優雅におやつを楽しんでいた。
緑茶とは違った甘味のある液体で喉を潤し、クッキーという茶菓子を頬張りながらシグレは空を見上げた。
むせ返るほど咲き誇る花の香に包まれ、シグレは思った。
(ああ・・・平和って良いなぁ)
――それが大いなる間違いである事を訂正するものもおらず、クレオとパーンが夕飯に呼びに来るまで、シグレはミルイヒの元で優雅にお茶を楽しんでいた。

あとがき

ええと、11111HITありがとうございます。
初めてのSO2以外のリク(自爆除く)です。
かなり遅くなった上にちゃんとギャグになっているかどうか心配です。
リク内容、違えてないといいのですが・・
とりあえず坊ちゃんは過保護に愛されている、という設定の元で書きました。
(この時点で既に何か違う・・・)
始めてアレンとグレンシールとシーナ出しました。
ん〜、性格が違う気が・・・
まぁ、何はともあれリク終了!
では、龍都は逃げます。ぢゃ!(をい)

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