彼女の事情

戻る

それはある、休日の出来事。



「ん?」
アシュトンは廊下の端から手招きする手に気がついた。
今のところ廊下には自分以外誰もいない。
何なのかと不審に思いながら近づいていくと、
「ぐぇっ!」
「ちょっと、付き合って!?」
「へ、何を?ってゆうか何が?・・・だぁぁぁ〜!」
いきなりマントの襟を引っつかまれ、そのままものすごいスピードで廊下を引きづられる。
「ぎょわあああぁぁぁぁ〜!!」
・ ・・不運にも、彼の叫び声を聞いたものは誰一人としていなかった。



「・・・ふぅ」
目的の部屋に到達してから、彼女は初めて安堵の息をついた。
「誰にも見つからなくてよかったですわ・・・」
そう、つぶやいたのはセリーヌだった。
実は彼女、ある目的が有ってアシュトンを誘拐もどき(?)したのだ。
「ねぇ、アシュトン実は・・・って、きゃぁぁぁ-―――!!」
セリーヌは掴んでいるマントの先を見て驚いた。
無理もない。
なぜならマントの先には窒息寸前で紫色の顔をしているアシュトンがいたのだから。
おまけにギョロ&ウルルンもぐったりして力がない。
「ちょっと、アシュトン!しっかりして下さいませ!ねぇ、アシュトン!!」
力任せにこれでもかとアシュトンをゆする。振るたびにアシュトンの頭は戸口にぶつかった。
「う、ううう・・・」
「アシュトン!よかったですわぁ・・・」
「ん・・・アレ?なんで僕こんなところに・・・?なんか頭も痛いし・・・」
セリーヌは一瞬ぎくりと体を強張らせたが、すぐごまかすように、
「アシュトン!お願いがございますの!」
「はっはい!なんなんでございましょうか!?」
「わたくしにお料理を教えてくださらない?」


・・・・・・・・・


「はい?」
たっぷり三秒間の時間を持ってアシュトンは口を開いた。
「ですから!わたくしにお料理を教えていただきたいの!」
「どうして?」
ごく普通に出したつもりの質問にセリーヌはさっと顔を赤くした。
「ねぇ?何でですか?急にそんな事言い出すなんて・・・調理とかだったら僕やレナが出来るのに・・・あ、ひょっとして・・・」
首をかしげたアシュトンはさらに続けた。
「誰か作ってあげたい人がいるんですか?」
其の言葉にセリーヌの顔は火を噴きそうなくらい真っ赤になる。

「あの・・・」
「そーですわよ!確かにディアスに作って差し上げますのよ!
でも勘違いなさらないでくださいましね!!前に誘拐事件で助けてもらったお礼ですわ!
貸しを作りっぱなしにするなんてわたくしのプライドが許しませんもの!ただそれだけですわ!!」
一通り喚き終わりゼイゼイと息を荒げるセリーヌを、アシュトンはポカンと見上げていた。
だがやがて、
(・・・ああ、何だそういうことか)
セリーヌさんにも可愛いところ有るんじゃないか。
声に出さずアシュトンは呟くと、服の埃を叩きながら立ち上がった。
「ア、アシュトン?」
自分の横を通り過ぎようとするアシュトンにセリーヌは当惑したが、
「ほら、早く作っちゃわないとディアス、稽古から帰ってきちゃいますよ」
「・・・そうですわね」
冗談めかしたアシュトンの言葉に、セリーヌは笑みを返した。


そしてそれから2時間後。


「・・・セリーヌさん?」
「何かしら?アシュトン」
「つかぬ事をお伺いいたしますが、セリーヌさんの調理スキルレベルはいったいおいくつなのでしょう?」
「1ですわ」
「・・・・・・」
あまりにも淡々と答えるセリーヌに、アシュトンは眩暈を覚えた。
あれから二人はディアスの好物、地鶏串焼きを作ろうと奮闘していたのだが・・・
今二人の目の前にあるものは、
まずいシチュー、まずいシチュー、まずいシチュー、奇妙な薬、まずいシチューまずいシチュー奇妙な薬奇妙な薬奇妙な薬奇妙な薬・・・・・・・
以下、延々と奇妙な薬が続く。
調理でどうして薬なんかが出来上がるんだ?とか普通スキルレベル1でも薬なんざ出きんだろう。というような疑問はさておき。
「困りましたわねぇ、材料が悪いのかしら?」
(いいえ、あなたの腕が悪いんです)
喉元まででかかった言葉をアシュトンは必死で飲み込んだ。
「だ、大丈夫ですよ、材料ならまだまだたくさん有るし!」
「そうですわね。さぁ、はりきって作りますわよ!」


――――――――それから3時間。彼女たちの奮闘は続くのであった。



おまけ

「ディアス!」
呼び止められ、ディアスは振り向いた。
そこには、
「セリーヌか」
「こ、これ!」
ズイッと差し出された荷物を反射的に受け取る。
「何だ?これは」
「いいからあけて御覧なさい!」
不思議に思いながら包みを開けてみる。
「・・・地鶏串焼きか」
そこには形はぼろぼろだが、ディアスの好物、地鶏串焼きが入っていたのだ。
「こ、この間助けていただいたお礼ですわ!これで借りは帳消しでしてよ!!」
赤くなった顔を見られぬように顔をそむけながらセリーヌは一気にまくし立てた。
「・・・・・・」
いびつなそれを見ながら黙り込むディアス。
「・・・言っておきますけれど、味の保証は致しませんからね」
不安げに呟くセリーヌ。
そんなセリーヌを横目にディアスは、
パクリッ
「あっ!」
もぐもぐもぐ・・・
「フム、形は悪いがうまいな」
「・・・・・・」
「一本食うか?」
「・・・いただきますわ」
それから黙って串焼きをほうばるセリーヌを見て、ディアスは珍しく笑みを浮かべたのだった・・・

あとがき

キリ番100番リクありがとうございます。
って、ディアス出てない!
あまつさえオチがないし!!

ああ、せっかくとってくださったのにこんなんで申し訳ありません(泣)
こんなのでよろしかったらもらってください〜(T_T)

戻る