ゴハンをたべよう
〜フリックの場合〜

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「ご馳走様でした」
「・・・もうか?」



昼とも八つ時ともつかぬ中途半端な時間。
人気のまったくない食堂の片隅。
シグレの向かいに座り湯(スープ)を啜っていたフリックが訝しげな声で訊いた。



「まだだいぶ残ってるぞ?」
「もういいよ」
シグレの感心は既に目の前の豪勢な料理から一杯の茶に移っていた。
「だがなぁ・・・」
フリックがちらりと卓上に視線を向ける。
卓上には蚕豆蝦仁(空豆と芝海老のオイスターソース炒め)や清燉蟹黄獅子頭(上海蟹の肉団子煮)や北寄貝猫耳麺(北寄貝とペンネの炒め)などがまだどっさりと残っている。



「もったいないな・・・」
「じゃあフリック食べる?」
皿の一つを勧められ、フリックは首を振った。
「あのな、オレはもうさっき散々食ったんだぞ。食うんならお前が食え」
「僕ももういらない」
「お前なぁ・・・」
フリックは呆れた溜息をついた。
英雄戦争時代から思っていた事だが、シグレは食が細い。
本当に胃袋があるのかと疑いたくなるほどだ。
側にいつも仕えている心配性の従者など、いつもあれこれと工夫を凝らしては何とか食べさせようと日夜努力していると言うのに、その成果はまったく表れてはいない。
「そのうちぶっ倒れるぞ」
「そうなったらホウアン先生やリュウカン先生に見てもらうからいい」
「おい・・・」
フリックは思わず片頬を引き攣らせた。
まさにああ言えばこう言う。
ここまで饒舌なシグレなど滅多に見れるものではない。
だがそんな事を珍しがっている場合ではない。



フリックは皿をずいと差し出し、
「食えって。お前昨日もほとんど残しただろ」
「いいよ。お腹いっぱいだから」
「うそつけ。いいから食え」
「やだよ」
「食え」
「いやだ」
「〜〜しょうがねぇなぁ・・・・・・」
業を煮やしたフリックは箸を手に取り、シグレの顎を掴むと、
「ほら、口開けて・・・・・・」
「なっ!何をする!!」
慌てたのはシグレの方。
いくら時間外で食堂に人がいないといえ恥ずかしいことに変わりはない。
「食わないお前が悪いんだろ!ほら」
「止めろってばぁ!何でフリックはそんなに僕に食べさせたがるんだよ!!」
「倒れられたくないからに決まってんだろ!!」


暴れていたシグレは動きをぴたりと止めた。
「お前なぁ、自分じゃ気づいてないかもしれんが、最近かなり顔色悪いぞ?」
「そんなこと・・・・・・」
「いや、絶対悪い」
きっぱりと言い切るフリックに、シグレは眉間の影を濃くした。
「どうしてそう言い切れるんだ」
「――い、いつも見てるからに決まってんだろ」
最後のほうは顔をそらし、呟くように消える。
見れば耳たぶがうっすらと赤く染まっていた。
つられて自分も赤くなる。
「・・・・・・その・・・・・・これでも心配してるんだからな」
「・・・・・・うん」
固まったフリックの手から箸を取り、冷めかけた皿に手をつける。
食事の間、互いに真っ赤になりながら、終始無言であった。





――――作ってくれた相手には悪いが、食事の味なんてちっとも分らなかった。

あとがき

とりあえず甘いフリ坊が書きたくなった・・・だけ。
幻水は異様に×表記が少なくって、
これじゃあ坊受けとは言えんだろと勝手に判断したので(笑)
しかしこの中のフリック、ヘタレですな。
ゲームではもっとかっこいいのに・・・・・・

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