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月の無い晩だった。
シグレは下界の喧騒から逃れるように屋上へとやってきた。
あたりを見れば街の灯りがわずかに見えるだけ。
夜がこんなに暗い事を、今まで知りもしなかった。
頬を撫ぜる冷たい風が心地よい。
シグレは塀にもたれながら下界の灯りを見つめていた。


ほんの少し前までは、自分もあの中にいたのだ。


厳しかったが温かい父と、姉のように接してくれるクレオと、大喰らいで無口だけど根は優しいパーンと、男だけど母のような限りない愛情で接してくれていたグレミオと、そして、唯一友と呼べたテッドと・・・
いつの頃からか自分を取り囲むすべては変化してゆき、将軍の息子ではなく解放軍のリーダーとしての自分がいる。

この境遇がいやなわけではない。
自らの選択と望みによって築かれた道だ。




けれど。


時々思う。


『もしも』あのまま時が流れていたら?
将軍の息子として帝国に仕えていれば、テッドやグレミオは死なずにすんだだろうか。
いつか父と対決するなんて事無くなっただろうか。


―――いくら考えたところですべては過去。


過去を変えるなど出来はしない。
分かっているけれど。
それでも。
「・・・っう」
こみ上げてくる嗚咽を噛締める。
シグレはその場に膝をついた。
誰もいない宵闇の屋上で、シグレは一人の少年に戻っていた。
『解放軍リーダー』ではなく『シグレ』という少年に。




―――声を漏らさぬよう覆った右手からは、
           なぜか温かいものが流れ出ているような気がした。

あとがき

み、短い・・・
そして意味が分からない・・・
一応これが龍都の初幻水小説。
坊ちゃん一人語りなところがやっぱりっていうのか・・・
うちの坊ちゃんのイメージは絶対人に弱みを見せない人だと思うんです。
だからこんな誰もいない所でしか感情を吐露できない。
そういうイメージがあるせいでしょうか。
暗い・・・

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