*お読みになる前に注意事項*


如月が変態です。

それ以外に言葉が見つかりません。

ですが如月ファンにケンカを売る気は毛頭ありません

繰り返します
“如月翡翠”が、変態です。

如月ファンにケンカを売る気は毛頭ありません。


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緋勇少年のキトクな日常
−夜−

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人口の光と闇の中に、星明りが溶け込んだような夜の事。
震度一の地震であっけなくぺしゃんこになりそうなボロアパート。
その二階の一室で、龍麻は蛇口を捻ると同時に、鉛のような溜息を吐いた。
「どないしたんや、アニキ」
すぐ後ろの茶の間で食後の一服を嗜んでいた劉が振り返る。
龍麻は手についた水を切ると、何でもないと首を振った。






――――今日はいつもよりタイトでヘビーな一日だった。







超家庭的アサシンのご来訪に新婚家庭真っ青な状況で朝を迎え、昼は昼で神出鬼没のサボり魔忍者と共に昼食を取り、その場で彼は仲間の一人である"歩く超常現象"な少女の襲撃を受け、現在病院のベッドの中にいる。
ありえないほど密度の濃い一日を何とか切り抜けた龍麻は、こうして弟分である劉と至極安全快適楽園的で質素な夕食を終えられた事を、神に感謝していた。
祈りを捧げるだけで平穏が手に入れられるなら、神でも仏でも悪魔でも第六天魔王でも何でも信じて感謝してやろう。
でも、ナイアルラトホテップだけはダメ。絶対最後で裏切られそうだし、アレ。
東京に来てから、そういった知識にめっぽう明るくなった龍麻であった。
「……はぁ」
龍麻は出がらしのぬるい茶を飲み干し、嘆息した。
小さなちゃぶ台で隣り合う劉は、学校から出された課題に取り組んでいる。
慣れない日本語と悪戦苦闘しながら、それでも諦めない姿を見ているうち、なんだか口元に笑みが浮かんできた。
劉の姿と重なって、故郷の義弟の姿が頭に浮かぶ。
中学に上がってから反抗期を迎えるまでは、こうやってよく一緒に宿題をやっていたものだ。
今では、なぜかすっかり嫌われて連絡をよこしてもうんともすんとも返事が無い。
そういえば、ここ数日連絡をしていなかったな……と龍麻は壁時計の秒針を眺めながらぼんやり思った。
「……にき……アニキ!」
肩を揺する手と声に、龍麻は現実に引き戻される。
ぼんやりとした乳白色の幻影は霧散し、クリアになった視界に見慣れた自室が飛び込む。
「目ェ開けたまんま寝とったんかい……」
しゃーないなぁと呆れる劉に、照れ隠しの意味も込めて課題の進み具合を聞く。
課題はとうに終わっていたようだった。
時計を見れば、もう十一時を回っている。
「えーと……今日も泊まるか?」
と、聞く前に劉はすでにちゃぶ台を片付けに入っていた。
劉は最近、よく龍麻のアパートに泊まる。
最初に提案したのは龍麻のほうだ。
なんせ、日本における劉の住居は公共の施設、公園。
結界が張ってあるとはいえ、屋根もへったくれも無い場所に、ご老人と一緒に寝泊りしているのである。
ダンボールと新聞紙って結構あったかいんやでーという逞しくも健気な発言に、龍麻は零れ落ちる涙を禁じえなかった。
確かに劉の住む公園には、ダンボールで作った城を構える方も大勢いらっしゃったが、そういう人々は殆どが世を果敢無み、今までの自分を捨てて生きていらっしゃる方々ばかりだ。
世を果敢無むには、劉はまだまだ若すぎる。
雨風凌ぐ屋根と煎餅布団ぐらいならあるから――――そう言って、冬の間だけでも泊まりにこいと説得した。
その際、劉の保護者とも言える道心に同じ事を言ってみたのだが、せまっ苦しい所に押し込められてたまるかいと酒臭い息を吐き散らしながら笑われた。
それからと言うもの、ほぼ毎日のように劉は龍麻の家へやってきては、寝食を共にする。
龍麻も、もう一人弟が増えたような心持で劉を受け入れていた。
劉が寝泊りするようになって、家には色んなものが増えた。
二人分の食器。二人分の歯ブラシ。二人分の寝具に二人分の空間。
殺風景だった部屋に物が増えてゆくのは、思ったよりも嬉しいものだった。
――――ただし、最近では二人分どころか三人分、四人分の荷物も増えつつある。
主な持ち主は、主婦機能完備済みの暗殺者に忍術を何か間違った方向に活用している疑いのある骨董屋だ。
その他、自ら相棒と称してならない京一や我が家を繁華街への中継地点に思っている節のある村雨の物も含まれていたりする。
部屋の中に見知らぬ荷物が増えるたび、はたして彼らはこの家を乗っ取る気なのか。こんな借家のボロ屋にそこまで価値があるのかと首を捻ってしまう。
最近では、知らない物が増えるたび持ち主に持って帰るよう促すのだが、それでも増殖は収まらない。
いつか床が抜けて下の階の住人を圧死させませんように……と龍麻は控えめに願っていた。













――――よし、誰もいない。
龍麻は開いた押し入れのなかを用心深く探索してから、安堵の息をこぼした。
そんな龍麻を、劉は怪訝そうな目で見ている。龍麻は無言で問う視線を受け止めながらも、理由を説明できずにいた。
――――実は以前、ふすまを開いた先に某国民的猫型ロボットよろしく膝を抱えて座っていた飛水流忍者と目が合ったことがある。
以来、龍麻は押入れを開くさい過剰なほどの確認を必要とする羽目になったが、しかしそんな事劉にいえるはずもない。
なにせ、どういった経緯か関西弁を蛇蠍のごとく嫌う如月と、日本語は関西弁しかマスターしていない劉の相性はすこぶる悪い。
そうでなくても、如月の行動はよくて迷子(どんな方法を使えば押入れの中で迷子になれるのかというツッコミは置いといて)、普通に見て変質者と見られても仕方がないモノばかりだ。
余計な争いの種は蒔かないに越したことはない。
龍麻はあいまいにお茶を濁してその場を切り抜けた。
さて、後は布団に入って寝るだけなのだが、二人は眠る気がしなかった。
まるで修学旅行の夜のように、劉が来た夜は雑談に花が咲く。
お互いもはや語り尽くしたはずの日常の報告や、なんてことのない話題など話は尽きない。
最近では、これが数少ない楽しみになっていた。
やがて、劉の声を子守唄に龍麻は眠りに入ってゆく。
「アニキ……寝た?」










――――夢に落ちる瞬間、劉の言葉になんと答えたか、あいにく龍麻は覚えていなかった。










それから、どれくらい経っただろう。
龍麻は再び意識を浮上させた。
まぶたを刺す光から察するにもう朝になったらしい。
まだ夢の切れ端が頭の中をふよふよしているが、少しずつ現実味を取り戻しつつある。
すると、両腕が固定されたかのように動かないことに気がつき、龍麻はまたかと苦笑した。
腕の痺れには覚えがあった。
よく劉は寝ぼけて龍麻の布団に入ってくることがある。
そんなときは決まって、龍麻の腕を枕代わりにしてしまうのだ。
今まで何度も注意し、そのたび劉も反省してきたようだが一向に治る気配はない。
最近では、もうすっかりあきらめている。
――――しょうがないなぁ。
龍麻は呆れと言うより微苦笑に近いため息をこぼし、思ったよりも甘えたがりな弟分の寝顔でも拝見しようと薄目を開けて――――凍り付いた。
眼前に現れたのは、癖のないつややかな黒髪。白い肌は朝日を神々しくはじき返し、伏せた睫毛は女が嫉妬するほど長い。薄い唇はまるで珊瑚のようにうっすらと桃色がかっている。
――――忍者だった。
あろう事か、病院に入院中であるはずの如月が龍麻の腕を枕代わりに同衾していた。
一応これでも日々鍛えられているのだから、不審者が侵入すれば気づくはずだ。
しかし龍麻が鈍いのか、それとも如月がすごいのか、今まで何度もこういう事はあった。
如月のいとも安らかな寝顔とは対照的に、龍麻の顔は青ざめ引きつる。
ここに如月がいる。では、劉は?
疑問に思った龍麻の背後で、影が揺れた。
嫌な予感に心臓が早鐘を打ち、首筋にねっとりとした脂汗が流れる。渇ききった喉に唾液を送り込む音が、やけに耳に響く。
龍麻はまるで恐怖映画の主人公になった心持ちで恐る恐る――如月を起こさぬよう細心の注意を払いながら――振り向いた。
――――窓辺には、巨大なてるてる坊主がぶら下がっていた。
御利益のおかげなのか見事なまでのピーカン晴れを背景に、振り子のようにてるてる坊主は揺れている。
その上部。ちょうど顔に当たる部分に見慣れた弟分の顔がくっついている。






――――新宿の朝に、悲鳴が轟き渡った。

あとがき

五周年連続更新企画作品
開き直って変態忍者リターン。
如月と劉の扱いがヒドすぎです。
如月が寝てる間に龍麻を襲わなかったのは、
理性が咎めたものと信じたいです
(日本語危篤)

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