*お読みになる前に注意事項*


如月が変態です。

それ以外に言葉が見つかりません。

ですが如月ファンにケンカを売る気は毛頭ありません

繰り返します
“如月翡翠”が、変態です。

如月ファンにケンカを売る気は毛頭ありません。


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緋勇少年のキトクな日常
−昼−

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それは楽しい楽しいお昼休みのこと。
「――――」
龍麻は弁当箱を開いたかっこうのまま、ものも見事にフリーズした。



「どうしたんだよ、ひーちゃん」
龍麻の机に自分の机をくっつけながら京一は怪訝な顔をする。
その隣で、それぞれ昼食を手にした美里や醍醐、桜井も心配そうな顔でこちらを見つめている。
龍麻は真剣極まりない表情で再び弁当箱に封をすると、全員の顔を見回し、
「悪い。用事ができた」
そう短く告げて、ありえないスピードで教室を飛び出した。













やってきたのは人気のない屋上。
叩き壊さんばかりの勢いでドアを開いた龍麻は、周囲に人がいないことを念入りに確かめると、もう一度恐る恐る弁当箱の封印を解いた。





――――箱の中にはワンダーワールドが広がっていた。





やわらかそうな出汁巻き卵のバランで仕切られた隣には、ほうれん草の胡麻和え。
ミニ煮込みハンバーグは、汁がご飯にしみないようアルミカップに入れると言う配慮がなされている。クシギリのタマネギと、星形に整えられたニンジンのソテーがアクセント。
ハンバーグの横にはくるりと巻いた足もキュートなタコさんウィンナー。色はもちろん、体に悪そうな着色料バリバリの赤。
ゴマで作られた目ときりりと巻いた海苔の鉢巻が勇ましい。
別の小さなタッパーには、ウサギさんリンゴとオレンジが入っている。
これだけでも大問題だが、さらに後ろに控えているのが、ご飯。
箱の領地半分を、新雪のごとく真白なご飯と、名前のごとく淡いピンクの桜デンブが占めている。
ご丁寧に、桜デンブはハート型。
見ているだけで異界に引きずり込まれそうなこのお弁当を前に、龍麻は一滴、乾いたコンクリートに汗をこぼした。
早朝台所に立ち、嬉々として桜デンブをハート型に整える壬生の姿を思い描いて、一瞬意識を飛ばす。
想像だけでこのざまなのだから、実際にその光景を目撃していたらどうなっていたことか……。
いまさらながらに友情の有り難味を感じて冷や汗と怖気が止まらなかった。
だが、栄養バランスと彩りに気を配る暇があったなら、どうしてこの弁当を他人の前で広げるかもしれないと言う可能性を考慮してくれなかったのだろうか。
そこまで考えて、龍麻は首を振る。
――――いや、わざわざ昼飯を作ってもらっておいて文句をたれるなんて、褒められたことではない。
内容がどうであれ、壬生の友情と親切心がこもった弁当だ。有り難く頂戴しよう。
龍麻は拳武館がある方角へ向かって、片手で拝むと、
「ありがとう、壬生。残さず食わせてもら……」
「ほぅ。これはすごい内容のお弁当だね」
――――龍麻は突然眼前に現れた忍者の姿に、「愛妻弁当」とはけして認めたくない「愛友人弁当」を危うく放り投げそうになった。
















どこまでも続くクリアスカイに、一筋の飛行機雲が現れては消えてゆく。
校舎のあちこちからは、元気な学生の声がBGMとなって耳に届く。
ここは日本。
ここは東京。
ここは新宿。
ここは真神学園。
ここは屋上。
今は平日。昼休み真っ只中。
――――なのにどうして、王蘭学院の生徒である如月が自分と差し向かいで弁当を食べているのか、龍麻にはとんと合点がいかなかった。
「あの、さぁ……如月」
「ん?なんだい龍麻。あぁ、お茶のおかわりかい?」
どうぞ、と魔法瓶を傾けられ、龍麻は慌ててコップで受け止めた。
喉を焼くほど熱いお茶を飲み干す。王蘭の茶道部は煎茶道も教えているのか。
市販品や自分で入れるのとは違い、爽やかな苦味が、口から鼻へと抜けてゆく。
喉を潤す煎茶で一服つくと、龍麻はこちらを見て微笑む如月に気付く。
小春日和のような温かい微笑から逃げるように、龍麻は顔をそらして先ほどの続きを口にした。
「……あンな、如月。こんな事、俺が言うことじゃないかもしれない。でも……その。――――いいのか?」
「なにが?」
自分の紙コップに茶を注ぎいれながら、如月は首を傾げる。
その顔は、本当に龍麻が何を言いたいのか分かっていないかのようであった。
龍麻は思い切って顔を上げると、如月をまっすぐ見つめ、
「如月。お前、学校どうした」
そう。如月と知り合ってこの方、龍麻は彼が学校に行っている姿を見たことがない。
彼の制服姿は見慣れている。しかし、店に行くと昼夜問わず招き猫なんて磨きながら出迎えてくれるのだ。
店に休みの看板が掛かっているところをみたことがない。
いや、もしかしたら、龍麻が知らないだけで本当は無遅刻無欠席の皆勤賞間違いなしな優等生なのかもしれない。
――――でも、だったらなんで彼はここにいる?
「他人である俺がこんなことを言うのはきっとおかしいことだと思う。けどな今日は平日だ。こんな所でのんびり飯なんて食ってていいのか。学校、行かなくていいのか?」
「いいんだよ、龍麻」
如月は箸を置くと、またにこりと微笑んだ。
「僕にとっては君のそばにいて、君を守ることが何よりも優先されるべきことなんだ。そのためには出席日数の一日や二日や一ヶ月蹴り飛ばしたってかまわない」
美形が瞳を潤ませ、目元を朱に染める様は、喩えようもなく美しい。
しかし、その視線が自分の方を向いているとなれば話は別だ。
龍麻はあらん限りの努力で、如月の顔を視界から消した。そして、懇願した。
「かまってくれ。頼む、その辺はかまってくれ。俺のせいで如月が留年するなんて、耐えられない」
「龍麻……」
目元の潤み、パワーアップ。言葉にこもる熱もヒートアップ。
さらに、爽やかさが下降するのと反比例して周辺の空気の甘酸っぱさ上昇。
どうやら選択肢を間違えたらしい。
少なくともこの空気、男子学生二人が出すには間違っているし、不毛すぎる。
溺死しそうな桃色空気を払拭しようと、龍麻は強引にことさら明るい声で、
「そ、それにしても、今日はいい天気だな。屋上へきて正解だった。外で食うと、昼飯が一段と美味い」
「その事なんだけど、龍麻」
如月が今までの甘ったるい顔をきりりと引き締める。
「君の今日のお弁当はずいぶんと手が込んでいるようだね。いつの間にそんな技術を?」
目を光らせる如月に対し、龍麻はハートを跡形もなくかき混ぜたご飯を口に運んで、
「ああ。これな、壬生が作ってくれたんだ」
それだけ言って、今度はハンバーグに箸を伸ばす。
――――さらに、頼んでもいないのに自らが不正に作り上げた合鍵で侵入した挙句朝食まで作っていただき、そして防犯の指導もしてくださった……とまでは言わない。言えない。言いたくない。
有り難いけどすこし申し訳ない――――。
そう、龍麻が眉根を下げると、
「龍麻……」
如月もまた悩ましげに眉を寄せた。
「まさか、壬生の奴君に内緒で作った合鍵で不法侵入した挙句、家主である君に無許可で主婦じみた事しているなんてことないだろうね」
「お前、やっぱりどっかから覗いとるんかあぁ――――ッ!?」
あまりに正確無比な如月の指摘に、龍麻は絶叫を上げて屋上のフェンスにへばりついた。
手にした弁当箱からタコが文字通り踊り出るが、このさい気にしてはいられない。
青ざめる龍麻に対し、如月はあくまで優美に笑うと、
「たいした事じゃないさ。玄武(ぼく)は黄龍(きみ)を護るためにいる。僕はいつでもきみを見守っているよ」
聞きようによっては紅涙振り絞ること必至な感動のセリフだが、なんだかどうにもストーカー臭い。
そう、よく思い返してみれば、不法侵入にかんしては壬生より目の前にいる如月の方が熟練者だった。
今まで、呼んでいないのに戦闘に加わっていたり、道を歩いていると気配も何も感じさせずいきなり隣にいたこともあった。
鍵のきちんと閉まってた家に居座っていたことなど五十を超えたところで数えるのをやめてしまったほどである。
とどめと言わんばかりに深夜、布団の中でなにやら首筋に息を感じ、振り向いたら忍者姿の如月が同衾していた――――なんてこともあった。
あの時は、本気で心臓が飛び出すかと思った。







――――代わりに、本気の秘拳・黄龍が飛び出していた。







あの夜、ぶち抜いた天井から見えた満天の星空は今でも忘れられない――――。
おかげさまで、龍麻は就寝するさい、戸締りの他部屋の中に自分以外誰もいないかを確認してしまう羽目になった。
命を預けあう仲間を疑うのは心苦しいが、しかしそれよりも自分の中にある本能的な危機感の方が優先された。
今もそうだ。常にないほど穏やかに微笑む如月が、何だかとっても恐ろしい。
「どうしたんだい、龍麻。そんなにフェンスにしがみついて、危ないじゃないか。さ、こっちへおいで」
両手を広げ、招く如月。一瞬、彼の目に飢えた肉食獣めいた光が横切ったのは気のせいだろうか?
「あ、あの……え……と……」
言葉に詰まり、その場から動けなくなる龍麻。
じれたのか、如月が恐ろしいほどの笑顔を崩さず腕を広げたままじりじりとこちらへ近づいてきている。
近づく如月にあわせて、後退しようとする龍麻。
怖い。美里のジハードを間近で見たときよりも、六芒魔方陣をはじめて拝んだときよりも怖い――――ッ!
龍麻は言い知れぬ、得体も知れぬ恐怖が背中を蛇のように這いずり回るのを感じた。
逃げたい。――――逃げなければっ。
だが、焦れば焦るほど、体は思うように動かず、ただ背後のフェンスをがしゃがしゃと揺らすだけ。何の解決にもなっていない。
こんな時、どうして誰もいない屋上を逃げ場所に選んだのか、いまさらながらに後悔したくなる。
「龍麻――――」
手を伸ばせば捕まるほど如月が近づいた。まさにその時。





「え〜い〜」





間延びした掛け声と一緒に、如月がいきなり朽木のように前のめりに倒れこんだ。
突然の事に唖然とする龍麻。まだ中身の残っている弁当箱が手から滑り落ちる。
青空の下、思いもかけず響くプラスチックの音に龍麻は我に返ると、慌てて如月を抱き起こした。
よく観ると、白いうなじに細い針のようなものが刺さっている。
「なんや、こ、……」
「触っちゃ、だめぇ〜」
針に触れようとした龍麻だったが、のんびりと止める声に思わず入り口の方を向いた。
入り口からゆっくり近づいてくるのは、裏密だった。
片手にはいつものようにおさげの人形。もう片手には細長い筒のようなものを握っている。
「それ〜、月刊黒ミサの通販で買ったバジリスクの毒が塗ってあるの〜。迂闊に触ると〜ひーちゃんまで死んじゃう〜」
「死ぃッ!?」
いたって嬉しげに筒――――吹き矢を弄ぶ裏密に、青ざめる龍麻。
よく見ると、いつも白い如月の顔が、余計に白く、青く見える。
心なしか息も薄い。
龍麻は全身から血の気が引いてゆくのを感じた。
「みーみみみ、美里――――ッ!」
悲鳴を上げて如月を抱き上げる龍麻。腕にずしりとくる重みが、さらに心中の焦りを煽る。
「あ、や、まにあわんッ!高見沢やっ、桜ヶ丘病院いかんな!裏密っ、タクシー呼んでぇー!!」
「だぁ〜いじょお〜ぶ〜」
あいも変わらずのんびりした口調で慌てて駆け出そうとする龍麻の袖を引っ張る裏密。
どこにそんな力があるのか、意外に強い力で止められ、龍麻は半泣きの目を向けた。
裏密は、そんな龍麻がおかしいのかくすくす笑うと、
「致死量は塗ってないからぁ。石化もしないしぃ、死にもしない。眠っちゃうだけぇ〜」
「ほ、ほんま……?」
言われて龍麻は如月の顔を見る。
腕の中の如月の顔は、なにも無かったかのように安らかだった。
胸も、ゆっくりとだが規則正しく上下している。
龍麻は詰めていた息を肺から開放し、その場にへたり込んだ。
冷たく強張りついていた四肢に、熱い血が再び廻り始める。
裏密が、地面に放り出されたままだった弁当箱を拾い上げこっちに寄こした。
「ひーちゃんったらぁ〜。もうちょっと、危機感持たなきゃダメェ〜」
「……肝に銘じておく」
言っている意味はよく分からなかったが、龍麻はとりあえず神妙な顔で弁当箱を手に取った。
横目で地面にぶちまけられた中身を見ながら、この後二時間腹が持つのか不安になりつつ、再び視線を膝に落とす。
始めてみる如月の寝姿は、思ったとおり静かで上品なものだった。
まぶたはピクリとも動かないし、寝返りも打たない。
本当に静かだ。本当に――――死んでるんじゃないかと思うくらいに。
「……なぁ、裏密」
龍麻は心中に浮かんだ不安を、恐る恐る口にした。
「如月、いつになったら起きる?」
「ウフフ〜……」
裏密は笑った。
こちらの不安を悪戯に煽るかのように、いとも晴れやかに。楽しげに。
そして、可愛らしく人形と一緒に首をかしげ、一言。









「十年後くらい、かなぁ〜?」










――――次の瞬間、龍麻は奇妙奇天烈な悲鳴を上げると、如月を抱え一目散に3-Cへと走り出した。

あとがき

五周年連続更新企画作品
ストーカー忍者。
全国の如月ファンの方、ごめんなさい。
管理人の中でなにかの化学反応がおこったらしく、こんな変態如月ができあがりました。
キャラを毀すのもいい加減にしないと、後ろから刺されそうだ。

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