*お読みになる前に注意事項*
やたらと乙女な壬生紅葉が存在します。
龍麻×壬生のように見えますが、
これはれっきとした壬生→龍麻話……
で、あるはずです。
そのはずです。
……自信はありません。
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緋勇少年のキトクな日常
−朝−
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朝。龍麻は開いたままのカーテンから差し込む光で眼が覚めた。 まばゆいそれは、いまだ鉛のように重いまぶたをこじ開けようと躍起になっている。 だが、薄っぺらいながらも心地よい布団の感触に、体が目覚める事を拒否する。 まだいやだ。まだ、このまどろみの中に包まれていたい。 しかし、頭の隅っこで喚きたてる遅刻への危機感と鼻先を擽る美味そうな香りが、意識を強引に引っ張り出す。 龍麻は、無意識に鼻をひくつかせた。 早く起きろと誘惑する香りの正体が、朧気ながら脳裏に浮かんできた。 これは、確か味噌汁の匂いだ。 頭の中で、一気にほかほかご飯にお味噌汁と言う理想的和の朝食の図が花開く。 鼻の次に胃が敵に回った。 眠気が早々に白旗を揚げ、いそいそと退散して行く。 ――――ちょっと待て。 眠気の背中を見送った後、龍麻は我に返った。 確か、家では家長たる父の好みで朝は決まって食パンにコーヒー、サラダではなかったか? しかも、ここは奈良の実家ではなくて東京のボロアパートだ。 いくら壁が薄くたって、隣の味噌汁の匂いまでこんなに漂ってくるものだろうか。 トドメとして、現在両隣は空き部屋である。 では、まさか……。 龍麻は恐る恐る開いた目を台所に向けた。 ――――いた。 自分一人しかいないはずの部屋。それなのに、部屋続きになっている台所に、誰かいた。 存在しえないはずの「誰か」はこちらの視線に気がついたのかくるりと振り向いた。 「おはよう、龍麻。今日のおみおつけは油揚げとほうれん草にしてみたよ」 ――――お玉を手にレースたっぷりのフリフリエプロンで完全武装した高校生アサシンの笑顔が瞳に飛び込んで、龍麻は朝っぱらから六道に響き渡らんばかりの叫びを上げた。 「龍麻。君、無意識のうちに目覚まし時計を止めてしまう癖。アレは止めた方がいいよ。絶対そのうち遅刻してしまうから」 「壬生。お前、人の家に不法侵入する癖。ソレ、止めた方がいい。絶対そのうち警察のご厄介になるから」 差し出された汁椀を手に取りながら、龍麻は言葉を返した。 晴天にも程がある朝だというのに、龍麻の心中は曇り空を通り越して土砂降り一歩手前である。 朝っぱらからのサプライズに重い溜息をついてしまう。 実の所、"気がついたら家の中に自分以外の何者かが侵入していた"と言うのは、今回が初めてではない。 親友の京一や弟分の劉なんかはしょっちゅう家に入り浸るし、現役高校生兼骨董屋主人兼忍者と言う長ったらしい肩書きの如月あたりは、朝昼晩鍵がかかっていようがお構い無しに出入り放題。 壬生にいたってはこの通り。頼みもしないのに頻繁に朝食や夕食を作りにきてくれる。 (あっ。そういえば鍵――――) 龍麻は汁椀から口を離して顔を上げた。 「壬生。玄関の鍵どうした?俺、昨日ちゃんと鍵掛けて寝たはずなんだけど……」 問えば、壬生は炊飯器からほっこりご飯を盛っていた手を止め、なんだそんな事かとばかりに微笑みながら応えてくれた。 「安心していいよ。非合法な方法なんて使ってない。ちゃんと合鍵を使ったさ」 「ストップ。ストップ、壬生。なんだ、その非合法ぷんぷんな発言は」 龍麻は壬生の眼前に手をかざし、それ以上の発言を制すると真顔で首を横に振った。 龍麻の部屋には鍵が三つある。 一つは龍麻自身が所有し、二つ目は奈良の実家に預け、最後の三本目は可愛い義弟がいつでも出入りできるよう、劉に預けてある。 鍵はこの三つ以外、この世に存在しないはずだ。 むしろ、存在してはいけない。 必死の形相で壬生を見つめていると、白い山がこんもり築かれた茶碗を差し出しながら、壬生は応えた。 「よく仕事でね、ターゲットの家に入るのに、合鍵をこっそり作っておく事があるんだ。こう言う古い家は特に簡単に作れる。そうだ、今度ホームセンターで一緒に鍵を見に行こうか、龍麻。今の鍵のままなら、いつ不逞の輩が勝手に合鍵を作って家に侵入するか知れないからね」 不逞の輩のセリフに、龍麻は大人しく従う事にした。ただし、ホームセンターへは一人で行くつもりだ。 今度はうんと頑丈なものをうんと買い込もう。それこそ、忍者や暗殺者が容易に入れないものを選ぼう。 次の日曜日、うちの玄関は難攻不落の要塞に生まれ変わる。たぶん。 それから龍麻は、ものも言わずただ朝食をかっ込むことに専念した。 壬生も付き合うかのように、黙々と茶碗片手に皿へと箸を伸ばしてゆく。 食事の音だけが二人の間に積み重なってゆく。 もともと、龍麻は喋るのが得意ではない。友人達の間ではもっぱら聞き役で通っている。 対する壬生も、無口さでは龍麻に負けない。 ただ、龍麻が水を向ければ、いろいろと話してはくれるだろう。 しかし――――。 (飯時に、以前のターゲットはハラワタぶちまけどうのこうのなんて血なまぐさい話はされたないなぁ……) 鮭の血合い部分をほじりながら、龍麻は思った。 特に話すこともないまま、箸休めの漬物を齧る。 漬け物を口に入れた瞬間、龍麻は思わず面食らった。 よく漬かりながらも瑞々しさを失わない白菜は、囓った先から旨味がほとばしり、絶妙な塩加減も相まってまるで高級料亭で出されるようなどことなく上品な味がする。 「旨ぁ……」 思わず口をついた正直な感想に、壬生は少し驚いたように眼を見張った。 しかし、その目はすぐに細まり、 「よかった。その白菜、僕が漬けたんだ」 「うん……。さすが」 嬉しそうな微笑がなんだか照れ臭くて、龍麻はちいさな賛辞を口の中の漬物と一緒に租借した。 食事を終えれば、後はもう特にすることはない。 食器を洗って、さっさと学校へ行く。 「あ、龍麻」 半畳にも満たない玄関で靴をはいていると、後ろから壬生に呼び止められた。 「これ、お弁当」 いったいいつの間に用意していたのだろう。 壬生の手には、育ち盛りの少年にも食べ応えばっちりな大きさの弁当箱が握られていた。 龍麻は押し抱くように受け取る。 教科書でいっぱいのカバンに無理やり弁当を押し込めようと悪戦苦闘していると、壬生の手が龍麻の首にかかった。 少し骨ばった長く冷たい指が、中途半端に留まっていた学ランのボタンを填めてゆく。 ついで、寝癖で跳ね上がった後ろ髪を抑える。 ピントが合わずぼやけるほど近い壬生の目が、苦笑した。 「龍麻、君もう少し身だしなみを気にしたほうがいいよ。ハンカチは持ったかい?ティッシュは」 「も、持った」 「今日は遅くなる?夕飯、作って待っていようか」 龍麻は、壬生の申し出に頭を振った。 壬生には、壬生の時間がある。そこまでしてもらうのは悪い。 それに…… (この会話……まるで新婚サンやぁ……) ここで行ってきますのキスでもすれば、完璧に結婚ホヤホヤのバカップルだと思った。 思ったが、口には出さなかった。 口にしたが最後、なんだか恐ろしいことになると、本能が警告したからだ。 あいまいにお茶を濁して、一緒に家を出る。 駅まで壬生を送る数十分間。 楽しそうに言葉を交わす壬生を見て、玄関先での会話を思い出したが――――やっぱり口にする勇気はなかった。 |
あとがき
五周年連続更新企画作品
乙女アサシン。
村雨だったら寝てる間に襲いそうですが、自分の書く壬生は紳士で乙女なのでそんな卑劣なまねはしません。
いや、ヤる時はヤりますが(笑)
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