うらのおと ご訪問御礼

おとなのための男同士の恋愛小咄
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とあるシステム系企業の大阪本社における第二幕


一同「本日もご訪問ありがとうございますっ。システムのご用命がございましたらぜひ我が社へご連絡を。お待ち申しあげておりまーす」

坂本「てなわけで、あれや」

山岸「あれですな」

坂本「いっせーの、せっ」

一同「当社ご挨拶第二弾のリクエストをくださったみなさま方、本当にありがとうございましたっ!」

山岸「やー、おれらにリクエストが来る日が来ようとは! くう!」

坂本「長年隅っこでがんばってきた甲斐があったな!」

大串「おれなんか、登場した途端に当て馬扱いで、大ブーイング浴びましたけどね……」

星野「おれらなんか、まだ個人特定されてません……」

市橋「その点、女の子はおいしいな。なー、喜多」

喜多「そりゃそうですよぉ。なんてったって、当社の美人三姉妹ですから。てへっ」

坂本「誰が美人かっ!」

斎藤「ていうか、三姉妹って誰よ……」

喜多「もちろん、あたしとー、香坂ちゃんとー、柏原さんですっ!」

山口「なんでそこに柏原さんが入るかな……」

大串「香坂はともかく、自分入れるな、喜多」

喜多「なんでですかっ! 入れてくださいよぉ」

坂本「でもまあ、社内美人投票とかあったら、結果はわかりきってるけどな」

喜多「誰ですか?」

一同「香坂」

山岸「あのきっつい性格さえなかったらなー」

坂本「おなごはぬるめのあほがいい」

喜多「うちぐらいのですか?」

一同「おまえはあほすぎ!」

星野「うまいこと同期やし、斎藤も入れて漫才とかやるとはまるんちゃうん」

斎藤「なんでおれですか……」

大串「けど、香坂の相手するには、坂崎さんぐらいの切れもんやないとなー」

市橋「坂崎の相手できる香坂も香坂なら、坂崎にあほ扱いされへん香坂も香坂やと思う」

山口「まさに総務部の鉄壁コンビ……」

坂本「てなわけで、あれよ、斎藤もかなーりがんばらんと、香坂に相手にしてもらうにはきついんちゃうかなーと」

斎藤「勝手に話つくらんといてください。香坂とは単なる友人づきあいですよ。それにおれには」

山岸「おれには?」

星野「おれには……?」

坂本「おれには!」

斎藤「ななななんでもありません」

坂本「てめ! あほか! なんや、その自ら、言いたくて仕方ありませんっつー引きのつくり方はー!」

斎藤「いや、ほんまなんでもありません! 勘弁してください!」

香坂「なに大騒ぎしてはるんですか。向こうまで丸聞こえですよ」

坂本「おお。香坂、ええとこに来たー! 教えろ教えろ。おまえ知ってんねやろ、香坂、斎藤の愛しの君は誰だー」

香坂「ああ」

斎藤「おい、香坂、言うなって」

香坂「ふーん?」

斎藤「……昼飯一回分」

香坂「もうひと声」

斎藤「……ケーキつけてやるよ」

香坂「喜多ちゃんとふたり分やよ?」

斎藤「……わかりましたよ」

山岸「なんつー闇取引……」

香坂「知ってますよ、斎藤くんのお相手。でも教えません」

坂本「なんやと、香坂ー。てめ、先輩を舐めとんのか」

香坂「そんなん、見てたら丸わかりやないですか…… 気づいてはらへん坂本さんらのほうが、どうかしてはります」

星野「……見てたら丸わかり……?」

中野「……それって、社内恋愛っていうことで……?」

斎藤「ばらすな言うてるやんけ、香坂ー!」

香坂「うちはなんにも言うてへんよ。ばらしてるのは斎藤くんの態度」

大串「誰よ誰よ」

市橋「システム部? 総務部? あるいは営業部かー?」

山岸「道理でおまえ、総務部におつかいに行くことの多いことよ!」

斎藤「単にこき使われてるだけやないですかー!」

坂本「白状しろ! 斎藤! どの子や! どこのどいつや!」

山岸「どんな子よ、香坂。人物特定せんでもええから、どんな感じの子か教えろよ」

香坂「……かわいいですよ。裏表のない子です」

市橋「おお、誰やー! おい、誰か、座席表持ってこい」

斎藤「勘弁してくださいよー。もうやめてくださいー」

喜多「恥ずかしがるなー。ここはがっつりのろけろー」

斎藤「おまえが言うなっ!」

山岸「は?」

坂本「ほ?」

星野「へ?」

斎藤「あ」

坂本「せやったんか、おまえらー!」

山岸「なれそめ聞かせろ! 聞かせろ!」

大串「いったいいつからや! てめ、この!」

斎藤「もうほんまに勘弁してくださいよー」

喜多「秘密主義はあかんよー、斎藤くんー」

斎藤「おまえはもう黙ってろっ!」

    ――暗転――



香坂「……なんですか、この缶コーヒー……」

坂崎「差し入れ。いつもがんばってる香坂に、おれの愛を恵んでやろう」

香坂「愛って…… 坂崎さん、柏原さん以外にも振りまく余裕があるんですか」

坂崎「言うねえ。でも、ま、おれは香坂のことはかなり気に入ってんのよ。安心して飲めや」

香坂「……いただきます……」

美原「お疲れー。いったいなんなの、向こうのばか騒ぎは」

坂崎「斎藤と喜多の愛の一幕ですよ」

美原「あ。とうとうばれたのか……」

坂崎「まあ、いつばれてもおかしない状況でしたけど」

美原「それは、うーん……飲みに行くか、香坂」

香坂「やめてくださいよ。アルコールで憂さ晴らしとか、そういうのは好きやないです」

坂崎「たまには泣き言いうのも悪くねーぞ、香坂」

香坂「坂崎さんに言われたくありません。うちは胃ぃ壊したりせーへんので安心してください」

美原「うひゃひゃ」

坂崎「……その節にはお世話おかけしましたよ……」

美原「でも、まぁ、相手が悪かったな、あれは、香坂」

香坂「わかってますよ」

坂崎「難儀な相手に惚れたもんやな、しかし」

香坂「なんですか、その上から目線は」

美原「四方八方丸くなんかおさまらへんってことよ。恋ってやつは、とかく難儀」

香坂「……わかってますよ」

坂崎「そんな顔するな。ケーキならおれがおごってやっから」

香坂「……はい……」

    ――暗転――



坂崎「四方八方丸くはいかない、か」

美原「香坂と樋口っつーのもありやと思うねんけどな」

坂崎「どっちかの性別が逆でしたらね」

美原「見た目の性別は間違うてへんのになー。厄介なこって」

坂崎「香坂のあれは、がっつり本気ってわけでもなさげですけどね」

美原「ま、ね。きっかけさえあったらって気はたしかにするけど。あんたに柏原がいてへんかったら、気合い入れて推薦するとこなんやけどなー」

坂崎「やめてくださいよ…… まぁ、里哉がおるおらんに限らず、おれは女は駄目ですけどね。どちらにせよ、おれらに手出しできることとちゃいますよ。馬に蹴られます」

美原「そんなこと言うてたら、あたしなんか今まで何回馬に殺されかけてるか…… お、柏原、お疲れー」

柏原「お疲れさまです。馬がどないかしたんですか?」

美原「いや、馬に蹴り殺されるて、どんな気分かなと」

柏原「は?」

美原「柏原は馬に蹴られたことある?」

柏原「なんですか、それ。さすがにうちの田舎にも馬はいませんよ。牛やったらいましたけど」

美原「……なんの話だよ……」

坂崎「……牛……?」

柏原「うちの近所にあったんですよ、牛飼うてはるとこ。トラクターのない時代の農作業用に。おれが子どものころの話ですけど」

美原「まじでか!」

柏原「おれんちの本家でも飼うてはりましたよ。おれがまだガキんときに逃げ出して、それっきりですけど」

美原「日本列島は果てしなく広いな……」

柏原「うちを時空の狭間みたいに言うのはやめてくれませんか。おんなじ関西ですよ。でもまぁ、ひと昔もふた昔も前のことですけどね」

坂崎「牛に蹴られたことやったらあるんか、里哉」

柏原「冗談抜きで、本気で蹴られてたら、おれ、死んでたと思う…… で、なんの話なのよ、それ」

美原「犬に食われたことはある、柏原?」

柏原「……おれの田舎はどんだけ荒廃してるんですか…… まあ、野良犬はようけいてましたし、猪も出てたんで、ガキんときは逃げ回ってましたけど、最近はそういうこともなくなって……」

坂崎「ぶっ。すみません、美原さん、おれ、もう、我慢できません……」

美原「ぎゃはは」

柏原「なんなんですか」

美原「教えるなよ、坂崎。ぜーったいに教えるなよ。さーて、香坂に報告報告ー。柏原名言リストに追加させんと」

柏原「いったいなんなんですかー」

坂崎「あんたはおれらの癒しのもとってことよ」

柏原「なんなのよ」

坂崎「いや、なんつーか」

柏原「なに笑てんのよ。おれがいったいなにしたのよ」

坂崎「ひはは」

柏原「なんなのよ…… おれ、なんかおかしいこと言うた……? げらげら笑てんで、説明しろっつの!」

    ――暗転――


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