うらのおと リクエスト御礼小咄

おとなのための男同士の恋愛小咄
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「こいびと Act X(10 周年記念編)」裏咄


Side A ――第 7 話、扉の外

喫煙休憩組がひとり、喫煙室のなかの様子を確認して即バックしてくる話。

「……煙草吸いに行けねぇ……」

「あー。それってもしや、柏原さんと坂崎さんとか……?」

「あたり。もう室内ピンク色」

「……聞きたいわけやないけど……抱き合ってキス、とかか……?」

「いや、まだ、そこまでは」

「……まだ、なのかよ……」

「……おお。今はまだ、って感じ、ありありで……」



野次馬組が数人確認に行って、ひとり戻ってくる話。

「緊急警報発令ー! 喫煙組は注意するべしー!」

「警報かよ! つまりそれ、見たってことかよ、おまえー」

「見た。つか、柏原さん、なんであの人、坂崎さんとふたりだけになったら、警戒解けてまうねん。こっちにおれらおんのん、なんで気づかへんねん……」

「……それ、やってたってことか……?」

「やってた。マウス・トゥー・マウス。つか、そろそろ、あのふたりのキスシーンに出くわすのに慣れてきたおれも、どうかしてるっちゅーかー!」



さらなる偵察隊が出動して、数人戻ってくる話。

「ない! さすがにあれはない!」

「落ち着け、坂本! つか、おれもか。手が震えてるよ。はは……」

「なに興奮してんねん、おまえらー。どうせ柏原と坂崎なんやろ? もうキスとかハグとかぐらいやと、驚かへんぞー、おれは」

「おれもそれぐらいやと驚きませんよ!」

「……なに……?」

「いや、あの、坂崎さんのネクタイがですね…… 柏原さんの手が、こう…… ああー、なんやねん、もー! あの、柏原さんの慣れた手つきは!」

「……ネクタイ、だと……?」

「ええかげんにしてくれー、ほんまにあの人らはー!」



偵察隊が膨れあがり、見られずに戻って来る人たち多数のなか、女の子たちの話。

「どんな感じ? どんな感じやった?」

「うちが見に行ったときは、ハグだけやったー。残念ー」

「タイは? 坂崎さんのタイは? 外れてた?」

「それが見えへんのよー。もう、ふたりして、ぎゅぎゅーって抱き合うてはるから、胸のとことか全然見えへん!」

「なに、それー! おいしいのかもったいないのか、わけわからんー!」

「あたし! あたしも行ってくる!」



Side B ――最終話の日

なんとなく事を理解せざるをえない、里哉の席の隣のシマの人々の話。

「……えっと……すみません、耳が聴き取るのを躊躇したんですが…… 誰からの差し入れですって?」

「気持ちはわかるが、坂崎さん」

「……経費、ではなく?」

「おれも信じたくないけど、坂崎さん」

「……聞きたくない気持ちでいっぱいなんですが、なんでわざわざ坂崎さんが身銭切って、おれらに差し入れを……」

「おれも言いたくないが、本日、隣のシマのチーフが欠勤して、その余波でこのシマもえらいことになってるから」

「……すみません、頭が理解するのを躊躇してるんですけど、なんで柏原さんが欠勤したからって、坂崎さんがわざわざ差し入れを……」

「察しろ」

「……察したくないんですけど、察しちゃったおれの頭が、もう、どうかしてるとしか……」

「現実や。受けいれろ」



未だに少々受けいれがたい、若い人々の話。

「さすがに、フルで丸一日欠勤っつーのはなー」

「ああ、柏原さんなー」

「どーなの」

「どーだろねー」

「てゆか……そんでうちのフロアに詫び入れる坂崎さんが、どーなの……」

「……どーだかねー……」

「……つまるところ、昨日、柏原さんと坂崎さんのあいだに、何があったの……」

「……なんだかねー……」

「そんでもって、柏原さんの欠勤理由が、あれだ、あれ。そのー」

「発熱」

「……熱が出るよな何があって、坂崎さんがそんな謝り倒してんの……」

「……具体的な話に振るなよ、おい……」

「つか、少々のアレで、熱出たりとかするか? おれ、そんな経験ないぞ?」

「……だから、具体的に想像させるなって……」

「……何があったんかねー……」

「……なんだろねー……」



すでにいろいろわかっちゃってる、かなり練れた人々の話。

「いくらなんでも熱出るまでやるとか、やりすぎっしょ、坂崎さんー」

「んー。その辺は、やっぱ無理かかるんでないの? 本来の目的以外の目的に無理やり代用してるわけだからして」

「それは、つまり、柏原がネコってことで、Q. E. D. やな」

「だなー。柏原ネコ説は、これまでもかなり有力筋だったが」

「これで完全に決定か」

「や、まだリバ説も残ってるんで」

「てゆか、こういう話に慣れきってるおれらもどーなんだよ」

「どーなんでしょうね……」



そのきっかけになった、差し入れを命じた人と命じられた人の話

「ほんま、いったい何をどこまでやったら、完全欠勤なんてことになんのよ。そろそろ自分らの年齢わきまえろよー。つか、もちょっと柏原の身体のことも考えてやったら?」

「考えてますよ。昨日はちょっと、羽目外しすぎて……」

「……あのなー。昨日のこと思いだして、顔赤くしてる坂崎ってのも新鮮なんで、あたし的にはそれでもええんやけどねー。けど、あんたの大好きな恋人かもしらんけど、うちの大事なチーフでもあるんよ、柏原は。わかってる? まあ、あんたがここまでしおらしいのは珍しいけど…… そんな良かったんか? 昨日」

「あー……まあ。後始末が大変やったんですけど……」

「後始末? ……いったいどこでやったん」

「……や、ちょっと、風呂で…… 余裕なかったんで、身体拭いてやる間もなく、ベッド入ったんで……」

「……いつになく口が重いな。どーしたよ」

「や。あー…… 今朝、起きたときに」

「ふん」

「いつもの癖で、まだ寝てる里哉にキスしたんですけど」

「ふん」

「熱くて。頬が。驚いて体温計耳に当てたら、熱が高くて」

「……予想外やったってこと?」

「予想外に決まってるやないですか。里哉の体調崩させといて、嬉しいわけないですよ。そんで、さすがにちょっと反省したっていうか……」

「もう、柏原の色香には惑わされん、と」

「色香っつーか…… こう、手に届くとこにあるやないですか」

「柏原が?」

「はい。そんで、精一杯可愛がってやりたいんですけど、可愛がりすぎたら、駄目なんですよ」

「てゆか、可愛がる方向性間違いさえせーへんかったら、大丈夫でしょ? ふつう」

「……おれ、里哉と相性良いんですよ」

「カラダの話?」

「カラダの話です。おれ、ちょっと S 入ってて」

「あー。なるほどね。柏原もちょい M 入ってる言うてたもんな、そういえば」

「普段は割と自制してるつもりなんですけど、ときどき自分でも、あ、スイッチ入っちゃったな、と思うときがあって」

「……昨夜とか?」

「おれのスイッチ入ったら、向こうのスイッチも入っちゃうの、わかるんですよ。若いときは、そのまま暴走とかしても、それはそれでよかったんですけど、さすがにもう、身体のほうが無理きかないんですよ。やから……」

「……つまり、のろけてんの? あんた、いま」

「……あー。まぁ、そうかもしれません……」

「うちの大事なチーフの体調崩させといて、心配して反省してるフリしながら、のろけてんの? いま」

「心配と反省はふつーにしてますよ。けど……」

「あのなー。昨日のこと思いだして、顔赤くしてる坂崎ってのも新鮮なんで、あたし的にはそんでもええんやけどね。下のフロアに詫び入れにきなさい、詫び。残業時間に入ってからでええから」

「それは……それぐらいは、しますけど。でも、それ、下の連中、かえって困りませんか」

「困らさんように詫び入れにきなさい。あんたのそのたっかい自尊心守ること一切せずに、丁寧に頭下げな」

「えっと……それ、名目はどうしたら……」

「考えろ考えろ。そんで、恥ずかしい思いいっぱいしながら、フロア中を回るといいわ。ほーっほっほ」

「……美原さん、鬼ですね……」

「あとでのろける時間はとってやるし、具体的な話はそんときたっぷり聞かせろ。とりあえずは、泣かした子たちの溜飲下げる役目ぐらいは果たしなさいよ」

「はい。申し訳ないです……」


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